小夏は補助に回る。
今回は特に長い?
明日の休みはあーちゃん(旭陽)と約束したレベル上げの日。
あーちゃんのレベルはまだ1。
パーティーを組めば私からも経験値が行くし、レベル上げ事態は問題じゃないんだけど。
問題なのは、生き物を殺すこと。その死骸を見てられるかって事だろうか。
昔は車に轢かれた動物とかも見るのが嫌だった私としては、あーちゃんも同じでは無いだろうかと思う。
VRMMOをやったことあるのならもしかしたら耐性が多少あったかもしれないけどそれもやってないっていうのなら、たぶんきついよなぁ。
しばらくは見るだけになるかも……?
でも、それでレベルだけ上げてもいいのか……。
うーん。ゲームなら気にしないんだけど、リアルだからなぁ……。
でもだからこそ死ににくくなるためにレベルは上げたいんだけど……。
「どうしたの? 眉間にしわを寄せて」
同室の子、カルナが珍しいと言いたげに声をかけてくる。
考え事するのが珍しいとでもいうのか、カルナ。
……ああ、でもこの世界にきてこんなに悩んだ事ないかも。
「うん。明日レベル上げに行くんだけどね」
「え!? 実戦するの!? コナツは戦闘科じゃないよね!?」
「うん。違うけどね」
騎士科や魔法科の事をまとめて戦闘科なんていうんだけど。
私はどっちも取ってない。ついでに言うと治癒科も取ってない。
一般教養くらいかな、取ってるの。
調理くらいは取ろうかなって思ったけど、思ったんだけど、セラスが悲しそうにするんだよね……。
一緒に授業受けた方が楽しいんじゃない!? って思ったけど、俺の仕事取らないでくれって……。
……私、料理下手なのかな? これでも家では普通に料理当番だったんだけど。
……ここに来て料理したのって始めの数日……二、三日の……三回作ったくらい?
「ねぇ、カルナ、私料理下手なのかな?」
「え!? いきなり何!?」
「あ、ごめん。思考が流れてつい、別の事考えちゃって。で、えっと戦闘科じゃないのは、別に取る必要がないかなって思って。一応戦えるから普通に」
「そうなんだ?」
「うん。こっちに来る前まで、魔の森をうろうろとしたことあるよ」
「やだ!? 本当に!? よくそんな危険な事をしたね!」
驚くカルナに私は苦笑する。だって、魔の森ってピンキリだから。
「まぁ、危険っていっても、出て赤灰大熊くらいだったし」
「十分危険だよ!?」
仰天された。しまった。ここでの強さの基準が分からん。
赤灰大熊なんて、初心者にとっての最初のエリアボスだしなぁ。
うーん。赤灰大熊でこんなに驚くって事は、ロックドラゴンの事はカルナに言わないで正解だったなぁ……。
「で、どこまでレベル上げしようかなぁって……ちょっと悩むんだよねぇ」
「……どこまでって、コナツは変な事いうわね」
「そう?」
「そうよ。レベルを上げるのがどれだけ大変か分かるでしょ?」
「でも、まだ低いし、上がりやすいと思うんだけど」
「もう! そんな心構えでいったら死んじゃうわよ!」
「え!? あー、レベル上げするのは私じゃなくて、お友達なの」
そういえば言ってなかったな、と。
「レベル1だから順調に上がると思うんだけど、今までそういう経験ないだろうからどこまで上げたらいいかなって思って」
「レベル1だから順調に上がるって……、なんだか、コナツの考え方、ちょっと心配だわ」
「もちろん安全第一だよ?」
「本当? ちょっと怪しいけど」
「本当本当。死にたくないので」
なんせ私は一度、死んでここにきているわけだし……。あれ? じゃあ、あーちゃんもそうなのかな?
……うん、やっぱり死にたくないし、死なせたくないし、安全マージンは取るけど。
「レベル10くらいまではレベリングするかなぁ」
少なくとも生き物を殺すのに、慣れなきゃいけない。まずはモンスターの死骸に慣れる事が重要である。
レベル5までで慣れてくれると御の字だなぁと思いながらも無理かもと思った。
最悪、レベル20くらいまで上げておけば、ここの人たちに悪さされる事はないかもしれないと考えた。
「ちょっと、出るね」
「どこ行くの?」
「明日一緒に行く子に防具と武器上げようかと思って」
そう告げて出る。私が去った後、私の言った内容に、カルナが呆れて信用できないなんて思っていたなんて考えもしなかった。
「あーちゃんちょっと良い?」
ノックをしてあーちゃんに呼びかける。すぐに扉が開いて中に入れてもらった。
転校生のあーちゃんは今のところ寮は一人部屋である。羨まし。
「あーちゃん、今持ってる防具と武器見せて」
「えっと、これです」
そう言って指さされたのは、当然かもしれないけど、学園で戦闘科が使ってる武具。
やっぱりかぁ。って思った。RPGで言ったら本当の初期服である。
「んー。じゃあ、嫌じゃなかったら私が持ってる防具貰って」
一番性能が低い武具でもこれよりはマシであると、頭のてっぺんからつま先までの装備を置いていく。
元がゲームの女の子用という事でなのか、見た目もあーちゃんが持っている武具よりはまだ可愛らしい。
なので売らずに持っていたというのもある。もう一人サブキャラ作った時に使うだろうって思ってたし。
もっとかわいいのもあるのだけど、強力過ぎて逆に渡せない。
少なくともレベルが低い間は身の丈にあったものの方がいいと思うのだ。
なんとなくだけど。
「かわいい。いいの?」
「いいよ」
「良かった。きちんとしたの買わなきゃ駄目かなって思ったんだけど、そんなお金ないし……」
「ああ、あーちゃん所持金いくらなの?」
「一万」
「一万!? それはまた……。ご飯は食堂で食べれば無料だけど、買い食いは出来ないね……」
「そうなの! 初めは異世界って事でそれどころじゃなかったけど、はたっと気づいた時、びっくりしたよ! どうやってお金稼ごう……。やっぱりハンターギルドなのかなぁ?」
「んー……確かに神様達はそっちを目論んでそうだけど……。そもそもハンターギルドも出来たばっかしだし、そううまく稼げるのかなぁ」
「そうなの? もうそれしか無いって思ってたんだけど……」
「明日、午前中覗いてみてよ。良かったら登録、駄目だったら別の方法を考える」
「別って……」
「一緒に考えるから」
「……うん、ありがとう」
お互いに笑いあって、今日は早く寝てねと声をかけて部屋に戻った。
言った手前私も早めに眠る事にした。
翌朝。あーちゃんと一緒にセラスとの待ち合わせ場所に行ったら何故か、ゼン、ガル、ロス、アメリーが居た。
なぜに?
「四人も一緒にレベル上げするの?」
「カルナから頼まれたよ、どうにも不安だからついて行ってあげてって」
「……信用ないのかぁ」
「それに、本当に高レベルなのか気になるし」
ゼンの言葉に私は苦笑した。どうやら信じてもらえてなかったようだ。
「……もしそうなら、どうやってレベル上げしてるのか、が一番気になるし」
「俺も同意だ」
「俺も」
「あ、そっちがメインですか了解です」
とりあえず、PT招待は送っとくか。
メニューからパーティーメニューを呼び出し、パーティー招待をそれぞれに行う。
ゼン達四人は即座にパーティーメンバーになり、セラスとあーちゃんはちょっと間があった。
……システム持ってない人だと、強制参加になるのかな?
ぼんやりとそんな事を思った。
で、その後みんなでハンターギルドに行ったんだけど。
ゼン達隠しキャラは、高すぎる身分なので、登録するわけにはいかないだろうし、---本人達、家の決まりで駄目なんだって言ってた。私は鑑定で知ってるけど一応、身分秘密だしねぇ。知ってる人は知ってるけど、隠してるから口にしてないっぽいし---あーちゃんとアメリーは、窓から見える雰囲気がなんか怖いからなんか嫌。との事で結局ほぼ建物の見学で終わって外門から出た。
え? 私とセラス? 登録すると面倒そうだからパスです。特にする理由は見当たらないし。
生産職も持ってるし、素材ゲットできたら自分で加工できるし、それにシステムで売れるんだよね。
アイテムは無限に持てるから売る必要を特に感じない。それにお金はゲーム時代に貯めてたのがそのままこっちの金に変換されてるから、慌てて稼ぐ必要ないし。
一生豪遊しても問題ないくらいの金はあるんだよねぇ……。
身分証は神々からのお墨付きなもの持ってるし。実は王城内見学もばっちり行けるらしよ。怖くて無理だけどさ。
な、もんで。ハンターギルドのうま味なにもないんだよねぇ。まぁ、ちょっとばっかりテンプレは体験してみたかった気もするけど……。王子達引き連れて目立つのもなぁって止めました。
「さって、こっから先はモンスターが出てくるところです。みんな準備はいいかな?」
問いかけるとむしろ、しろーい目が返ってきた。なぜに?
「無防備なお前に言われたくない」
とは、ゼンの言葉。
無防備? と聞き返しかけて思い出した。
「ああ、そっか、みんなには見えてないもんね」
言いつつ私はシステムの『ステルス機能』を消した。
とたんに私の着ている服が替わる。
正確に言う足された、が正しいのかな?
着ていた私服の上から防具が装着された状態だ。
靴の上から靴を履くような感じ。違和感ないんだけどね。
ゲームではキャラを着飾らせて楽しむっていうのも売りだったから、防具は着ている衣装を邪魔しないようにって、表示しない機能があったんだ。武器は対人戦の影響で消せなかったんだけどね。だから私も腰に短杖セットしてるし。
「な……なんだよ、それ……。どんな装備……なんだ……?」
「装備というか能力かな? いや、装備自体も結構いいやつだけどね。……結構って言うか、断然良いやつなんだけどね」
神話級を結構と評価するのは間違ってると思い、言い直す。その分、着るための条件があるんだけど。良い防具なのは間違いないです、はい。
「学園でこんな格好でいるわけにはいかないじゃん」
「え? って事は学園でもずっとこんなかっこうしてるの?」
「ステルス機能してると、防具装備してること忘れるしねー。金属が当たるとかごろごろして着心地が悪いとかないし」
再度ステルス機能を起動させ、頭を差し出す。
「ローブの感触とかしないでしょ?」
先ほどまで符術士だったので、ローブ姿で頭もすっぽりかぶっていたのだが、あーちゃんが手を伸ばすと、しっかりと私の髪に触れた。
ふと、この状態でステルス機能を切るとどうなるのかな? って思ってやってみたら、あーちゃんの手の感触が消えて、ぽふりと布の感触がした。どうやら私の頭とあーちゃんの手の間に一枚布が挟まったようだ。
「えぇぇえぇ!?」
うわー。不思議そー。うふふー。
しかしロスが何かに気づいたのか、顔をしかめてくる。
「……つまりそれって見えなくなっている間は効果が無いって事なんじゃ?」
「違う。効果はきちんとある。敵意がある、害意がある、痛みを伴う、傷を負うなどの接触はきちんと防ぐ。実験した」
「したの!?」
私を驚いたように見てくる。
「あー、したみたいよ?」
そう返すとみんなはまたセラスを見た。
「実験は俺がした。彼女にさせるわけないだろ。そこらのモンスターに無抵抗で殴られただけだ」
納得。という顔をするみんな。ああ、攻撃を受ける立場、私だと思ったのか。
ははは……まさかぁ。そんな事させてもらえませんよ。ええ。したくないけど。
でもしてほしいとも思わないんだけどね……。
そんな実験をやったっていう事後報告だけもらったよ……。
ステルスを再度onにして、私は四人に尋ねる。
「で、質問するけど、私のやり方でいいの?」
「任せる」
「お願いします」
「ふん。俺だってあれから腕を磨いたんだ問題はない」
「私も異存はないですよ」
ゼン、アメリー、ガル、ロスの了承はとったので、じゃあそうするか。
「あーちゃんはまずモンスターに慣れる事を優先したいので、最初は戦わなくていいよ。ただ目をそらさないように」
「うん。分かった」
「で、私とセラスはフォローくらいで、基本は四人に戦ってもらうで、大丈夫?」
みんなしっかりと頷いてくれたので私も頷き返す。
「《補助セット1 スタート》」
私の力ある言葉に、みんなの体が複数の光や風に包まれる。
「さて、行こうか」
「ちょ、待って何コレ!?」
みんなの驚く声が聞こえるが無視して私は駆け足になる。
たぶんみんなは全力疾走になるけど。
ふっふっふっふ。お助けキャラって呼ばれた実力は伊達じゃ無いぜ。
基本ステータス75%UP、最大HP・MP二倍、防御(魔含む)・攻撃力(魔含む)3倍、自動HP・MP毎分25%回復、移動速度5倍、回避率3倍(全て三時間対応)という壊れ魔法を持ってるんだぜ☆
……すみません嘘つきました。ここまで壊れ補助魔法をゲットしたのは、お助けエンチャンターの役目を終えた後です。セラスを助けた後にもらった神々の加護をゲットした後です。それぞれバラバラだった魔法を一つに出来たのは、こっちの世界に来てからです。
でもまさか……、ゲームイベントの別エンディングを探してただけでこんな事になるとはなぁ……。
メインエンディングが気に入らないからって、私含めて、何名かが隠しエンディングがあるんじゃ無いかって頑張ってたんだよねぇ……。
イベント事態は魔王復活っていうありきたりな物ではあったけどね。
そのイベントの魔王が星神でもあったから、それを救ったって事で、兄、姉の神々から加護をもらったんだけどね。しかも最大級の加護を。
でもまさか、それに本物の神が封印されてて、その別エンディングが本物の神を救うことになったとは思ってなかったし、その加護が異世界では本物になるなんてこれっぽっちも思ってなかったよ。
でもって、『システム』って呼んでる私やセラスのゲーム時代の能力って、聞いたところによると、この世界の神じゃなくて、元居た世界の神様がくれたスキルらしいんだよね。
だからかな。すっごい便利! かゆいところに手が届くみたいな!
無くなった機能もあるけど、便利な機能も増えた。キャラデザ変更は課金アイテム使用だったのに今は無料だし。
本当は自動収集があったら楽だったんだけどなぁ。
ゲーム時代はお金とアイテムを自動で収集出来たんだよねぇ。ここではお金がばらまかれないせいか、それが発揮されなくなっちゃったっぽいんだよねぇ。
……ん? それとも設定が変わったから初期化されたのかな?
システムのユーザー設定の方までいいって中身を見てみる。
あ、もちろん、みんなが付いて来てるか、敵が来てないかは確認してますよ。
BGM? エフェクト? え? ……オフなってるけど、オンにしたらこれ、どうなるの?
思わずオンにしてみると、ゲームミュージックがどこからともなく流れてくる。
そして、みんなが一斉に悲鳴を上げて恐慌状態になった。
何事!?
音楽とエフェクトを再度オフにする。しかしみんなの目が怯えているのが分かる。
「……何をしたんだ?」
唯一怯えていないセラスが呆れたように尋ねてくる。
「えっと、ユーザー設定で、BGMとエフェクトをいじった……」
「びーじー……? ああ、音楽の事か。で、エフェクトね……。なるほど。今の一瞬、水月が間違いなく高レベルな人間だなって思う効果が出てたな」
「まさかの威圧系!?」
「探せば後光とかもあるんじゃないか?」
「え!? えーっと、あるねぇ……」
「詐欺師になれるな」
「あはは。なれちゃうかもねぇ」
とりあえず、笑った。笑うしかない。んでみんなのバッドステータスを治す。
すると安心したのかぺたりと地面に座り込んでしまった。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないです……」
とは、あーちゃん。
あーちゃんレベル1だもんねぇ。とくに怖かったかもしれないけど……。いや、みんな10未満だし、あんまり変わらないか。
気づけばあーちゃん敬語だし。
「大丈夫じゃないですけど……、恐怖耐性1と威圧耐性1が手に入りました」
同じくとみんなはへろへろとした様子で頷いていた。
……バッドステータスは治したんだけど、みんな腰抜けて動けないみたいだなぁ……。
「……師匠」
「……は?」
「師匠って呼んで良いですか!?」
「いや、ガル、何言ってるの?」
大丈夫か。熱あるのか?
「師匠についていけば俺は世界最強になれると確信しました!」
「いや、無理だろう。水月がいる限り、世界最強は」
「あれは別カウントで!」
つっこむセラスにガルはあっさりと言い切った。
それ、世界最強って言えるのかなぁ……。本人がいいのなら私は別にいいけどさぁ……。
「あのね勘違いしてるよ。私、人に教えるだけの技術ないから。そういうのはセラスの方がずっと上だよ。私はあくまで職で貰える「スキル」っていう特殊技を使っての戦闘しか出来ないし」
「しかし」
「でも、まぁ、レベル上げとかなら付き合ってあげるから。ほら、いくよー」
と、声をかけてみんなを立ち上がらせ、全力で移動する。
BGMはそのまま。せっかくだからと明るい曲を流す。そうしながら私はいろいろ設定をみていく。いくつか初期化されてるのあったわ……。そして、念願のアイテム収集は、無事にあった!!
これにしたらどうなるんだろー。と好奇心でオンにする。
オフの場合は自分で捌くから、素材集めの時はオフの方がいいのだろうけど。今日は素材集めっていうわけじゃないので。
*** ***
「ってなわけで最初の目的地、草原地帯にやってきました」
ぐるりっと振り返って尋ねる。
「大丈夫かーい、みんなー?」
声をかけるがみんなは息も絶えたえって感じで、まともにしゃべれそうにない。
全力疾走で一時間くらい走ったしねぇ。街から離れなきゃって思って。
「アメリー、回復」
「え!?」
「術、きちんと使わないと熟練度上がらないし」
しかも無意味にやっても上がらないんだよね。
ゲーム中だと戦闘でケガしてからじゃないと意味がないんだけど、こっちだと体力回復とかにも微妙に効くんだよねぇ。
私がかけた補助はまだ生きてるけど、たぶん今の状態なら重ねがけも大丈夫じゃないかな?
「は、はい。水よ癒しと成れ。ヒール」
青い光がみんなを包む。それを確認した後、私は再度セット魔法を唱え、魔法がかかっている時間を更新する。それからかまくらタイプの結界と、足下に防御壁を張り巡らせて、モンスターが攻撃出来る箇所を一カ所に絞り、敵とのエンカウント率を上げるアイテムを使う。
さて、ゲームだと割とすぐ沸いてくるんだけど、リアルだとどうなるのかなぁ。
……せめて、一度自分で使ってから使うべきだったかしら? 自分とセラスがいるから大丈夫かなってついつい考えちゃってるな。
考え方改めなきゃ。
そうこうやってる間に一匹目が来て、ガルとゼンが難なく倒している間に、敵性の数がどんどん増えてくる。二十以上居るな。しかもどんどん増えてる。
はて。このアイテムここまで強力だったっけ?
ゲームだと、十匹くらいだったと思ったんだけど。
個人向けのチャット「ささやき」に設定して、セラスに問いかける。
『誘魔香ってここだとこんなに強力なの?』
『加護でアイテムの威力が上がってると思われる』
なるほど! 私にとって有利になるアイテム扱いなのか。
これは失敗したなぁ。他の誰かに使わせれば良かったかなぁ。最初だけは……。
「い、いっぱいきてますよおぉお!?」
結界透明だからねぇ。見えるよねえ。アメリーが悲鳴を上げる。他のみんなも気づいているのだろう。彼女のように悲鳴は上げなかったが、表情は硬い。
あーちゃんも土気色だ。
「大丈夫だよ。今減らすから」
さすがに最初からこれでは多いしね。可哀想すぎる……。
「《ルーレットスタート!》」
その言葉に会わせてマップに映る敵すべてを対象にした、フィールド全体攻撃が始まる。
0~99,999のランダム攻撃だ。
天空にルーレットが現れる。それがカラカラと音を立てて回る。数字も何もない。針と仕切りがあるだけのルーレット。仕切りと針が当たるたびにモンスターにスポットライトが当たり、飛び交う。
やがて版の動きが遅くなって、同じようにスポットライトがゆっくりと動く。針が完全に止まった時、スポットライトが当たった敵がランダム攻撃を受けて倒れたり、傷を負ったりしている。
半数は減ったので、大丈夫だろう。
かなり遠くで死んだモンスターも居たけど、シャボン玉のような光がこちらへと飛んできて私の中に消えていく。
ログ画面に経験値とゲットアイテムが表示された。それと同時に皆にも金色の文字で数字が現れてそちらもすぐに消えた。
「れ、レベルがあがったんですけど!?」
とは、あーちゃん。
「パーティー組んでるからね。さて、残りは全部みんなで倒してね。あーちゃんは今は見学」
「「「「「はい!」」」」」
みんなの元気の良い声、というかやけくそっぽい返事が返ってきたよ。
それから、まぁ、ちょっと危ないところもあったけど、無事、一度目のバトル(お香の効果は十分)は終了した。
あーちゃんはあっという間にレベル5になり、他のみんなも、2~3上がったっぽい。
まぁ、大半は私が倒しちゃったし、おまけで入ってくる経験値はたかがしれてるし、ここの敵弱いし、まぁ、こんな物かな?
あと、私が自動収集しているせいか、みんなが倒してもモンスターがシャボン玉になって私がゲットしちゃうんだよね……。その方が戦闘する方としては楽なんだけど、後で私が大変になりそうな気が……。
それに気づいて、後で分かるようにって手持ちの間違えそうなアイテムは全部倉庫の方に送ったけど……。
「さて、ちょっとみんなは休んでて。あーちゃんは付いて来て」
「はいぃー!」
戦闘中からずっと涙目になりつつも、あーちゃんは、びくびくと大人しく私についてきて結界から出てくる。
……さっきのエフェクト効果か……。さっきからみんなびくびくしてない?
あーちゃん、わりにさっきから敬語なんですけど……。
「さて。こっちが薬草、こっち毒草、こっちがヒール草。探そうか」
持っていた薬草系をあーちゃんに私ながら言う。
あーちゃんは目を白黒させてたけど。
「ただ付いてきてるだけだと、気にしちゃうでしょ? かといってまだ戦闘は出来ないと思うし」
レベル的じゃなくて精神的なものでね。
「自分でやれる事はやろうか。アイテムボックスに入れたら保存状態も良いし、アイテム屋さんで高く売れるかもよ? ポーション作ってみんなに渡してもいいし」
「ポーション……作れるんですか?」
「うん。作れるよ。一から教えるから、運が良ければスキルゲット出来るんじゃないかな?」
「……頑張ります」
「うん。頑張ろう」
不安そうだったけどあーちゃんはしっかり頷いた。
「あの……。ふと思ったんですけど」
しばらく薬草を探しているとあーちゃんは何かに気づいたように尋ねてくる。
「本当だったら……こういうレベル上げの仕方ってしない……ですよね?」
「しないだろうね。ここの人ってレベル低いねってセラスに尋ねたら、日本人と違ってあくまで仕事だからって言われた。
言われてみたら納得だよねぇ。ゲームで死なないっていうのもあるけど、私たちにとって遊びだったんだから遊ぶためには出来る限りするし、嫌々じゃ無いからどんどんレベルもあがる。根本的な考え方そのものが違うんだよね。
それはレベル差が出るってもんだぁって思ったよ。
こっちの人だと月1か2ある実戦のために毎日訓練だけど、私たちの場合は訓練ほぼ無しの、毎日実戦だからね。レベルの上がり方は全然違うよね。狩り場なんて言ってモンスターがいっぱい出てくるところにわざわざ行ったりして狩るわけだし」
「……そう、ですよね」
「まぁ、実際、最初はちょっと抵抗あったけど」
言いつつ、私は近くにあった石を取り、マップの端に現れた赤マークに向かって投げる。
遅れてマップから赤が消える。
「慣れたかな? 嫌な慣れかもしれないけど」
苦笑してると遠くからシャボン玉がやってくる。
経験値が私とあーちゃんに入る。あーちゃんはびっくりしてたけど、私は笑みを返した。
「それに私はきちんと聞いたよ。私のレベル上げの仕方でいいのかって。彼らの知ってるレベル上げの方法で、まともなやり方で、そんなレベル上がるわけないじゃん。って言いたいね」
「……よくよく考えればそうだよね。よくよく考えなくても分かれって感じかぁ……。えっと、500あるんだよね?」
「うん。599あるよ。それがゲーム時代のカンスト。こっちに来てまだレベル上がるみたいで『次のレベルアップまで後いくら』って表示に気づいた時にはびっくりしたけど、まぁ、そうそう上がらないと思うけど」
「…………500でもびっくりなんだけど……まさか600前とは」
「ね、なんで600にしなかったんだろうって思うけど、……それでいったら500で止まれって事だよねー」
なんて、あえて違う回答を返して、笑う。
それから一度戻ろうかって話をして、集めた薬草たちを見る。きちんと、彼女は同じのを集めたようだ。他にここで見つけたやつは私が説明してアイテムボックスに入れてもらう。そうするとアイテム名が「???」じゃなくて説明したアイテムになるんだよねぇ。
鑑定持ってるのならいいけどあーちゃん持ってないし。でも次に薬草集めをする時は表示される。……はず。
結界に戻ると、まだ四人は死んでいた。
「おーい、そろそろ起きろ~。次いくよー」
「ええぇぇぇえ!? もう止めましょうよ!」
アメリーは涙目で訴えてくる。
他の三人はどうするのだろうと思いつつ見つめていると彼らは顔を合わせて、目でやりとりしている。
器用なことするよねぇ。貴族には必須スキルなのか?
アイコンタクトにも熟練度レベルってあるのかなぁ……。
「……そもそも……本当にこんな方法でレベル上げしてるのか?」
おや。疑ってるね。まぁ、疑うのが当たり前か。
「そうだよ」
「……いつか死ぬぞ?」
ゼンに肯定を返したらガルが心配と憤りを交えたような声で言ってきた。
「……そうだね。それはそうかも。そもそも、前提がみんなと違ったからなぁ」
私たちはあくまで死なない仮想の遊び。みんなは死ぬ現実である。
「だから無理強いはしないよ。帰るのなら転移で送るけど」
「帰る! 私は帰る! みんなも帰ろうよ! おかしいよ絶対!!」
とはアメリー。……おかしいというのは私の頭がという事だろうか。
まぁこの状況だと否定出来ないか。
緊張と集中力が切れて安心したら、まともな判断ができはじめたというべきか、余計パニックになってるというべきか。
「……俺は残りますよ」
と、言ったのはロスだ。アメリーは信じられないっていう顔をしている。
「彼女が使う魔法が見たことがないものばかりです。俺としてはぜひとも知りたいので」
「……なら、付き合うよ」
ゼンはやれやれといった感じで半身を起こし、ため息をついた。
まさかの魔法オタクぶりを発揮されて苦笑って感じだ。
ガルも反動をつけて立ち上がる。
「ここで帰ったらお前らとレベル差が付くのは目に見えてる。最強を目指すためにも帰れないってことだな」
「なんで!? どうしてですか!? だって死んじゃったらどうするんです!? セラスさん! セラスさんは帰りますよね!?」
アメリーがセラスの腕を掴んで揺する。必死に説得しようとするけど。
「帰るわけが無いだろ」
冷たく言って腕を振り払う。もうちょっと優しくしたら? って思ったりもするんだけど、セラスは自分に好意を持ってる人にはちょっと手荒い気がする。たぶん、星神だった頃、女性に裏切られたのが原因だと思われる。……それで邪神化までしちゃったし、たぶん根深いやつだと思うんだよねぇ……。
そういう意味では本当に私よく、セラスの心ゲット出来たなって思う。
「えっと、アメリー。帰るのなら転移で送るけど?」
アメリーは周りを見て、帰る様子がないのを見て、叫ぶように口にした。
「あたしは帰ります!」
その言葉に私が頷くよりも先に、セラスが転移させちゃった……。
「外門前に転移させた。これで問題ないだろ」
どこか嫌そうなセラスに、私は一応一声かける。
「一応、アメリーの反応が普通だと思うよ?」
「胸をわざと押しつけるのがか?」
「なっ!? なんてうら!?」
ガルが顔を赤くしてセラスを睨んだ。けど、怖さはゼロだねぇ。
スルースキルをセラスは発動させているのか、どこ吹く風って感じで、それがまたガルの怒りを煽るんだよねぇ……。
言うだけ無駄な気がするから放っておこう。
私は結界を張り直し、あーちゃんに一つアドバイス。
「あーちゃん、もし覚悟が出来たら、結界越しに魔法を撃つといいよ。結界にロッドを当てて魔法を唱えると、魔法が出現するの結界の外なんだよね」
レベルが低い魔法はなんやかんやとロッドから出るのが多いんだよね。
慣れてくるとある程度好きな場所から出現させる事が出来るのだけど。
あくまで中から外に向けてだけどさ……。
ちなみになんでこんなアドバイスするかっていうと、三人の連携にあーちゃんの攻撃は入れられないから。なので、あーちゃんは別方向に向かって魔法を撃って貰いたい。
「あ、あの、でもこんな場所で炎の魔法なんて使っちゃって大丈夫ですかね?」
「あーちゃん、火の女神の加護持ってるから問題ないよ。もし間違って延焼しても私が消火するから」
「う、うん。……覚悟決める」
あーちゃんはぎゅっとロッドを握りしめて頷いた。
無理なら無理でいいんだけどねぇ。
また補助魔法をかけて、私は敵を呼び寄せる。
適度に敵を減らし、大ぶりした時はフォローに入り、狙いやすいようにと敵の動きを止めたりと、そんな戦闘がお昼休憩などを挟みながらも日が傾くまで行われた。
「よし、あーちゃんのレベルも25超えたし、教会にでも行って職をゲットしようか」
ぱんっと手を叩いて終わりだと合図を送るが、もはや死屍累々といった感じ……。いや、どちらかというと呆然としてる?
「たった一日で……騎士団長クラス……。まじか。これ、夢か?」
「……地獄の筋肉痛くるのか……おれ、あした生きてるかな……」
「おすすめの魔法職ってなんですか!?」
なんというか、男三人の反応が面白いなぁ。
ガルは呆然としてるし、ゼンは噂の筋肉痛に怯えてるし、ロスは、職によって覚える魔法に興味津々のようだ。
指をパチンと鳴らす。張っていた結界を消して、みんなで外門前に現れる。
門を警備してる兵士のみなさんはとても驚いてたけど。
洗浄の魔法をかけて、街の中に入り、教会へと目指す。
みんなが職を設定している間に、私は今日ゲットした魔石やら素材やらをチェックして分けなきゃ。
ゼンとガルは「剣士」になり、ロスは「魔法使い」に、あーちゃんは結局「白魔法士」になった。回復が出来ないと怖いなって思ったらしい。
んで、頑張って分けた素材や魔石は三人はいらないと言ってきた。
せっかく頑張ってわけたのに!
授業料に受け取ってって言われたけどさ、頑張ったのはそっちじゃん? と言いたい。
でも、モンスター素材ってもらっても困るか。魔石ならまだくずでも換金出来る場所あるけど、モンスター素材は完全にハンターギルドじゃないと今のところ売る場所がないんだよね。そもそもハンターギルドもなんでわざわざモンスターの買い取りするの? って雰囲気だし。
……ここ、思ってた以上にモンスターの素材を使ったアイテム少なかった。
ゲームだったら生産者の初心者が作るような物だよ!? ってのがまだ開発されてないっぽいんだよねぇ……。
て、な、わけで。
ゲットした素材から、武具とポーションを作り三人に押しつけた。アメリーにも三人に比べてちょっと質が落ちるけど武具と魔石を渡した。
三人はびっくりしてたけど、喜んでた。アメリーは複雑そうっていうかちょっと嫌そうにしてたけど、戦った分だからって無理矢理渡した。
で、あーちゃんは。
ポーションの作り方を一から教えたら、製薬と鑑定を覚えたので、武器と防具も自分で作ってもらう事に。運が良ければスキルゲットだ~と。
どうやら私たちはスキルが覚えやすいみたいなので。
あーちゃんのシステムは私とは違うけど、でも同じ部分もあるんだよね。
……あーちゃんのが体験版で、私のが本サービス用みたいな感じ?
レベルが上がれば使えるようになるのかも、とちょっと思ってる。
で、レベル上げの練習もかねて素材を使いまくりです。
失敗作はシステムでガンガン売って金にしてるけど。
「今度の休みは、市で作ったアイテム売ろうか」
じゃないとあーちゃんの財布の中身がやばい!
失敗作は売っても十円、二十円(円じゃないけど)の世界だ。
「市ってそう簡単に出店できるんですか?」
「たぶん大丈夫」
身分証のレベルなら最高クラスだから。
「セラスにお願いして手続きしてもらってるから、それなりに良い場所をゲットしてくれるよ」
「……小夏さんって割と平然とセラスさんを使いますよね」
「だって、本人がそれを望んでるんだもん」
「わがままが過ぎると駄目ですよ」
「……そうなんだけど……。私もそう思うんだけど……。ワガママ言わなくても拗ねるんだよね」
「…………ごちそうさまです」
どこか『リア充爆発しろ』とでも言いたげな目でそんな事を言ってきた。
「そ、それに、私だって向こうのワガママ聞いてるよ!?」
「ホントですか?」
「ほんとだって」
信用されてないが大きく頷く。
一応、これでも、彼の最大のワガママ聞いてるんですよ!?
聞いてるっていうか、気づかないふりしてるというか。
自分のステータス見ればセラスの加護なんてモロバレなのに。なーんも言ってこないんだよね。
「……そう言えば、結局、セラスさんと小夏の関係ってなんなの? 名字はおんなじなんだよね?」
お、敬語が切れた。少しは落ち着いてきたのかな?
あーちゃん、エフェクト効果がなくても、元々敬語が出たり出なかったりしてて面白いかったんだよねぇ。
……まだお互い距離感がつかめないのかも?
「んー。関係ねぇ。恋人かな? 結婚してないし」
プロポーズされてないし。
「そうなの? じゃあ名字は?」
「うーん。元々、『陸』は私のサブキャラの名前なんだよね。『小夏』はメインで『水月』は本名。だから同じ名字っていうのもおかしいんだけど」
「それはどうでもいいじゃん」
「まぁね。でも、結婚してないもん」
「そー言えば、美の女神も、小夏の恋人はーって言ってたかな? じゃあ、結婚してるわけじゃないのかな? 本当に。あ、普通に気になったんだけど、こっちの結婚式ってどんな感じなの?」
「見たこと無いから分かんないなあ」
「なんだそっかぁ。でも、本物の神様がいるから、書類とかじゃなくて神様への誓いなのかな」
「そうだろうねぇー。病める時もーみたいな誓いの言葉があるんだろうね」
私、その場合、ダンナさま自身に誓う事になるのかしらねぇ。
なんとなくそんな風に思って、はたっとする。
あれ? あれれ?
「もしかして、結婚してる事になってたりするのかな?」
思わずぽつりと零したら、あーちゃんの目つきがとっても冷たくなった!
「小夏サン?」
「いや。だって、彼氏にずーっと一緒にいようみたいな事言われたら普通にウンっていうでしょ!?」
冷たい眼差しと声に私は慌てて否定する。
「そんなノリで頷いたけど、セラスって、真面目に神様なんだよね、この世界の。だから、それって、神様の前で結婚するって誓った事になるのかなーと……」
うーん。どうなんだろ。セラス的にどっちなんだろ。
あれ? だからセラスの加護があるのかな?
でも、あれはあれで、個別の説明は必要でないかい? と、問いただしたいのだけど……。真面目に冗談抜きで一生物だぞ、あれ。
「……セラスさんって、神様なんですか?」
「うん。この世界の末っ子神、星神の生まれ変わり……かな?」
「……神様こき使ってるんですか?」
「いやだって、本当に! 拗ねるんだよ!?」
誤解だ! と声を大にして弁明したい!
「……拗ねるとこ、想像出来ない。あんな美形だし」
「まぁ、女なんて、選び放題って感じだもんね」
ほんとに私でいいのか、という疑問は無くもないけど。
あ、選び放題で思い出した。
「そういや、今、あーちゃんは、ロス狙いなの?」
「え?」
「女神様達の乙女ゲームのヒロイン役だよね、あーちゃん」
「え!? 何で知ってるの!?」
「え? 鑑定に載ってるし」
「えぇえ!?」
あれ? もの凄く驚いてるな。あーちゃんの鑑定では出ないのかな?
「そ、そうなんだ。……ロスって隠しキャラなの? 攻略者には載ってなかったと思うけど」
「ゼン、ガル、ロスは隠しキャラだね」
「あの二人もなんだ!?」
「うん。授業同じのがあるからかな? ロスが一番好感度高い感じするけど」
「そ、そうなんだ。隠しキャラかー……。びっくりだけど、納得も出来るかな。みんなカッコいいもんね」
「そうだねー」
「……王子様とか、貴族とかじゃないよね?」
「ガルとゼンは王子だよ」
ガルは王子様っていうよりもちょい悪風だけど。れっきとした王子なんだよねぇ。ゼンは口調を改めたらまんま王子って感じだけど。
「ロスはゼンの国の最年少筆頭宮廷魔術師らしいけど。貴族と言えば貴族かな?」
「そうなんだー……。女神様の話を聞いた時は、玉の輿もいいなぁって思ったんだけど、よくよく考えたら貴族とか王族って面倒くさそうでパスしたいなって……」
「ああ、なるほど」
「そもそもこのヒロイン役もちょっとパスしたいなって思い始めてるんだよね」
「そうなの?」
「うん。だって、許嫁とかいる攻略者も多いんだよ」
「定番といえば定番だよね」
「うん。政略結婚でお互いに嫌いとかならいいんだけど、違ってたらヤだなって。あたし、その人達の関係壊してまで自分の恋をって思えないし。でも、魅了(弱)のせいでその可能性が完全に消えないし。しかも火の女神さま、略奪愛推奨だし……」
「ああ……。火の女神にとって、嫉妬の炎も恋の炎も司るものだしねぇ。どっちが正しいっていうよりも、よりどっちが身が焦がれるかって感じだし……」
「うわぁ……だからなんだぁ。やたらと押してくるの。勘弁して~……」
気持ちはよく分かる。
それから、乙女ゲームヒロインの苦労を聞きつつ、(危うくラッキースケベな展開が何度かあったらしい)私たちはせっせとアイテムを作っていく。
朝から苦楽(?)を共にし、腹を割って話をしたからか、その日一日で結構仲良くなった気がした。
翌日、あーちゃんに封筒を渡す。
それなりに分厚い封筒だ。
「これは?」
「私が分かる範囲での、隠し含む攻略キャラと、その好感度一覧と補足説明」
「えぇ!? あ、ありがとー! 凄い!」
喜んでくれて良かったわぁ。
「小夏ちゃん、乙女ゲームに出てくる助っ人キャラみたいだね」
そんな言葉に私は笑う。
「私がやってたゲームでもそんな風に言われたなぁ」
「そうなんだ」
「うん。お助けキャラ小夏って一時期有名だったかも? まぁ、それはともかく。新しい人が分かったらまた教えるけど、その後は、全員はめんどくさいから今度は人指定してね。好感度調べとくから」
「うん! ありがとう!」
「いえいえ、どういたしまして。またのご利用お待ちしております。ってね」
あはは。と私達は笑いあう。
たった二人っきりの日本人。
この程度の協力、喜んでいたしますよ。
じゃないとホント、あーちゃんが可哀想なので。
相思相愛の許婚関係も多くてびっくりしたよ、ホント。
火の女神、どれだけ略奪推奨なんだか……。
基本、水月と呼ぶのはセラスで、仲の良い女の子はコナツと呼びます。仲が良くても男子はリクと呼びます。