10・PM、妖精(妻)を仲間にする。
二時間くらいか、起きるのには良い時間だな。お腹空いた…。
俺はベッドから出て食堂へ向かう。
食堂入る所で正樹が出てくる。
「おはようございます。先輩」
「おはよう。よく眠れたか?」
「高級感あって落ち着かないですね。少し緊張してしまいましたよ。」
まぁまだ異世界に来てまもない、落ち着かないのも無理もないか。
「文香さんとエリオーネさんが食事の準備してくれてますが、かなり美味しかったですよ。」
「そりゃ楽しみだ。」
「先輩、またエリオーネさんにちょっかい掛けたんですか?」
「いや、何もしてないぞ?昨日はほとんどキリエといた。」
朝方ので雰囲気大分変わったのかな。それよりも何かある=俺というのは違うぞ?
「そうなると文香さんですか、大分緊張がほぐれたみたいですよ。文香さんのことですから解すまでエグい攻防があったんでしょうね。しかし予想より早かったですね、でもうまくいって良かったです。」
攻防?どう見ても一方的だったけどな!
そうか、正樹も感じてたことなんだな。解決して良かった。
でも別の意味でこの計画が失敗したら消滅待ったなしになったからね。
「僕はこれから妖天さんと董天さんとで街の散策に向かいます。何か個別で要件ありますか?」
「いや、大丈夫だ、よろしく頼む。」
「わかりました。それでは。」
俺はそのまま食堂に入る。カレーのいい匂いだ。
って、あるぇ?シチューじゃ無かったか?
「おはようございます。知也ちゃん。ささ、ご飯の準備しますから座って座って!」
「おはようエリオーネ。何か良いことでもあったのか?」
「分かりますか?でも秘密です!」
ウキウキしてるな、その反面俺はちょっとイラって来ちゃったぜぇ。
その秘密の一端を俺は知ってるが少し様子を見てこよう。
「おはようございます知也さん~ささ、どうぞ召し上がれ~」
「おはよう文香、美味しそうなカレーだ。」
厨房から文香がウエイトレスのようにカレーを持ってくる。
用意してくれたカレーを俺は早速一口食べる。美味しい!欧風カレーのように良く煮込まれてる。これはメニューに加えたいな。
そしてこれはお米なのか?日本の米よりも小粒で丸めだ、この世界のお米なのかな、食感似てるし。ただ少しぱさついた感があるが、今回はカレーと合わせてるから気にならないな。
「すごく美味しいよ。これはお店のメニューに加えないか?」
「本当?やったね文香ちゃん!」
文香とエリオーネがハイタッチする。微笑ましいな。
「エリオーネと文香で作ったのか、結構煮込んだだろこれ。」
「少しだけ早起きをして作ったんですよ~、誰かさんは二度寝しちゃいますし~、エリーちゃんが先ず先輩に食べて欲しいからって頑張ったんだからね~。残しちゃ嫌ですよ~」
これを残すなんてもったいない。うん?俺が二度寝したなんて何で知ってるんだ?
文香の顔が笑ってるけど目が笑ってない。ヤベェ聞いてたのばれてる!幸い今のやりとりで今朝俺が聞いてた事をエリオーネは気付いてない。食べ終わったらさっさと席を外して街へ繰り出そう。
俺は食べ終わって一息つくと、エリオーネにお皿を回収される。
「では私は食器の片づけに行きますね。」
「ああ、ごちそうさま。すごく美味しかったよ。」
そう言って俺は立ち上がって華麗に食堂を出ようとする。
そう、出ようとしたんだ。でも立てない。肩にがっちりと文香の手がある。
「まぁまぁ知也さん~キリエちゃんも後少しで来ますし、ゆっくりしていって下さいよ~」
「そうですよ知也ちゃん、ゆっくりしていってください。では文香ちゃん、食堂の片づけはお願いね」
「まかせろ~」
待ってエリオーネ!今こいつと二人にさせないで!ポンコツ神扱いしたの謝るから!
俺の願いはむなしく、扉が締められる。
「さて~、先輩。乙女同士の会話を無断で聞いた挙句、無かったように去っていったのは何でですかね~?」
「すいませんでしたぁ!」
下手な弁解は命を落とす。俺は即座に謝る。
全く、俺は偶然その場に居合わせただけなのに…この独し
シュッ
何かが真上から落ちてきた。よく見ると地面に穴が空いてる。
ヤベェ、すでに生殺与奪の権利を握られていた。
「もう~、良いんですけどね。本当は朝揉めるつもり無かったんですよ~。知也さんが聞いてたの分かったからちょっと攻めてみたの~」
あの時点で気づいていたのか、人が悪いな…あれでちょっとだと?
三人がエリオーネに抱いてた気持ちは一緒だったようだし、まぁ結果オーライかな。エリオーネの精神は大分削られたようだが。
「それで、力を返す気はあるの~?」
「ないな、今のエリオーネになら戻しても良いだろうが、それだと俺の目標が達成できない。」
「私たち地球の人間には過ぎた力よ~、使っていてよく分かったわ~」
散々使いこなしててよく言うぜ、まぁ言わんとしてることは分かる。
だが俺はこの状況を知ってしまった。変えたいと思ってしまった。
独善的な思いなのはよく分かっている。それでも「俺」がやりたいんだ。誰にも譲るつもりもない。
それが例え神だろうと。
「まぁ知也さん的には過ぎてないのかな~、便利な力位しか感じてなさそうだし。」
「俺はお前らより弱いし実感が薄いのかもしれん、そういう意味では俺を止める権利はお前等に委ねられてるのかもな」
火と水の力は凄いよな。二人がいるだけでエネルギー問題解決じゃん。
「そういえば知也さん、私の体に何か細工した。ものすごく体が軽いんだよ~、あと何だろう~、心も?何かすごくクリアなイメージ~」
「いや、何もしてないぞ。お前等に何かやるときは流石に事前に言うぞ。」
神代に足を突っ込んだからかな、真名も出来たし。
命名的にエリオーネの眷属になったのかな?でも金光達の名字?違ったな、今度リュンに聞いておこう。
俺と文香が談笑しているとガチャっと食堂の扉が開いた。
「おはようございます。知也様、文香様。」
「おはようキリエよく眠れたか?」
「不思議な感じでした!これが夢なのですね。プリンとチーズケーキに囲まれて幸せでした!でも起きたら無かったんですよ…」
ちゃんとまた作ってあげるからな…いっぱい食べさせてあげるから…俺と文香はホロリと涙する。
「おはようキリエちゃん~、カレーだけど食べる?」
「はい!先ほどから美味しそうな良い匂いがします。これがカレーの香りなんですね。楽しみです!」
「ほいさ~エリーちゃん、カレー一皿ご注文だよ~」
文香が厨房へ駆けていく。広すぎるのも考え物だな。
いつか全員に通信端末に変わるもの用意するか。
エリオーネが厨房からカレーを持ってキリエの前に置く。
「おはようキリエ、これがカレーよ、ささ、暖かいうちにお食べなさい。」
「おはようございますお母様!美味しそうな匂いです!頂きます!」
おや、キリエも吹っ切れたのか素直に母親へ甘えるようなそんな感じだ。歪な親子関係もこれで解決できると良いな。
さて、親子水入らずだ。文香の手伝いでもしてから街へ繰り出すか。
俺は厨房のドアを開けると文香が寸胴鍋をお玉でかき回していた。
「やっぱり今朝作ってたのはシチューだったか」
「あら~知也さん、ゆっくりしてればいいのに~」
鍋一杯に作ったシチューがカレーの匂いと混ざる。これはこれで食欲をそそるな。
まぁどちらかというとカレーの方が好きだけどね!
「カレーの方が好きだよって言ったら急遽作ることになったのよ~」
「いろんな意味で知ってたんだよな?作る前に言ってやれよ。」
「誰かさんのためとか自意識過剰ですね~」
鬼だよ、突っ込みに容赦がねえ。俺の心も容赦なく抉ってくる。
「旦那さんは大昔に亡くなってるから問題ないよ~?どうするの~?」
「どうも出来ねぇよ!?」
…本当に容赦ないな。残念だが俺は妻一筋。例え神でもブレはしない!
「冗談よ~、振られるだけだから辞めなさいって言っといたよ~」
フォローあざっす文香さん。流石にそういうの断るとギクシャクしてしまいそうで怖かった。まぁ…卑怯だな俺は…
とりあえず皿洗うか。
「あ、知也さん大丈夫よ~、水魔法でほいほい~」
あっと言う間に食器が綺麗になって重ねられていく。水分も残ってない。
食洗機すら要らないとは、まじ便利だな。一家に一台一文香
「一家に一台、どぉ~?買わない?」
文香に心を読まれた気がした。そして不覚にもドキッとしてしまったよ。
見た目は悪くないからな。偶に来る毒舌が小悪魔を越えて魔王レベルだからな、いつか心が折られそうだ。
「桃花と出会ってなかったら買ってたかもな。」
「いても良いじゃない~。二番目でもいいんだよ~。」
「冗談はほどほどにしろよ、それよりもその大量のシチューはどうするんだ?」
冗談じゃないのにと小さい声で呟いてる。本当に今日はどうしちゃったのこの子。
文香は気を取り直したように返事をする。
「シチューは何皿分か別によそってから寸胴ごと領主へお届けかな~。早く食べないと痛んじゃう。」
「やはり冷蔵庫が欲しいな、日持ちが悪すぎる。安定した需要供給がまだ見えないから仕入れの調整に苦労しそうだな」
「私が残れば解決なんだけどねぇ…」
文香は旅の生命線でもある。流石に飲食店経営のために旅のリスクを高めたくはない。
「早く色々回って解決しないとな、もしかしたら便利なものも色々出てくるかもしれないからな。」
「ところで、知也さん~、桃花さん連れてこないの?しばらく帰れないの分かってるんでしょう?」
「ああ、連れてこようとは思ってるんだが、店出してからからかなぁと思っててな。」
「早めの方がいいと思うよ~。お店開くなら桃花さんの力借りた方が絶対いいよ~」
ふむ…それもそうか。桃花の意思聞かないとな。まぁしばらくと言っても向こう時止まってるはずだし問題はないが。
「じゃあちょっと連れてくる。金光借りてくぞ。」
「了解よ~、金光ちゃんは多分ロビーにいるよ~。」
俺は厨房を出てロビーに向かう。ロビーのソファーに金光がちょこんと座って何やら資料を眺めている。
「おはよう金光、早速で悪いんだが地球に戻りたいんだがいいか?」
「お早うなのじゃ知也。よいぞ、奥方を連れてくるんじゃな。」
話が早くて助かる。俺は早速金光と森林奥遺跡から観測室を通り日本に戻る。
観測室の扉を開けると部長室だ。
「お帰りなさい知也さん、早かったわね。工場長も一緒なのね。忘れ物?まだ1分もたってないわよ?」
すっかり工場長設定忘れてたよ。この見た目で工場長とか(笑)
やはり時間を止めてくれていたか、戻ったときに浦島太郎状態じゃ困るからな。あと俺の姿が戻ってるみたいだな。
「こっちでは既に4日立ったんだが、こっち側は止まってたみたいだよ。それで桃花にも異世界へ来て欲しいんだ。」
「わかったわ、何か準備入るかしら?」
「大体揃ってるから大丈夫だ、必要なら取りに戻ればいい」
「異世界へ行くのね、ドキドキするわ。」
このやり取りを見て金光が溜め息を零す。
「知也あるところに奥方ありじゃのう…普通はパニックを起こすじゃろうに」
「あら、慌てても良いこと無いわよ、工場長も工場で災害や障害起きたときに慌てても良いことないって部下に教えてるでしょう?」
「それもそうじゃな 違う気もするが。奥方よ、私の事は金光と呼んでおくれ。」
「わかったわ金光、改めてよろしくね。私のことも桃花と呼んでね」
「分かったのじゃ桃花。よろしくなのじゃ」
挨拶も済んだことだし、俺は桃花にこれまでの経緯を説明する。
桃花はワクワクさせながら聞いている。本当は物凄く行きたかったんだね…
話も終わって観測室へ入る。入ったら目の前に広がる綺麗な青の星は、何度見ても慣れそうにない。
「あら、綺麗ね…良いわねこの場所…ずっと眺めていたいわ」
「そうさせてあげたいがすまないな、あの星へ降り立つぞ。落ち着いたら飽きるほど一緒に見よう。」
桃花が真っ直ぐこちらを見て微笑む。そのまま星と一緒に眺めていたいとかいうとキモイとか言われそうだから心の中でとどめておく。
「知也さん、この部屋に入ってからものすごく気持ちが軽いわ、何でも出来そうな感じよ。」
桃花の体全体が光り出す。直感で危険を察した俺は金光のまえに出て「目の前の脅威」から身を守る。
「大丈夫よ知也さん、この力は優しいわ…」
まじかよ、俺の中の何かが激しく警鐘を鳴らしてるんだが。何か試せるものはないのか、見ないことには安心できないぞ。
「桃花、これに力をぶつけてみるのじゃ。」
金光が指を指す先に大きな扉が現れ、中から古そうなフォークリフトが現れる。
「工場の備品じゃ、買い替える予定じゃったから煮るなり焼くなりしても大丈夫じゃ」
大丈夫じゃねぇよ中型クラスじゃねーか、いくらすると思ってるんだよ。
桃花が右手を前に翳し目をつぶると、右手に光が集う。
なんて言うことでしょう、フォークリフトが見るも無惨に削られていく。
…あっという間に存在がなくなった。優しいとはいったい。
「元素操作じゃな、創世の力に近いものがあるのぅ。」
「今のはブラックホールでも作ったか…ホーキング照射とか大丈夫か…」
俺は周辺にスキャンをかける。問題ないようだ。桃花自身のスキャン結果は
名前:結城 桃花(27)
レベル:99
職業:専業主婦
力:9999
…
戦力面でますます俺の陰が薄くなっていくな。どんな魔王も脳筋で行けそうだな。
元素か、色々便利そうではあるな。
「まだ終わってないわよ。」
フォークリフトの形をした光の線が構築されていき、色彩を描くようにフォークリフトが
復元していく。まじか、まるで新品のように輝くボディだ。ちゃんと動くのか?
金光が早速飛び乗った。フォークリフト好きなのかな?
「おおーすごいんじゃよ、レスポンスもいいし、インパネコンソールも見やすくなっていい感じじゃー。しかも物凄く静かじゃよー」
超喜んでる。でも気持ちはすごくわかる。新しい乗り物は心躍るよね。しかし動力がやばそうだから、とりあえずここに置いておこうか…いやせめて動力は消してもらおう。いきなり超重力発生したら困るぞ、対消滅って何?美味しいの?
「桃花、せっかく作り直してもらってすまない、動力だけは別のにならないか…」
「なんでじゃ~、いいではないか~。私はこれがいいのぅ」
金光が珍しく食い下がるが如何に危険なものに乗っているかを教えたらそっと降りた。
完全にオーバーテクノロジーだ。だが夢があっていいな、こういうのは憧れる。
地球に帰る時にこっそり何か作ってもらおう。とりあえず動力となる燃料?は消してもらった。
あれ?使用するエネルギーを安全なものにすれば冷蔵庫作れるんじゃね?
屋敷に戻ったらちょっと試してもらおう!
「さて、そろそろ地上に降りるんじゃよ、そこの魔法陣に立つのじゃ」
俺たちは魔法陣に立ち、地上へと降りていく。地上に到着すると俺の姿も変わった。さて桃花はどういう変化があるのかな。
「本当に若返ったのね知也さん。そして身長まで大きくなるなんて…」
「桃花…その姿は…」
小さくなっていた、若返ったとかいうレベルじゃなく、大きさでいうと2ℓペットボトルと同じくらいの大きさだ。一応見た目も若返ってる。
「まるで妖精みたいね、でも歩く歩幅が小さすぎて不便だわね。」
「まぁしょうがない、俺の肩にでも乗るか」
俺は桃花を持ち上げ肩に乗せる。物凄く軽い。
しかし迂闊に一人にはさせれないな。迷子になったら見つけるのに一苦労しそうだ。
「流石に常にこれというわけにはいかないでしょう?戦ったりするのよね?」
そうなんだよなぁ、まぁ正樹や文香もいるし、桃花自身も元素の力あるから余程じゃない限り動かなくてもいい気がするが…
「羽根を作ってみてはどうじゃ?反重力物質とか生み出せるじゃろ」
おお、素晴らしいアイデアだ。早速作ってみよう。イメージは鳥みたいな翼にするか、蝶みたいな翅にするか、はたまた小悪魔っぽく蝙蝠の翼とか。
妖精と言えば翅だよなぁ、でも俺昆虫苦手だし、鳥の翼にしよう!駄目そうだったら変えればいいし。
「よし、桃花、ちょっとくすぐったいかもしれんが我慢してくれ。」
俺は桃花に向かって翼を作るようイメージする。
桃花は自分の両肩を抱きながら必死に耐えている。相当くすぐったいようだ。
もう少しで完成だ、やっぱり色は白だよな。まずは誰もが思い描くスタンダードなものにする。
「ふう、終わったのね?どうかな?」
桃花は翼を広げクルリと回る。予想以上の破壊力だった。まさに天使。別の道が開けそうだ。
「手足を動かすような感覚で羽根も動かせるはずだ、動かすと同時に反重力が作用して浮くような仕掛けにしてあるから、少し慣れが必要だろうが思うまま飛べるよ。」
早速桃花がパタパタ動かして飛んでいる。いいなぁ、俺もつけようかなぁ…需要がなさそうだし辞めとこ。
だんだん慣れてきたのか動きがスムーズになっていく。宙返りまで披露できるようになった。
「金光、ありがとうな。これで移動手段もばっちりだ!」
「ああ、私も欲しくなってきたのぅ。今度お願いするのじゃ。しかし知也が作るとは思わなんだじゃよ、私は桃花に言ったつもりだったんじゃがの…まさか作れるとわ」
「そういえばそうか、自分で作ったほうが操りやすいもんな。桃花、不便だったら作り直してもいいんだぞ」
「せっかく知也さんが作ってくれたもの。この翼がいいわ」
桃花は翼を自分を囲うようにして抱きしめる。羽根がふかふかで柔らかそうだ。
あ…でも寝る時超不便そう。いけるかな?さすがにここで寝転がると汚れるから屋敷に戻ってからだな。
「さぁ屋敷へ戻ろう。広くて驚くぞ?」
そろそろお店開店ですよー