26・PM、過去、現在、未来を思い浮かべる
「邪悪な気配を感じて来てみれば…何このホノボノな状況。」
「まったくだな、どうやら解決したようだな、流石知也だ。」
リュンとアレクが闘技場の入口から現れる。
物々しい武装してきているけど、お前等の武装は世界を消滅させるからな、理解しているか?
「いや、冗談無しにこの世界を消滅させる覚悟で来たんだぞ?俺達でも勝てるか分からない相手に無傷で勝つとか、正直エルマの一員として複雑な心境だ。」
どうやら顔に出ていたらしい、アレクが理由を説明してくれる。
まぁそうは言うけど俺も回復が無ければ今頃瀕死状態待った無しなんだよ?
事の発端のアスタルトは今のところ沈黙しているけど、どうしようかな、少し反応があるから生きてはいるみたいだが。
「リュン!」
「わっぷ…え!?この感じ…エルマなの!?」
「!?」
エルマがリュンに飛びつく、まるで久しぶりにあう友人同士のようだ。いや、そのとおりなんだけどね。
その様子をみたアレクが驚愕の表情になって素早く跪く。早い、早いよ、一連の動作に無駄が無い。
その様子は熟練の執事や洗練されたサラリーマンのようだ。
「アレクトル、そんなに畏まらないで。」
「エルマ様、私は…私は!」
今にも泣き出しそうな声でアレクがエルマを呼ぶ。先ほどの顔からは想像できないくらい感情があふれ出している。
まぁ過去の経緯はリュンの記憶から盗み見ているから、気持ちはわからなくはない。
しかし、エルマの姿形は過去の情報と全然違うんだけどよく分かるなぁと感心してしまった。
「知也…この状況の経緯聞いてもいい?」
「なんだ、嫌だとでも言うと思ったのか?胸の大きさは誇張しているって?それは知らん。」
「ううん…知っておきたいけど、それ以上にエルマの意志がここにあることが…それだけで十分だと思ってしまったから。普段の私へのアッテツケか!?」
「ふむ…掻い摘まんで言うと次元昇華の犠牲となった少女が、目の前のそんな素振りを見せない明るい少女だ。
リュン達の次元も昔はここと同じ様に崩壊の危機に瀕していた。
そこで採った手段はそこにいる少女の魂を使用した次元昇華だ。
それまでにどのくらいの犠牲が出たかなんて思い返すだけで吐き気がする。倫理とか誰が悪いとかそういう問題ではない、あらゆる種の存亡を掛けた試みだ、後世からすると非難轟々だろうな。
うまくいけば次元の覇者、失敗すれば只の骸、だが成功したときを考え迂闊に適当な人間を試みに加えるわけにはいかない。
そこで次元の代表が最も信頼を置ける人物がエルマだった。以上」
「長い!いやこれで完了だったら短い!肝心のエルマがここにいる理由は!?て言うかなんでこっちの経緯知ってるの!?結局胸の話に触れないの!?」
「落ち着いてリュン、細かいことは気にしないの。」
気にするなという方が無理だろう。
生前?からするとどう考えても盛っているレベルだ。
「まぁ、こいつはこいつで俺の脳内で楽しく過ごしてたぜ?最近だけど。」
「こいつなんて酷いです!私にはエルマという名前があるんですよ!ご主人様ったら全然私の名前を呼んでくれないんだもの、酷いわよね。」
「いつの間にそんなに仲良くなったのよ…」
頭の中に居たときのお淑やかさはどこに行ったのやら…元々こういう性格なのか?
しかしエルマが外に出たという事は、これからリアルタイム脳内サポートは受けられないという事か?
(…そこの管理者に変わり私が取り仕切ろう。)
うぉ!びびった!誰だ?まだ何かいるの?だとしたら俺の頭の中って怖いな!
(安心しろ、ここの定員は1人だ。私はそこの管理者に先ほど浄化されたものだ。)
どうやら先ほど戦った怨念の一人らしい、大丈夫かな。定員1人って言ってたけど他の奴らは?どう考えても1人分じゃなかったよね。
(おかげ様で皆は違う位相で緩やかな気持ちでくつろいでいるよ、皆お前の手足になることに異論はないそうで、私は皆の総意としてこの場に来た、勿論私自身もそれに異論はない)
「知也様、どうしたのですか?急にお静かになられましたが、何かありましたか?」
「いや、エルマに代わって力になってくれそうな人が来たから、ちょっと話してたんだ。」
キリエが心配そうにこっちを見るが俺の回答に納得し安心してくれたのか顔を綻ばせる。この回答でお前何言ってるんだ?って顔している周りの奴に見習わせたい。
キリエを前にしても先ほどの怨念の方々も落ち着いてくれてるようで何よりだ。
(特に管理者共への恨みはない、無理やり負の意思を高められていたようだからな。それよりも機能と呼べるのかわかんないが、ここで何ができるのかは自然と理解できた、サポートするには多少慣れない部分はまだあるだろうが、頑張るからよろしく頼む。)
いやいや頼もしいな!よろしくな!それより名前が無いのは不便だな、前世の名前とか覚えてないのか?
(…そこの管理者の名前も最近まで気にしなかっただろうに…しかしすまない、どうやら持ち合わせて無いようだ。)
そうか、過去を思い出したくないか?記憶の復元は多分だが出来ると思うが。辛いのだったら俺が付けるよ。
(負の思念として落ちたこの身だ…あまり良い思いもなかっただろう。ここは是非つけてほしい。)
わかった、お前の名前は未来と書いて(みく)だ。これからを生きていくのに相応しいと思うんだがどうだ?
(私の名前…未来…ミク…いいのかそんな立派な名前を貰って…名前負けで無いだろうか。)
お前等の長い倦怠もこれで終わりだ。これから始まるんだ、前世で後悔した事なんて吹き飛ばせるくらい充実したものにしていこうぜ、今は負けてても良いじゃないか、クドイかもしれないけど、そんなのこれからだ!
(!?…ヴァナディース…私の名前はミク=ヴァナディース)
ヴァナディース?何か思い出したのか?
(いや、今心の奥底で思い浮かんだんだ。お前が付けてくれた名前に飾りがついてしまったけどどうだろうか、おかしくなければ私の名前を呼んで欲しい)
「ミク=ヴァナディース」
突然のつぶやきに皆が俺へ視線を移す。思わず声に出してしまったようだ。
呟いたと同時に黄色い6枚羽の少女が目の前に現れる。
「いや、具現しては本末転倒だからな!私はサポート要員だ!」
いきなり現れた少女は、慌てながらすっと消えていった。
どうやらあれがミクの現世に具現化した姿らしい。
(あーびっくりした、まさか現世へ出れるとは…でも外の世界も心地よかったな)
せっかく色々できるんだ、別に外の世界に出ても良いんだぞ?
(いや、暫くここが良い、ここから世界を見させて欲しい。それに初っ端から役割を投げ出したくない。)
まぁリハビリは大事か。役割なんて言うけど、そこは遠慮なんてしなくて良いからな?
(うん…、ありがとう。)
「先輩、今の方は?」
「エルマの代わりに俺をサポートしてくれるらしい。名前は未来だ。まぁ…さっきの怨念代表だよ。」
「代表って…大丈夫なんですか?」
「エルマが全部リフレッシュしてくれたからな、もう大丈夫だ。」
「しかし、キリエにエルマ、そして未来と共通して六枚羽ですね、まるで神話に出てくる天使ですね。」
確かに、天使だけではなく、こっちの神話伝承を連想させるものがこっちの世界には数多く存在する。
昔の歴史は史実だったのか、それとも誰かが意図的に地球の神話を再現しようとしているのか…そういえばエリオーネとキリエは地球の影響を受けているんだった。この星はそうかもしれないけど管理者勢は影響範囲外だよな?
「赤、白、黄か、次は何色になるのやら。」
「色の問題ですか…まぁ揃えたくなりますね。」
俺と正樹がため息をついているとリュンとアレクが俺の前に跪く。
アレクはさておいて、リュンは何を企んでいるのやら。でも顔が神妙すぎて笑いそうになってしまう。
「知也…いえ知也様」
「ぶふっ…なんだよリュン、今更かしこまって気持ち悪いぞ。」
様付けで呼ばれるものだからついつい吹き出してしまった。その様子を見てリュンが若干肩を揺らしたが、何食わぬ顔で会話を続ける。
「ごめんなさい、真面目な話をしているの…」
「おい、お前だって自分で言って笑いかけただろう。対等にってエルマを具現化したことでか?アレクまで、寄してくれ」
「そうもいきません知也様、あなたはこの次元だけでなく全ての希望となった。エルマ様とミク様の二柱があなたを指し示したことであなたはこの次元の希望となった。何より我が主がお仕いする方にどうして普通に接することが出来ましょうか。」
「いい加減にしろ、そんなの今更だし、やるなら俺と出会う前にキャラ作りしてこい。面倒くさいことこの上ないわ。」
二柱?、ミク様?気になる単語が出てきた。未来っていつの間にかえらい立場にいるらしい。
「まぁ知也ならそういうと思ったけど。」
「リュンったら分かっててやってるでしょう。アレクトルもご主人様を困らせないの」
「しかし…」
「ほら、上司のリュンに主のエルマがもう崩れてるんだ諦めろ。それが俺に対する礼儀だと思えばいい。」
「…わかった。」
「そんなに気にするな、エルマが戻ってこれたのはお前の行動の積み重ねのおかげなんだ。お前は自分に誇るべきだ。」
「知也、それはどういう事だ。」
「積もる話はエルマにでも聞いてくれ。」
余程エルマが戻ってきた事が影響したのか、アレクの表情が固いが喜びが所々に溢れている。嬉しいときは嬉しいと表現すればいいのに立場とかを気にする当たり相当苦労して来たんだろうなぁと伺える。
アレクの気苦労体質は自由奔放な上司がそこにいるからかな。
「先輩も人の事言えませんからね?」
さっそく可愛くない後輩が俺に釘を刺そうとする。ナチュラルに心読まないで欲しいんですけど。それに俺はリュンほど自由奔放じゃないだろう?
「何を思ってるか知りませんが、五十歩百歩って言葉で片付けられそうですね。」
本当に心読むスキル持ってるんじゃないかと言わんばかりに鋭い突っ込みが俺の心に刺さる。
ぐうの音も出ないぜ…さて、ごまかす為に五十歩分先に出ているリュンに自由奔放ぶりを聞いてみようか。
「んで、何を企んでいるんだリュン」
「…ふふ、本当に私は信用が無いなぁ。」
「いや、あるぞ?お前が何か企んでるって信じてるよ。」
「なによそれ…まぁ否定できないわね。」
「リュン?ご主人様を困らせるなら私が出るわよ?」
やはり何か企んでいるようだ。リュンのそのセリフに聞き捨てならないとエルマが食ってかかる。
その様子を見たリュンは悲しそうな顔を醸し出すが、自業自得だからな?
「もう…エルマも無関係じゃ無いよ、拠点エルマの枢機員全員へ知也を紹介したい。そのため知也に拠点へ来て欲しい」
「…いや、まずはお前らが来い。」
「知也様!?高次元への招待なんて凄いことですよ!?」
「そんなの知らん、俺は明後日の闘技大会の設営に忙しい。」
キリエが慌てて行くように促すが、いきなり大ボスの拠点に行って何されるか分かんないし、
エルマも復活したばかりで色々と纏まる話も第三者が首を突っ込んで宇宙大戦争になり兼ねない状況は避けたい。
したがって闘技大会は言い訳にさせてもらおう。
「行く場合は流石に先輩だけをって訳にはいきませんから。僕らも行きますよ。」
「見上げた忠義、勿論だ正樹よ、お前達なら大歓迎だ。エルマ様の下でその力奮ってみないか?」
どうやらリュンとアレクは正樹の力を過小評価しているようだ、この中で止めれる人間が居ないというのに…
まぁ面白そうだから黙っていよう。
「良いこと思いついたわ!エルマの皆も闘技大会に参加しましょう!」
エルマがふふーんとどや顔で提案してくる。ちょうどいい機会だから俺も乗っかりリュンたちに提案してみる。
「武闘派多そうだもんな、いいなそれ、一般の部と人外の部で分けるか。」
どうやら初級(一般)中級(神代)上級(人外)等のクラス分けが必要かな?
公正に振り分けれるようにスキャンの活躍時だな。どうにも使うのに躊躇ってしまうから手持ち無沙汰なんだよね。
「うーん…断ったらエルマの沽券にかかわるかな?」
「ふふ、楽しみね。アレクトル、頑張ってね。」
「任せろリュン、勝つのは俺だ。エルマ様、今一度あなたの騎士は私であると証明して見せます。」
アレクはやる気満々だな。その様子を見てエルマが微笑んでいる。
エルマが人柱になると決まった時に最後まで反対し、反乱まで起こした男だ、主を二度と失いたくないその思いと覚悟は馬鹿に出来ない。対抗馬はリュン位かな…正樹はどうする気だろう。
一般参加はどのくらい集まるんだろうか、ギルドもあって、騎士団もあっての世界だから腕っぷし自慢の者は結構多そうだ。一日で終わるかな…
「じゃあ先ずは元老を説得してくるね、この世界滞在中は知也の屋敷でお世話になって良いんだよね?」
「ああ、部屋はまだある。足りなければ庭に仮設住宅でも立てるさ。」
「わかった、明日の昼頃戻るね。エルマはどうする?一度古巣に帰ってこない?」
「うーん、また今度にするわ。今はこの現世でご主人様と居たいの。」
エルマの返答を予想していたのか、「わかった」の意思表示かサムズアップをして消えていった。
「エルマとアレクの部屋を用意しなきゃな、正樹にキリエ、すまないが先に戻って案内をお願いしていいか?俺はアスタルトの調整をしてから戻る。」
「わかりました知也様。ささ、エルマ様にアレク様こちらへ。」
キリエが闘技場外の馬車場へ案内を買って出てくれる。
「キリエよ、アレクで良い、上位とはいってもあまり存在は変わらぬ。そんなに気遣いは無用だ。それに一柱候補だ、いずれ俺よりも偉くなるかもしれないぞ。」
「そうよキリエ、特にあなたは私のご主人様からも一目置かれてる存在なのよ、むしろ私より立場が上だわ。」
「そ、そんな恐れ多い…」
フランクすぎる上を持つのも問題かな、キリエがどのように振舞っていいか分かんなくなっている。
まぁこれも社会経験か、ちょっと可愛そうなので少しだけ助け船を出す。
「まぁ、これもキリエの性分だ、慣れるまで大目に見てやってくれ。」
「それもそうだな、すまなかったキリエ。だが遠慮はいらないからな。」
「駄目よ!ちゃんと呼ぶまで許しませんからね!じゃないとキリエ様って呼ぶわよ。あとアレクトル、あなたもよ。」
アレクは面倒見の良いお兄さんになりそうだ。しかしエルマは大人げなかった。
頭の中に居た時のお淑やかさは本当に何だったんだろうか。
キリエが困った顔で俺を見てくるが、エルマにキリエ様って呼ばせるのもある意味面白そうだ、エリオーネが卒倒しそうだからやめておくか。
勿論突然自分にも降ってきた事にアレクも戸惑っている。
とりあえず埒が明かないのでエルマにゲンコツで制する。
「ふぐっ!?ご主人様何をするんですか!」
「何をじゃねぇよ、大人げない真似しないでさっさと屋敷に戻れ。」
「ふぁーい…」
4人を闘技場の外まで見送り再び闘技場の中央に戻る。
今までの鬱憤?なのかな、エルマは最後まで騒がしかったな。
戻るとアスタルトが静かに佇んでいた。
鎧の構成や機能については問題ないはずだが…
(ああ、問題無いはずだよ。多分だけど考え事してるだけだと思う。)
考え事か、取りあえずアスタルトに語りかけてみることにする。
「意識、あるんだろう?大丈夫か?」
『ああ、すまなかった。機能としても問題ない。本来の力もすぐに復旧した。』
「そうりゃよかった、これからどうする?」
『姫の周りに居させてもらうだけで我は満足だ。従来通り呼ばれたら出現しよう。』
とりあえず元に戻ったようで何よりだ。別の空間にって居心地良いのかな?さっきも負の思念方々は穏やかな気持ちって言ってたし。
「どうせだったらもっと身近にいればいいだろう。」
『我の力はこの世界に影響を与え過ぎる。違う空間のほうがいい。』
「さっき言っただろう?色々な光景を見せてやるよ。」
だったら、と俺はアスタルトの力を制御してあげる。
影響を与えなければ良いだろう?
『なっ!?力が抑えられていく!?』
「力が必要なときは強く念じるんだ。そうするとリミッターが外れるようになっている。」
『…その力には目を見張るものがあるな…人の身に過ぎたる力だがその力に溺れることないその信念、羨ましくもある。』
「力は力さ、そして何を望むかだ。それにまだこの力を持って日が浅いからな、もしかしたら俺も何かの拍子で道から外れるかもしれないぞ?」
何が正しくて何が間違ってるかなんてこの世界に来てからわかってないけどね。
『そう言う割に声に迷いがない。』
「それは曲がったら止めてくれる友がいるからな。…曲がることも許してくれないかもしれないが。」
妻や同僚が容赦ないんですと愚痴りたくなるときもあるけど、それでも頼もしい存在だ。
どんな世界にすれば平和になる?どうやっても軋轢はどこかに生まれるものだ、いかに目を背けず解消に向かえるか、それはどの世界でも一緒だと思う。
意思を統べるものとして君臨しているアスタルトならわかるだろう?
そこの責任は誰か一人に押しつけて良い問題じゃない。
俺とアスタルトは理想を語り合った、そして現実を見て変えて行きたいと願った。
『…我が真名を受け取るが良い、そしてお主の作る未来を見せてくれ。我が力が一欠片でも力になれるのなら本望だ。』
「ああ、その力と業、確かに預かった。アスタルト=イシュヌ=バルハラー」
名前を呼ぶと赤く燃えるような6枚羽の少女が現れる。
あれ?アスタルトってリュン達よりも上位の存在だったの?
「これが役割を脱ぎ捨てた私の姿だ。この姿は1人にしか見せたことがないんだ、おかしくないだろうか。」
「ふふ…安心しろ燃えるような羽が合わさってすごく綺麗だ。まるで情熱の女神だな。」
「!?た…つ…ま…?」
「どうかしたか?」
「ふふふ…なる程、流石は龍真の子孫ね、あなたの御先祖と全く同じ事を言われたわ。」
「子孫…広い様で狭いなぁ。まぁ、本人じゃなくてすまないな。」
「良いのよそれで…あなたはあなた、龍真とは違うのだから。」
「なんだよ、普通に喋れるんじゃないか。」
「ほら、威厳は大事って龍真がいってたから。」
ご先祖様か、かつてエリオーネやアスタルトと共に次元侵略者を迎撃していたらしいが、
まさかどれくらい前か分からないけど身内にそんな人がいたとは思わなかったよ。
エリオーネは気づいてる様子はなかったけどな。意外とガバガバだな次元管理者。
「さぁ、どこで置物になろうかしら、あなた達を見てると飽きそうにないから楽しみだわ。」
「おいおい、色々な光景を見せてやるって言っただろう?」
「力を抑えられたらとはいえ私の存在はこの世界には辛いわ。」
「後ろを見てみな」
「私の鎧…え?…機能している!?思念の集約がちゃんと行われているわ!」
「容量って念じてみてくれ」
「棒が二本…」
「上が正の思念、下が負の思念だ。貯まっていくと左から色が変わっていく仕組みにしておいた。正も負も溜まりすぎると次元に影響が出るんだろう?その辺はリュンとでも調整してくれればいいさ。」
「そんな…」
「アスタルトが犠牲になって引き受けなくてもいいんだ、まぁ管理はしっかりとしてもらうけど。」
「…」
「アスタルト?」
「はい!?ごめんなさい、余りにも現実を離れた事になったからつい考え込んでしまったわ。」
「ははは、存在が現実離れしてる癖におかしな事を。」
「くっ、反論したいけど出来ない…」
「アスタルト、俺の御先祖に誓うよ、アスタルトが楽しく過ごせるようにする。これからは役割に縛られなくていいんだ、十分我慢したさ。少しくらいは自分のために生きてみるといいさ。」
「…力あるものにとって自由という責任は限りなく重いわよ」
「自由になったばかりさ、どんな責任があるのやら。そんなのは少しずつ持っていこうぜ。」
「一応その自覚はあるのね、少し安心したわ。分かった、これからは好きにさせてもらうわ。先ずはあなたの生あるうちはあなたに限りない忠誠を、勿論受け取ってくれるわよね。」
「…はぁ、せっかく自由の身というのに、なんで神代の人間はドMばかりなんだろうな…」
「ふふ、心外だわ、真名を受け取った段階で拒否権はないわ。よろしくね、ご主人様。」
今までで一番いい笑顔を向けられると断れないな。
(意外と手の掛かるお転婆な娘だがよろしく頼むよ、我が子孫よ)
ふとそんな声が聞こえた気がした。
「そんな当然だ『あとはまかせろ』ご先祖様。」
「うん?」
薄暗い闘技場に穏やかに風が吹いた。
「なんでもないさ、さぁ『帰ろう』皆の所へ。」
「はい!」
アスタルトと共にアスタルトの鎧を持って屋敷に戻る。
さーてこれ以上イベント事は無いだろう、流石に疲れたよ。
「知也さん、おかえりなさい。遅かったわね。」
…一番重いイベントが残ってた。