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カギを使って正々堂々と出入り口から。実は壊れた通気口を使わずに入るのは、これがまだ二回目とかだったりする。
あいかわらず第二音楽室はむわっとしてる。いちおう扇風機があるんだけど、まあ、そんなもの気休め。風にあたってるあいだは快適なんだけどね。
アタシはしばらく扇風機の前に立って、あ~! って声を出してた。宇宙人だ~! とかなんとか言って。
「南、バカみてえなことしてないで練習はじめるぞ」
ドラムセットに座り込んで、真哉がアタシを呼んだ。暑いんだから、もう少し休んでてもいいじゃない。はやる気持ちは、わからんでもないけど。
アタシがギグバッグからレスポールを取り出したとき、みんなが位置についていた。練習する曲は、もちろんゲリラライブでやる予定の曲。とりあえずは、ラモーンズだ。
さすがに暑いと体力をむしばまれる。とりあえずセットリストの予定曲を練習したら、もうそれで疲れちゃう。とりあえずいったん休憩タイム。楽器おろして、窓を全開にした。
みんな床に腰を下ろして、カバンから水筒をとりだしたりしてた。夏の間は水筒を持ってくるのがオッケーになったりする。さすがにこんなに暑いのに、蛇口の水だけじゃかわいそうってことだと思う。でもまあ、中身は水か麦茶、スポーツドリンクに限られるんだけど。そりゃ、さすがにコーラを入れてくるやつはいないと思うけどさ。
そうやって休憩してるなかで、アタシは一人楽器をおろさなかった。ただアンプの電源だけ落として、でもシールドはつなげたまま。生音でギターを弾いていた。
でも弾いているその曲は、セットリストにはない。ここ最近アタシが個人的に練習している曲だ。
ジョイ・ディヴィジョンの『ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート』。がんばってTAB譜通りに弾いてるんだけど、いっこうに上手くならない。あんまり上手くならないから、最近はやめようとか考えているぐらいだ。
「なんだよ、その曲」
水筒の中身を口に流しながら、真哉が聞いてきた。どうやら曲としてわかるレベルにもなってないらしい。アイツならジョイ・ディヴィジョンだって知ってるはずなんだから。……なんか悔しい。
「ジョイ・ディヴィジョンの曲」
「ああ? あぁ……なんだ。わからん」
「『ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート』」
「へったくそだな」
「うっさい」
もう一度、じゃらーんて生音で弾いてみる。でも、イマイチカッコつかない。
仕方ないから、アタシはギグバッグのポケットから一枚のシングルCDを取り出した。お兄ちゃんのコレクションの一つ。ジョイ・ディヴィジョンの『ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート』。アタシはそれを音楽室のコンポにいれて、再生ボタンを押した。まもなくポップなギターストロークが始まった。アタシはそれに合わせて、ぎこちなく弾いてみる。……なんか、ズレてる。
「へたくそ」って真哉。
「うっさい」
アタシは黙々と弾く。ダウンストローク、アップストローク。コードを弾く。うーん、なんかイマイチ。
そう思っていると、CDに合わせて鼻歌が聞こえた。それから英語の歌詞も。でもイアン・カーティスみたいな低い声じゃなくて、もう少し上のキー。女の子の声で歌うのが聞こえた。
アタシの隣でエレンが歌ってくれていたのだ。まるでアタシを応援するみたいに、彼女は口ずさんでくれた。
「ラァァァヴ。ラヴ・ウィル・テア・アパート、アゲェイン……」
コードを弾く。ちょっと楽しくなってきた。
エレンの歌、アタシは好きだ。決して上手くないけど、でも、楽しそうだから。彼女が笑顔で歌っていると、アタシは楽しくなってくる。だからピックを上下するする右手も、ふしぎと弾むようになってきた。
そして曲が終わった。アタシは停止ボタンを押して、ディスクを取り出した。本当は学校にCDなんか持ち込んじゃいけないんだけどさ、いまさらだよね。
「あの……ミナミさん」
アタシがケースを片づけてると、エレンが言った。
「カスミでいいってば。で、なに?」
「カスミは、あの曲……好き、ですか?」
「うん、まあ。ジョイ・ディヴィジョンにしてはポップな曲だけどさ。アタシ、好きだよ」
「タイトル……歌詞の意味、わかりますか?」
「いや、アタシ英語サッパリだし。これ、もともとお兄ちゃんの私物だったんだけどね。お兄ちゃんってば、輸入盤しか買わないからさ。ライナーノーツもなーんにもないの。あ、でも、ラヴはわかるよ。愛でしょ。愛の歌ってことでしょ、これ」
「えーっと……」
そのとき、エレンは少し困ったような顔をした。彼女は目を伏せたまま、アタシと顔を合わせようとしない。それは初めて会ったときと一緒。何かを隠そうとしているような、そんな感じ。
だけど、エレンは結局答えてくれた。少しは成長したのかな。
「えっと、ですね。ラヴ……愛は、テア……引き裂く」
「え?」
――なに、なんだって?
「えっと……愛は、ワタシたちを引き裂くでしょう……なんです」
「ふぅーん、そうなんだ」
アタシはなんて返したらいいかわからず、とりあえずあいづちだけした。歌詞の意味なんて、考えたことなかったから。でも、エレンは英語わかるから違うよね。もしかしたら、アタシが楽しそうに弾くのに、こんな暗いタイトルの曲だったから、どうやって歌えばいいのか迷っちゃったのかな? それだったら、わかる気がする。
でも、『愛がアタシたちを引き裂く』ってどういうこと? アタシ、恋なんてしたことないからサッパリ。




