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GRAYER  作者: 雨音緋色
1st-Eve of destruction
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Have you ever seen the bullet rain

 今日という日の平和は昨日訪れた不幸によって築かれている。故にのうのうと1日を過ごすのではなく、昨日の自分に感謝し今日を生き抜き明日へと繋げなければならない。

 もし、今日が不幸ならば明日は幸福になる様にしなければならない。釣り合いが取れなければ心は病み不幸を呼び負の連鎖となる。


 そんな言葉を親から教わり、高校を卒業してそこそこの大学を出た俺は、今どこにでもいる会社員をしている。

 企業という大きな機械の歯車の1つである事を選んだ俺の人生は特に良い事も悪い事もなく、周囲の人間と比べても当たり障りのない人生であると自負している。むしろ、それが唯一の自慢できる点と言うべきなのか、大きな不幸もなく、かといって幸せ過ぎる訳でもなく此れ迄は生きてきた。

 むしろ、それこそが最大の幸せなのかもしれない。何1つ変わる事のない毎日を送る事というのは存外難しく、変化する日常の中では特異点と言うべきなのかもしれない。

 しかし、その幸せは失うタイミングが来なければ当然感じる事が出来るものではなく、こうして思考している今この瞬間になってようやく感じ得た幸福だと俺も初めて知らされた。


 では何故この様な事を思案する機会が生まれたのだろうか。


 答えは簡単である。


「おい、そこのリーマン。何をそんなに考えてるんだ。しっかりと手を上げて座ってろ」


 何故なら今、偶然にも銀行強盗の人質として捉えられているからである。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ー1時間前。


 久々の有給を取った俺は、気晴らしにパチンコにでもと思い最寄りの銀行へと足を運んだ。

 今の時代コンビニのATMでも手数料がかからない便利な時代ではあるが、生憎俺の家の近くにはコンビニは無く銀行が最寄りのATMとなっていた。

 とはいえ車を走らせなければいけない距離の為どちらかといえば不便な環境である。しかし、この後の予定を考えるとかえって好都合と言うべきなのかと思いつつ初給料でローンを組んだワゴンに乗り込んだ俺は、聞き慣れた邦楽を口ずさみつつ車を走らせる。


 暫く走ると最初の目的地である銀行が目に付いたのだが、生憎ここは反対車線。急ぎの用ならば入るかもしれないがそんな事はない。1番近くの銀行を過ぎもう1つ先にある車線沿いの銀行へと入った。


 平日とはいえそれなりに人が居る銀行内の様子は流石都心と言うべきなのか。午前中にも関わらずATMの利用順を待つ羽目になった俺は、ぼんやりと窓の外を見ながら自分の順番が来るのを待つ。

 そして自分の番になりお金を降ろし銀行を出ようとした手前。大型のワゴンが銀行の前で止まった。そう。銀行強盗である。


 ドラマ位でしか見た事のない様な黒塗りに全面スモークガラス、そして中から現れた昔ながらの覆面強盗集団に思わず目を奪われ足を止めてしまった俺は、当然最初の人質としてその身を捕らえられたのだが、ここで驚くべき事が起きた。


 今のご時世我が国日本では携帯の許可が下りてない物がこめかみに当てられる。外国産の自動拳銃だった。


「顔にもう2つ穴が欲しいなら抵抗しろ。嫌なら大人しくしてな」


「……っ!!」


 こめかみに銃口を押し付けられる。かつてない恐怖に思わず息が詰まり声を上げる事すら出来ずに2度頷く。まさか自分がこんな体験をするなんて。普通この役は女性銀行員とかじゃないのか。と明後日の方向に思考を巡らせつつ指示通りに銀行内へと戻った俺は、覆面の男の腕の中で冷や汗をかきつつ彼らの脅迫を聞いていた。


「おい、この格好で意味は分かるな?早く出せ」


「か、畏まりました……」


 別の男に銃口を向けられた銀行員は、声を裏返しながら部下に指示を出す。おいおい、まさかアサルトライフルまで出てくるとは思わなかった。本格的に命が危ない流れじゃないか。


 だが、逆に此処まで装備が揃っている事が違和感でもあった。もしかするとサバイバルゲームで使うモデルガンなのではないかと思い始める。それならば怪我こそはすれど命に別状はない。


「おせぇ。早くしろや!!」


 そんな思考を一蹴するかの如く響いた銃声。放たれた9×19mmパラベラム弾の弾頭は頭上の白熱灯を軽々と砕き、ガラス菅が割れる音と薬莢が床で跳ねる音、そして遅れて響いた悲鳴の声との合唱を生み出した。


「アニキ、弾の無駄遣いは止めて欲しいのですが……」


「あ?そんな事気にしてる暇あったら早く人質纏めろや。それとも思考が早くなる様に頭に空洞作るか?」


「す、すみませんっ!おいてめぇら早くこっちに集まれや!!!」


 子分らしき覆面男が同型らしき自動拳銃を片手に人質を待合室の片隅へと追いやり始める。その流れに俺も加えられ、怯える人々の1人となった。


「アニキ。そろそろサツが到着するかと」


「チッ……気にすんな。どの道これを失敗すると命がねぇ。真っ向勝負だ。カベ、車の中にある弾薬と銃全部持ってこい」


「了解。楽しみになって来たぜ」


 肩にアサルトライフルを担いだ大男がアニキと呼ばれる男と会話を交わすと、足早に車の元へと駆け寄り次々と銃の入った木箱を持ち込み始めた。どうやら警察が来た時用に準備してあったらしい。つくづく用意周到な連中である。


 カベと呼ばれた大男が4箱に分けられた銃や弾薬を搬入し終わった頃。銀行員によって鞄一杯に詰められた札束が犯人の手に渡ったと同時にパトカーのサイレンが鳴り響く。警察が到着したらしい。


「さてと……タイミング良くお出ましとはな……車も押さえられてるだろう。プラン通りの持久戦になるぞ」


「了解アニキ。デコ、サツの数はどんなものだ」


「トビからの情報だと中型パトカー10台。それと機動隊収容車両が5台って所らしい」


「100人弱か。……なんとかなるな。トビには交戦と同時に狙撃の指示を出しとけ」


「了解ですアニキ」


 驚いた事に警察が到着してからも冷静な指示と連絡を取り合う覆面集団の手際に、思わず俺は口を開けて見つめてしまう。もしかしたらこいつら手慣れた強盗犯なのかもしれない。いや、しかしここ数年銀行強盗で銃器の使用など聞いた事がないぞ。


「ここを凌げば後は楽に暮らせる。絶対生き残るぞ」


「おう」


  再び結束力を高めた覆面集団は箱から様々な銃火器を取り出しては装弾し、いつでも撃てる様に用意を進める。そんな中で突如銀行内の固定電話が鳴り響いた。

 覆面集団の中からデコと呼ばれた男が銀行員の背に銃口を当て固定電話の元へと歩かせる。そして受話器を取らせ電話主と会話を始めさせた。すると、暫く話した後銀行員は何かデコと会話を交わした後にデコへと受話器を手渡した。


「サツが何の用だ」


『要件は簡単だ。人質の解放と君達の身柄の確保。その2つだ』


「そんなものはい分かりましたと言うと思うか?」


『言ってもらいたいものだな。なるべくなら事を穏便に済ませたい』


「俺らを見逃すってのも穏便だぜ?」


『それは出来ない。君達にお金を見逃せと言っても出来ないだろう?』


「そりゃな。じゃ、交渉決裂だ」


 それだけ言い残し乱暴に受話器を置いたデコは、銀行員を人質の中に戻した後に再び定位置へと戻る。どうやら交戦する機会をうかがっているらしい。


「トビの報告のタイミングで始める。準備はいいな?」


「分かってますよアニキ。合図はアレで」


「アレか。とびきり気持ち良いのを頼むぜ」


 覆面越しでも分かるほど下劣な笑みを浮かべたアニキに、思わず不快感を出してしまった俺は運悪くアニキと目が会う。その瞬間苛立ちを見せたアニキは俺の元へと歩み寄り銃口を向けながら先の言葉を言い放った。


「おい、そこのリーマン。何をそんなに考えているんだ。しっかりと手を上げて座ってろ」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

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