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ストレイ・キトゥンズ  作者: 機乃 遙
第四章 ”スメルズ・ライク・ティーン・スピリット”
36/61

 翌日、授業はなくて終業式だけだった。朝学活が終わったら、そのあと課題帳が配られたり、夏休み中の注意事項とかを復唱させられたり。たっぷり一時間つまらない説明に使われて、それでようやく終業式。クソあつい体育館に集められて、セミの鳴き声にかき消されそうな校長の話を聞く。長いお話だった。きっと二十分近くあったと思う。アタシは暑くって、とちゅうから眠りかけてた。目が覚めたときには、もうのどがカラカラ。額の汗がすごくって、もう帰りたかった。

 校長の話が終わってから、今度は生徒代表が夏休みの目標をベラベラしゃべった。勉強と部活に励みますだって。計画的にこつこつ勉強して、部活と勉強を両立。がんばって高校進学と県大会を目指すとかなんとか。聞き心地いい言葉ばっかり……。

 全校の前でそう宣言したのは、陸上部の先輩だった。アタシ、もう聞いてられなかった。

 こういう当たり障りのない言葉に何の意味があるんだろうって、アタシは思ってた。体育館の端っこで聞いてる先生たちは、さも「彼は立派だ」って言わんばかりにうなずいてる。うんうん、うんうん……バカみたいに、ヘドバンみたくうなずいてる。アホらしい。そんなコトバに何の意味があるって言うの?

 アタシは聞いてらんなくて、もう一度目をつむった。暑かったけど、でも話を聞かされるよりはマシだった。先生たちもアタシが居眠りしてるのに気づかなかったし。


 それから学校が午前中で終わると、アタシは速攻で家に帰った。そして昼食をかき込むと、すぐにギグバッグを背負って家を飛び出した。

「夏休みだからって、浮かれてばっかじゃダメだからね!」

 出かける直前にお母さんがそう言ったけど、アタシは生返事を返すだけ。ろくすっぽ聞いてなかった。アタシは、それより練習のことで頭がいっぱいだった。


     *


 問,夏休みに入ってやったことと言えば?

 答,練習、練習、それから練習。

 ずっと練習づけだったと思う。下手な野球部より練習してたと思う。まあ、好きだから続けられたと思うんだけど。

 朝起きたら、顔洗って、ご飯食べて、着替えて。そしたらギグバッグ背負って、学校かクリスの家。それか駅前にある小さなスタジオに向かう。

 スタジオって言っても小さなとこで、アタシがレスポールを買った店の二階にある。オジサンと、高校生ぐらいの若い男の人でやってる小さな楽器屋で、二階はスタジオにして貸し出してくれてる。しかも中学生は特別料金。オジサンは、アタシがここでギターを買ったって知ってるからサービスしてくれるし、ホント助かってる。スタジオには生のドラムもあれば、マーシャルのアンプも、エフェクターまで貸し出してくれる。

 予約が取れたら、いつもはそこで練習。お小遣いを握りしめて、それをオジサンに渡して、二、三時間ぐらい借りるわけ。第二音楽室が使えないアタシたちにしてみれば、ここが練習場だった。

 もちろん、第二音楽室を使う日もあった。でも、第一軽音部(アイツら)がいつ練習して、いつ休んでるかなんてわかんないし。そこは、だいたい賭け。土曜ならやってないんじゃない? とか言って、開いてなかった日もある。まあ、音楽室はスタジオの予約が取れなかった日の緊急手段って感じ。

 あとは自主練。クリスの部屋に集まって、さすがに音は少し絞るんだけど、ちょっとあわせて見たりとか。ドラムはさすがに持ってこれないから、お菓子の空き箱と缶詰をドラムセット代わりにしたりとか。

 とにかく、アタシたちはこの夏、たくさんのアイディアを出して、たくさんの練習をした。目標は一つ、ゲリラライブのため。そのために行動し続けた。だって、それがアタシたちのやりたいことなんだから。


     *


 夏休みも終盤にさしかかった、水曜日のことだった。その日はスタジオの予約が取れなくて、でももう文化祭も近いってことで、学校に行ってみようかっていうことになった。

 昼前の学校は野球部や陸上部の叫び声。それから、ランニングを続けるテニス部でごった返していた。校内に入ってみれば、今度はパート練習をする吹奏楽部の群。一階にいるとトランペットの音が聞こえて、二階に行くとクラリネット、三階まで来るとシンバルがガッシャンガッシャンやってるのが聞こえた。もうひどい有様。

 でも、唯一救いだったのは、第一軽音部(アイツら)がいないってことだった。奇跡的にも、ちょうどいなかった。

 アタシたちは彼らがいないのを確認すると、職員室に向かった。

 椎名先生のおかげで、いちおう『現代大衆音楽研究部』は部活として認められることになった。今年の文化祭には出られないけれど、今度からは堂々と鍵を借りて、練習のために第二音楽室が使えるというわけ。

 鍵を取りに行くのは、別に一人でもいいんだけどさ。とりあえずみんなで一階まで降りてきた。でも、職員室に入るのはアタシだけ。ほら、職員室って入るのに面倒だから。みんな入りたがらないわけ。だから結局、いちおうの部長であるアタシがいつもやってる。

 二回ノックして、向こうから返事があったら扉を開ける。で、名乗る。

「一年一組の南です。第二音楽室の鍵を借りにきました」

 そう言うと、すぐに奥の席にいた椎名先生と目があった。ほかの先生が鍵をとろうとしたけど、椎名先生は「あ、私がやります」って言って、鍵をとりに。それから、アタシに渡しにきた。

「はい、鍵。……南さん、ここ最近練習してるみたいだけど……何かあったの?」

 さすが先生、鋭い。でも、ゲリラライブの話はもちろん出来なかった。さすがに顧問でも、これを話したら中止するよう言ってくるはずだ。なにより校則違反だし。

「えっと……みんな、来年に向けてもっと上手くなりたいって。だから、練習してるんです」

「そう。それならいいけど……。何か妙なことたくらんでるようだったら、止めさせるからね。あなたたちが悪さしたら、顧問の私の監督責任にも関わるんだから。あなたたちの部活だって、職員会議で承認してもらうのに大変だったんだから」

「そうなんです?」

「大変も大変だったんだから。音楽の清水先生とか、すっごい気にしてたよ。そりゃ、現代大衆音楽って言ってるんだから、気にするに決まってるけど。本当、煙にまくの大変だったんだからね。だから、少しでも妙なことしたら、廃部もやぶさかではないから。そうしたら、来年の文化祭だって出れるかわかんないからね」

「は、はい……」

 ゲッ、そんなにいろんな先生にマーキングされてるのか。アタシたち……。

 でも、それだってもう引き下がれない。ゲリラライブは決まったんだし。

 アタシは先生に上っ面だけの笑顔を見せると、鍵を持ってみんなのもとに戻った。


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