11・PM、領主邸に向かう
「本当に広いのねぇ、色々と楽しみだわ。」
桃花が空から戻ってくる。一回り見て回ったようだ。
ロビーに行くと文香と秦天と柏天がソファーに座っていた。
「おかえりなさい~知也さん。あれ?桃花さんは?」
「文香さん、こっちよこっち。文香ちゃんも本当に若返ってるのね。」
文香の目の前に飛んで現れる桃花。そりゃ人間サイズを想定してたら分からないよな。
「おお~、桃花さん天使だ~。なんでまた小さいの~?知也さんの趣味~?」
「そうよ、この羽根は知也さん作よー。」
「知也殿は実に不思議な趣向をもってるねー。」
「あれだけの実績を立てているのだ、普通なわけがない。英雄色を好むと言うからな。」
なぜか酷い風評被害を受けているような気がする。
とりあえずスルーしとこう。突っ込んだら負けだ。
「知也様!ようやく見つけました!街へデートです!行きましょう!」
キリエが爆弾投下しにやってきた。どうしてこうなった。
エリオーネもキリエと一緒にやってきた。
「桃花ちゃんもこっちに来たのね、その姿は?」
「もしかして辰子さん?この姿はこちらに来た時に勝手にこうなってしまったんですよ。」
あれ?エリオーネも想定外の姿なの?まぁ力も失ってるししょうがないか。
「妖精さん!?でも羽根だから天使さん?私キリエっていうの、よろしくね。」
「一応妖精だよ?、初めましてだよね桃花だよ、よろしくね。」
そういえばキリエとは初対面だったっけ、あと妖天とリュンも顔合わせさせとかないとな。
「桃花ちゃん、この子が私の娘よ。」
「辰子さんの娘だったのね、どうりで可愛すぎると思ったわ。元気でいい子じゃないですか。」
「ありがとう、桃花ちゃん。でもこういう風に接することを出来るようになったのは知也ちゃんと文香ちゃんのおかげなのよ。既にいい子だった、て言うほうがしっくりくるわ。」
そういうのは子供がいないときに話してやれよ、キリエが気恥ずかしそうに困ってるじゃないか。
「しかし、知也さんモテモテねぇ。さすがに自分の部長とその子供まで手を伸ばすのはどうかしらねぇ」
「ふふふ、桃花さん、それだけじゃありませんからね?」
「文香さん?まさか…」
俺の背中に冷ややかなものが走る。違う、俺は何もしていない。好意を寄せてくれてるのは嬉しいが、
決して手を伸ばしてるわけでも、ましては出してるわけでもない。てか今の会話で察するとか怖えよ。
桃花がアイコンタクトで「後でたっぷりと聞かせてもらいますよ」と言ってきてる気がする。まぁやましい事はしてないし、大丈夫だよ。大丈夫だよね?
「ただいまーみんな!そして知也ありがとうね、おかげで原因解決したよ!ビッグバン起こさないといけない事は変わらないけど、この次元を正常に元に戻せるよー!」
おー、正常に戻るのか、よかったよかった。ただ何故このタイミングで帰ってきたリュンよ。
いやマジで、頼む、俺が悪かった、何事もなくスルーしてくれよ!一番の爆弾がここに来た。
「あら?突然現れたこの子はどなたかしら?」
「おや?妖精?天使?またかわいい子に手を出したの?知也」
「また?知也さんどういうことかしら?」
おいぃ!それ俺の妻だから!語弊を招く言い方するんじゃねぇ!手を出してないだろう!てか桃花怖い!
「あたしの名前はリュンだよ。知也の奴隷なの。」
「私は桃花、一応だけど知也さんの妻よ。」
「それじゃあ、あたしの主人でもあるんだね!よろしくね桃花!」
「奴隷なんて取るつもりはないわ。普通に仲良くしましょうねリュン。知也さん、後で話があるわ。」
俺だって奴隷を雇う気ないからね!?てかリュンは悪ふざけしてるだけだから!恐れていた事象が一気に展開されたよ!期待裏切らねぇな!
そして桃花からの呼び出し方法が確実に伝わるためにアイコンタクトから直接言語に変わった。
俺たちが談笑?をしているとロビーに領主の使いの人が物件の相談にやって来た。
助かった!まずは話題の切り替えだ!みんなで資料を見るために大きいテーブルを囲う。
「トモヤ様、お店の場所について四つ程候補が出来ましたので確認をお願いします。途中でマサキ様達をお見掛けしましたので場所をお伝えしております。」
おお、自分で空き家を見て回ろうと思ったのに領主様は手回しが早いな。さすがやり手領主。
向かう前に場所と建物の情報を確認しようか、今の話だと建物は正樹たちが見てくれるだろう。
早速一つ目の場所は、ギルドに近い繁華街のような場所だ、人通りも多いし、立地的にも悪くない。
3階建てというのもすごいな。元宿屋らしい。そのまま宿屋も開けるんじゃないか?
「前の宿屋の人はどうしたんだ?」
「実は王都でも商売をやっていて、そちらの方に力を入れるとかで売却されたみたいですよ。」
ふむ、建物的にも問題ないし、何より食堂がついている。特別な改装は必要なさそうだな。
二つ目は、貴族街の一角にある場所だ。角っこだから色々やりやすそうだな。
こっちの世界の貴族ってどんな感じなんだろう。もしここで開店したら一般人は入れないとかないよな?
「もちろん、入れませんよ。」
「よし、却下だ。」
問題外だ。領主や料理長が気さく過ぎたせいでそんな感じしなかったが、やはり身分制度は厳しいんだな。
「しかし治安は守られますよ?安全にお店が開けます。」
「大丈夫だ、こっちには否応無しに世界征服できる面子がそろっている。」
「それもそうでしたね…あれ?この話、実は世界の命運かけてます?」
「まぁそうなるな。」
世界どころか次元レベルなんだよ。と言っても信じては貰えないだろう。
「トモヤ様、領主をやる時は是非私にご一報を、速やかに制圧を致しますので」
さらっととんでもないことを言ってきた。やらねぇからな!?
三つ目は、屋敷から近いな。1階建ての平屋か、建物自体は立て直しが必要だな。
だが土地が広いな、ここは馬車とか停めれるな。最悪改変の力で作るか。
「そこは立地が悪いというか…人も通らないので…ただすごく安くて広いんですよ!」
なぜ候補に入れたし。
四つ目は、貴族街と平民街の入口付近の平民街の方にある。建物は2階建ての1Fレストランで2Fが住宅になってるな。
「ここは普通に経営不振で潰れてしまいましたね。周辺貴族と折り合いがつかなかったのが原因と思われます。」
「貴族はやはり平民を見下している感じなのか?」
「そうですね、どうしても主従関係になりますので。」
閑静な住宅街と駅近の下町という感じかと思っていたがそうでもないのか。
貴族と平民の距離を埋めるには持って来いの場所だな。
「俺は一つ目か四つ目だな…、みんなはどう思う?」
満場一致で四つ目になった。みんなチャレンジャーだな。
あとは実際に建物を見てくれるであろう正樹たちの帰りを待つか。
「知也様、今日は外にいかないのですか?」
「いや、今の話で仕入れを早めに決めないとまずそうだからね。料理長に会いに行くよ。もちろん仕入れ担当のキリエにも参加してもらうからな?」
「わかりました!私の準備はOKです!」
キリエはぐっと胸のあたりでこぶしを作り気合を入れる。時間があれば物件も見るか。
その様子をみてエリオーネと桃花は軽くため息をつく。
「すっかり懐いちゃって…邪魔するのも悪いわね。」
「ごめんなさい桃花ちゃん。最初に心開いたのが知也ちゃんだから、私よりも知也さんにべったりで…」
「しょうがないですよ事情が事情ですもの…文香さん、屋敷を案内してもらってもいいかしら?」
「わかりました。お荷物などはお持ちではなさそうですね、屋敷案内後買い出しに行きましょう。」
「ありがとうね文香さん。」
「お安い御用です!」
桃花は文香にお任せするとして、出かける前に俺はみんなの昼食兼メニュー試食準備をしよう。
「トモヤ様、領主邸へ戻りますので料理長にお会いになるのでしたら、よろしければ一緒に乗っていかれますか?」
「良いのか?じゃあ遠慮なく。昼食を準備してから行こうと思うから10分ほど待ってくれないか。」
「かしこまりました。あの…差し支えなければお手伝いいたしますわ。」
「ああ、じゃあ一緒に作ろうか、えっと」
今更ながら領主の使いの名前を聞いていなかった。名前を知らなくても会話は成り立つからしょうがないよね。
そういや料理長の名前も知らないな。
「フフ、エレナと申します。よろしくお願いします。」
俺とキリエとエレナは厨房に入り昼食用のサンドウィッチを作る。あらかじめ下準備してたから挟むだけだ。
「このボウルに入ってる具材を挟むだけなんですね。」
「ああ、食パンを焼いていくから、焼きあがったら挟んでいってくれ。」
今回は複数の具を用意してある。どれを食べるか自分でも悩むな。
準備した分は全部挟み終わったようだな、あとは切るだけだ。
「知也様挟み終わりました!」
「よし、挟み終わったら次はこんな感じで切って食べやすくするんだ。」
俺は食パンを半分に切り込み長方形にする。
「そのままでもしっかり美味しそうですが、なるほど、こちらの方が間違いなく食べやすいですね。先日も三角形でしたがものすごく食べやすかったですし。しかし今回は長方形なのですね。」
「それはだな、このバスケットに入れるんだ。」
俺は丁度サンドイッチが並んで入るバスケットを取り出した。
「こうやって詰めて、ほら持ち運びも手軽にできるだろう。遠出するときはこんな感じで持ち運びするんだ。」
「なるほど、食事は作ったらすぐ食べるのが私たちの常識でしたので、これは盲点でした。しかも挟んだ具材がちゃんと見えて…すごく美味しそうです。」
「これは領主様へ渡してくれ。あとその様子だと時間はあるんだろう、食べていかないか?」
「わ…わかりました!是非お供させてください!」
各種類ごとに盛り付けられたお皿の前に商品名を書いたプレートを立てる。
よし、どれを食べようかな。さすがに全種類食べるのはキツすぎる。
「私は卵サンドとハムキュウリチーズを挟んだサンドにします。」
キリエは王道だな。それだけで足りるのか?まぁ足りなければまた取ればいいか。
「それでは私は先日頂いたハンバーグサンドにツナマヨネーズにいたします。随所に使用されておりましたがマヨネーズとはいったい何なのでしょう?」
ふっふっふ、プリンとケーキの次に来る秘策がこれだ。油はあったけど酢がなかったんだよな。代わりにレモンで代用してみたが思いのほか美味しくできた。これは売れるはず!
「すべては食べてのお楽しみだ、さぁ頂きます。」
「頂きます!」x2
因みに俺はハンバーグサンドだけにする。ここの肉はミンチにすると相性がすごくいい!少しお酒に付け込めば完全に臭みとれるし、歯ごたえとジューシーさが半端なくマッチングしている。思わずハマってしまった。
「先日食べたハンバーグサンドよりも美味しくなってますよ!臭みが全くありません!」
ハンバーグサンド定番化決定だな。
「卵サンドも美味しかったです。マヨネーズの酸味と卵の甘みが絡み合ってより濃厚ですごくいい感じです。」
卵サンドはサンドイッチ界の王様だからな。アレルギーや卵嫌いではない人で嫌いな人はあまりいないだろう。何よりマヨネーズが美味しくできたことが今回の勝因だ。
「マヨネーズとは酸味があるのですね…なるほど、ではこのツナマヨネーズサンドは少し酸っぱめですか。」
なんか言う割にエレナはサンドイッチに躊躇なくかぶりついた。その隣でキリエもハムサンドを食べる。
「これは、魚の風味こそ残ってますが…いえこの風味も合わせてこの絶妙な酸味とまろやかさ。これは美味しいです。」
ツナマヨ先生に抗えるのはなかなかいないぜ。ラーメンとか頼むときにツナマヨ丼とかあったら躊躇なく頼むからな!ああ、お米が欲しくなってきた。
「マヨネーズの酸味もいいですが、チーズもすごく美味しいです。ハムとチーズの濃さをキュウリが良い方向に口の中をさわやかにしてくれます。単体で食べると青臭いだけなので苦手ですが、これならぐいぐい行けます!」
キュウリ苦手なのに選んだのか、すごいな。そんないい子のキリエには追加でこれだ
じゃーん、プリンだ。朝に文香にお願いして氷をいっぱい作ってもらったから温度管理はばっちりだ。
「知也様!いつの間に作られたのですか!」
「こ…これは伝説の…いいのですか!?私のようなものでもいいでのすか!?」
凄い喰いつきだ。伝説でもなければ噂にもないただのプリンだ、遠慮なく食べてくれ。
「このために生きていた、そうに違いない。我が人生に悔いなし。いえ、願わくばもっと食べたい。」
エレナが涙目になりながらプリンを食べている。
悟ったようなこと言って超欲求に素直じゃねえか。まぁまだあるからいいが。
「知也様が創造主だったらよかったのに。」
それエリオーネの前では禁句ね、多分力なく崩れ落ちるよ、膝から。
食事も済んだことだし料理長のところ行こうか。
出かける前にロビーにいる金光に言伝を頼む。
「それじゃあ領主邸に行ってくる。厨房に昼食を用意しておいたから食べてくれ。店に出す予定のものだから後で感想聞かせてほしいってみんなに伝えてほしい。あとすまん、店の場所も正樹たちの意見も聞いておきたいから昼食後に正樹達に聞いて俺の所に来てくれないか。」
「わかったのじゃ、みんなに伝えておくのじゃ。後で向かうでの。」
金光へ言伝を頼むと、俺たちは領主邸へ向かうことにする。
仕事の合間になんて器用なことができなかったっす…