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とんとんからり とんからり

作者: ザジ

初めて投稿します。宜しくお願いいたします。

ここは日本のとある村。

広い畑の間に、ぽつりぽつりと家がならんでいます。

村に住んでいるひとのほとんどがお年寄りたちで、若いひとたちはみな、仕事や学校へ行くために街に引っ越してしまいました。

そんなさびしい村ですが、年に数回、少しだけにぎやかになる日があります。

親せきたちが帰って来る、お盆やお正月のときです。

街の小学校に通う2年生の時生ときおくんも、家族と一緒に冬休みを利用しておじいちゃん、おばあちゃんの家に遊びに来ました。






「おじいちゃーん!おばあちゃーん!」

時生くんは、玄関から家の中へ聞こえるように、大きな声で呼びかけました。

「おやおやまあまあ、よく来たね。また大きくなってぇ、いい子だいい子だ」

玄関まで来てくれたのはおばあちゃん。前会った時よりも、少し腰が曲がっているようです。おばあちゃんは嬉しそうに笑って、しわくちゃの手で時生くんの頭をなでてくれました。

くつを脱いで床の間へ行くと、おじいちゃんが炬燵に入ってテレビを見ていました。

「おうおう、時生かぁ、さあこっちにおいで、寒かっただろう」

おじいちゃんが布団をめくって、ぽんぽんと自分の膝を叩きました。

時生くんは嬉しくなって、勢いよくおじいちゃんの脚の間に飛び込みました。

「おっとぉ、重くなったなあ、何年生になった?」

「いまね、にねんせい!」

「そうかそうか、えらいぞぉ」

おじいちゃんもにこにこ笑って、時生くんの頭を撫でてくれました。

時生くんは、優しいおじいちゃんとおばあちゃんが大好きでした。

顔をしわくちゃにして笑って、いつも褒めてくれるからです。

家の中で走るといつもは怒るお母さんも、おじいちゃんたちの家ではそれほど厳しく叱りません。たぶんおじいちゃん達の家が広くて、お隣まで結構離れているからでしょう。

古いけれど、広くて大きなおじいちゃん達の家が時生くんは大好きでした。





時生くんが特に気に入っているのは、おじいちゃんの書斎です。

おじいちゃんは昔学校の先生をしていたそうで、分厚い辞書や百科事典がたくさんありました。

壁にはおじいちゃんが若いころの写真や、お父さんが時生くんぐらい小さいころの写真が飾られていて、この部屋に入るといつもわくわくしました。

時生くんのお家にはない古い計算機や硯、昔の切手やお金など、不思議なものがたくさんあったからです。宝物探しのような楽しみがありました。

そのため、時生くんはおじいちゃんに入っても良いか聞いてから、この書斎の中を探検していました。







「夕ご飯ができるまで静かに遊んでいなさい」とお母さんに言われたので、時生くんはおじいちゃんに聞いてから、書斎に入りました。

おばあちゃんの趣味のレース編みがかかったソファに腰掛けて、ぐるりと辺りを見渡しました。

天井には少し埃のかぶったシャンデリアがあって、ぶら下がっているクリスタルがきらきらと輝いていました。

本棚にはずっと前からある百科事典や難しそうな本がずらりと収められています。

低い方の棚には、旅行に行ったひとから貰ったお酒や人形などが飾られていました。

さあ、今日はどこを探検しようかな、と立ちあがった時生くんの耳に、不思議な声が聞こえてきました。




『かんかんからり、かんからり』




「あれ?今のはなに?」

不思議に思った時生くんが呟くと、またあの声が聞こえてきました。




『かんかんからり、かんからり』




一体誰の声でしょうか。

時生くんは開けっぱなしだったドアから顔を出して床の間の方を見ました。

おじいちゃんとお父さんが炬燵に入って、お酒を飲みながらテレビを見ています。

「おかーさあーん!」

大きな声で呼んでみると、台所のほうから「なーにー?もうすぐできるわよー!」

とお母さんから返事がありました。おばあちゃんも一緒に料理をしているはずです。

では、さっきの声は、一体どこから聞こえてきたのでしょう。




『かんかんからり、かんからり。ぼっちゃんあけてくださいな』

声はまた聞こえてきました。声のした方に恐る恐る近づいてみます。

おじいちゃんの机の引き出しから聞こえてくるようでした。

そっと耳を押しあててみました。

『ここですよぅ、あけてくださいな』

やはりこの中から聞こえてきます。小さな声ですが、確かに開けてくれと言いました。

怖い、と時生くんは一瞬だけ思いましたが、おじいちゃんの古い家には面白いものがいっぱいあることを、友達にも自慢して来たのです。

何か面白いことがあったら、冬休みが終わった後、また友達に話すことができます。

どきどきしながら、そっと引き出しを開けました。

「…なんだ、これ?」

黄ばんだ紙に、唇が描かれた絵がありました。紙の状態からみるとかなり古そうです。

まさか紙が喋るはずはありません。

『ありがとうぼっちゃん、やっとみつけてくだすった』

「わっ!?しゃべった!」

『そりゃあしゃべりますよ、それがわっしのしごとなんですから』

紙に書かれた唇が、アニメみたいにぱくぱく動いて、そこから声が聞こえてきたのです。

信じられない思いで、時生くんは紙を机の上に置きました。

何度も目をぱちぱちさせて、ごしごし擦りましたが、やはり紙はそこにあります。

夢を見ているのかな、と思って少し手の甲を抓って見ましたが、痛かったので夢ではないということが分かりました。

『あああ、くうきがおいしい!すう、はあ、すう、はあ、』

「なんで、口だけなの…?」

『よくぞきいてくだすった。わっしはこのいえのおまもりをしているのですがな』

「お守り…?」

『へえ、だいぶふるいいえでしょう?かじやじしんがきたらおだぶつだぁ』

確かにその通りです。古い木造の家は火事や地震が起きたらひとたまりもないでしょう。

『いえにはじいさまばあさましかいないでしょう』

その通りです。万が一そんなことが起きても、すぐに助けに行くことはできません。

『だからわっしがまもってるんでさぁ』

「ふうん、そうなんだ、どうもありがとう」

『いやいや、れいをいわれちゃてれるわなあ。ただちょいとこまったことがおきてるんでさあ』

「困ったこと?」

『へえ。ちょいとまえにわざわいをはらったら、からだがふきとんじまったんだ』

「吹き飛んじゃったの?」

『そうさ。あちこちばらばらになっちまったから、もとにもどしてほしいのさ』

「元に戻すって、どうやって?」

『わっしをつれてってくんねぇかい?けはいでからだのありかはわかるんだが…』

「ただの口だもんね」

『そうよ。さすがぼっちゃんはさっしがいい。わるいがてつだってくださいましな』

「元に戻ったらまたお家を守ってくれるの?」

『もちろんよ。それがわっしのしごとだぁ』

「うん、分かった。どうすれば良いの?」

『ばらばらになっちまったからだをあつめなきゃなあ。ぼっちゃん、そこにものいれがあるだろう』

「物入れ?ああ、これのこと?」

『そうそうそれさ。そこをあけておくれよな』

「ここ?ここはがらくたしか置いてないよ。昔の扇風機とか」

『いいからいいから。あけてごらんまし』

不思議に思いつつ、時生くんはがらり、と物入れの襖を開けました。

「あれ…真っ暗だ。おかしいな」

『ふしぎだろう。そこからわっしのからだのけはいがするんだ。わっしといっしょにはいってくんねぇか』

「真っ暗だから何にも見えないよ」

『わっしがあんないするさ。そのとおりすすんでくれりゃいい』

さあさあ、と急きたてる口を胸ポケットにそっと仕舞って、時生くんはそろりそろりと物入れの中へと足を踏み入れました。







中に入って、すぐおかしいと気付きました。

いつもの物入れは、時生くんでも屈まないと天井に頭をぶつけてしまう位狭いのに、今は背筋をぴんと正して歩いても全く問題ないのです。

ごたごたと段ボール箱が置いてあったはずなのに、何にもぶつかりません。

「真っ暗で何にも見えないよう。こんなに広くなかったし」

心細くなって泣きそうになりました。

『わっしがついてるよぼっちゃん、なきべそかくんじゃねえ』

ポケットの中から口が励ましてくれたので、なんとか泣かずに済みました。

『えらいぞぼっちゃん、あんたのとうちゃんはなきむしだったけどなあ』

「えっ、お父さんのこと知ってるの?」

『そらあしってるさ。わっしはまもりがみだもの』

お父さんが泣き虫だったという秘密を知って、時生くんは面白くなりました。

「お父さん、本当に泣き虫だったの?」

『そりゃあもう。わっしがひとこえかけただけで、びいびいないてにげちまったよ』

「あはは、何それ、おかしいね」

『それにくらべたらぼっちゃんはたいしたもんだ』

「えへへ、そうかな」

口に褒められて、時生くんは嬉しくなりました。

真っ暗な中、何かにぶつからないよう両手を前に突き出して、ゆっくりゆっくり歩いていました。

すると………。



『きろきろからり、きろからり』



『むっ、いまわっしのからだによばれたぞ』

「えっ、近くにあるってこと?」

『しぃーっ、しずかに、』



『きろきろからり、きろからり』



鈴虫の鳴くような、細く小さな声が聞こえてきました。

声のする方へ向かうと、床に小さくぼんやりと光るものがありました。

「あっ、これ……目だ」

『おお、おお、よかったよかった、これでみえるぞ』

ぼんやり光る紙を拾い上げると、墨のようなもので描かれた、少したれ気味の目が二つ。

『ぼっちゃんのかおもみえらあね。おお、やはりかしこそうなかおじゃ』

「へへ、じゃあこれも一緒に入れておくよ」

『ああありがたや、ありがたや』

口と一緒にポケットに仕舞います。耳や鼻などがまだどこかにあるのでしょうか。

どこまでも続く真っ暗な中を、時生くんと口はおしゃべりしながら進みました。





『ぼっちゃんはいくつだい?』

「ぼく8歳だよ、今2年生なの」

『にねんせいとはなんだあね?』

「学校知らないの?」

『わからんなあ。わっしはこのいえからうごかんからな』

「そうなんだ。けっこう楽しいよ。勉強は嫌いだけど、体育は好き」

『たいいく?』

「スポーツするんだよ。えーっと、身体を動かす時間」

『ほおお、あたまだけでなくからだもきたえるということか』

「そうそう、逆上がり得意なんだ」

『さかをのぼるのか?』

家を守っているからでしょうか。あまり学校のことを知りません。

投げかけてくる質問がおかしくて、時生くんはいろいろ教えてあげました。

暫くそうして歩いていると、また聞こえてきました。



『つんつんからり、つんからり』



「あっ、今何か聞こえた!」

『そうだなぼっちゃん、もうすこしおくのほうだ!』



『つんつんからり、つんからり』

落ちていた紙に書かれていたのは耳でした。

『ほっほう、これでぼっちゃんのこえがよくきこえるぞ』




こうして時生くんと口は、次々に暗闇から身体を拾い集めていきました。



『すんすんからり、すんからり』

「今度は…鼻だ」

『ああ、ぼっちゃんのにおいもわかる。さっきじいさまといっしょにみかんくったろ?』

「すごいや、何で分かるの?」

『まもりがみはおみとおしよ』




『とんとんからり、とんからり』

「腕の絵だ」

『おお、おお、うれしいねえ、ぼっちゃんとてをつないでみたいもんだ』




『ふみふみからり、ふみからり』

「あっ、足発見!」

『よおしいいぞお、ぼっちゃんとかけくらべしてえなあ』

「僕クラスで早いほうだよ、サッカーしてるから」

『さっかあ?なんだそりゃあ』




『つるつるからり、つるからり』

「これ、は…顔…?」

次に見つけた紙は、つるつる頭のお坊さんのような着物を着た絵でしたが、そこには眉も鼻もありません。

『ああ、ついにみつけた、わっしのかおじゃ。がんばれぼっちゃん、もうすぐだ』

「今まで見つけたものをこれにくっつけたらいいの?」

『そうなんだが、このおくにだいじなものがある。そいつといっしょにくっつけたらもどるでなあ』

「分かった、もう少しなんだね」

『ありがとよぅ、ぼっちゃん、わっしはなきそうだで』

「いいよ、困っている時は助け合わなきゃ」

『ありがとうよ…これでまたおまもりできるて』

「うん、おじいちゃんおばあちゃんをよろしくね」

『あい、わかりもうした』






言われるまま進んでいくと、初めて足に何かが当たる感触がありました。

こつん、と蹴飛ばしてしまったそれに気付いて、時生くんはしゃがんで確かめました。

「あれえ?なに、これ?」

『こんなところでまっとったんかい、すまねぇなあ』

「ねえ、これなに?」

『わっしのからださあ』

「身体!?紙で出来てるんじゃないの!?」

『からだからいろいろふきとばされたのよ。まったくいまいましい』

『ぼっちゃん、さいごのなんぎだ。それをかかえてもどっておくれ』

「できるかな…うーん、よいしょっと!」

身体の大きさは時生くんより少し小さいくらいでしたが、ずいぶんと軽かったので何とか抱きかかえることができました。

『ああ、うれしいなあ、ようやくそろった』

口の声がだいぶ弾んでいます。よほど嬉しいみたいです。




時生くんのポケットに入れられた紙たちも嬉しいのでしょう。

うきうきと歌い出しました。



『かんかんからり、かんからり』

『きろきろからり、きろからり』

『つんつんからり、つんからり』

『すんすんからり、すんからり』

『とんとんからり、とんからり』

『ふみふみからり、ふみからり』

『つるつるからり、つるからり』

『もうすぐじゃ、もうすぐじゃ』




一体どれほど歩いたことでしょう。

物入れの入り口に向かって歩きながら、時生くんは考えました。

僕がここに居るってことを知っているかな?

神様か何か分からないけど、この家を守ってくれているひとを助けたって言ったら信じてくれるかな?

もうすぐご飯が出来るって言ってたな。今日のご飯は何だろう。

おばあちゃんが作ってくれる煮ものはとても美味しいから、それだったら嬉しいな。

暗闇が徐々に薄くなってきました。不思議な世界ももうすぐ終わりです。

『ありがとう、ぼっちゃん。そこにからだをおいとくれ』

「うん、こう?」

『まずはかおからおいてくんねぇか?』

「ここでいい?」

『おう、いいぐあいだ。つぎはめをたのむ』

指示通り、時生くんは次々に顔の位置に目や鼻や口を置いてやりました。

耳や腕、足などは紙を真ん中から破いて、ちょうどこの辺、という感じで置きました。

「…できた!」

『ああ、ありがとうよぼっちゃん。あんたのことはわすれねぇ』

「これ、このままでいいの?」

『じきにくっつくさ。さあぼっちゃん、このまままっすぐいきなせえ』

「うん分かった。じゃあね、元気でね」

『ああ…さいごにもういちど、かおをみせてくんねえか?』

「うん、いいよ」

不思議な世界と神様とのお別れです。

時生くんはひょいっと顔を覗き込みました。その時です。





『ごああっっっっっ!!』

恐ろしい叫び声を上げて、がばりと起き上ったのです。

顔や手や足は、人形のような胴体に完全にくっついていました。

時生くんは悲鳴をあげる間もなく捕まり、がぱりと開けた大きな口の中へ飲みこまれてしまいました。

ごぷん。ごぷん。ごぷん。

時生くんを腹の奥へと押し込む音が響きます。

『うぐっ、うぐう、……っぷはあ…』

満足そうな溜息を吐いて、守り神は膨れた腹をさすりました。

『ああ、ひさしぶりのまんぷくじゃあ』

ぼこん、ぼこん、と守り神の膨れた腹が内部から押しあげられます。

飲みこまれた時生くんがまだ生きているのでしょうか。

『おうおう、おとなしくしやれ』

むにいいっと伸ばされる腹の上から、ぽんぽんと叩いてやりました。

『やくそくはちゃんとまもるからのう』

『これで、しばらくうえずにすむわい』

げふぅ、と噫気をひとつ。守り神はげらげらと笑いました。





「時生―!ご飯よ―!どこ行っちゃったのかしらあの子」

「おーい時生―」

「はーい、よんだ?」

「さっきから呼んでるわよ。どこに居たの?」

「おじいちゃんのへや」

「ちゃんとおじいちゃんに聞いてから入った?」

「うん、そうだよね、おじいちゃん」

「ああ、そうだぞ。ほれ、ここに座りなさい」

「はーい」

「おお、やっぱり重たくなってるなあ。いい子だなあ時生は。さあ、たくさん食べなさい」

「いただきまーす」







「ねえ、おじいちゃん、ぼくね、くらすで一番足が早いんだよ」

「そうかそうか、すごいなぁ」

「さっかーやってるから」

「おお、そうかあ、将来が楽しみだなぁ」

「もうこの子ったらサッカーばかりで全然勉強しないんですよ」

「おべんきょうきらーい」

「わっはっは、じいちゃんに似てしまったなあ」

時生くんを膝に乗せ、おじいちゃんがお酒で真っ赤になった顔で楽しそうに笑います。

「ねえ、おとうさん、これしってる?」

「ん、何だ?」

「“とんとんからり、とんからり”って」

「うーん、何だそれ。今流行ってるのか?」

「ううん、わかんないならいいよ」

にっこり笑って、時生くんは、おじいちゃんがむいてくれたみかんをぱくり、と食べました。



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