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ストレイ・キトゥンズ  作者: 機乃 遙
第四章 ”スメルズ・ライク・ティーン・スピリット”
37/61

 カギを使って正々堂々と出入り口から。実は壊れた通気口を使わずに入るのは、これがまだ二回目とかだったりする。

 あいかわらず第二音楽室はむわっとしてる。いちおう扇風機があるんだけど、まあ、そんなもの気休め。風にあたってるあいだは快適なんだけどね。

 アタシはしばらく扇風機の前に立って、あ~! って声を出してた。宇宙人だ~! とかなんとか言って。

「南、バカみてえなことしてないで練習はじめるぞ」

 ドラムセットに座り込んで、真哉がアタシを呼んだ。暑いんだから、もう少し休んでてもいいじゃない。はやる気持ちは、わからんでもないけど。

 アタシがギグバッグからレスポールを取り出したとき、みんなが位置についていた。練習する曲は、もちろんゲリラライブでやる予定の曲。とりあえずは、ラモーンズだ。


 さすがに暑いと体力をむしばまれる。とりあえずセットリストの予定曲を練習したら、もうそれで疲れちゃう。とりあえずいったん休憩タイム。楽器おろして、窓を全開にした。

 みんな床に腰を下ろして、カバンから水筒をとりだしたりしてた。夏の間は水筒を持ってくるのがオッケーになったりする。さすがにこんなに暑いのに、蛇口の水だけじゃかわいそうってことだと思う。でもまあ、中身は水か麦茶、スポーツドリンクに限られるんだけど。そりゃ、さすがにコーラを入れてくるやつはいないと思うけどさ。

 そうやって休憩してるなかで、アタシは一人楽器をおろさなかった。ただアンプの電源だけ落として、でもシールドはつなげたまま。生音でギターを弾いていた。

 でも弾いているその曲は、セットリストにはない。ここ最近アタシが個人的に練習している曲だ。

 ジョイ・ディヴィジョンの『ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート』。がんばってTAB譜通りに弾いてるんだけど、いっこうに上手くならない。あんまり上手くならないから、最近はやめようとか考えているぐらいだ。

「なんだよ、その曲」

 水筒の中身を口に流しながら、真哉が聞いてきた。どうやら曲としてわかるレベルにもなってないらしい。アイツならジョイ・ディヴィジョンだって知ってるはずなんだから。……なんか悔しい。

「ジョイ・ディヴィジョンの曲」

「ああ? あぁ……なんだ。わからん」

「『ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート』」

「へったくそだな」

「うっさい」

 もう一度、じゃらーんて生音で弾いてみる。でも、イマイチカッコつかない。

 仕方ないから、アタシはギグバッグのポケットから一枚のシングルCDを取り出した。お兄ちゃんのコレクションの一つ。ジョイ・ディヴィジョンの『ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート』。アタシはそれを音楽室のコンポにいれて、再生ボタンを押した。まもなくポップなギターストロークが始まった。アタシはそれに合わせて、ぎこちなく弾いてみる。……なんか、ズレてる。

「へたくそ」って真哉。

「うっさい」

 アタシは黙々と弾く。ダウンストローク、アップストローク。コードを弾く。うーん、なんかイマイチ。

 そう思っていると、CDに合わせて鼻歌が聞こえた。それから英語の歌詞も。でもイアン・カーティスみたいな低い声じゃなくて、もう少し上のキー。女の子の声で歌うのが聞こえた。

 アタシの隣でエレンが歌ってくれていたのだ。まるでアタシを応援するみたいに、彼女は口ずさんでくれた。

「ラァァァヴ。ラヴ・ウィル・テア・アパート、アゲェイン……」

 コードを弾く。ちょっと楽しくなってきた。

 エレンの歌、アタシは好きだ。決して上手くないけど、でも、楽しそうだから。彼女が笑顔で歌っていると、アタシは楽しくなってくる。だからピックを上下するする右手も、ふしぎと弾むようになってきた。

 そして曲が終わった。アタシは停止ボタンを押して、ディスクを取り出した。本当は学校にCDなんか持ち込んじゃいけないんだけどさ、いまさらだよね。

「あの……ミナミさん」

 アタシがケースを片づけてると、エレンが言った。

「カスミでいいってば。で、なに?」

「カスミは、あの曲……好き、ですか?」

「うん、まあ。ジョイ・ディヴィジョンにしてはポップな曲だけどさ。アタシ、好きだよ」

「タイトル……歌詞の意味、わかりますか?」

「いや、アタシ英語サッパリだし。これ、もともとお兄ちゃんの私物だったんだけどね。お兄ちゃんってば、輸入盤しか買わないからさ。ライナーノーツもなーんにもないの。あ、でも、ラヴはわかるよ。愛でしょ。愛の歌ってことでしょ、これ」

「えーっと……」

 そのとき、エレンは少し困ったような顔をした。彼女は目を伏せたまま、アタシと顔を合わせようとしない。それは初めて会ったときと一緒。何かを隠そうとしているような、そんな感じ。

 だけど、エレンは結局答えてくれた。少しは成長したのかな。

「えっと、ですね。ラヴ……愛は、テア……引き裂く」

「え?」

 ――なに、なんだって?

「えっと……愛は、ワタシたちを引き裂くでしょう……なんです」

「ふぅーん、そうなんだ」

 アタシはなんて返したらいいかわからず、とりあえずあいづちだけした。歌詞の意味なんて、考えたことなかったから。でも、エレンは英語わかるから違うよね。もしかしたら、アタシが楽しそうに弾くのに、こんな暗いタイトルの曲だったから、どうやって歌えばいいのか迷っちゃったのかな? それだったら、わかる気がする。

 でも、『愛がアタシたちを引き裂く』ってどういうこと? アタシ、恋なんてしたことないからサッパリ。


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