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19・PM、黒歴史を垣間見る。

「良く来たねキリエちゃん、みんな待ってたよ。さぁさぁ座って座って。あなたがキリエちゃんのご主人様かい、ほらあんたも突っ立ってないで座って座って。」


俺とキリエは会場に着くなり少し広めの会議室に通される。

そこで待ってたのは予想外の厚遇であった、強いて言うなら孫が来たときのおじいちゃんおばあちゃんみたいな感じだ。


「誰がジジババだ、張り倒すよ!」


どうやら心の声が漏れていたらしい、25くらいの妙齢なお姉さんに怒られた。それよりもご主人様とは一体どういうことだ。

お姉さんの横に座っている優しそうなおじいちゃんがキリエに優しく語りかける。


「キリエちゃん、来て早速で悪いが、せっかくご主人が来てるからの、今日の議題は今後の商店のあり方についてじゃ」

「はい!そのためにうちの店主にご足労頂きました、知也様、宜しければ議題に加わってもらっても宜しいですか?」


拒否権など無いなこの状況、キリエめやりおるわ!ご主人って店主(店長)の事か、びっくりしたなもう。でも店長はエリオーネだよ?実の母のほうだからね?

なんて言ってる場合じゃない、ほんわかした雰囲気なのに議題が予想外に重い、まぁ四の五の言っても仕方がないので俺は軽く頷き先を促すと、議長なのか優しそうなおじいちゃんが説明し始める。


「さて、連日驚異の行列を作る喫茶店の開店に、我々の区画だけでなく他の区画も動きを見せ始めておる。飲食を生業としているものは軒並み危機感を覚え初めておるのは確かじゃ、何せあんなに行列が出来たのも史上初じゃからな。」


まぁあれだけ二日に渡り行列が出来ればな、早速釘を刺しに来たか。史上初ってのは大げさだろう。


「まぁそんなことはあの料理を食べれば分かり切ったこじゃな。おそらくじゃが、味については王都の宮廷料理にも勝るじゃろう。喫茶店アースに対抗できるとしたらアースの営業時間外を狙うかアルコール類で囲むかじゃな。じゃがそれでも料理一つとっても比較されてしまうじゃろう。」


なるほど、こちらの商工会と正樹が出してきた分析が同じだな、やはり脅威に見えるか。さて、敵対の意思は無いですよーってどう言えば伝わるかな。

ポッとでの新人がコンサルやりますよ、なんて言っても言う事聞いてくれないだろうし。

どうしようか悩んでいるとお姉さんが大きな紙をテーブルへ広げだす。


「対抗策というのもアレだけど、今朝に領主様より今後のあり方を示す計画書を預かってきたよ。」


お姉さんの言葉に周囲がざわめく、商工会へ市政の介入は珍しいのかな?てか準備いいな。


「領主側からの計画というのも史上初ではないか?余程危機感を覚えたか。いや妥当な判断と言うべきか、是非聞かせてくれ。」


少し体格のいいおっちゃんが続きを促す。ていうかこれ俺達いていいのかこれ、アースへの対策案だろ?


「安心しな、アースも関わることよ。とりあえずざっくり言うと、飲食関連は喫茶アースに商工会の中心になってもらう。ここだけではない、シルバスタ全体の取りまとめだ。」


領主のほうから手を打ってきたか、まぁその方が助かるが、しかし、こちら側もまだ準備ができる状況ではないのは確かだ。急ぎすぎではないか?

あと、いくら領主からと言っても周りが納得できるかどうかだな。


「流石に一気にというわけにはいかないさ、仕入れ業者の流し方と料理などの品質向上を徐々にやってもらう、ノウハウの提供は可と伺っているから先ずは各商工会から代表して何人かアースへ研修という形で行きたい。納得できない奴は淘汰されるだけさ。」

「淘汰…なる程、わかった。うちからも問い目として代表を一人出す。各商工会からの代表とアースへの研修要員を選定してこういう場ではなく、正式にどこかで打ち合わせしたい。」

「あなたが代表じゃないの?」

「いや、俺は世界を回る予定があるからな。優秀な奴がいるから安心しろ。」

「キリエちゃんといいあなたといい、その人も優秀なのよね、人材豊富で羨ましいわ」

「研修要員にちゃんとその辺教育するさ、大変だから覚悟しとけよ」


俺の返答にお姉さんが疑うような眼差しを俺に向ける。


「…本当にいいの?本来ならあなた達アースの独壇場だったのに。領主から話を聞いたときは耳を疑ったわよ?」


まぁ本来の目的は人の意志改革だからな、まだ規模は小さいけど、この街の流れをある程度測れる場所と機会が舞い込んできたから、こちらとしては願ったり叶ったりだ。

とは言えこちらの動きに制約がかかるのは嫌なのでこちらの要望はしっかり伝える。

議題はしばらく談笑しながらだが、話がある程度進みざっくりとした方針を決め各自で持ち帰ることにした。

現時点ではアースが実験店舗になりそうだな、まぁ最初からそのつもりだったからいいか、研修要員受け入れるとなると店舗の拡張か店舗自体を増やすかしたほうがいいかな。この街の規模だとあと五店舗くらいはいけそうな気がする。

メンバーも現地スタッフを準備しないと、いつまでも異世界&神代組で回すわけにもいかないからな。


「さて、戻ってから正樹に伝えなきゃな。」

「正樹様がご担当されるのですね、てっきりお母様になるのかと思ってました。」

「まぁエリオーネは店長でプロジェクト回すまでは手が回らないだろう、あの性格だから企画立ち上げまで任せるとすごい案はでるんだけどな。だけどその点は正樹の計画遂行能力はすごいぞ。要点をしっかり押さえてしっかり全体を見れるからな。今回はその企画はこの街でやるからな、プロジェクト計画はほぼ方向性決まってるから正樹の下にエリオーネ達をつける方が効率がいい。」

「正樹様を信頼なされているのですね、羨ましいです…」

「何を言ってるんだ、ちゃんとキリエのことも信頼しているんだぞ?」


どうやら俺の回答はお気に召さなかったようだ、微妙な顔されてしまった。

嬉しそうではあるんだが、なんか違うみたいな顔だ。

俺たちが商工所の出口に差し掛かるところでお姉さんに声をかけられる。


「トモヤ君、ちょっとだけ立ち話しない?怪しい話じゃないからね、ちょっとだけあなたのこと知りたくてさ」


怪しい人はみんなそう言うね。さてどうするか、早めに帰って計画を正樹たちに伝えたいしな。

だがキリエの方を見ると両手を上げて大きく丸を作ってる、どうやら話しましょうという意思表示らしい。まぁ悪い人ではないっぽいからいいけどさ、いつの間にか君付けで呼ばれてるのは気になる所だ。


「ああ、全然構わないがどうした。」

「領主から聞いたんだが、魔王を倒せるって本当かい?」

「すまん、その辺はやってみないとわからんな。」

「出来ないと言わない辺りが実力が垣間見えるよ、そうか、やっぱりこの間来た魔王を撃退したのはあんたなんだね、あの時はありがとう、おかげで私の旦那も死なずに済んだよ。」

「ああ、そいつは何よりだ。」

「何故栄誉を受け取らないんだ?貴族にだってなれるよ。」

「貴族になると何か良いことあるのか?ぶっちゃけ貴族も平民もそんなに変わらない気がするが。」

「あんたが良いところの坊ちゃんなのか、はたまた余程の地獄を見てきたのか判断に迷うところだね。」

「比較対照がまたすごいブレてるな。」

「まぁ貴族になって良いところはだね…あんたのところで良さそうな条件はっと…重婚できることかな。あんたのところにかわいい子いっぱいいるって聞くからね、貴族になれば娶り放題だよ」


娶り放題って、中身おっさんかよ!?この街にそんな風習があったのは知らなかったな、まぁでも俺には桃花がいるし、妻は一人で十分かなぁ。


「あの、知也様、貴族になれば他にも領地決裁権や自治権も多少融通が利くようになりますし、良ければなりませんか?」

「まぁそれならばなっても良いか…だが商工会は基本平民の役割だろ?貴族になってしまったら話し合いも何も無くなってしまうんじゃないのか?」

「まぁ話し合い、っていうよりは命令になるねぇ。だけどトモヤ君なら大丈夫でしょ、たとえ命令でもあんな計画だ、誰もが納得するさ。まぁぶっちゃけ人柄さね。」


そういうものか。てか今更だけど貴族屋敷に住んでしまっているんだが、問題ないのか?

平民には似つかわないほどの豪邸だもんなぁ。


「へぇ、領主がお礼受け取ってくれなさそうだから物件を押し付けたって言ってたけどあそこに住んでるんだ…。多分あーだーこーだ言う前に領主には貴族認定されてるよきっと。」

「一応前住人も貴族だという話はきいてるが、そんなに思入れのあるばしょなのか?」

「あの屋敷はね…屋敷というか前住人と言うべきか、この城塞都市の誇りなんだよ。今でこそ戦乱は収まっているけど20年前は酷いもんだったよ。この国の命運を掛けた防衛線がこの城塞都市で、その要となってたのが二人の英雄と前領主だったんだ。」

「そして今は落ち着き、前領主か英雄の住まいがあそこだと…貴族どころかどっちにしろ英雄の家じゃねぇか。どうするか、引っ越すか、誰かが住んでるなんて噂になったら落ち着けなくなる可能性があるな。」

「ふふふ、魔王を撃退した英雄様が何を言ってるのやら。まぁ前領主の家だよ、あそこは。」


本当にしたたかな現領主だ、まぁ疑いもせずに住む俺達も俺達だけど!

しかし2人の英雄とな、20年前となると現在いくつくらいなんだ?既に亡くなってるのかな。


「あら、本当になにも知らないのね、2人ともあなたの元にいるわよ。」

「ちょっと失礼」


…俺は考えるのを放棄してお姉さんに見えないよう移動して妖天を召喚した。


「わわっ、ここは?知也様?」


勢いでやってしまったが着替え中とかじゃなくて良かった。


「さて妖天、急ですまないがこの街の歴史を学びたいと思うんだ、すまないが講師になってくれないか?」

「えっ!?」

「傍観者であるはずの巫女がまさかとは思うが、遠巻きに介入するならいざ知らず、好き勝手に堂々と介入してるなんて事ないよなぁ?あとこの街の歴史を意図的に話さなかったと踏んでるんだがその辺はどう考える?」

「えっ!?えーっと…」


急に呼び出されて混乱してるのか、それとも突然の突き上げに慌てているのか。

まぁ後者だろうな、目が泳ぎまくってるし。


「まぁ妖天様、いらしていたのですか。」

「クラリス?てことはここは商工所ですか。」

「迷子ですか?今やこの街一番の古株なのに。」


お姉さんの名前はクラリスと言うのか、知り合いな辺りやっぱり顔が広いな妖天は。


「い、いやですねぇ、そんな私なんぞが古株だなんておこがましいですよ!それよりもどうしたんです?キリエ様まで、しかも通路でなんて。」

「20年前に起きた戦乱での妖天様の活躍をトモヤ君に伝えようとしてたところですよ。」


20年前と聞いて妖天の顔色が見る見る悪くなっていくのがわかる、どうやら過去のことは掘り起こされたく無いらしい。


「に、20年前ですか、あの時は酷かったですねぇ。クラリスもまだ小さくて何かある度に泣いてたわよねー。」

「もう、何言ってるんですか、でも剣神スフィアとして駆けつけてくれたあの勇姿は忘れられませんよ。そういえば、なぜあの時はスフィアと名乗っていたのですか?」

「ほぅ、剣神スフィアとな。」

「えーっと…それはですね…。」


懲りずに話題替えに食い下がるが妖天の願いも虚しくドンドンと過去の話が出てくる。

そして妖天の様子はというと、顔から汗が大量に出て、心なしか膝が震えている気がする。


「クラリスさん、商工所の会議室って勝手に使っていいのか?」

「空いていれば基本自由に使っていいよ。今の時間帯は小さめの部屋は結構空いてると思うよ。」

「それじゃあ妖天、ちょっとだけ話聞かせてもらおうか、クラリスさんも是非どうだろう。」

「ええ、妖天様のお話ならどんとこいよ。」

「クラリス…あの、その…」

「さて妖天、行こうか」

「はい…」

「妖天…何をしてようと私からは特にお咎めとか何も考えてませんからね。お母さまからも何もさせませんから。」


キリエが妖天にフォローを入れるが妖天の顔色は晴れない。どうやら罰とかを恐れているわけでは無さそうだ。

さすがにここまで来ると抵抗するのを諦めたのか反論せずにトボトボと会議室へ向かう。

全員着席すると妖天から口を開く。どうやら覚悟を決めたようだ。


「最初はこの街の人たちをこっそり助けてたんです。ですが私の噂が直ぐに広がってしまって…」

「そうなのよー、妖天様ったら変なマスクなんて付けて飛び回ってて、あの時子供達の間で剣神スフィアごっこがすごく流行ってたわよねぇ。決めゼリフも格好良かったから当時の子供は皆一緒になってやってたわねぇ。」


あ、これは黒い歴史ってやつですね。なる程、それは確かに隠したくなるな。さてどうしようかな、この時点で既に妖天のライフがマッハでやばい、俯いてプルプル震えている。なるほど、恥ずかしさで震えていたのか。

妖天の最初の覚悟も虚しくクラリスからの予想を上回る容赦ない口撃が妖天を襲う。意を決したのに自分のペースで話せなくなるのって辛いよね。

流石に可哀想になってきたから話題を変えてあげるか。


「わ、わかった。なにが起きたかはわかった。それで、20年前はどこと争っていたんだ?」

「その時は魔族、獣人、竜人、魚人の四種族だったわ。ただ裏で魔族の魔王が残りの三種族を操ってたって話だけど。」

「攻めてきた所はまだ存在するのか?」

「全部あるわ、ただし獣人の国と魚人の国はほぼ壊滅状態だったから、こちらから復興支援中よ、両国共もうそろそろ落ち着くと思うけど。」

「竜の方はこの間見てきたけど、そんな素振り無かったなぁ。」


話題が変わったと見るや妖天の顔から安心感が滲み出る。


「いえ、竜人は国ごとでは無く一個師団の規模でした。どうやら魔王に操られてか煽動されてか分かりませんが、ドラグニアのほうでも同胞の救助もしくは殲滅で動いていて、まぁ結果的に挟撃という形で魔王軍と対立してたのですよ。あっちは遠天が主導で動いてましたよ。」


殲滅か…竜王も断腸の思いだったんだろうなぁ。若干チャラそうな竜王の姿が思い浮かぶ。あれが胃を痛めてたかぁ。


「んで、肝心の魔族と魔王はどうしたんだ?」

「それが…突然魔王がいなくなりまして、前線に出るタイプでは無かったので、所在が全然掴めなくなりました。…神代の力も感じられなくなったので死んだのは間違いないとは思いますが、未だに理由がわからないのです。」


小声で妖天が補足をいれてくる。所在が掴めないのは嫌な感じだな。戻ったらリュンにでも聞いてみるか。


「それで魔王ボスが急にいなくなって、弱体化したお陰で終戦に持ち込めたのです。魔族は自国領へ完全撤退しましたが、どうやら同じ仲間に処刑されたようで、魔族からも降伏というか休戦の書状が届きました。そしてこの城塞都市の防衛は世界中に広がり、色んな国からの支援が来て一気に復興していったのですよ。」


なるほどな、ある意味魔王を退けた街だったのか。この間のブラッドの件といい魔王と縁があるのかこの街は。


「知也様…ブラッドの件は知也様が呼び寄せたものですよ?」

「それを言ってしまうと、エリオーネがいなければそもそもこの街に俺が来なかったかもしれないんだぞ?」

「うっ…それもそうですね。」


妖天の突っ込みを適当にあしらう。

まぁブラッドの言葉が本当なら今後も色々な魔王と出会うだろう。こっちの存在モロバレっぽいし。


「あと支援だけじゃなく英雄2人への決闘申し込みも中々酷かったですよねぇ。今は月一あるかどうかですか?」

「そ、そうですね。そのくらいですよ!」


決闘とかあるのか、それは面倒だな。妖天はちゃんと受けて上げているらしいが、まぁ余程の事が無い限り妖天が負けることは無いだろうけどカミュみたいな突出したやつが来ると怖いよな。

てか何を慌ててるんだろう。


「それで、トモヤ君と妖天様はどっちが強いんだい?」


クラリスの何気ない疑問が飛ぶ。まぁ気になるよな。


「妖天だな。だって俺レベル1だし。」

「知也様ですね、多分この世界で勝てる者はいないでしょう。ってレベル1!?」


俺のレベル1発言に皆びっくりしている。

そう言われてもな、ステータス先生が頑なに変えてくれないんだよ…



リアルプロジェクトに巻き込まれorz


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