12・PM、ここぞとばかりに趣味を押し付ける
「さすがに広いなぁ」
領主邸までは馬車で20分くらいで到着した。流石領主、うちとは比べ物にならないくらい広いな。
「街政にも使用してますからね、あと騎士団の宿舎もここにあります。」
エレナが解説してくれる。本当にこの街の中心みたいだな。さて料理長は厨房かな。
「あ、すいません、料理長も呼び出しますので、一緒に領主執務室まで来てください。」
「いいのか?急な訪問なんだ、俺から料理長の所へ出向くぞ。てか領主の都合は大丈夫なのか?」
「いえ、いいんです。領主交えて話してもらった方が気が楽です。領主の都合は知りません。」
「そ、そうか。」
お言葉に甘えて俺たちは執務室へ向かう。到着するとエレナが執務室のドアをノックする。
「エレナです。トモヤ様とキリエ様をお連れしました。」
「入っていいぞ。」
「失礼します。」
俺たちは執務室へ入る。思ったよりもゴージャス感が無い。多少の装飾はあるが、綺麗に纏まっている。俺好みの素敵な部屋だ。
「ようこそトモヤ様、キリエ様、何もない部屋ですが、ゆっくりしていってください。」
「突然の訪問すまない領主様、料理長へお願いをしたく伺いさせて貰った。」
「仕入れルートの件ですね、以前からエレナに伺っております。ご安心ください、選りすぐりの業者を紹介させていただきますよ。」
話が早すぎて逆に怖いな。うまい話には…てのは考え過ぎか。
「お待たせしました、業者のリストをお持ちしました。」
料理長が資料を抱えて部屋に入ってきた。結構あるな…大変そうだから先にサンドイッチを渡しとこう。
「これは?パンのようですが中に具材が…」
「これはサンドイッチと言って、手軽に食べれるパン料理です。このように手で掴んで食します。」
「なるほど、これなら片手間でも食事ができますな、早速頂いても良いですか?」
「どうぞどうぞ、そのためにお持ちしたんですから。」
領主と料理長がハンバーグサンドを口に含む。
「これは驚いた。牛肉ですが口当たりが柔らかく臭みもない。パン生地と相まってバランスよく仕上がっている。ここまで柔らかくできるとは、お酒に付け込んでいる以外に何か方法が?」
「なるほど、この品質でこの手軽さ。これは我らの食生活が一変するな。」
さすが料理長、酒に付け込んで柔らかくした、までは合っている。ひき肉の作り方なんて一見簡単だが、思いつかなきゃ出来ないものは出来ない。
まぁ変わって貰わないと困るな、曲がり何も革命を起こそうとしているからな。本当に小さな一歩だがここから大きくやっていくつもりだ。
「ありがとうございましたトモヤ様、キリエ様。とても美味しゅうございました。」
料理長は頭を下げる。本当に素直な人だ。だからこそ信頼しようと思う。
「料理長、すまないがキリエに仕入れについて軽く説明してくれないか。需要と供給についてや季節の違いなどは要点だけでいい。あと料理長が贔屓にしてほしい問屋とかあったら教えてくれ。なるべく優先して使いたい。」
「わかりましたトモヤ様。ではキリエ様、こちらの席で説明いたします。準備はよろしいですかな?」
「はい、料理長!よろしくお願いします!」
「ふむ、元気とやる気に満ち溢れていて素晴らしい。これは教え甲斐がありそうだ。」
よし、キリエは料理長に任せよう、さてこちらは店舗についてだ。
「トモヤ様、出店予定地はもうお決めになったのですか?」
「一応エレナに見せてもらった場所だが、貴族街と平民街の境目あたりの元レストランか、ギルド前の元宿屋のどちらかにしようと思う。」
タイミング良く正樹達の回答を持って金光が来た。
「さて失礼するぞ。正樹達の回答も4番目じゃったよ。」
「じゃあ元レストランで決定だ、必要な手続きを頼む。」
「申し訳ありません。本来は事業失敗した土地などは紹介しないのですが、あの料理を知ってしまった以上、うまくいくのではないかと希望を持ってしまったのです。」
構いはしないさ、敗戦処理は慣れているからきっと大丈夫さ。
「開店はいつ頃を予定しているのです?」
「試験運用を明日から、本格的な営業は一週間後を予定してる」
「なんと…店の方はもうご覧になられたのですか?」
「まだだ、店の状態はどんな感じでも大丈夫だ、先ずは店頭にて販売を行う。」
「なるほど…それでこのバスケットなのですね。」
その通り、基本持ち帰りとして、休憩を必要とする客には店頭のベンチでコーヒー等のドリンク提供だ。
料理を簡単に持ち運び出来るからこそ出来る方法だ。
何も宣伝してないから1日50位来るなら御の字かな。最初はそれで良い、こっちも本格的に準備し、整い次第口コミで広げていく予定だ。
準備と言えばキリエは大丈夫かな。
「キリエ、どうだ、仕入れルートは何とかなりそうか?」
「知也様!明後日以降から大丈夫だと思います!実際に業者様に会ってみてお話をお伺いしてみます!」
「…もう教えることはありません。むしろ今後は私からご教授頂く形になりそうだ。我々の抱えている問題点もどうにかなりそうですぞ。」
もう料理長のお墨付きなのか、よし、実践あるのみだ。とりあえず明日と明後日分くらいは街の商店街で材料調達だな。
「それじゃあ、明日ひっそりとオープンしてるから、暇なら様子見に来てくれ。食事とデザート位は提供させてもらうぞ」
「それは魅力的なお誘いだ。是非お伺いさせてもらいますよ。」
俺達は領主邸を出て、先ずは出店予定の店舗を見に行く。
店の前に到着すると正樹達がいた。既に色々と見てくれてるようだ。
「これは、明日にでもお店開けますね。」
「そんなにか、屋敷の時といい、仕事が早いな。その分どこか中途半端になってないか?」
「お店自体は物凄く綺麗ですよ、多分私達がここを選ぶのも織り込み済みだったのでしょうね。」
「…食わせ者過ぎだなあの領主…店構え出来てるなら先に言えよ。」
俺達は中に入り内装を確認する。多少はレイアウトの変更はした方がいいかもな。その辺は実際に動く文香達に任せよう。
俺達は店舗を一通り見てから買い出しへと繰り出し屋敷に戻る。
夕食を済ませたら明日の営業開始に向けて全員を食堂へ呼んでミーティングを開く。
「それでは各チーム報告を頼む。先ずはレシピ、メニュー考案と仕入先確保チームから。」
「はい!レシピとメニューについては知也様にて既に作成済みです。プレオープン終了までは私と知也様で調理全般とレシピの検証をしながら手順の確立をします。その間にも人員の増強と教育を盛り込み、本オープンまでには個人の負荷をなるべく排除します。仕入先ルートについては明後日以降に仕入れ開始の目処をつけている状況です。あとは売り上げ状況を見て調整する予定となってます。以上です!」
キリエが緊張しながらもハキハキと説明するが、初めてにしては堂々としたものだ。
「すごく緊張しました…」
「素敵よキリエ、出来る女って感じでいいわ。」
エリオーネ…子供の発表会じゃ無いんだから、あと拍手やめろ、親バカか。
「…質問がある者は?」
「質問では無いけど、屋敷とお店に冷蔵庫の設置は済ませたわ。食材の持ち具合も変わってくるはずだから仕入れの調整も楽になると思うわ。」
「桃花様ありがとうございます!」
キリエにお礼を言われ桃花が少し照れている。
ようやく冷蔵庫が設置されたか。動力が気になるが…
「他に無ければ次は市場動向調査チーム」
「はい、それについては僕が。先ずは競合店ですが、今の所いません。しばらくは独占市場となるでしょう。喫茶店に近い形態のお店はあるのですが、どこも酒類が必ず入っております。まぁ昼から酔っ払いがいますので女性子供はまず寄らないですね。それと周辺の食事情は基本質素ですね、特に貧困という訳ではなくメニューの確立がされていないものと思われます。それは平民と貴族関係ないですね。お抱えのシェフがいない限りはどこも似たような感じでした。今回出店する場所についてはシェフまで抱えきれない中流層が多いので貴族方面にも十分相手ができるでしょう。あとは人気商品は直ぐになくなる傾向があります、買い占め防止に初回は数量制限を設けた方がいいですね。」
正樹が簡潔に状況の説明をする。息継ぎタイミングが分からなかった…、しかも抑揚しっかりしてたから意外と耳に入ってくる。
貴族層と市民層の確執が無ければいいんだが。あと買い占めは確かに考えられるな。
「質問がなければ、次は店舗運営チーム」
「はい、皆さんの制服を用意しましたわ。勤務者はこれを来て仕事をするように。」
そう言うと柏天は二着の服を取り出す。
男性用は普通のウェイター服みたいだな。
女性用は…少し短めのゴシックスカートにニーソックス、少しお腹が出るくらい短めで装飾のついた緑色のカッターシャツ…完全に俺の好みです、ありがとうございます。てかウェイトレスの格好じゃ無いだろ。
「ちょっと扇情的すぎんかの?」
「これは知也殿の奥方からの提案なのだよ。」
「(知也の好みか)じゃあ仕方ないかの」
折れるの早いな金光!最初に何か呟いてなかった?
まぁご都合的に可愛い子ばかりだから目の保養になるね!
止めさせる理由がないから放置だ!
「次にスターティングメンバーの割り振りよ。旅組も最初は入って貰うわ。本格的な営業に向けて人員の確保は急務よ、一応募集はかけてるわ。」
柏天が俺にメモを渡し、それをウィンドウ化する。
ウェイター、ウェイトレス
正樹、金光、秦天、妖天、ブラッド
会計、バックヤード
柏天、董天
厨房
知也、キリエ、文香
搬入、搬出 兼 厨房
金光、エレナ
監督者 兼 ウェイトレス
桃花、エリオーネ
ふむ、一人(一匹)を除いて妥当だな。そして意外と人数多いな。
「因みにエレナ嬢は街政からの使者よ。まぁ用は監査ね。安定運用するまで手伝ってくれるそうよ。」
そっちよりもブラッドの配置が気になるんだが。大丈夫なのか?表に出すのと料理運搬とどっちの意味でも。
「あたしも手伝うよー?」
「リュン様に手伝ってもらうなんて恐れ多いですわ」
「柏天って知也の上司なんでしょ?じゃあ私のほうが立場が下よ?」
柏天が慌てて止めに入るが、上司設定に阻まれる。今更遠慮することないのになあ。
「よし、じゃあリュンはウェイトレスな、頑張ってくれよ」
「わかった!さすが知也話がわかるねぇ」
まぁやりたそうな顔してたからな。顔は可愛いから表に立たせるのに文句など無い。
性格も明るくハキハキとしてるから客受けも良さそうだ。
「知也ちゃん、さすがにリュン様を働かせるのは…」
「エリオーネが心配するのは分かる。だが俺もエリオーネや董天達、神を働かせようとしてるだろう?どう違うんだ。」
必殺の開き直りを実行する。今更感はあるが俺からするとお前等も相当立場違うからな?
「それはそうだけど…」
エリオーネは困った顔をして呟く。不安はあるだろうが大丈夫だ、保険もちゃんとある。
「安心しろ、何かあっても真名の契約で縛ってるからどうにでもなる。」
「へ!?リュン様を?冗談でしょう?」
「あたしは知也の奴隷だよーって言ってるじゃない。本当だよ。」
どうやら冗談で言ってたと思っていたらしい。金光と妖天は頭を抱えている。どうやら本当にエリオーネに言ってないらしい。
「リュン様!どうして真名を教えたんですか!エルマが滅ぶかもしれないんですよ!?」
「それブーメランだからなエリオーネ。」
「この次元だけの問題では無いのです!大きく違います!」
「規模だけの問題だろ、俺からするとそんなに変わらん。」
後ろで金光たち十天君が胃をキリキリさせてる。まぁ隠し事して抱え込むよりぶっちゃけたほうが楽だろ、すまんがもう少しだけ我慢してくれ。それにリュンを使って悪さなんてしないって。出来たとしても人間の想像範囲だ、止めれるだろ?
「金光に妖天…あなた達は知ってましたね…何故報告しないのです。」
「知らなかったのじゃー、今初めて知ったのじゃー」
「そうですー、私たちも初めて知りましたよー」
お前ら嘘下手だな!本当に隠す気あるのかという棒っぷり。
ふざけているかというとそうでもない、顔は青ざめているところ見ると本当に余裕がないみたいだ。
「そうですか、では仕方がありませんね…」
まじか、それでごまかせるの!?エリオーネの優しさと言うことにしとくか…
「まぁ報告したにせよ、しないにせよ、どうにも出来ないだろ。」
「知也ちゃんは少しは自重してください!」
怒られちゃったよ、契約出来ちゃったもんはしょうがないだろう。
「大丈夫よ~エリーちゃん、何かあったら私たちが止めるから~、物理的に~」
「まぁ今の僕たちなら片手でヤれますね。」
正樹と文香がグッと力こぶを作る。
暴力反対!完全に力でねじ伏せる気満々よこの子達!
「やはり色々な命運が知也ちゃんに集まっている…私のせいで」
「気にするなエリオーネ、好き勝手やるだけだ、俺に責任を感じるならキリエの相手をしてやれ、もう一度言う、どうにも出来ないだろう?諦めろ。」
俺は満面の笑顔でエリオーネの肩を叩く。おちょくってないよ?素直な気持ちで言ってるんだよ?本当だよ?
「色々台無しよ!分かったわよ!もう…」
ウェイトレスを決めるのに一悶着あったが、人員配置が決まったな。
俺は柏天へ視線を当てる。柏天が軽くお辞儀をして次へと進む。
「それでは、次は営業日時のお知らせよ。基本365日営業で朝8時から夕方16時までよ。出勤時間は各班に任せるわ、ただ最初は店舗責任者は施錠をお願いする形になるから各班は勤務時間を事前に店舗責任者へ報告をお願いね。慣れていったら正樹殿と秦天と私も含めてローテーションしていくわ。」
桃花とエリオーネの負担がかからないようにしてあげないとな。
まぁ人数もいるし、勤務時間内で少し外しても大丈夫だろう。
「あと定期清掃は桃花殿と文香殿の力で常に保たれるので不要ですわ。あと二階もかなり広いので皆の更衣室と休憩場を設けてるので各班協力して使うのよ。」
そういって柏天が間取り図を書いた紙を渡してきたので投影する。レイアウト少し変わったな。清掃要らずって所も凄いな。
「店舗利用における最低限のルールは以上よ。今は各自のモラルに任せるわ、ただ人員が増えた際は変更するかもしれないから、そのときは回覧するわ。設営チームからは以上よ。」
「何か質問あるか?無ければ明日から早い、早めに寝るぞ!」
「「はーい」」
さて、俺も明日の開店をするため下準備をしてから寝るかな。その前に風呂だ風呂!
自分でお店やる場合って制服デッサンできるのかなぁと思う今日この頃