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ストレイ・キトゥンズ  作者: 機乃 遙
第二章 ”アイ・ウォナ・ビー・アドアード” 
15/61

 ――ムカつく。

 頭にアイツの顔が浮かぶ。髪の毛をツンツンさせてイガグリみたいにして、第二ボタンまでワイシャツを着崩して、学ランは彼の背よりも一回りもふた回りも大きくて、まるでロングコートみたいで……。

 ――ムカつく、ムカつく……。

 アイツはその学ランを脱ぎ捨てると、ワイシャツ姿でドラムセットに居座る。まるでそここそが自分の特等席だって言い張るみたいに。自前のスティックをかかげて。

 ――ムカつく、ムカつく、ムカつく……!

 そして怒りにまかせたプレイを見せつけるのだ。アタシたちの演奏まで、アンプに増幅されたギターサウンドまで殺してしまうような轟音。空気を震動させる破裂音。

 ムカついた。

 アイツのスカした態度。まるでアタシのやってることを見下してるみたい。「しょせんは子供のお遊びだろ?」って。同い年なのに、先輩ヅラしやがって。

「……ムカつく」

 授業中、アタシはふと口にしてみた。

 それは先生の声にかき消されてしまうような小さな声だったけれど、アタシは確かに口にした。空気の振動として外に出した。だから、アタシのムカツキはちゃんと外に現れたことになる。アタシはムカついてる。ちゃんとそう宣言した。

 だからアタシの怒りはちゃんとそこにある。学校のなかにある。


 火曜日の午前、アタシは一つの考えに至った。アイツを――森真哉を問いつめてやろうと思ったのだ。あの野郎、アタシをさんざんコケにしやがった。もう許さない。アタシのバンドに入るまで、絶対に引き下がってなんかやらない。

 三度目の正直という言葉がある。次アイツが来たときは、今度こそ第二軽音部に入らせる。アタシはそう心に決めていた。そして、その下準備にかかろうと思い立ち、すぐに行動に移した。


 給食が終わって昼休み。アタシはクリスを引き連れて教室を出た。向かうは隣の隣の教室。一年三組だった。

 昼休みの廊下は騒がしい。男子は授業のプリントで紙飛行機作って飛ばし合ってるし、女子はトイレの前を封鎖して話し合ってる。どいつもこいつも邪魔くさい。

 そいつらをかき分けて三組までたどり着くと、アタシは堂々とした態度で教室のドアに相対した。

「……奏純ちゃん、やっぱりやめようよ……他のクラスの教室に突撃って……」

「アタシ、引き下がらないから。アイツは、アタシの顔にドロを塗ったの。許さないから」

 言って、アタシは教室のドアを二回ノック。強めに叩いたせいか、その直後に三組は静まりかえった。

「失礼します!」

 まずは先手必勝。

 大声で宣言し、引き戸を開け放つ。そして見下ろすように教室を眺めてから、アタシは言った。

「一年一組の南奏純です。森真哉君はいますか?」


 と、アタシは豪快な登場を果たした。その豪快さたるや、クラスじゅうが静まりかえるほどだ。みんながアタシを見つめて、口をあんぐりと開けていた。

 それからしばらくして、女子を発端にヒソヒソ話が始まった。

 ――森君だって?

 ――知ってる?

 ――知らない。誰?

 ――ほら、彼。あの不良っぽい。

 ――いたっけ、そんなやつ?

 どいつもこいつも頼れそうにない。アタシは鼻を鳴らして視線をそらした。どうにも教室にアイツはいないみたいだ。どうせアイツも男子なんだから、きっと廊下でボール遊びでもしてるか、中庭で走り回ってるに違いない。

 アタシは勝手にそう決めつけると、一礼して教室をあとにしようとした。

 でもそのとき、ある人がアタシを呼び止めたのだ。

「ちょっと待って。あなたたち、森君のお友達?」

 声に思わず足を止め、アタシは顔を上げた。

 声の主は、教室の隅に座る女性。つまり、三組の担任の先生だった。


 三組の椎名先生は、うちの担任と違って若い。先生っていうより、ちょっと年上のお姉さんって感じさえある。だから先生がアタシに声をかけたときも、三組の女子が彼女を取り囲んでおしゃべりしているところだった。

 椎名先生はアタシたちを廊下に連れ出して、階段近くの影になった場所まで来させた。どうやらクラスでは話せないことらしかった。

「それで、森君のお友達なんだっけ」

「えっと……いや、友達ってワケじゃないんですけど。えっと……アイツに話があって」

「森君なら学校にいないわ」

「……風邪、ですか……?」

 アタシの後ろでクリスが聞いた。

 でも椎名先生は横に首を振って、黒いポニーテールを左右に揺さぶった。

「彼、ここ一ヶ月近く学校に来てないの。……体育の授業中に揉めゴトを起こしたらしくてね。それ以来、非行が目立ってね。谷本先生に呼び出しを喰らっては、校長室に呼び立てられてたの。そうしたら、急に学校に来なくなっちゃって……。私も何度かお母さんにお話を伺ったりしてるんだけど……どうにもダメでね。彼、学校に来たがらないの。不登校なのよ」

「不登校って……でも彼、昨日学校に来てましたよ」

「うそ!? いつ? どこで?」

 アタシは思わず口を滑らせた。そして直後には、ヤバいと気づいた。先生に第二軽音部の存在を知られてはマズい。

「えっと……放課後に廊下でたまたま見かけて……不登校なんて知りませんでした」

「放課後に? 部活には出てるのかしら……? いや、でも月曜は部活ないし……」

 椎名先生はメガネをクイッとあげて、考え込むようにため息をついた。

 しばらく沈黙してた。先生も、アタシたちも。三人全員アイツに振り回されてるんだ。アイツの、身勝手な態度に。


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