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水月は伝説を作り、ゼンは伝説を語る。



 それは、異常だなって思ったよ。

 それでも、やはり勇者ってのは、伝説の存在で、魔王すら倒したんだ。特別だと思うし、別格だと思うし、超越してると思うじゃないか。

 思わない方がおかしいわけで、こいつも大概だが、勇者ほどじゃ無い。って、思ってもおかしくないはずだ。


「お久しぶりです。小夏さん」

「ラスティスじゃん! どうしたの!?」

「いやぁ、今回、神様達からのお達しで、こっちで仕事割り振られちゃって。まぁ、当然といえば当然なんだけど」

「何かあったの?」

「どっかの誰かさんが、死者蘇生を大量にやっちゃったせいで、淀みが大量に出てるから、それの討伐しなきゃいけないんですよ」

「あー、そういうのあるんだ。それで……こっちに?」

「そうなんです。といっても、今、神様がこっちに集めてるっていうのが正解でして。こっちはまだそんなに人居ないし、街さえ守ればどうにでもなるだろってことで」


 なんで、勇者が半分敬語で、なんで、一般生徒がため口なんだろうなぁ……。

 深く考えたらいけない気がしてきた。

 きっと、お世話になったお家の娘さんとかそんな感じだ。


「街さえ守ればって、簡単に言ってくれるね」

「あれ? 難しいですか?」

「範囲が広い!」

「ああ……それはそうですよね。だから、防衛にって、各神殿から騎士達が来るんだけど、セラフィ~……じゃなかったセラス、何か手、無い?」


 今、言いかけた名前は何でしょうか!?


「一点集中型で集めている。その分敵は強くなるが、数は一気に減る。最悪、ダンジョン化させれば、後々日本人が喜んで倒しに来るだろうし」

「否定はしにくいねぇ……嬉々としてやってそうな気はするけど」


 そのニホンジンっていうのは頭おかしいのか!? 普通ダンジョンって喜ばないぞ!?


「でも、出てくる場所が限定されてるなら、ある程度は私がどうにかするよ。出来る範囲内の事は頑張る。だって、私がやるべき後始末っていう感じがするし」

「それで言ったら俺がしなくてはならない後始末だ」

「えー? これぐらいは手伝わせてよ。それに、良い経験値集めになるし」

「それについては否定はしない」


 おぉおい、そこの馬鹿な恋人同士! そんな簡単な話じゃないだろ!


「あの、少しよろしいですか! 今回の規模はそんな生やさしいものじゃないです!」


 声をかけていたのは、勇者パーティーの魔法使い様。

 賢者の血を引く、大魔法使い様!

 どうぞ、怒ってください! 叱りつけてやってください!

 俺たちだと今ちょっと立場弱いんでなんも言えないんですよ! そいつらに!


「一点集中にすれば確かに守りやすいかもしれませんが、危険すぎます! そんな事したら、プラチナドラゴンとか、ベヒーモスとかフェンリルとかが出てくるかもしれないんですよ!?」


 全部伝説でしか聞いた事のない化け物ばっかりだ。無理だろ、そんなの……いくら勇者様だって。


「ラスティスはそんな化け物倒せますか!?」

「俺は無理だろうね。みんなと組んで一匹倒せるかぐらいじゃないかな?」


 やっぱり! そんなの生まれたらとんでもないぞ!?


「……そんなのがどれくらい出るの?」

「出たとしても、50匹か?」

「「「50!?」」」


 セラスの言葉に愕然とする俺たち。リクは両手を広げて何かしら数えていたが、がっくりと肩を落とした。


「駄目だ……」

「え!? 嘘ですよね!?」


 リクの言葉に勇者様が驚いていた。

 ……って、待って、そんな信じられないって顔をしないでくれ勇者様。

 あんたが勇者なんだから、人類最強なんだから! 勇者が一匹倒せるくらいって言ってるんだから、それを否定したからって、驚かないでくれ!


「足りない……。あと10匹くらい欲しい」

「何言ってるんだよ! お前! 本当に!!」


 会話に入っちゃ駄目だろうなって思ってたけど、思わず入ったよ! 50ですら驚異なのに、さらに10たせだと!?


「と、いうか……、何が足りないんですか?」

「え? あー……と、…………次のレベルまで?」


 魔法使い様の言葉に言いづらそうに言われた言葉に俺と魔法使い様は悲鳴のように短く息を吸った。


「…………伝説的なモンスターが50匹いても、足りないんですか……?」

「たぶん足りない」


 気づいて、ねぇ、俺と魔法使い様のこの心情。

 気づいてくれ!!


「なら、もう少し範囲を狭めてみるか、きっと良い敵が出てきてくれるはずだ」

「ほんと? ありがとう」


 ありがとうじゃなーーーーーい!!


「あ、俺もその時はついて行って良いですか? 小夏さんの全力戦闘なんてそうそう見る機会が無いんで、勉強になります」


 叫びそうになった言葉は、勇者様のこの言葉で萎んでいった。

 勉強になるって。勇者が、勉強になるって……。

 ……勇者って人類最強じゃなかったっけ?


「ラスティス、動きが追えるかどうかはわからんぞ?」

「そこは頑張るよ」


 ……………………人類最強ですら、動きが追えないんですか? そんなに凄いんですか? つまりあれですか。


「リクは、人間じゃ無くて、神々に連なる方ですか?」

「え? まっさかぁ! 私は普通の人間だよぉー? 無い無い」

「普通の定義にあやまれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



***


 何故かゼンに怒られてしまったその日の夜。

 レベルは凄いけど、それを省くと私は普通の女だと思うんだよねえ。

 レベルだって、結局はゲームから来てるわけだし。努力ともまた違う気はするんだよねぇ。

 ……とあるエンディングに関していえば、努力も執念もものすっごくありましたが。それだけだし。


 さて。さてさて。

 本来ではもう一週間は先だったらしいのだが、さくっと終わらせて勇者の空き時間を使わせて貰おうって事になり、セラスが一気に淀みを集めたらしい。さすがセラス。その辺のめんどいから後回しにしよう。っていうラフィースの性格が良い具合に出てます。私に知られたから一気に片付けようってうところも良い感じです。


 それにしても、久しぶりの狩りだなぁ。本格的な。

 ああ、ちょっとウキウキしてる。

 ……あれ? 私いつの間に脳筋に?

 ごほんっ。


「見学するのはいいんだけどさ、一応、激戦地区になるよ? 大丈夫?」


 ラスティスと、勇者一行の魔法使いポッドさんはともかく。あーちゃんと、ガル・ゼン・ロスのトリオまで?


「えっと、でもセラスさんに……」

「せっかくレベルが上がる機会なんだ。上げさせてやれ」

「まあ、その分あーちゃんが死ににくくなるっていう意味ではいいけどさぁ……。きちんと守ってあげてよ?」

「……まぁ、確かにそのつもりではあるが…………そもそも、お前が取り逃がす事があるのかが、疑問なんだが?」

「絶対はないです!」

「そうか……」


 まぁ、いいよ。うん。とりあえず、PT申請してっと……。


「ラスティスと……………。ラスティス、ポッドさんの事は信用してる?」

「してますよ。だから一緒に来ました」

「そう。分かった」


 じゃあ、二人もPT申請しよう。ただ、残りの三人は今回は無しにしよう。

 四人がPTに入ったのを確認し、私はみんなから少し離れる。


「《デスマッチバトルフィールド発動》」


 拳闘士の魔法の一つで、一定範囲内のフィールドを封じる魔法。これを使われると、敵は術者を倒すか、術者がフィールドを解除しないかぎり、逃げることは出来ない。普通の転移も不可能。ちょっと変わった方法での転移なら可能だけど、たぶんモンスターが使う事はないので、これで逃げられる事はないかな? とは思うけど。


「《補助セット1 スタート》」


 お決まりの補助を発動。

 私から少し離れた場所に黒い光が上がり始める。淀みが形になる前兆らしい。

 さて。新しい職業のレベル上げでもしましょうかね。


 星神ラフィースの錫杖でこつっと地面を叩く。


「おいで、アリー」

『はーい~』


 私の呼びかけに現れたのは小さな妖精。アリー。


『よびましたぁぁぁぁぁぁ!?』


 くるりんと宙でバク転して、前方に見えた敵に悲鳴を上げて、私の背に隠れた。

 おいおーい。従者(きみ)が隠れちゃ駄目でしょうに。


『まままままっままマスター!? あ、あれは!?』

「私達の敵」

『むりでーーーーーーーーーーーーす!!』


 悲鳴を上げるアリーに私は笑う。分かってる分かってる。


「大丈夫、アリーに戦えなんて言わないから、私の肩に座ってて、貴女のレベルを上げるために出しただけだから」


 新しい職業は二つ。『調教師』と『召喚士』。で、今は調教師。

 いやぁ、吃驚したよぉ。新しい職業本当に入ってる~! とセットしたら、チュートリアルが始まったから。

 どんだけ? どれだけ凄いのこのシステムさん。と、突如ホームの中に現れた妖精さんを見て思いましたよ。

 チュートリアルの説明が終わるまで攻撃してこないし、ごめんと思いつつゲンコツ一つで涙でご主人様呼びだし。

 ……まぁ、確かにゲンコツ一つで倒す事も可能だけど、普通のゲンコツでしたよ?

 で、名前を付けたら本契約完了って、簡単すぎである。

 まぁ、普通に倒せば良いだけらしいので、その辺は楽だ。瀕死状態にしろって言われる方が大変だし。


 ってなわけで、逝ってらっしゃいませ。


「《極・攻撃魔法1 スタート》」


 私の短い言葉と共に、バトルフィールド内は赤い炎の花が一瞬咲いたかなと思ったら次の瞬間、辺りは青い炎に包まれ、白い炎が舞い踊り、やがてそれは風により燃え引き裂かれる。黒いもやはその間にも形を作っていき、形を作ったところで、大爆発に巻き込まれ、地面から現れた錐に体を貫かれたり、地割れに落ちていったところで地面が元の形に戻ってぺっしゃんこになったりとか。チェンソーの様に回りまくる水が所狭しと斬り回ったり、その間を雷が轟いたり、天まで氷柱になり、中に閉じ込めたものごと、粉々に壊れちゃったり、重力に寄ってぺっしゃんこにされたかと思ったら、真っ白な光に焼かれたりと。

 途中から思ったけど。


「うん。オーバーキル気味だ」

「むしろ生き残ってるやつらが信じられない…………」


 私の大仰に言って見た独り言にラスティスが呆然としてた。


「あー、あれね。たぶんシステムで保護されてる」

「え?」

「今の私の職業と関係あってね。さて。私の下につく気があるのなら並びなさい」


 ぴっと、右腕を横にすると、生き残ってたやつらが慌ててその先に並んだ。

 未だ、黒いもやは形を作ろうとしてるし。あれが形を作る前にテイムされにきた彼らを保護しなくては。

 テイムしたのは、プラチナドラゴン2匹、西海暗黒竜1匹、キングフェンリル1匹、邪酷狂蝶1匹。

 ギン、ハク、タツノ、モフリ、パニテフ。になりました。

 時間が無いからと適当に付けすぎた。モフリは酷いかもしれない。が、見た瞬間その事だけしか浮かばなかったんだよねぇ。パニテフはパニックテフテフです。


『マスター。レベル上がって、進化可能になったんだけど』

「進化して」

『進化するのに、虹の羽っていうアイテムが必要みたいなんだけど』

「虹のはね? ああ、持ってたはず。ちょっと待ってね」


 モヤはすでに巨人になったこちらへとターゲットを当てている。神の巨人兵? ゲーム時代と名前違うなぁ。

 アイテムから虹のはねを取り出してアリーに渡す。彼女はその羽を捕まえるとどこからともなく糸を吐き出して卵になる。……繭じゃないんだ……。


 こちらを踏みつけようとしている足。軸足の大地を陥没させたら、後ろにバランスを崩して倒れていく。

 ……大きいけど、大きいだけだな。ゲームの方が強かったなぁ。あれ、スピードもあったから。

 卵がパリンと割れて出てきたのは先ほどよりも一回り大きくなったアリー。

 凄い凄いと手を叩いて、他の子達と待ってて貰う。


「《クラスチェンジ・召喚士》、《召喚、サラマンダー》」


 錫杖でもう一度地面を叩く。

 私の頭上に魔法陣が現れて、ゆっくりと赤い鱗を持つ者が現れた。

 それはコウモリのような赤い羽を大きく広げて、大地が揺れるほどの威嚇の咆哮を上げる。それは人間の何倍もの体を持つ、存在だった。


「……これもある意味サラマンダーか」

「「「「「「「全然違う!」」」」」」」


 く! セラスにまでつっこまれた。

 全員につっこまれたので私は振り返り、一応、いちおー、言い分けをさせてもらう。


「私が呼んだのは確かにサラマンダーだよ? だって、職を変えたばっかりで、それ以外呼べないんだもん。古代竜炎竜(むこう)が勝手に来たんだよ?」


 私は本当にサラマンダーを呼んだんだ!

 嘘じゃないんだ!


「……それならそれで、術の精度が甘いぞ?」


 正論過ぎるセラスのつっこみに、私は胸を押さえて蹲る。


「うわーん、もー! 君のおかげでさんざんだー! 秘技八つ当たり!」


 と、それっぽい事をいって、巨人兵を蹴った。力の限り。めいいっぱい。巨人兵は悲鳴を上げてのたうち回りだした。

 まぁ、レベル差が300以上あるもんね。むしろよく足吹き飛ばなかったねって感じか。


 ロックドラゴンの時に反省したので、苦しませず終わらせます。

 武器を錫杖から星神刀に切り替える。


「刀スキル。一文字切り」


 構えてスキル名を唱えて発動。その方が威力が上がるから。

 光のエフェクトが漢数字の『一』を表し、爆散する。黒いモヤは立て続けに同じ巨人兵を二体出した。

 跳躍する。

 地面が負荷に耐えきれず、ひび割れてクレーターが出来る。でもおかげで私は巨人兵達よりも高く跳んだ。

「刀スキル。羅刹」

 刀に光りが集まり、そこから先はシステムによる剣技である。

 縦横無尽に敵を斬る。

 本物の剣士が見たら、技を磨いている人間からすれば、アホなような剣技であろう。

 隙がありすぎる、雑すぎる、見た目重視な技なのだから。

 でも私にはそれしか使えない。付け焼き刃な剣技よりも、スキルを使った方がずっと安心できる。

 無敵時間も、キャンセルと呼ばれる技の途中で技を止める事も、反撃出来るタイミングも知っている。硬直する時間も。

 もっとも硬直に関しては私は無い。だから、キャンセルして次の技に入る必要も無い。

 敵のど真ん中で技を終えた。普通であれば絶体絶命のピンチなのだろうけど。普通であればパーティーメンバーが動けるまで敵を引きつけるのだろうけど。私は次の一手に使える。

 風車。と呼ばれる円を描いて敵を斬りつけ吹き上げる風属性の技。一見地味だけど、地面に叩きつけられた時にも攻撃判定がある。それは体重が重い方が効果が高いと言われていて、巨大な敵には割と有効な手だった。

 地面へと落ちてきた巨人兵はシャボン玉となって散っていった。

 巨体だからシャボン玉の量も大量でなかなかに幻想的だった。

 次に現れたモンスターも、同じようにその命を刈り取っていく。


 こうやってセラスが、人々を生き返らせるために作ってしまった淀みは綺麗に消し去った。



***


 神話というものはわりと無茶な話が多いと思う。

 そして神話の多くは神がおもしろ半分で作ったねつ造もあると聞いた事がある。なんでも鵜呑みにするのが見ていて面白いと。

 人間だって噂だってするし物語だって作る。騙すのは酷いと思うが、根本は一緒なのだろう。

 これがもし、神々や人々の口から語られたら、俺は間違いなく、神々が作り上げた嘘の神話だと思っただろう。

 それぐらいの絶対的な力があった。

 これだけの力があっても、『本気』ではないのが見て取れる。それだけの実力差がある事は分かった。


「数年すれば、彼女のような存在がこの大陸にはごろごろと居るようになるぞ」


 セラスの言葉は破滅への足音に聞こえた。


「それが、この世界の神々が、星神を救うためにした異世界の神との契約だ」

「…………この世界は……彼女の国の者達に蹂躙されるのでは?」

「どうだろうな。旭陽を見ていて思ったが、それなりに選考されてこちらに送られているようだから、それはないと思うが……、新参者の国だからと見下すことはおすすめしない。この世界の最強なんて、『初心者』並の実力しかないんだから」

「そうだな。最初の頃は中堅者扱いだったけど、もう今じゃすっかり初心者用のクエだもんな」


 セラスの言葉に勇者様が頷いて笑う。

 なんの事かは分からない部分も多かったが、ただ、この世界の人間と彼女の国の人間との力の差は歴然としているという事はなんとなく分かった。


「今は小夏さんは特殊に見えるけど、でも彼らが来たら、完全に埋もれるよ。彼女は確かにトッププレイヤーだったけど、こっちに来るまで普通の一般市民だったはずだからね」

「普段の彼女は別に擬態というわけじゃない。実際に彼女は剣を習ったことは無いだろうし、歩き方だって生まれて育ってきた環境の歩き方なだけだ。訓練というものを一度も受けたことがない。でも戦える。この世界の誰よりも。そしてきっと今から来る奴らもそうだ。『普通』でありながら『異質』だ。学園にいるお前達はそれを誰よりも身近で見聞きする事になる。せいぜい頑張って扱い方を大人に忠告すれば良い。俺は何があっても彼女の味方だ。今更殺す数が増えたところで何とも思わん」

「もう一度魔王戦とか勘弁してくれ。しかも今度は手加減なしだろ」


 セラスの言葉に勇者様が天を仰ぐように言った。

 ああ、やっぱり。

 驚きよりも納得の方が先に来た。

 救国の英雄セラフィエル。魔王になる前は、人類最強と呼ばれていた男。邪神の力により、魔王に堕ちた男。それが今目の前にいる男なのだろう。

 セラスは笑う。


「魔王戦? 違う。一緒にするな。あの時はセラフィエルもラフィースも互いに足を引っ張り合っていたに等しい」


 セラスは冷酷でとても美しい笑みを浮かべた。


「『今度』があればその時は、俺は全力を尽くそう」


 ああ、その時が来たら、自ら死を選んだ方がずっと楽に死ねそうだ。そんな恐怖が俺の身と心を包んだ。


「もっとも、出番があるかは分からんが」


 肩の力を抜くように言って、セラスはリクの方を見た。確かにあんな力が暴れたら国なんて……一晩も保たないんじゃないか?

 間違いなく一晩も持たない。誰も止められない。

 ああ……。セラスが俺たちを連れてきた理由がよく分かる。よく分かってしまった。

 慈悲のつもりなのだろう。

 この世界の人間に対する最後の慈悲。

 敵対すれば、容赦なく殺す。だから、敵対しない道を探せ。と。


 俺は改めて金色の光り輝く囲いの中を眺める。

 次々と現れる伝説でしか見たことのない魔物を一瞬にして屠る姿は。

 どんな神話よりも強烈で、どんな神話よりもばかばかしくて、どんな神話よりも神話らしかった。

 

 俺たちが語る報告は、どんなに控えめにしても誇張されているように聞こえるのだろう。

 見ている自分たちだって、信じられないという気持ちが強いのだ。

 

難題、押しつけられたなぁ……。


 そんな気持ちが強かったが、やらないと滅ぶのは自国であり、死ぬのは自国の民だ。

 何が起こっているのか分からないことも多い。それでも、感じることは出来る。絶対的な強さを。伝説ですら一捻りな存在を。

 目に焼き付ける。

 夜の闇ですら切り裂く光を放つ存在を。

 目の前で作られる神話のような光景を、俺たちはただ見つめていた。

 自分の肩に、人類の命が乗るのを感じながら。

十分にも満たないその光景をずっとずっと魅入るのだった。

 目の前で作られていく伝説を。


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