表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

主人公が現れた。



 それが何時頃からなのか覚えてない。


 あ。また魅了。


 廊下の反対からこちらに向かって歩いてくる生徒に、ハートに矢が刺さったマークがフヨフヨと浮かんでいる。

 ゲームではバッドステータスの『魅了』にかかっていると示すアイコンだ。

 その間プレイヤーは敵味方が逆に見えている。そして自分がバッドステータスになっている事に気づかない事も多い。

 さて、現実だとどんな風に影響が出るんだろう。

 そんな事を思いながら、治療する。

 離れた所からしたためか、その男子生徒達はビクッと体を震わせ、周りを見渡した。

 私とは距離があるせいか、私が原因だと思うことなく、互いに首を傾げながらまた歩き出した。

 魅了を使う敵が出たのかな。なんて思うだけだった。


 そして翌日。


「あれ? ゼンもか」


 訓練場にやってきたゼンを見て私は即座に魔法を発動させる。

 ゼンよりも先に来てたロスにも魅了のバッドステータスがついてたんだよねぇ。


「何? 何したんだ!?」


 ビクビクとするゼン。ロスがそんな様子に苦笑して説明を始める。


「チャームがついていたらしいよ」

「チャーム?」

「そう。俺も、君もね。それで、俺達以外にもちらほら学生でつけてるやつがいるらしくて、授業で戦ったモンスターでチャームなんてやっかいなものを使う奴が居たかな? って話をしてたところだったんだ」

「……なるほど……。居ないとは思うけど、居たからこうなってる訳か」


 魅了は現実だとかなりやっかいな術だ。

 学生が戦う敵にそんなのをあてがうわけがない。先生達だって、危ない相手なんだから。


「うーん、しばらく、実戦は控えた方がいいんじゃないかな。で、俺達で周辺のモンスターを調べてくるよ」


 ラスティスが腕を組み、考えながら口にする。

 ラスティスは魅了効果ないもんね。だから私から麻痺の呪文食らったわけだけど。


「それがいいかなー」

「水月もするつもりか?」

「流石に『魅了』持ちはねー。ゲームの同士討ちなら笑ってすませるけど、リアルだとなぁ」


 正気に戻った時、トラウマ物だろうし、むしろ、全滅する可能性の高い敵だったりするんだよねぇ。

 こうやって帰ってきてる事を考えると、今はまだ弱くて逃げるために使ってる可能性はあるけど。


「だからさ、セラス。そんな不機嫌な顔しないでって」

「……水月は、チャームは確か効かない……よな?」

「え? うん。私状態異常完全無効だよ?」

「そう……だよな。でも、念のため、チャーム無効の装備を用意する」

「あ、うん。任せるよ」


 これは……愛されてるなって思っておけばいいのかな。

 不機嫌の理由が、そんな理由だと思って無かったから、思わず苦笑して、みんなから視線を逸らした。


 そして私達は翌日から周辺の、生徒達が使うエリアをしらみつぶしに調べてみたんだけど。


「いないねぇ……」

「居ないなぁ……」


 一週間ほど探しているがちらりともそれっぽい敵が見当たらない。


「……これは先に情報を収集した方がいいかなぁ……」

「普通に考えると、先に情報を収集すべきなんですけどね」

「まあね」


 私の言葉にラスティスは苦笑と共にそう言って来た。

 それをしなかったのは、ゼン達がうろついていた場所を探せば何とかなるだろうっていう意識があったからだ。


「ひとまず俺は情報を集めます」

「そうだねぇ、お願いできる?」


 ゲーム時代ならともかく、現実となると情報収集とかは苦手分野なのでお願いする。

 たぶんセラスもそんなに得意ではないだろうし。

 私も今度はバッドステータスを見つけ次第治療するんじゃなくて、今度は話を聞いてから治す事にしよう。


 学園に戻り、ラスティスと別れ、セラスと共に歩いていると、ちょっと離れたベンチで女の子が泣いているのが見えた。

 私はちょっと迷う。こんなところで泣いているという事は一人になりたくてそうしてるんだと思うし、泣いている所を知られたくないとか、泣き顔を見られたくないとかもあるのだと思う。

 だから、スルーした方がいいのかもしれない。……んだけど。

 でも、逆に言えば。こんな人気の無いところであんな可愛い子が泣いてたりしたら、変な男に目をつけられたりするかもしれなくて……。

 腕を組みつつ悩んでちらりと横を見る。

 セラスは好きにしたら良いといった様子で私を見ている。


 ……やっかいごと、なのだろうか。

 

 それに巻き込まれたくないと思う私も確かに居る。

 薄情かも知れないけど、そう思ってしまうのは、私に勇気が足りないせい。

 自分が傷つくのが怖いから。

 余計なお世話よ! と怒鳴られるのが怖いのと、もし、間違って傷口塩を塗ってしまっうような事を口走ったら……って思ってしまうんだよね。

 レベルで強くなっても、精神はそう簡単に強くならないからねぇ。

 でも……だからって放置するのも気になるし、気持ち悪いよねぇ……。心配になるって言うか気がかりというか……。ああ、もうホント勇気がたりないなぁ。なんでこんな時にうじうじ考えるんだろう。

 知ってる人なら、もうちょっと声をかけやすい……かな?

 でも、昔と違って今なら、助けられる可能性の方が高い……と思って声をかけてみよう。

 うんうんそうしよう、と自分に言い分けするのに苦笑しながら私は女の子に声をかけるために歩き出す。

 

「大丈夫?」


 おずおずと声をかけるとその子は驚いた様に顔を上げて私を見た。

 うわ、目、真っ赤。結構本格的に泣いてる。泣き声を出してないだけで、ガチ泣きだ。

 悔し涙とかじゃない。明らかに、心を傷つけられたって泣き方だ。


「えっと、これ、使って」


 そう言ってハンカチを差し出す。

 彼女が握りしめていたハンカチはもう役目を果たせなさそうなので。


「大丈夫? よければ話聞くよ?」

「いえ、貴女には関係ありませんから」


 彼女はそう言ってさっさと立ち去ってしまった。

 見えなくなって差し出したハンカチを仕舞う。

 

「やっぱり余計なお世話だったかな……」


 思わず呟くとセラスが私の頭を撫でてきた。

 落ち込んだと思われたのだろう。実際ちょっと落ち込んだ。


「難しいね」


 そう苦笑を一つして、私達は建物の中に入っていく。

 この時間帯なら皆、訓練場かな?

 知り合いから話を聞くくらいは私もしないとねぇ~。と先ほどの少女の事はつとめて思い出さないようにし、廊下を歩く。

 みんなと会うのは久しぶりだな。なんて思いながら訓練場に入って足を止めた。


「……」


 私の眉間に皺が寄る。


「あ、おっかえりー」


 こちらに気づいたあーちゃんが手を振ってくれて、私も手を振り返す。そして改めてゼンとロスを見た。(一応ガルも居る)


「二人とも、あれから学園の外に出たの? 魅了が付いてるよ」

「「「え?」」」


 私の言葉にゼンとロスはきょとんとした後、かなり戸惑っていて、あーちゃんはよく分からないと言った様子で首を傾げている。


「魅了?」

「うん。二人にバッドステータスの魅了がついてるの」


 そう言うとあーちゃんは驚いて、それから青ざめたってなんで?


「あたしじゃないよ!?」

「は?」

「え?」

「……ああ、あー。そうか、違う違う」


 そういやあーちゃん魅了の弱を持ってましたね。


「別にあーちゃんの事を疑ってるわけじゃないよ。それにあーちゃんのあれだと対した事出来ないし。ね? セラス」

「ああ。あれだと第一印象を良くするぐらいの効果しかない」


 確かにそれはとっても良い効果だけどね。


「ほんと!? あたしが無意識になんかやっちゃったったとかじゃない!?」


 自分自身が信じられないのかあーちゃんが慌てふためき確認を取ってくるので、私は笑う。


「大丈夫大丈夫。気になるんだったらもっかい鑑定し直す?」

「ぜひ! よろしく!!」


 そう力一杯言うので確認したが、やはり、魅了は弱のまま。問題は無いようだ。


「うん。やっぱり魅了は弱のまんまだよ」

「良かったぁ~」

「……というか、魅了持ちなのか?」

「女神様に付けられたんだって。セラスが言ったくらいの効果しか無いから警戒する必要はないよ」


 二人は顔を見合わせたあと、小さく頷いた。


「神は異世界人に過保護だな」


 ガルは呆れたように言った。

 まぁ、セラスの説明だと、こちらの人間と上手くやれるようにって付けてくれたように聞こえるよね。実際は人様の恋愛模様に波風を立てたいっていう思惑の元…………。


 何故か脳裏にさっきの泣いていた少女が浮かんだ。


 まさかね、と思ったけど。バッドステータスが付いている二人を見る。

 ゼンもロスもかっこいい。日本人から見て、カッコイイと思える。

 今まで、バッドステータスがついていた人達はどういう人達だっただろうか。と考えながら私は二人に確認を取る。


「二人とも、あれから学園の外に出たの?」

「いや、俺は出ていない」

「俺もも出ていないです」

「そう」


 呟きながらパチンっと指を鳴らす。二人は一瞬でバッドステータスが消える。


「セラス、私、さっきの子、探してくる」

「何故?」


 不思議そうにセラスが首を傾げた。


「嫌な予感がするから」

「……私も一緒に探そう」

「う……ん……いや、いいよ。こういうのは男子禁制って事で。あーちゃんは協力して」

「え!? あ、うん。いいけど…………いいの?」


 あーちゃんの目がセラスに向かう。セラスは明らかにショックを受けた顔をしていた。


「いいの」


 そう言い切ってあーちゃんの手を取り、歩き出す。


「セラスはあーちゃんの代わりに回復役やっといて!」


 付いてこないようにと私はセラスに役目を振って、訓練場から出て行く。

 訓練場から校舎の方へと向かいつつあーちゃんに説明を始める。


「ねぇ、あーちゃん。もしかしたら、なんだけど。乙女ゲーのヒロインが出たのかも」

「え?」

「しかもノリノリで、逆ハーを目指すつもりで魅了を強くして貰っちゃったかも……って考えたんだけど、私」

「え? え!?」

「あーちゃんのクラス、転入生っていた?」

「……新しい日本人が来たって事?」

「そう。その子が好みの男子に魅了をかけまくってるんじゃないかなって」

「そんな事出来るの!?」

「やろうと思ったらやれるよ。魔法での『魅了』は相手は女神が決めた攻略相手である必要ないんだよ。その気になったら、誰にでもかけられる」

「…………小夏ちゃんも使えるの?」

「……うん」


 小さく頷いて、弱ったように笑った。

 その笑みを見たからか、あーちゃんはそれ以上聞かなかった。

 レベル差があるし、私はさらに強化されてるから、この学園に居る人間全てを一瞬で狂信者並に出来る。

 もちろん私はそんな事しないけど。


 でも、一瞬で魅了に出来るって事はその逆も可能なのだ。一瞬で全体を治癒する事も可能。今それをしないのは、その人に知られたくないから。私達が探しているって事を。

 だって、その人がどういう理由で、いや、何を経由してこっちに来たのかが問題なのだ。

 あーちゃんと同じなのか、私と同じなのか。セラスを置いてきたのも実はそのせい。セラスがお世話になった人だったらちょっと心苦しいし、セラスも気にするかも知れない。


「……あたしのクラスには、居ない」

「そっか。じゃあ別のクラスかな」


 もしくは新しく出来たクラスか。

 普通、新入生ってのは授業の関係もあるし、一年に一回だけだけど、神様はそこらへんどうでもいいと思っているふしがあって、どんどん人は増える。来年にすればいいじゃんって思うのだけど、半年以上残ってる時点で神の意志を無視しするのはちょっと。と神殿側が頑張ってるせいで、クラスが二クラスも新設された。

 もともと専門で好きな授業を選ぶせいもあるからか、追いつける人間は追いつけるし、基礎から学ぶ人間は、集中的に教えて追いつかせようとしているらしい。

 まぁ増やした神殿側が責任もって教えてるから文句はない。


「じゃあ、教室に向かう?」

「もしくはカフェテラスか……」


 はたまたイケメンが多いところに行ってみようかと言いかけた時、その横顔に気づいた。


「いたぁ!!」


 思わず叫ぶ。

 隣に居たあーちゃんも驚いたけど、私が見つけた人物も驚いてこっちを見て、そして目を大きく開けた。そしてきびすを返して逃げようとする。


「待って!」


 その進路方向に私は全力で駆けて立ちふさがる。


「な、なんなんですの!?」


 突然現れたように見えた私に彼女は驚くどころか、少し怯えた。


「話を聞かせて欲しいの!」

「余計なお世話ですわ!!」

「そう言わずに!」


 顔を真っ赤にして怒鳴る彼女に言い募る。


「小夏ちゃん、彼女は?」

「たぶん、魅了の被害者!」

「え!? じゃあ、彼女の恋人が!?」

「たぶん」


 そう返して彼女を見た。


「さっき泣いてたのは恋愛関係ではありませんか!?」


 縋るように聞いたら彼女は顔を真っ赤にして、右手を振るってきた。思わず避けかけて、いや、避けたらいかんか? と動きを止めたので、引っ掻くような感じでアゴ付近にあたった。


「避けないでくださいまし!」

「うん。ごめん」


 謝る。そこは素直に謝った。泣いてたことばらしちゃったしね。


「あのね、怒らずに聞いて欲しいんだけど」

「怒らせているのは貴女ですわ!」

「う。そうだねごめんね。それでね、今、この学園では魅了に掛かっている男子生徒が多く居るんだけど、貴女が泣いていた理由もそれに関係あるんじゃないかなって思ったからなの。それで声をかけたのだけど、どうかな? 関係ない?」

「……魅了……?」


 怒っていた顔があっけにとられて、それから息を呑んだ。


「本当なんですの!?」


 この様子ではビンゴかな?


「魅了が掛かっている人達がいるのは本当。見つけた時には治癒してるんだけど、逆に言えば、私が出入りしない所で掛かってる人は症状が重くなってる可能性があるの。だから、もしかしたら貴女が泣いてた理由はそれなのかなって。特にここ一週間まともに学園に居なかったし」

「魅了を使うモンスターが居るんじゃ無いかって言って彼女達、この一週間、外に討伐に出てたんだ」


 あーちゃんが補足してくれたので私は頷く。


「…………一緒に来てください」


 彼女はそう言って歩き出す。私とあーちゃんはそれに続く。

 彼女が向かう場所は、主に貴族の人達が使う棟。

 ダンスホールがあったり、お茶会する場所があったりする。その中の一つの入り口手前で彼女は足を止め、振り返って私を見る。縋るように。

 私は頷く。


「うん。魅了されてる」

 

 私の目には、ハートがふよふよと浮いているのが嫌と言うほど見える。


「……誰が? まさかの、全員?」


 あーちゃんが確認を取ってくるので私は笑った。


「症状に差はあるみたいだけど、全員だねぇ」


 十名以上の男子生徒が一人の女子生徒を囲んで和気藹々としている。

 そんな魅了持ちの女子生徒はこちらを見て、「きゃっ」と悲鳴を上げて怯えた様子を見せた。それに反応して周りの男子生徒が一斉にこちらをみて、私達を睨み付けてくる。


「何のようだ? 見ての通り、ここは使用中だ」

「人を探していたんですよ。彼女を」


 近くに居た生徒がけんか腰で声をかけてくるので、私はそう返す。

 するとまぁ、面白いぐらいに臨戦態勢に入ったよ。

 流石に剣を抜くような子は居なかったが。


「……知っている人かい?」

「いいえ! 知らないわ! いや、怖い!!」


 そう言って彼女は男子生徒の背中に隠れる。

 いやいやいや。どう考えてもこの場合、そのセリフはこっち側が言うべき台詞でしょ。人数は圧倒的にそっちが多いんだし。


「彼女に何の用だ」

「彼女の出身地についての話を聞きたいの」

「そんな事を聞いてどうする」


 そう言って近づいてきたのは別の男子生徒で、ゼンの弟だった。

 泣いていた子に緊張が走る。


「彼女の身分が低いと言って罵るのか?」


 弟君の目は私ではなく、私の横にいる女子生徒に向いている。


「私は……、そのような事」

「嘘を申すな!」


 怒鳴り声に彼女は怯えて声が出なくなっていた。

 怯えている事に気づいていないのか、弟君はさらに続ける。


「君は最低だな。貴族として守るべき民を虐げるなど。万し……」

「はい『ストップ』」


 これ以上言わせるのはいかんと私は魔法を唱える。10秒行動不能である。使うと動けないどころかしゃべれなくなる。


「「「「貴様!!」」」」


 中に居た男子生徒達が今度こそ抜剣した。


「ちょっと。そこまで殺気だたないでよ。こちらの話も聞かずに罵ろうとした彼を止めただけでしょ? きちんと治すわよ。『状態異常完全回復』」


 パチンッと指を鳴らす。びくんっと弟君の体が跳ねたが、喉に手を当て、小さく声を漏らす。


「ね、治ったでしょ?」


 そう言ってにっこりと笑う。男子生徒達は怒ったまんまの顔で私を睨み付け、そんな彼らに守られているヒロインちゃんは、私のした事に舌打ちをしたそうにしていた。

 そう、私が唱えたのは弟君にかかってた魅了も治すやつである。


「ねぇ、君。落ち着いた? 出来れば、彼女と同じような立場の子が居たらその子達も交えてきちんと話をしたいのだけど、集めてくれないかな?」

「え? あ、ああ…………ヒッ」


 ぼんやりとしたまま、頷いた。---までは良かったんだけど、何故、私の顔を改めて見て、悲鳴を飲み込んだかな。


「ミヅキ・コナツ・リク!?」

「え? 私の事知ってるの?」

「「「「「「「「「「「「「「「え!?」」」」」」」」」」」」」」」


 ……ちょっと待とうか。日本人メンバー以外が全員引きつるように声を出すってどういう事かな……?


「い、今、あつ、集めて参ります」


 慌てて彼は走り出したよ。

 なんだろう、あれ。

 と私は思ったのだけど、私の横にいた貴族の令嬢っぽい女子生徒が私を見て、改めて尋ねてきた。顔を真っ青にしながら。


「あの、ミヅキ・コナツ・リク様ですか?」

「……うん。そうだけど」


 っていうか、何故に『様』?


「し、知らなかったとはいえ、許されざる事を……」

「いやいや、何言ってるの!? ちょっと待とうか!?」


 もはや白いよ!? 顔色!?


 なんか、他の男子生徒もざわざわとしてるし。


「みんな、どうしたの?」


 ヒロインの子が甘ったるい声で周りの生徒達に声をかける。

 彼女の声に反応して、ざわめきが少し薄れて、視線というか注意がヒロインの子に集まる。

 魅了ってある意味カリスマみたいなものかな? なんてちょっと思ってしまった。


「ああ、そうか。ヒロは知らないだね。彼女は神の寵児。神々の寵愛を授かっている人なんだ。喩え国王であっても、彼女の言葉を無碍には出来ないんだ」


 んん!? なにそれ!?


 初耳な私。同じく初耳だったのだろうあーちゃんの疑心に満ちた目が向けられる。

 いや、知らない! 私もそんな事知らないよ!? ほんとだよ!?

 一生懸命首を横に振って無罪をアピール。


「神々の寵愛……。神の加護という事?」

「そうだね」

「……それを持っていると……エライの?」

「エライというか、……そうだね。とても素晴らしい事だよ」

「……そうなの」


 ヒロインちゃん……。どうやら名前はヒロ・イーヤマらしいが、にっこりと笑った。

 そしてもじもじとした様子で周りの男子生徒達を見る。


「なんだい?」


 男子生徒達が優しく伺う。「言ってごらん」とか、「黙りはよくないよ」とか、空気が……。


「ピンクい……」

「……小夏ちゃんが言っちゃダメだと思う。二人だっていつもあんな感じだし」

「そっかぁ……。ごめん……」


 あーちゃんの言葉に私は素直に謝った。


「あのね、あたしも神様の加護あるんだよ……」

「本当か! それは凄い!」

「さすがはヒロだ!」


 そう言って盛り上がる男子達。そして驚く女子生徒。 

 そんな空気とは対極の私とあーちゃん。

 だってねぇ……。彼女が持ってる女神様の加護、私もあーちゃんも持ってるからね。

 下手したら今から来る日本人全員持ってるからね。

 そんなたいしたことないよ。と言ってしまいたい気持ちで、見守っていた。




 数十分後、男子生徒と同じくらいの女子生徒が集まった。

 対決するように別れて座る私達。中には、イチャイチャするヒロインちゃん達を見て、泣く子も居る。そして同じように涙を浮かべながら励ます子も。


「……このように集めて、どうするんですの?」


 辛そうな顔で聞いてくる弟君の婚約者、名前をオリティリアンちゃんというらしい。

 そんな彼女に私は曖昧に笑う。


 いやね、魅了にかかってたっていうのを分かりやすく示そうと思ったんだけど、これって気をつけないとヒロインちゃんが断罪されかねないよなって思ったりもして……。

 でも、何も知らなかったら、魅了に掛かってたんだって言われても、ただの言い分けにしか聞こえないし……。

 ちなみに弟君は、すまなさそうに婚約者のオリティリアンちゃんの傍に立っている。

 さっき謝ってた。

 ヒロインちゃんは彼の名前を呼んで、こちらへと戻ってきて貰おうとしてたが、彼は応えなかった。

 ゲームとは違って初期段階だと大した効果はなさげだなぁ。

 相手に魅了の力があるって知っているから自制も効くのかな?


「えーっと、まず、飯山さん? 貴女は自分の力がよく分かってないと思うの。だから、こんな事になってしまった」


 いや、間違いなく彼女は分かってやってるんだけどね。でもそういう事にしておく。


「貴女は、無意識に魅了の魔法を周りにかけてしまっているの」


 ざわっと、男子生徒も女子生徒も動揺した。


「貴女、さっき火の女神と美の女神の加護を持ってるっていってたでしょ? どうも、その二柱の加護はその二つが揃うと魅了の力になっちゃうみたいなの」


 適当な理由をでっち上げて、彼女自身には非は無いよという形をなんとか取る。

 でもあーちゃんもその二柱の加護の影響で魅了(弱)を持ってるんだから、あながち嘘ともいいにくいんじゃないかなって思う。


「だからそれを一度解くね」


 錫杖を出して、それでコツンと床を叩く。

 光りの波が錫杖を中心に学園を駆け抜ける。

 爽やかでどこか温かい光りと風が通り過ぎて、彼らはぽかんとした顔をし、私を見て、その後ろに控える女子生徒達を見て青ざめた。


「ち、違うんだ、これは!」


 慌てて彼らはそれぞれのペアの所に走り出す。

 突然の豹変ぶりに、掌返しっぷりに女子生徒達は戸惑っているし、疑っている。


「魅了っていうのは結構恐ろしくてね、精神支配の一種なんだ。浮気されたって思うかも知れないけど、今回ばっかりは許してあげて欲しいかな」

「すまない! 本当に、謝って済むことではないかもしれないが」

「ああ、違うんだ。俺が愛しているのは君だけなんだ」


 私の言葉に後押しされたように、謝罪やらがあちらこちらで飛び交う。愛の言葉が大安売りである。

 さてと私はヒロインちゃんを見た。


「とりあえず、場所を移して話をしない? 魅了の事も色々あるし」


 ヒロインちゃんは不機嫌な顔ではあったが頷いてくれた。

 私達は彼らをそのまま置いて場所を移す。

 こちらもまた人通りのない、静かな場所である。

 なんせ魅了はさっきも言ったけど、精神支配の一種なんだよね。彼女がそれを使えるというのはあまり聞かれたくない。正確にいうと、自由自在に使えるっていうのを知られたくないとでもいうか……。

 レベルの低さから考えてあーちゃんと同じ方法で選ばれたのだろう。

 セラスに関わりのある人じゃなかった事に一安心だが、さて。火の女神と美の女神が何を考えて、魅了(強)なんてものを渡したのか……。

 いくら神の加護だっていってもやばいんじゃない? って思ったりもするんだけど……。


「ねぇ、あんた達あたしよりも先に来てたっていう日本人?」

「うん。そうだよ」

「小夏ちゃんが最初でわたしが二番目かな?」

「名前は?」

「私は小夏」

「わたしは旭陽」

「ふーん。じゃあ、『こなつ、あさひ』」


 彼女が名前を呼ぶ。その言葉に魔力が籠もっているのが分かった。


「あたしの邪魔をしないで。『こなつ』はあたしよりも先輩なんでしょ? 『あさひ』も。むしろあたしの手伝いをしてよ」

「……なるほど、名前を呼ぶと、魅了が強化されるのかぁ」

「!?」


 驚いた顔をするヒロインちゃんに微笑み返して告げる。


「残念ながら魅了は効かないよ」

「……うそよ」

「うそじゃないよ」

「だって、あたしのは女神様達から直接もらった特別な加護なのよ! この世界の人間なら誰だって掛かるって言ってたわ!」

「この世界の人間じゃないし」

「日本人だし」


 私とあーちゃんはすぐにツッコミを返す。


「バカにしてるの!?」

「いや、バカにはしてないけど……。ただね、レベル差はあるし、私もあーちゃんも女神の加護は貰ってるし」

「だったら何よ! あたしはあんた達とは違うんだから! あたしだけはみんなと違って、特別だって言ってくれたのよ! だから好きにしていいって!!」

「好きにしていいって言われたからって犯罪のような事をするのは違うでしょ?」

「それよりも聞きたいのは、二人とは違う特別とはどういう意味だ?」


 ここには居ないはずの、置いてきたはずの人物の声がして、私達の視線が自然と集まる。

 立っていたのはもちろん、見目麗しい愛しのセラス様……。


「来ちゃったんだ……」

「あれだけ派手に力を使えばな」

「ああ、さっきの」


 まぁ、あの規模で使えば、興味がわくよね……。


「助けてください!!」


 そんな言葉と共にヒロインちゃんはセラスの方へと駆けだして言った。


「あの人があたしの事をいじめるんです」


 うるると目に涙を浮かべて、セラスを見上げる。

 男ならくらっと来る仕草なのかも知れない。

 

「だからなんだ?」


 しかし、セラスはそう静かに聞き返した。意味を理解し損ねたヒロインちゃんはぽかんとした顔をセラスに向ける。


「ああ……いや、そうか。水月がいじめたいのなら構わないか。どんな処分がいい? コレなんだろ? 今回の魅了騒動の原因は」


 冷たい眼差しでヒロインちゃんを見つめる。なんというか、美人って怒るとホント怖いよね。あーちゃんも、びびってるよ。


「そうねぇ……」

「とりあえず、火あぶりか?」

「「ちょ!?」」


 どんな罰則を与えようかと思ったところでの発言に私とヒロインちゃんが驚く。


「加護があるから死にはしないだろ?」

「いや、そういう問題じゃないと思う。力の封印をした後、学園中のトイレ掃除とかでいいんじゃないかな?」


 こんだけ広い学校のトイレとなると相当の数になるし……。


「ちょ、ちょっと、なんなのよ!」


 慌ててセラスとも距離を取るヒロインちゃん、そして私達に勝ち誇ったような顔で告げる。


「あたしは火の女神の加護と美の女神の加護を受けているのよ! あたしはその二人からある使命も受けてるんだから!」

「それが?」


 セラスはつまならさそうに言う。って……、あれ?

 もしかしなくても、ラフィースの方の性格が前に出てない? 邪神だった頃の方のというかなんというか……。


「つまり! その女よりも特別って事よ! エライって事!!」

「お前が? 寝言は寝て言え。この世界で水月よりもエライ人間なんて一人も居ない」


 いや、それはそれでちょっと待って! 無視できない!!

 いつも以上に苛立った空気を出すセラスに近づきその手を取る。


「えっと、ちょっと落ち着こうか? なんか、魔王(前世)の時よりもちょっと荒れてるように見えるよ?」

「……ああ……、ちょっと嫌な女に魂の色が似てて、ちょっと……な」


 あ、ラフィースを騙した女性に似てましたか。それは……荒れるか。


 納得してしまった私。そんな私を見てセラスは息を吐くと、私をぎゅーっと抱きしめて来た。

 恥ずかしいが、これで心のバランスを取ろうとしているのは分かるのでとりあえず大人しく……。


「いっておくがな、俺も神だ。ゆえに、お前が二柱からどんな使命を与えられていても問題はない。お前の代わりを俺が手配すればいいだけだ」

「言ってる事がわりとぶっそうだよ……」


 こんな恰好してるっていうのに……。

 

 セラスの背中に腕を回しポンポンと、落ち着けと示すように叩く。


「セラスを助けた代わりにって預かってる魂なんでしょ? そんな事言っちゃダメだよ」

「それは……そうだが」

「ところがねぇ、そうでもないのよ~」


 また第三者の声が。

 そちらを向くと、件の二柱と運命の女神が居た。

 何故か、火の女神と美の女神は視線をうろうろとさせている。


「……何をやらかした?」


 セラスがジト目で二柱の姉を見ている。


「その子はね、選抜から外れた子なのよ」


 苦笑と共に言われた言葉に私は首を傾げた。

 セラスは眉を寄せて、姉二人をさらにきつい眼差しで見る。


「勝手に連れてきたのか?」

「…………いらないって言う子ならいいかな~って」

「そうそう」

「はぁ……。貴女達は……。何を勘違いしているの? 彼女は要らない子じゃないのよ?」


 運命の女神の言葉にヒロインちゃんの顔が輝く。

 それはそうだ。『選抜から外れた』とか言われたらね。選ばれたと思ってた所にそれはないよね。上げて落とすって事だもん。


「あの子の魂は、新しい世界のエネルギーとして必要なのよ? それをこっちに持って来ちゃったら向こうはエネルギーが足りなくなっちゃうでしょ? それぐらい考えなさい」

「「ごめんなさい」」」

「まったくもう、いいからきちんと謝って、魂を返してきなさい」

「「はーい」」


 …………待って、それって。


「どういう……意味?」


 笑顔が凍り付いたままヒロインちゃんは尋ねる。

 運命の女神はその質問にきちんと答えてくれた。


「貴女達の世界は、一度壊されてまた新しく構築されるの。そのエネルギーに貴女達の様な魂が使われるのよ。貴女達はそのために魂を昇華させてきた。貴女はもともと死んでいたのだし、この数日、楽しんだでしょう?」

「…………まさか、あたしに……死ねっていうの……?」


 青ざめた顔で後ろに下がりながら彼女は問いかける。

 頼みの綱だったはずの女神達二柱は助ける気がない事を感じているのだろう。

 だってさっき、「返してきなさい」って言われた時、素直に頷いていたのだから。

 

「そうよ」

「いやっ! いやよ! ふざけないでよ!」

「ふざけてないわ」

「んー。聞き分けが悪いと痛い思いするよぉー?」

「いやぁあ!!」

「待って!」


 逃げようとする彼女。その体を、セラスから抜け出して抱き留め、女神達の間に入る。

 下手に逃げる方が危険だと思ったのだ。


「他に方法はないんですか!?」

「あるわ」

「なら」

「この世界の魂を彼女の代わりに差し出す事よ。それも一つ二つじゃすまないでしょうね」

「…………魂の代わりには魂しかないって事ですか?」

「そうよ」


 そんなの無理だ。

 

 そんな言葉だけが頭の中を巡る。彼女は私の腕の中でガタガタと震えている。

 他の人間を犠牲にしろとは言えない。

 諦めるしかないの? でも彼女はまだ生きてる。神の手によって生き返ったのだ。

 確かに彼女は魅了事件を起こしたけど、でも、それだって……、死刑ってなるほどの重犯罪ってまではきっとまだなってないはずだ。

 もともと死んでたからってそれはあんまりだ。


「助けたいのか?」


 どうしたらいいのか分からない私に、セラスが問いかけてくる。

 頷きたい。でも、頷いたら、どうなるか怖い。

 代わりの魂を持っていけと、この世界の人を犠牲にする方法を口にして欲しくない。


「…………」


 セラスは小さく笑って私の頭を撫で、頬を撫で、目元を拭う。

 涙は流していないが、泣きそうな顔になっていたのだろう。


「別に魂じゃなくても問題ないはずだ」


 セラスは私の頭を撫でながら姉たちに告げる。


「質の悪いエネルギーなんて渡せないわよ? 勝手に色々やっちゃってるんだから、こっちが」

「人間の魂よりも上質なエネルギーなら問題ないだろ? たとえば、女神の力とかな」


 セラスの目が、とある女神達で止まる。


「「え……」」

「ああ……、それもそうね」

「「ちょっ!? お姉様!?」

「人間の恋に波風たてられると、色々運命も変わるんだろ?」

「ええ、そうね。私の仕事が増えるわ」

「「……」」


 女神二柱は汗をだらだらと流していた。


「確かに、少々おいたが過ぎるし」


 にっこりと笑う女神。

 蛇に睨まれたカエルの様な顔をした二柱は次の瞬間、逃げようときびすを返すが、どこからともなく現れた鎖が二柱に巻き付いて簀巻き状態にした。


「いやぁー」

「おねーさまーぁ!!」

「まったく。これだけの事をやらかしてて、何故逃げられると思っているの? 異世界の神が関わってる時点で、普通に考えても罰がないわけがないでしょ?」

「お、お姉様、ご慈悲を……」

「ちょっとした出来心だったのぉ~」

「やあね、せいぜい数百年はまともに力を使えなくなるくらいで済ましてあげるわよ」


 それって結構ガッツリ奪うって事では?

 いえ、文句なんてありませんが。


「さて、そういうわけで、貴女はこの世界で生きる権利を得たけど」


 びくっと私の腕の中にいるヒロインちゃんは大げさに震えた。……大げさでもないか、今まさに死にかけたと言えるわけだし。


「神に選ばれただなんて言って驕るのではなく、神の慈悲で生かされているのだと謙虚に生きなさい。私達には貴女を保護する理由も義務もないのだから」

「は、はい……」

 

 最初の威勢の良さはなく、首を上下に何度も動かしている。


「ねぇさま~」

「ゆ~る~し~て~」

「少しは反省なさい」


 そんなやりとりをしながら三柱の女神達は消えた。

 ほっとため息をついてセラスを見上げる。


「ありがとうね」

「……その女のせいで水月が気落ちするのは許せないからな」

「……そう……」

「相変わらず、小夏ちゃん至上だね」


 あーちゃんも呆れつつヒロインちゃん……。いや、もうヒロちゃんと呼ぼうかな? 彼女を見た。


「ここってね、乙女ゲーの世界なんかじゃなくて、むしろRPG系の世界なんだよ」

「そうだね」

「だから、貴女は乙女ゲーのヒロインじゃないんだ。そもそも、最初にヒロインにならないかって声をかけられたのわたしだしね」

「……知ってる。興味がないって言われたって」

「そうなんだ。じゃあ、先輩として、一言。ここに住む人達はゲームでも夢でもなく現実だから、魅了なんて使って奪っちゃ駄目だよ」

「……無理よ」

「どうして? あ、そっか、加護が残ってるのか、セラス取れる?」

「取るよりも変更する方が楽だな」


 そう言ってセラスはヒロちゃんに手をかざして何かをしている。


「……加護は関係ないの」

「え?」

「……あたし、人の物の方が欲しくなるの……。悪癖だって分かってるんだけど、止められないの。だから……女神達の言葉がとっても嬉しかったの。ありのままのあたしを受け入れられたようで」

「「…………」」


 どうやら困ったさんの様である。

 私とあーちゃんは思わず口を噤んだ。


「死にたくなければ改めるんだな。今までの事は、神から授かった力の暴走という事にして不問にしてやるし、そう連絡もしよう。でもその後は」


 べりっと、ヒロちゃんを私から引きはがし、セラスは私を抱え上げた。


「お前自身の罪となる。奪いたければ奪えば良い。ただし、報復される可能性は日本以上にあるという事は心にとめておけ。旭陽行くぞ」

「あ、はい」

「え!? このまま行くの!? 流石に降ろして!」


 子供を腕に座らせるように抱え上げられているとはいえ、恥ずかしいですよ!?

 しかし抗議は黙殺されてそのまま運ばれていく。

 あーちゃんは大人しくついてくるが、ちらりちらりと私を見上げてくる。


「……はぁ。機嫌、悪いね……」

「…………そうだな」


 元々しゃべる時はしゃべる。しゃべらない時は全然しゃべらないセラスだけど、纏ってる空気が不穏なせいで、あーちゃんも居心地が悪そうだ。


「……彼女の力結局どういう風に変えたの?」

「火と美だったからな。鍛造の加護に変えた」

「他にもあったと思うんだ!?」


 なんだってそこ!? 男性ならともかく、女性なんだけど!?


「半分は冗談だ」

「……半分はマジって事ですか?」

「火を使い、芸術性のものならなんでも相性はいい。ガラスでも料理でも陶芸でもな」

「……そうなんだ」

「ああ」


 それなら、良かったかな。

 安心したらもう言う事は一つだ。


「降ろしてくれない?」

「聞こえないと答えておく」

「いやいやいやいやいや。この恰好で学校を練り歩くとかなんの罰ゲームですか」

「問題はないだろう」

「いや、問題大ありだよね!?」


 そう抗議するがセラスは本当に右から左へと流しているようで。

 ここまで来ると珍しいという気がして、私は盛大なため息をついた。


「はいはい分かりました。もう好きにして、その代わり、私眠るから」

「は?」

「意識の無い私を連れて行くっていうのならまだセーフかなって」

「……水月がそれでいいのなら俺は構わないが」

「うん、じゃあ、そういう事で。あーちゃん、今日はありがとうね」

「本当に寝るの!?」

「うん。自分に魔法かける」


 ゲームだったら無理だけど現実だから可能なんだよね。


「明日、今日の人達の様子を見に行こう?」

「うん。分かった。お休み」

「あはは、ごめんね、お休み」


 もうすぐ人通りの多い所に着くのでその前に眠らなければいけないと分かっているのだろう、あーちゃんが手をひらひらとさせて挨拶をするので、私もそう返して目を閉じる。


「『睡眠(スリープ)』」


 短い魔法を一つ。ぐらりと視界が回るような感覚と共に、私の意識は飛ぶ。

 バランスを崩す前にセラスの腕が私の背中に回された事だけは分かった。



 翌日。お子様抱っこから、お姫様抱っこにランクアップした事を知り、悶えることになった。

 人の噂も七十五日……。長いなぁ……。







「昨日はお世話になりました」


 貴族が使うサロンでゼンの弟君の婚約者の彼女はそう礼を述べる。


「気にしないで」

「誤解……ではないけど、でも術が解けて良かったね」

「はい。今回の事は神の力の暴走という事で各家に連絡がきたそうです」


 そう言って微笑む彼女に聞くと、結構やばいところまで言っていた家もあったそうで。それこそ廃嫡って言うね。……やばかった子いたんだ。まぁ、政略結婚とかあっただろうしね、少なくとも、何かしらの罰は受ける可能性はあったよね……。

 怖いなぁ。とお高そうな美味しい紅茶を飲みながら私とあーちゃんは遠い目をした。

 いや、政略結婚っていわれても、身近にない分どうしてもテレビの向こう側の話とでもいうか……。


「なんとお礼を申し上げればいいか」

「んー……お礼は別にいいんだけど……。たぶんこれからもっと私と同じ国から来る人が増えると思うんだ。もしその子達が困ってたら助けて欲しいかな」

「……彼女のような力の能力者がまた現れるのでしょうか?」

「んー……彼女というか、私寄り?」

「……」


 訂正したら何故か絶句されてしまった。


「……嘘か真かは判断つきませんが、聞いた話に真実が半分は含まれているとしたら、貴女と同等という事は、わたくし達の手助けなんていらないのでは?」

「ステータスやスキル上はそうかも知れないけど……。知らない国に来るんだよ? 常識とか知識とか色々分かんない事は多いよ。私もそうだし」


 わりと私がとってる授業はそういうところの基礎が多いんですよ。


「それは……そうですね。分かりました。他の皆様にもお伝えしておきます」

「よろしくお願いします」

「……それで、もし、また前みたいな事が起こったら……」

「私かあーちゃんに連絡して」

「え!? わたしも!?」

「それまでにはばっちりあーちゃんも対応出来るようになってるから」

「……スパルタか。スパルタな何かが始まるんだ……」


 大丈夫だよ、安全マージンはしっかり取るから。


「……ニホンジンというのも大変なんですね……」


 哀れみの目をあーちゃんに向けて彼女はそう言った。

 あーちゃんはもはや乾いた笑いを浮かべるしかなかった。





 後日談をするのなら、ヒロちゃんはひとまずあれから騒ぎは起こしてはいないらしい。

 本当に『死んでも治らない』のではないかと密かに心配はしてたのだが、そんな事はなかった。

 よかっ……。


「なんで良い男ってみんな売約済みなんだろ……」


 そう口にはするけど……、騒ぎは起こしてないからきっと大丈夫。……だよね?





乙女ゲーのヒロインは主人公という事で今回はこんなタイトル。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ