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24・PM、社畜根性を見せる

「うー…うー…」


唸っている小さな物体が2つ、そんなに痛かったか?

しょうがないのでキリエだけ回復してあげる。


「理不尽だ~」


文香がおでこを抑えながら涙目でこっちに訴えてくる。

俺は溜め息をつきながらも回復の意思を込めて再度デコピンをしてあげる。


「ひぎゃあああ!…あれ痛くなくなった。」


女の子が出す悲鳴じゃないな…あとキャラぶれてるぞ文香さんや。


「散々カウンター食らって平気な顔しておいてげんこつ一つで痛がるか」

「なぜかわからないです…ですが最後の一撃が私の体から心へ衝撃を残してます。」

「そうか、それで俺の力はどうだ?お前の期待に添えたか?」


心か、そこに響いたなら大丈夫だな。

やはり基本純粋なのだろうな、素直に受け止める所はしっかりとある。

悪い言い方をすれば何にも染まりやすいという点だが、しかしこの状況を見るとやはり王天の教育に悪意を感じない。ぶっ飛んだ上司兼母を持ちながらも素直に育っているキリエを見ると顕著に分かる。

本格的に王天の捜索に乗り出さないといけないな。

キリエの能力転送解除したら反応消えちゃったからな、ちょっと早まったことしたかな。


「私の期待なんて…いえ、正直少しは通用すると思っていました。しかし結果を見ると知也様は無傷、私の完全敗北です。」


いや、エリオーネに通じるか聞きたかったんだけど。

まぁ良いか、全盛期の次元管理者に勝てたなら何とかなるだろう。

俺がキリエに一歩近づくと突然鎧人形が稼働しすごい勢いで突進してくる。


「カミュ、止めるぞ。」

「ああ、いくぞ!」


その様子を一早く察した騎士2人が前に立ちはだかる。

しかし2人がかりで止めようと前に立ちふさがるが為すすべもなく吹き飛ばされる…絵に描いたような吹き飛ばされ方したが大丈夫か。


「まじかよ…全力だったんだぜ…」

「やはり先程の戦いは見た目以上と言うことですか…一歩も及ばないとは。」


騎士2人を物ともせず勢いも変わらず突っ込んでくる鎧人形に今度は正樹と文香が立ちふさがる。


「させませんよ。」


勢いの落ちない鎧人形を正樹が地面に殴り付け沈黙させる。

おお、綺麗に地面へ倒れた。正樹も軽く小突いたような感じだ、やはり全力を出すとこの中で一番強いかもしれない。

今のうちに騎士2人を回復させておこう、てかよく無事だった。


「文香さん」

「あいあいさ~」


文香が水の檻を作り出し鎧人形を閉じ込める。

鎧人形も必死にもがくが出ようとする度に水が絡みついて檻の中央に戻す。


「あれ…自分が入れられたらストレスマッハだな…」


出るにでれない鎧人形に同情しつつキリエに向き直る。

ここまでやり合ったんだ、しっかりと俺の意志を伝えなきゃな。


「キリエ、何度も言うが俺は桃花以外に考えられない。それ…」

「はいストーップ知也さん」


…突然桃花が割り込んでくる。

断るほうも断る方で色々気を使って勇気がいるんだぞ?なぜ邪魔をするのかな。


「知也さん、この話は後で妖天ちゃん交えて屋敷の部屋で話しましょう。キリエちゃんも良いわね。」

「はいっ!何も問題ございません!」


桃花の剣幕にキリエもたじろき、敬礼をして返事をする。

なぜ妖天も何だろう。


「闘技場の整地は粗方終わらせておいたわ、後は機材なんだけど、まだ準備する必要があるんでしょう?領主さんたちも居るんだからその辺全部終わらせてからにしましょう。」

「…そうだな。」


至極当然の事を言われ、俺とキリエは呆気にとられたまま苦笑するしかなかった。

キリエと目が合い、やがて苦笑から微笑みに変わる。

この笑顔は絶やさせてはいけないな。思わずキリエの頭を撫でてしまう。

その様子を見た桃花が怪しい笑みを浮かべてるんですけど!俺に見られている事に気付くと直ぐに真顔に戻る。本当に何を企んでいるのうちの奥様は…


「それでは明日にでも機材の使い方を説明したい。撮影スタッフ二十人ほど集めれるか?出来れば内3人は屈強で体力があるものがいいな」

「お任せください。屈強という所のハードル高いですが集めます。」

「当日はあの上空モニターを六面用意する。観客が満遍なく見れるようにする。そのモニターに映す為のカメラ配置を客席、そしてこのフィールドを3人に駆け回ってもらい所々スポットで中継してもらう。」

「なんと、そういう撮り方もあるのですね、これは面白くなってきました。しかし屈強というレベルは…先程の戦いを見るとこの街で募集は流石に無理ですよ…」

「ああ…それだったらこっちから3人用意しよう。よろしく頼むよ。」

「何を仰います、此方こそお願いしたいくらいです。」

「はいはいー、提案ー!」


領主との話が落ち着いてくるとクラリスが元気よく手を挙げて話に混ざってくる。

ここに来る前に争い事嫌いって言ってませんでしたっけ?


「参加人数増やしてトーナメント戦をする事を提案します!」

「クラリス、それは流石に今から計画するのは運営の体力が持たないよ、ものすごく魅力的な提案だけどね。あと急遽出れる参加者は目処がついてるのかい?」

「参加者は目処がついてるわ、でも管理かぁ…ううーん、そうだよねぇ…」


クラリスがチラッチラッとこっちを見てくる。どうにかしろと言いたいらしい。

本日初対面のはずなんだが遠慮と言うものがない。まぁ気兼ねなく出来るから嫌いではないんだけどね。

この空気を皆で共有できれば楽しく出来そうな気がする。


「祭りにすればいいのか…盛大にやるか!…領主様、こんなイメージでどうだ、資材はこっちで全部準備する。人の手配が心配だが、やることはそんなに難しくない。教育もある程度の教養があればいい。」


俺は自分の考えるイメージを見えるように展開する。

俺の考える計画とは各所にライブビューイングを置いて闘技場を放送するというものだ。

この場所だけじゃなく街全体のイベントに昇華させる。そのためには各方面への協力が不可欠だ。

運営の体力がないなら足せばいい、予算?そこは俺の考えるとこではない。だが資材は提供する。

ちょっと卑怯だが通信映像のインフラは俺の力でどうにかなる。


「これは…一見壮大で途方もないですが、確かに人手があれば実現できそうですね。しかし知也さんの負担が大きすぎませんか?」

「そんなこと無いさ、俺よりも自分達の忙しさの方がヤバいからな。クラリス、提案するからにはしっかり働いてもらうぞ、明日この街全部の商工会及びギルドの上役を集めてくれ、場所がなければうちの屋敷でもいい。」

「お任せあれだよ!…今から金光様か妖天様借りて良い?」


使えるものは未知なものでも使うその精神、嫌いじゃない。

俺は金光に目配せをすると、ヤレヤレと溜め息をつきながらも了承してくれる。

あとで他の神代メンバーにも声かけておこう。


「それでは私も後日早めに知也さんの屋敷にお伺いしますね。それまでにこちらの持てるプランを用意しておきます。クラリス、あまりご迷惑をお掛けするんじゃないよ?」


もういっそこの街の一大イベントにしてしまおう。

準備の時間は短すぎるしうまく行かないかもわからない。多少の粗は目をつぶってもらうしかない、だけどこの流れは失いたくない。

今回駄目でも次回頑張ればいい、この街を少しの間で良い、一つの方向へ向かせることが出来るのならやってみる価値はあるだろう。


「知也様、本当に楽しそうですね。これが争い事の種になるかもしれないというのに。」

「まぁ多少の無茶は先輩の専売特許ですね。そしてその種は僕達が刈り取るから安心して良いですよ。キリエさんは安心して先輩の手伝いをして下さい。」

「正樹様は不安では無いのですか?これは一席一丁で出来る規模ではありませんよ。」

「ふふ…あなたと戦った時と今の計画遂行、どっちが無茶でしょうねぇ。先輩の強みは貴女と戦ったあの能力ではありませんよ。打算的で出来ないことを出来るように仕向ける、先輩は恐ろしくそこに長けた人です。先輩が『出来る』と言えば出来るんですよ、寒気がするほどにね。」

「信じているのですね…」

「勿論ですよ。伊達や酔狂で此処まで着いて来た訳じゃありません。」


何やら正樹とキリエが難しい話をしているな。

正樹の目の前で何度かやらかしている筈なんだけどなぁ、俺のイメージが大分美化されてる…まぁかわいい後輩のために格好悪いところ見せられ無いけどさ。

正樹とキリエの会話を余所にして領主との話が落ち着くと騎士団長2人がこっちにくる


「先程はお恥ずかしい所をお見せしました。この後に自己紹介するのも恥ずかしいですが…私はこの街の騎士団を取りまとめておりますアランと申します、お見知りおきを頂けると嬉しいです。」

「ああ、喫茶店アースの知也だ、いつも贔屓にしてもらっていると聞いている、是非今後も利用していただけると有り難い。」

「我ら騎士団一同、訪問販売を毎日楽しみにしておりますよ。むしろ無い日のテンションが下がりすぎて困ってるくらいですよ。」

「ははは、腹持ちは大丈夫か?さすがにサンドイッチだけだとキツい気がするが。」

「そこが悩みの種ですが、別で炊き出しをやって凌いでおりますのでご安心ください。まぁ味は差がありすぎてお察しの通りですが…」


訪問販売だけじゃなくては出張炊き出しにするか。栄養のバランスを考えた料理を提供しなきゃな。この街の治安はしっかり守ってもらわないといけないし。戻ったら考えよう。


「それよりもこのお話、我々騎士団も人の整理に入りましょう。勿論主要警護はしっかりと残します。」

「よろしいのですか?長期遠征から帰ってきて間もないというのに。」


長期遠征行ってたのか、道理で今まで見なかったわけだ。さっきの様子だとブラッド戦で意気揚々と出て来そうな感じがするもんな。

しかし領主はしっかりとアランを気遣うように言うな。お互いに敬意を持ち合わせているようで何よりだ。どこかの王様と騎士団長とは違うな。


「トモヤさん、言いたいことは分かりますからそんな目でこっちを見ないで下さい。」


思わずカミュを見て比べていたようだ。

まぁあんな王様でも経営者として優秀っぽいからな、そんなに心配してないよ?


「大丈夫です。トモヤ殿のお話を聞くだけで気持ちが昂揚しております。この話を聞いて奮い立たない者は我が騎士団にいないでしょう。」

「わかりました、同じ思いを無碍にするわけにはいきませんね。是非よろしくお願いします。」

「お任せ下さい。それでは騎士団からも部隊長何名かを打ち合わせに参加させて下さい。」


いろんな意味で話がスムーズに進む。

あの説明で各々の役割を理解してくれたようで、これは大分と楽が出来そうだ。

大変なのはこれからだ。明日一日は類を見ないぐらい忙しいぞ。


「頼もしい限りだ、よろしく頼む。領主様もだが、朝はこちらから迎えを出そう、どこかに纏まっていてくれ。」

「分かりました。人数は分かり次第と場所も連絡しますね。」


必殺、瞬間移動だから気にしなくて良いぞ、と言おうとしたがめんどくさいので省く。

政府、騎士団、商業、冒険者。この街の主要なレイヤーが揃っての共同作業だ。

纏まってくれればいいが、そこは腕の見せ所だな。主に領主の!

どんな形になるか、明日が楽しみになってきた。


「桃花さん~、顔緩んでますよ~。」

「ねぇ文香さん、やっぱり知也さんはこんな感じで働いてこそよねぇ、テキパキと指示を出してしっかりと仕事を片付ける…素敵だわぁ。ただ能力がチート過ぎてあんまり無茶してる感が無いのが残念だけど。」

「十分やばい仕事量になりそうだけど~…明日明後日と寝れるのかなぁ~」

「大丈夫よ。二、三日なら平気でしょ。」

「桃花さん~、自分の旦那労わってあげて~…」


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