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ガルディスは呟く

今回も短いかな。

ちらほらと主役の二人が出てくるっす。


 学園で誰が一番強いのか。

 男としては気になるところだ。

 強さには色々ある。心の強さなんて言う奴もいるかも知れないが、そういうやつは今は黙ってろ。

 俺が言う強さは武力であり、さらに狭めると剣である。

 故あって、家名は言えないし、偽名しかあげられないが、俺の名前は「ガル」だ。

 左の目元に鱗みたいな火傷があり、目つきも険しいのであまり女子には好かれない。

 だからというわけではないが!!


「お前! いい加減戦って貰おうか!!」

「見て分からんのか、今、忙しい」

「女の髪を弄ってるだけだろ!」


 それを忙しいというのかコノヤロウ!

 いっつもイチャイチャしやがって!!


「忙しいだろうが」


 俺の声など奴にはどこ吹く風だ。

 俺がコイツと出会ったのは登校初日。

 コイツは俺の後ろの席で、席に座ろうとした時、目があった。

 俺は先程も言ったが顔に火傷のあとがある。そのせいで、恋人どころか、女の友達すらいない。女達が人の顔を見て一瞬顔をしかめるのをずっと見てきた。

 女達の方が敬遠する。

 だから……。

 ……特に表情を変えずに挨拶してきたコイツに驚いて……。

 気づいたか。気づいたんだろ。

 おお、そうだ! 俺はコイツの事を初め、女だと思っていた!

 中性的な顔立ちに気品すら見えるその姿に女だと疑わなかった!

 入学式に男子の列に並んでるのを見て、スカートでない事に気づいた!


 俺の初恋返せ!!



 その苛立ちに俺はなおいっそう、剣の道にのめり込んだ。

 そして、アメリーに出会った。

 俺の火傷を治そうとしてくれた彼女。

 無理なのは分かっていた。

 俺のコレは精霊がつけたもの。回復魔法は効きにくい。それでも彼女は頑張ってくれた。その心意気が嬉しかった!

 今度こそ、正しい初恋だと俺は歓喜した!

 しかし! 彼女の思い人はどっかの美女かと見間違う男だった。


 おのれー!! 一度ならず二度目でもー!!




「いいから戦え! お前に勝たないと俺は最強の名をかかげられん!」

「……俺は別に騎士科の生徒ではないが?」

「知っている!!」


 戦えるクセして、強いクセして、こいつ授業は全て、彼女のためのものだ。

 彼女のためといっても彼女と同じ授業を取るのではない。

 料理や洋裁、エステなど、お前、どれだけかいがいしくその女の世話をするんだ? と問いただしたくて仕方が無い。

 しかも彼女は、お前がそこまでするほどのものか? というレベルだ。

 いやブスではないぞ? 普通のかわいいレベルだ。ただ、男のこいつの方が遙かにレベルが高いだけだ。


「戦ってあげたら? そろそろかわいそうだよ?」

「……と、言われてもな……。そもそもの大前提が間違ってるんだが……」


 そいつはそう言って、それでも彼女にそう言われたからか、髪を仕上げたらつきあうと言ってきた。


 鶴の一声過ぎる!!


 文句を言いたくなるが今はありがたくその一声をいただくとしよう。




 そして訓練場にはあいつの彼女と俺のダチ達が観戦する事になった。


「ふ、ふ、ふふふっ。長かった。長かったぞ! セラス!!」


 剣先を突きつける。あいつは気にした様子もなく立っている。

 審判の合図を聞き、俺は地面を力強く蹴って、かけ声とともに剣を振りかざした。



 俺の意識はそこでいったん途切れ、気づけばなぜか場外で地面に横たわっていた。

 何が起こった?


「……かけらも手加減しなかったね……」

「したぞ。生きてるだろ?」

「もうちょっと相手してあげたらいいのに、あんなに頑張ってたのに」

「うっとおしかったからな」


 そんな会話がこちらに近づいてくる。

 俺は立ち上がろうとして、立ち上がれない事に気づいた。

 俺は……やられたのか? 目に見えないほど、何が起こったかわからないほどの、実力差があるのか……?


「ああ、無理して動かない方がいいと思うよ」


 そう言ってあいつの彼女がそばにしゃがみ込む。


「ところでガルくん、目元のこれっておしゃれ?」

「っなわけあるか!」


 このくそ女!! 人の弱みをざっくりと切りつけてきやがって! お前は本当にあの男の女だよ!!


「ああ、そうなんだ。じゃあ、なんでずっとバッドステータス貼り付けてるの?」

「……ば……なんだって?」

「バッドステータス」

「……ばっどすてーたすってのがなにかは知らんが、これは精霊につけられた痕だ。消えん」


 体はほとんど動かないから顔だけは背けた。


「どういう事?」


 こんな常識も知らんのかこの女。よっぽど頭悪いのだろう! そうだな! 全て男にさせる女だもんな!


「バッドステータスを治療するという概念がほぼない。毒とか麻痺ならともかくな。あと、時間経過によって回復もしないし。精霊がどうのっていうよりも、精霊の攻撃がたまたまバッドステータス付与なものが多いだけだな」

「ああ……。サラマンダーかな? これ」

「いや、それよりも下位の火トカゲだろうな」

「……サラマンダーも火トカゲっていわない?」

「あれよりももっと弱いのがいるんだ」

「へぇー」

「サラマンダーなんて化け物! 遭ったらとっくに死んでいる!」


 二人の会話に黙ってられなくて思わず怒鳴ったら、なぜか、女の方が驚愕という顔をした。


「あー……そうなんだ、ごめんね?」


 くっそ、その対応、むっちゃくちゃいらつく!

 よくよく見れば、友達もこちらへとやってくる。もはやここに居たくない。この女の話を聞いていたくない。


「ロス! 回復してくれ!」

「ああ、私がするよ?」

「いらん!」


 拒絶すると女は肩をすくめた。


「まぁ、いいか」


 と女は立ち上がった。と同時に何かをしたのか、ぶわっっと強力な何かが俺の体を突き抜けていった。


「!!??!?!??!?」


 何が起こったのかわからず俺は思わず飛び退いた。

 あ、体動く。

 女はくすっと笑ってあいつと一緒に立ち去っていく。


「ガル大丈夫か?」

「ああ、ロス、回復は……もう大丈夫そうだ」


 いらないと言ったのに、どうやら回復をしてくれたようである。

 くそ。こんなところで恩を売ろうって言うのか。


「……ガル?」


 戸惑った声が聞こえて顔を上げてロスを見ると、ロスは目も口も大きく開けていた。


「やけどがない!」

「は?」

「目元の火傷だよ! 精霊がつけた火傷!」

「それが?」


 言いつつ俺は左手で目元を触って違和感を持った。


「無くなってる!」


 ロスが大声を張り上げる。

 確かに指に障る感覚がない。あの感覚があるたびに心がささくれた。それが……無くなってる。


 信じられなくて鏡がないかと探した。女じゃないからもちろんそんな物持ってなかったので、ナイフで見てみた。きれいに顔は見えなかったが、あの赤い痕はなかった。


 火傷が消えた。


 それが本当の意味で、頭の中に入ると俺は思わず駆け出していた。

 彼女、ミヅキ・コナツ・リクの前に立ちふさがる。


「ありがとうございました!!」


 直立から、九十度頭を下げる。


「ああ。いいよいいよー。むしろ、おしゃれなのかな? って初めは放置しちゃってごめんね」


 なんであれをおしゃれだと思ったのか、その感性はさっぱりわからんが。

 彼女の手を両手で握る。


「本当にありがとうございましグェ!」


 横からあの男に蹴られた。

 さっきよりも、迫力が増している。


「もう一度沈めてやろうか」

「……大人げない……」


 あの男の台詞に、ミヅキ・コナツ・リクさんはため息をついた。


「いいだろう! その代わり、俺が勝ったら彼女をもらう!!」


 先ほどと同じように剣先を向けて宣言すると。なぜか目の前には、彼女の手が。


「え?」


 やはり何が起こったのかわからず、顔を少しずらすと、あの男の剣先を彼女の手が受け止めているのがわかった。

 え?


「セラス落ち着いてよ。あとガル君悪いけど、私、セラス以外の人と付き合う気ないから」

「そうか? その男より、贅沢はさせられると思うけど?」

「あはは、いらないよ、大丈夫。私こう見えても、結構なお金持ちだよ? それに愛はお金で買えないって言うじゃない?」

「……そうか」

「うん」


 仕方ない。まぁ、そうなるだろうと分かっていた。

 あの男は木剣を下ろし、彼女はあの男の傍に向かう。

 全くもってうらやましい事だ!


「……ガルディス」


 ん? 俺の名前?


「もう一度、ふざけたことを抜かしてみろ。お前の国、滅ぼすぞ」


 そう吐き捨てて、本来の力だと思う物を解放してくるその男に俺は後ずさって、思わず尻餅をついた。


「はいはいはい。子供を脅さない」


 なんで、誰もが飲み込まれそうな莫大な圧力の中で、そんな軽く言えて腕を引っ張っていけるんですか……。

 しばらくひっぱられるまま歩いていたが、こちらに背を向けた後は普通に歩いて行く。


「……死ぬかと思った……」

「俺も巻き込まれて死ぬかと思った……」


 俺の言葉にロスが、緊張の糸が切れたようにへたり込んだ。


「ガル。命が惜しかったら絶対に口説かない方がいいと思う」

「それは……まぁそうだが……」


 深い深いため息が俺たちから零れた。

 目元を触る。あの火傷を感じない。

 トクンと胸が跳ねる。

 諦め切れるだろうか。長年の俺のしがらみを無くしてくれた彼女を。


 ゼンとあの男が何か話して、あいつは立ち去って、ゼンがこちらへとやってくる。


「大丈夫か?」

「いや、ちょっと腰抜けた」

「ああ、うん。あれ、威圧すごかったよな。さすがに俺もあれはちょっと……、無理だなって思った。というかお前、何を言ったらあんな怒らす事になるんだよ?」

「ミヅキ・コナツ・リクを口説いた」

「殺されるな、それは」


 即答しやがった!


「くそう。だが、あいつに勝てばまだチャンスは……」

「いや、諦めろよ、お前は」

「ほれっぽいんだよなぁ。ガルは」

「でも、見ろよ! 彼女この顔を治してくれたんだ!」

「あ、本当だ。すごい」

「だろう! 運命の女神だ!」

「いや、それは不敬になるから」


 ……そうだな、運命の女神は実在するものな。


「じゃあ、恋の女神か!?」

「……好きにしてくれ。セラスからの伝言だけど」

「ん?」

「この学園で一番強いのは自分じゃないって言ってたぞ」

「え?」

「そもそも、騎士科は女子もいるのに、そっちを入れないというのはどうなんだって事らしい」

「まぁ……そうなんだろうけど……。で、あいつよりも強いって誰なんだ?」

「さぁ、ただ……勇者様よりも強いって言ってた」

「…………ありえないだろ」


 勇者様は魔王を倒して世界を救ったんだぞ!?


「俺もそう返したんだけど。疑うのなら勇者本人に聞けば良いだろって言われた。向こうも知ってるからって。セラスって勇者と知り合いなんだって聞いたら、一度殺されたって言ってた。どう思う?」

「……………………」

「俺、本気で、警告するけど。たぶん、あの人口説くのは絶対に止めた方がいいと思う」

「俺もそう思う」


 ロスに続いてゼンが大まじめに頷いた。


「ああ……うん。そうだな……」


 あの顔、言われてみたらどこかで見覚えある。

 死者を蘇らせる事が出来るのなら……、国一つ滅ぼすのだってきっと簡単だよな。

 ……もしかしなくても、さっき本気で殺されかけたのかもしれない。

 もし本物なら、俺を殺したところで咎なんてあるわけがない。

 ふー。と大きく息を吐いた。


「……新しい恋探すか」


 俺は吹っ切ったぞ。と周りに知らせるためにそんな事を口にした。



お付き合いいただきありがとうございました。

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