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ストレイ・キトゥンズ  作者: 機乃 遙
第五章 ”ビザール・ラヴ・トライアングル”
46/61

 文化祭のゲリラライブが終わって、アタシたちは一つの到達点を迎えた。でも、それで目標がなくなったってワケじゃない。アタシたちには、まだ次の目標が待っている。来年の文化祭だ。

 せっかく部活になったんだし。来年こそは五月に間に合わせて、今度は第一軽音部アイツらの隣に立ってやる。本当に本当の対バンってやつ。

 アタシたちの次の目標は、来年の文化祭。そして、そのための練習は惜しまなかった。


 夏っていうのは長く続くんだけど、秋っていつのまにパッと過ぎちゃう。やっと秋が来たって衣替えがしたのに、次の朝起きたら、もう冬が目の前にいるわけ。外出たら、びゅーって北風が吹いてさ。よく見れば息が真っ白。

 そういうわけで、季節はあっという間に過ぎていった。このあいだまで真夏のはずだったのに。いつしか冬。

 アタシの部屋には電気ストーブがあるんだけど、あれってぜんぜん部屋があったまらないの。あったっかくなるのは、ストーブの周り数十センチぐらい。部屋の中は霜でもできそうなぐらい寒い。

 でも、そんな寒さの中でもアタシはギターの練習をする。とはいえ、スチール製の弦はキンッキンに冷えてるもんだから、つらいったらありゃしないんだけど。特にチョーキングなんてしようもんなら、指に冷たい鉄線が食い込んでイッタイのナンノって。まあ、それでもやめないんだけど。

 なんでやめないかって?

 そんなの決まってる。楽しいからだ。


     *


 十一月が終わって、十二月に差しかかりはじめていた。昇降口前の並木道はすっかり枯れて、用務員のおじさんが毎日せっせと落ち葉掃き。外掃除の担当も、熊手を持って応援。なんだか物寂しい季節になってきていた。

 アタシたちは週に最低二回の練習だけはキッチリ続けていた。月曜日と土曜日。第一軽音部とかぶらない日に練習している。曲のレパートリーもだんだん増えてきた。そうそう、この前まで弾けなかった「ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート」も弾けるようになった。

 で、それは練習が終わった帰り道のことだった。

 帰り道、アタシと真哉は終盤まで通学路がかぶる。クリスは初めの交差点で別れて、エレンとはその次の信号で。それから十分ぐらいは、ずっと真哉とアタシの二人きり。

 コイツと二人で帰るのは、嫌いじゃない。でもそれは、コイツのことが好きだからってわけじゃない。……そう、断じてアタシはコイツのことが好きだとか、そういうんじゃない。アタシは、ドラマーとしてのコイツが好きだし。いち音楽好きの友達としてコイツが好きだ。恋愛感情なんて、そんなものはない。アイツだって、アタシのことをバンドメンバーとしか見てくれてないし。

 その証拠に、アイツとは帰り道のあいだ音楽の話しかしない。アイツが吹く口笛が何の曲かあてっこしたり。最近聴いたバンドを勧めあったりとか。そういう話ばっか。それ以上、先に行くことはなかった。アタシと真哉っていうのは、そういう関係。男子とか、女子とかってそういう関係じゃなくて。もっとこう、音楽でつながった悪友ダチなんだ。

 そのはずだったんだけど……。


 真哉と別れるのは、庭木が生け垣からはみ出した交差点。車も一台通れるかっていう細い道で、アタシたち以外に通行人を見たことはほとんどない。

 いつもなら、そこでかるいあいさつをして別れる。ちょっと手をあげて「んじゃ」「うん」とかその程度。アイツとアタシの間柄って、そんなもん。唯一例外があったとすれば、それはライブ前にアイツの部屋にあがったときぐらいだ。

 で、今日は二度目の例外にぶちあたった。

「南、おまえさ。暇か」

「は? これから?」

 突然そんなこと言い出すもんだから、アタシはかなりドスの利いた声色になってたと思う。

「ちげーよ。今週末だよ。日曜か、土曜」

「日曜ならたぶん空いてるけど。なによ急に?」

 まさかデートのお誘い? なんて、あるわけないよね。コイツはアタシを女子だなんて思ってくれてない。悪友だもん。アタシだって、コイツのこと男子として見てないし。ドラマーとして見てるし。……そう、ドラマーとして。

「それがさ、お袋が商店街の福引きで映画のタダ券もらったっていうんだけど、使わないからってオレにくれたんだよ。でもそれ、ペアチケットでさ――」

 え、うそ。マジにデートのお誘いなの? これがそうなの?

「週末、一緒に隣町の映画館まで行かないか。ほら、県庁前駅降りたとこにあるさ。あの小さいとこだよ」

「なんでアタシがアンタと一緒に映画見なきゃいけないのよ」

「タダ券がモッタイナイだろうがよ。それに、来月まであそこの映画館、音楽映画祭やってんだよ。ほとんどはクソみてえなクラシックやらジャズのドキュメンタリーだけどよ。でも先々週はジミヘンのドキュメンタリーやってたんだぜ」

「へぇ……じゃあ、それを見に行くの?」

 アタシ、かなり高飛車なお嬢様みたいな口調で言ってたと思う。へえ、それでアタシを満足させられて? みたいな。だって、まさかコイツからデートの誘いがくるなんて思ってなかったもん。……いや、デートって決まったわけじゃないけどさ。映画になんて誘われたら、そりゃ……いやおうにもそう思っちゃうでしょ。

「そうだよ。てめえなら絶対気に入ると思ってさ。ちなみに、今週末までは『コントロール』をやってるらしい」

「コントロール……って?」

「イアン・カーティスの伝記映画だよ。ジョイ・ディヴィジョンの映画。てめえもそれなら見たいだろ?」

「うん、まあ……」

「よっしゃ。じゃあ決まりだな。日曜の十一時、駅前に集合。いいな?」

「うん。……なんか、デートみたいね」

 ――あ?

 アタシ、いまなんて言った? なんて口を滑らせた? 何言ってんだアタシ!?

 顔が紅くなってるのがイヤってほどわかった。あれ、なに。アタシ照れてんの? コイツにデートに誘われて照れてんの? ちょっとなに。なにしてんのアタシ?

 ……とか思ってたらさ。

「はあ? デート? バカ言え、誰がおまえをデートになんか誘うか。映画に誘っただけだぜ。自意識過剰かよ」

「うっさい。冗談に決まってるでしょうが、バーカ。アンタこそ自意識過剰よ」

 ――そうよね、コイツはアタシを女子とは見てくれてない。ギタリストとして見てくれてる。それに、アタシは別にコイツのことなんて好きじゃないんだし。コイツは、一緒にバンドをやってる悪友ダチってだけ……。そうでしょ、アタシ?

「……とりあえず、日曜の十一時ね。お母さんに聞いておく」

「おう。じゃあな」

「うん」

 そう。アタシたちは、お互いにかるくあいさつして。フランクに手をあげて、また次の練習でなって。そういう仲なんだ。スキとか、キライとか、そういうのを言い出す仲とは、ちょっと違う……と思う。


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