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ストレイ・キトゥンズ  作者: 機乃 遙
第四章 ”スメルズ・ライク・ティーン・スピリット”
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 夏休み帳を殺すには、かなり苦戦を強いられた。答えを写すだけなら、クリスのを参考にすればいいけど。でも、夏休みの課題ってそれだけじゃない。作文かポスターのどちらか。それから日記まであるわけ。さすがに作文を写すのはできないし、かといってお絵かきなんてやってらんないし。とりあえず作文は後回し。まずは日記をやっつけることにした。

 日記――夏休み初日ってアタシ何やってた? ああ、練習か。じゃあ、部活……。二日目は? たしかスタジオに行った。じゃあ、部活だ……。三日目は? クリスんちで練習。じゃあ、部活だ……。

 あれ? アタシ、日記に部活しか書いてないぞ。

 とまあ、課題との死闘のようすはこんな感じ。ちなみにもう夏休み最終日だけど、作文は出来てない。最悪お母さんに書いてもらうからいいや。


 で、最終日に何してんのっていうと、アタシたちはクリスの家に集まってた。例の地下室だ。ギターコレクションに囲まれながら、いまは練習じゃなくて、地味な作業中。ポスターとか、チラシとか、そろそろ作らないとマズいでしょ? ってなって。じゃあ、パソコン使えるクリスに頼むしかないじゃん、というわけでやってきた。

 アタシたち三人は、クリスの操作するノートパソコンをのぞき込んでいた。床に座り込んで、机にパソコンを広げるクリス。アタシたちはクリスのお母さんが出してくれた紅茶を飲みながら、その様子を見ていた。

 クリスは、何かペイントソフト? ってのを開いて、いろいろやってた。ちなみに、いまはストレイ・キトゥンズのロゴがバシーン! って決まったポスターを作ろうって話になってる。

「これ……こうすれば好きなフォントや色で文字がでるの……」

 ぽちぽちって、マウスをクリック。なんかウィンドウが開いた。

「フォントってなに?」とアタシ。

「えっと……書体、っていうのかな。ほら、いろいろダウンロードしてみたの。バンドのロゴっぽいフォント、いろんなサイトから」

 カタカタカタ。クリスは慣れた手つきでキーボードを叩く。Stray Kittensって入力して、エンターキーを叩く。すると、真っ白かった画面に文字が映し出された。まるで筆で豪快に殴り書きしたような文字で、Stray Kittensって。なんかアレみたいだった、えーっと、あれ……そう、マイ・ケミカル・ロマンスみたいな感じ。

「どうかな……奏純ちゃん?」

「うーん……。いや、ちょっと保留。ほかには何かあるの?」

「ある、けど……どういうのがいい?」

 アタシは少し頭をひねった。どういうロゴがいいって? そういうことって、授業中めちゃくちゃ考えてたりしたんだけど、いざってなると思い出せないのよね。なんか、ぼんやりと「こんな感じ!」って雰囲気は思いついてるんだけど、それを言葉に、カタチにしろって言われると……まあ、よくわかんないや。

「Oの部分をレモンの輪切りにしようぜ」

 そう言ったのは真哉。

「それ、ストーン・ローゼズのパクリじゃん」とアタシ。

「えっと……ストレイ・キトゥンズ、スペルにOは入ってない、です」エレンからも鋭いツッコミ。

 真哉は渋い顔をして、引き下がった。いじけるみたいに。オレはもういいですよーって言わんばかり。バーカ、もう少し考えてから意見しろ。

「とりあえずクリス、ほかに何かフォントってやつを見せてよ」

「うん……じゃあ、これとか?」

 またポチポチとマウスをクリック。ウィンドウが開いて、フォントを選択。エンターキーをカタン。色も選択した。黒背景に、黄色。

 あー、それか。ってアタシはすぐにわかった。

 ニルヴァーナそっくりの書体だ。それで、Stry Kittensってさ。うーん、イマイチしまりがない。でも、それでもいいかな?

「黒に黄色なら、目立つとおもうの……」ってクリス。

「工事現場じゃあるまいし。まあでも、ありかもね。これで、日付と場所を書き込めば完璧かな」

 アタシはみんなに同意を求めた。

 オッケーだって、首を縦に振ってくれる。じゃあ、ポスターはオッケーだね。

 黒い背景に、黄色い文字で書かれたポスター。まだ印刷はしてないけど、たしかにパソコンのなかにはある。『ストレイ・キトゥンズ ファーストライブ 文化祭当日、十四時より体育館裏器具庫にて開催決定』その文字列は、アタシの胸を躍らせた。ついに始まるんだって思わせてくれた。


 アタシたちの夏は、そんな期待と不安とを抱いたまま過ぎていった。

 ちなみに、宿題は終わらなかった。始業式の日、全体で宿題の回収があったんだけど、アタシは「家に忘れました」って言ってなんとか難を逃れた。休み帳は出したけど、作文を出したのはその翌日のこと。始業式が終わって帰ると、お母さんに泣きつきながら書いた。

 そうして夏休みが明けて、時が経っていった。文化祭への――ゲリラライブへのカウントダウンは、もうそのときから始まっていた。


 小学生のとき、文化祭ってさぞかし楽しいもんなんだろうなって思ってた。運動会なんて男子の独壇場だし、クラブ活動で発表の場なんてなかったし。

 でも、中学に上がってわかった。こっちもたいして変わりないよって。お兄ちゃん、大学行く前にそのこと教えてくれればよかったのに。お兄ちゃんってば、バイト始めたから忙しいって、夏休みに帰ってすらこない。大学生って夏休みが長いんじゃなかったの?

 とにかく、アタシは文化祭に失望してた。アタシたち一年一組の出し物、なんだと思う? 地域文化に関する発表だって。教室についたてをおいて、そこに手書きでいろいろ書いた模造紙を張り付けるわけ。むかしこの土地にはどんな人がいて、どんな産業が栄えて、食文化があって、云々。アタシもやらされた。模造紙いっぱいに、マッキーでいろいろ書くの。まあ、途中でやんなって、同じ班の人に頼んだんだけど。

 そういう面倒くさいことがありつつ、ゲリラライブの準備は着実に進んでいた。練習はもうこれでもかってぐらいしたと思うし、ポスターも張り付けた。A3サイズで刷ったから、そこまで大きくはないんだけど。三階の図書館奥の人気のない掲示版とか、第二技術室脇にある古ぼけた黒板とか。とにかく変なところに貼りまくった。人目に触れるか触れないかってところ。先生にバレたらマズいから。でも、これ貼ってるときは、すごいワクワクした。

 期待感は、つねに心のなかにあったと思う。一日一日、面倒くさい授業と文化祭準備につきあいながら、ゲリラライブの準備は進行してた……。問題は、観客が来るかどうか。そこだけだった。


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