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ストレイ・キトゥンズ  作者: 機乃 遙
第四章 ”スメルズ・ライク・ティーン・スピリット”
41/61

12

 文化祭は九月二十八日の土曜日と、それから日曜日一応あって、でも夕方には片づけ。で、そのあと月曜日は振替休日。ラッキー!

 で、問題は今日だった。二十七日の金曜日。その日は準備日だったんだけど、アタシたちにももちろん準備するものがあった。

 放課後まではクラスの出し物に付き合った。ついたて運んだりとか、廊下に装飾したりとか。一年の廊下なんか、すっかりカラフル紙くずで飾られちゃって。もう歩いてるだけで誕生日パーティーみたいな気分になる。色紙折ったり貼っつけたりで、ホント面倒くさかったよ、これ。

 で、アタシは放課後になったらすぐにカバンを手にとって教室を出た。もちろんクリスも一緒に。

 でも、クラスの人は見逃さなかった。

「ちょっと、南さん。準備は――」

 って、クラス委員の矢島さんがアタシに言った。

 矢島さん、自薦でクラス委員になったバリバリのいい子ちゃん。だからたぶん、アタシとは趣味が合わない。銀縁のメガネをいつも光らせてて、ザ・クラス委員って感じ。

「ごめん、でもアタシたち、部活のほうで用事があるから」

 ウソは言ってない。アタシは自分に正直に生きてるんだから、ウソはつかない。

 そう言うと、矢島さんも納得したような顔になった。でもしばらくして「あれ、南さんて何部……」とか口にし始めたけど、そのころにはもうアタシたちは廊下に出ていた。

 それからどうしたかと言えば、いったん家に戻った。そして手分けして荷物を運ぶことになった。クリスはベース用のアンプを、アタシはギター用のアンプ。そして真哉はエレンと一緒にドラムセットを。それぞれ器具庫まで。

 九月も下旬になると、さすがに多少は涼しくなってはいた。ミンミンゼミはどっかにいって、代わりにヒグラシが鳴いている。

 アタシは家に帰って大急ぎでUターン。教科書全部引っこ抜いたカバンを背負って、右手にはVOXのミニアンプを持って家を出た。お母さんが「アンプなんてもってどこにいくの?」って言ったけど、アタシは「いってきます」ってだけ答えて家を出た。小型と言っても、さすがにアンプ片手に学校まで行くのは疲れた。でも、ライブの為だと思えば苦じゃなかった。

 アタシが器具庫に着いたときには、もうクリスが待ってくれていた。クリスはアンプを床において、その上にブルーシートをかぶせていた。もちろん、万が一にも先生に見つかったときのためだ。

「真哉たちはまだ?」

 アタシはそう言いながら、ギターアンプを隣に。一緒にブルーシートをかけた。

「まだ……たぶん、きてないと思う」

 クリスは窓を開けた。ホコリっぽい室内に涼しげな空気。アタシの予想通り、九月末にもなればだいぶ涼しくなった。たしかにちょっとホコリっぽいけど、これぐらいなら許容範囲内ってヤツだ。

 アタシは一度出入り口に立って、器具庫を眺めた。ものが密集してるけど、どかせばそれなりにスペースができる。そこにバンドと観客が入る姿を、アタシは想像する……。観客が入って、あのアンプからアタシのギターサウンドが鳴り響く。ずっと心待ちにしていた、その瞬間を、もう待てない。

「ねえクリス、アタシ真哉たちんとこ手伝ってくるよ」

「えっと……うん、でも二人がどこにいるか……」

「どうせ通学路のどっかにいるでしょ。だから、ここ見張っといてね。先生が来たら、奥のロッカーにでも隠れてさ」

「えっと……隠れるの?」

「そりゃ、バレたらマズいし。まあ、誰も来ないから大丈夫だと思うけど。じゃ、よろしく」

 アタシはクリスに手を振り、鉄の扉を開いた。

 山から吹き付ける涼しい風。それがアタシの頬を撫でた。


 結論から言うと、通学路どころか校門の目の前にいた。真哉はデッカいカバンを肩にかけてて、そのなかにはバラした骨組みとかパッドが入れられてた。隣にはエレンがアンプを持ってくっついて来ていた。

「よぉ、南。いまから持ってくから、組み立てんの手伝えよ。バラしてから戻すの、面倒くせえんだよ」

「時間かかってたのは、ドラムセットバラしてたから?」

「そういうこった」

 えっちらおっちら。

 アタシは真哉とエレンの後を追って、器具庫に向かった。


 やっぱ器具庫には誰も来ない。クリスは暇そうに跳び箱に座ってた。

「ただいまー」ってアタシ。

「早かったね、奏純ちゃん」

 クリスは跳び箱からひょいと飛び降りた。

「すぐそこまで来てたのよ。それより真哉、組み立てが面倒なんでしょ?」

「ああ、面倒だ」

 ドスン、と。電子ドラム一式をコンクリートの床に置いた。っておい、そんな荒い扱いでいいの?

「まずは骨組みを何とかしないとどうにもならねえ。手伝えよ。そしたら今日の準備は終わりだな」

「リハーサルは、しないですか?」

 続けてドラム用アンプをおろして、エレンが言った。

「さすがにここで爆音鳴らしゃ、バレんだろ。明日がぶっつけ本番ってことだろ?」

 真哉がアタシに目線をよこした。

 アタシは、首を縦に振った。

「多少の音出しは明日するだろうけど。でも、ぶっつけ本番になると思う。明日は当日で騒がしいだろうし、それなら音は出せると思う」

「そういうこった。じゃあ、とっとと準備して今日は帰るぜ。オレは眠いんだ」

 大あくびをあげながら、真哉はドラムセットを取り出す。アタシもすぐに分け入って、準備を始めた。


 それからすぐにドラムセットを組み立てると、アンプと一緒にビニールシートをかぶせて、いったん脇に寄せた。万が一にも先生にバレて没収とかなったらやばいし。

 で、その日はもう解散。文化祭前の放課後なんて、部活はないし。準備で忙しい三年生は残ってるけど、一年生はもうみんな帰ったみたいだった。アタシたちが残ってたら、先生たちが疑うはず。だから、さっさと帰る必要があった。

 帰り道は、またアイツと一緒。でも、今日の真哉は口笛を吹いてた。このあいだみたく黙ってない。気を使ってる素振りもない。楽しそうに明日のセットリストにある「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」を吹いていた。

「……上手くいくかな、明日」

 アイツがソロパートを吹き終えたところで、アタシは言った。

「上手くって、何がだよ」

「何もかも」

「演奏はともかく。客入りはわからねえな。……そういやおまえ、このあいだ秘策があるとかなんとか言ってただろ。客呼び込むさ」

「まあ、あるけど」

「じゃあ、問題ないだろ。なにそんな不安になってんだよ。らしくねえ」

「うん。だってさ……」

 アタシ、本当はその先に何か続けようとしてた。

 だけど、続く言葉は見つからなかった。そして言葉を探しているうちに交差点がやってきた。アタシと真哉は、いつもここで別れる。

 アイツ、急に立ち止まった。

「んだよ、たられば(﹅﹅﹅﹅)も、だってもクソもなしだぜ。テメェが暗いと、みんな暗くなるって言ったろうがよ。とっとと飯食って、歯磨いて、寝ろ」

「なにそれ。お父さんみたいなこと言わないでよ」

「オレに親父はいねえ。……じゃあな、明日、いいライブにしよう」

「うん」

 手を振って別れる。アイツは恥ずかしがってるのか、いつも軽く右手をあげるだけ。今日もそうだった。まあ、アタシもそんなもんなんだけど。

 夕焼けを見ながら、アタシと真哉は別れた。明日には、ようやくライブだ。待ちに待った、やっと……。


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