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鬼殺し  作者: 八尺瓊
3/12

第2話 サンダルをシュートしてみた

 ののかが、通学途中に出会った不良グループに靴を投げて、数日。

 あれから、ニュース、新聞、ネット掲示板などのメディアで情報収集をしたのだが、何も得られるものがなかった。

 自分からちょっかいをかけたわけで、警察が調査を行って学校指定の制服から学校に来てもおかしくないが、今のところ音沙汰はない。

 確認のために、通学途中一緒だった親友の真奈美に、靴を投げて不良に絡まれた事を覚えているかと聞いてみたが、まったく記憶にないようで、他に確認方法はないかと、あの朝に通勤していたサラリーマンのおじさんと顔をあわせてみたが、まったくの無反応だった。あの行動を覚えていれば、奇行を起こした自分に、警戒心を抱くはずである。

 夢で行動を起こして、気がついたら夢遊病のように学校のベットで寝ていたのかとも思ったが、手にしている証拠物件のおかげで、それはないと否定できる。

 つい、むかついてビリビリに破いてしまった手紙。あの後、思いなおしてセロテープで補修した。

 何度も読み返し、気が落ち着いた今なら、自分の行動の軽率さを反省できる反面、諦めきれない気持ちもある。

 

 ”会ってみたい”

 

 いつから、守ってもらっているとか、自分と女神様の話をどこまで知っているのだろうとか、聞きたくて仕方ない。

 自室で、もんもんとした気持ちを、チョコスティックお菓子のパッキーを食べて抑えている。

 いつもイライラした気持ちを抑えるのに、大量のお菓子を口にする。これも女神様がくれた体のおかげで、できる事である。

 母からスマホに夕飯だとメッセージが届く。

 学校から帰ってきて、19時まで、店の手伝いをして、今が20時。

 1時間はボーっと”護衛者”について考えていた事になる。その間ずっと、どんな顔をしているのか?性別は?年齢は?など妄想がどんどんふくらみ、結果出来上がった妄想の護衛者は2パターンに絞られた。

 超イケメンと、かわいい系の少年風男子の2パターン。

 超イケメンは笑った時にこぼれる歯からキラーンと光を放ち、アニメに出てくるような長身、美形、色白。

 かわいい系の少年風男子は、170センチほどで、服のセンスは抜群。どんな服でも着こなせ、美形、色白。

 黒光りマッチョはないわ~と口に出しながら、2階の自室から1階のリビングに降りてくる。

 テーブルに並べられた魚を中心とした和食に手を合わせながら、ご飯に手をつけていく。

 ふと目にしたテレビではドラマがやっていた。

 内容は実写では珍しく恋愛系の中に、ファンタジーが含まれた話だ。主人公の女の子は過去に死んでしまい、気がつくと別の世界で生まれ、新しい暮らしを始める。

 しかし、よくわからない組織から命を狙われ始め、その事を知る謎の人物に、助けられながらも、その謎の人物は姿を現さず影ながら自分を助けてくれる。そして誰ともわからない、そんな人物に恋心を抱いていくという内容らしい。

 ののかは、はぁとため息をつく。その理由はまったくリアリティが感じられない。

 一度も顔を見た事もない人を好きになるモノなんだろうかと、首をかしげる。

 だって好きになった相手が、60歳のおじさん、もしくはもっと年上の男性だったら?同じ女性だったら同性愛?まったくナンセンスである。

 自分に置き換えて考えて見るが、絶対にないなと苦笑してしまう。それに向こうから危険が来るわけではなく”護衛者”に会うには危ない事をしないと会えないような気がする。手紙を送ってきた事から直接会う事はできない規則になっているのか、よく分からないが、ののかと会う気はないと言うことだ。

 ”護衛者”に会うにはやっぱり危険を冒す必要がある。

 前世では、不慮の死を遂げて以前の記憶を引き継いで、女神様に転生させてもらったのに、人間を食う”鬼”から守ってくれる”護衛者”に会いたいがためにわざわざ危険を冒すのは、馬鹿のやる事だ。

 頭では判っているんだが、心が納得しない。

 葛藤の中、今はぐぅ~と鳴るおなかに、どんどんお母さんが作ってくれたおいしい料理を詰め込んでいき、十分おなかが満たされると手を合わせ食器を片付ける。

 のどが渇いたので、冷蔵庫を開けるがあいにく飲み物がない。

 

 「お母さん、飲み物ないんだけど?」

 「あぁごめ~ん、お茶を作るの忘れてたわ。ちょっとコンビニで買って来て」

 「もぅ」

 「お母さんは~ミルクティで」

 「お父さんはミルクコーヒー」

 「もぅ!!」

 

 二人の要望を聞いて、頬を膨らませののかはパシリに使われる事に抗議するが、少し大目のお金を手渡され、う~と唸りながら仕方ないと支度をして、家を出る。

 現在の時刻は9時を少し廻った所。家からコンビニまで約15分。

 近所なので、スニーカーではなくサンダルを履いている。

 住宅街なので、この時間はずいぶんと人通りが少ない。照らされている街灯は最新の防犯用で青色のLEDを使っている。

 その為か、少し薄暗く、心もとない気持ちになる。

 ようやく少し広い道に出ると、車の移動する音が聞こえて安心する。

 すごくいい街なのだが、人通りが少ないこの時間に出歩くのはあまり好きではない。あいにくと自転車はもっておらず、中学校も駅も家のすぐ近くにあり、少し歩けばスーパーも近い。親に自転車を要求するほどでもないので、こんな時だけに使ってもな~と思う。

 コンビニに着くとお客はおらず、自分ひとりのようだった。店員は40代ぐらいの小柄なおじさんがレジ前に一人。奥にも人がいるようだが、品出しでもしているのだろう。

 お菓子は今日の学校帰りに、大量に買っておいたので、スーパーより割高なコンビニで買う必要はないのだが、ここでしか売っていない限定商品を確認する。

 収穫0にショボーンと、うな垂れるが何かを特別期待していたわけではない。

 季節限定のスイカアイスに心ときめくが、定番のチョコミントも気になる。なかなか決めかねる自分の優柔不断さに苦笑いしながら、まずはカゴにお目当ての飲み物を入れて、そこから残高を計算し、あまったお金でさっき悩んでいたアイスは買えない事はないのだが、今日はあきらめる。

 レジ台にカゴをおくと、商品を気だるそうに手に取りながらバーコードを読んでいく小柄のおじさん。最後に会計を読み上げ、金魚の絵が描かれたがま口財布からお金を取り出す。

 あまりにおじさん店員がお客に対する態度ではないので、自分が暴れたらどうなるのだろうか?と思うが、ここで暴れてもな~と気を持ち直し、やる気がしぼんでいく。

 店を出て、ここしか近くのコンビニがないことに嘆きながら、途中後ろから騒音が遠くのほうから聞こえてくる。

 振り向くと、3~4台だと思われる原付バイクに跨った暇な人たちが騒ぎながらこちらに、向かってくる。

 おおぉ~珍しいと、思いながら、なぜか無性にサンダルをあの連中にシュートしてみたくなり、サンダルを少し足から浮かせて、右足を後ろに構え、狙いを定める。

 さっきのコンビニ店員にはなかった、やる気スイッチが入り、今の所無害な不良に対して首をかしげながら、何も知らずこっちに向かってくる先頭の原付バイクにめがけ、タイミングよく右足を振り切る。

 サンダルが、ヘルメットをしていない運転手の顔面に綺麗にヒットし、バランスを崩してガードレールに突っ込んでいく。

 当てる事を想定してサンダルを飛ばしたのだが、あまりに見事に顔面にヒットし、派手に大きな音を立てて、倒れ込む姿を見て、つい顔に両手を当てて声が漏れる。

 

 「わぁ~お」

 

 後続のバイクに乗っていた仲間たちも倒れたバイクに集まり、大丈夫かと声をかけている。ちょっとやりすぎたかもと思いつつ、自分が何もしていないような口調でだいじょうぶですか?と声をかけるが、もちろん相手の心配なんてしていない。

 血だらけの男が立ち上がり、こちらに向かってくる。

 しかし、どこかおかしい。

 暗い夜道のせいか、血の色が自分が思い描いているような色ではない気がする。

 

 「てめー、まじぶっ殺されたいのか?!」

 

 そりゃ、顔面にサンダルぶつけられてバイクで派手にこければ怒って当然だと思うし、一歩間違えれば殺人に繋がるだろう。むしろよく、あれだけ派手に倒れて死ななかったものだ。

 しかし、この手の人種は何度も見たことあるが、その時は正直怖いと顔を背けて小走りで通り過ぎた事はあるが、なぜか今は恐怖は感じない。

 

 (”護衛者”がいるからなのかな?)

 

 そんな思いが湧いてくるが、それとは別に、この目の前にいる男に対して、人と接している感じではなく、もっと違うなんともいえない気持ちが生まれ、絶対ここでひいてはいけないと男の怒り顔を真正面で受け止める。

 男はコメカミ付近に青筋を立て怒りをぶつけているのに、平然としているののかに、顔が引くつき急に目が大きく見開かれる。

 

 「てめ~何者だ?!俺らの事を知ってやったのか?!」

 

 男が急に何を言っているのかわからないが、ののかの態度に何か思う所があったようで、高圧的な態度は次第に目が細められていき、どこか殺戮的な雰囲気に変わる。

 

 「まあいい。どうでもいいがてめ~はここで証拠を残す事無く全部食ってやるよ」

 

 メキメキという骨がきしむ音を体から発しながら服が破れ、ののかの目の前には2メートルは超え、目が大きく血走っており牙が鋭く人間の顔をしていない、臭い体臭を放つ化け物が立っていた。

 ののかは初めて見る鬼に目を見開き、恐怖で声が出ない。

 頭は真っ白になり、行動が思いつかない。

 

 「フン!キザマ、なにをオドロイテイル?オレタチのソンザイをシッテイルノデはなかったのか?」

 

 所々、聞きづらい発音をしながら、腐った卵のような臭いをさせこちらに近づいてくる。

 ようやく、気を持ち直して逃げようとした時、腰が抜けてその場にへたり込んでしまう。

 

 (う、うそ・・・こんな時に)

 

 必死にもがきながら逃げようとするが、腰に力が入らずその場をジタバタするだけで移動できていない。

 刃物ように鋭利で長い爪が生えた右腕がののかの頭を掴もうと、こちらに伸びてくる。

 

 (だ、だれか助けて)

 

 震える唇からはうまく発音できない。

 バッサっという音がしたと思えば、大量の液体がののかの体に降りかかる。

 一瞬何が起こったのかわからなかったが、初めは、鬼の爪が自分を切り裂き、吹き出た自分の体液と思ったが、色が違う。緑色の液体が撒き散らされており、右腕をなくした鬼がののかから離れ、自分に攻撃したであろう人物に顔を向け吼えた。

 

 「ナニモノダキザマ!!」

 

 ののかが少し右を向くと、黒髪の180センチ以上の長身の男性が立っていた。服装は黒いスーツに白シャツを着て、夜なのにサングラスをかけており、テレビとかで見るボディガードを思わせる。しかし、ののかの目を引いたのは容姿ではなく、右腕の袖が引き裂かれ、そこには鎌のような突起物が腕から生えているように見える。

 

 「このまま去れ。今ならまだ間に合う」

 「ハァ?キザマにサシズされるオボエハナイ」

 「無駄に死ぬ事はないと言っている」

 「シヌノはキザマだ!」

 

 鬼となった男はなくなった右腕を気にした様子もなく、ものすごい勢いでサングラスの男性に向かっていく。

 

 「低級の同胞を相手にするのは、気が進まないがこれも仕事だ」

 

 サングラスの男性が、右腕を前に構える。

 つぎの瞬間、男性の姿がその場からいなくなる。

 

 「ギ・ザ・マ、ワレワレとオナジ」

 「そうだ。鬼だ」

 

 鬼が男性に襲い掛かる怖さに瞬きをした時、男性は鬼となった男の後ろに立っており、鬼が前かがみに一歩進むと、右肩から左腰に掛けて切れ目が入り、そのまま上半身が地面にずれ落ちる。

 そして、断末魔と共に、鬼はその場から黒い煙を上げて消滅する。

 他にいた鬼の仲間達も、別のボディガード4人に殺されており、一体何が起こったのかわからない、ののかはその場にへたり込んだままだった。

 男性がサングラスを取りながら、ののかに近づき声をかける。

 

 「無茶をなさる。奇行を起こすので注意してくれとは、話しには聞いておりましたが驚きましたよ」

 「あ、あなた達が”護衛者”?」

 

 男性は首を横に振る。

 

 「我々は雇われているだけです。依頼主があなたを監視できない時間帯を主に警備させて頂いております」

 「監視できない時間?」

 「依頼主とて人間です。24時間監視はできません」

 

 彼の言う事はもっともだが、”護衛者”が人間とは今初めて知った。

 それより気になる事がある。

 

 「でも、あなた鬼ってさっき」

 「鬼にも人間と共存を願っている一族がいます。鬼だからといって常に人間を襲うわけではありません」

 

 少し悲しそうな顔で、男性は言う。

 辛そうに話をする男性にののかは申し訳なく、頭を下げる。

 

 「ごめんなさい。知らなかったとはいえ、同族を殺してしまったのでしょ?」

 「今回に関しては良かったかも知れません。彼らは無差別に人間を襲っていた鬼ですので。我々とは相容れぬ存在です。一度人間を口にしてしまった鬼は、獣と同じです。人間の血に酔い、心がおかしくなってしまっている」

 「じゃあ、あなたは・・・」

 「ええ。まだ人間を口にしていません。しかし、私もいつかはそうなってもおかしくない」

 

 男性は夜空を見上げながら、寂しそうに自分の運命もそうなってもおかしくはない事をつげ、ののかに向き直り、手を引いて体を起こす。

 

 「ありがとう。な、名前聞いていいのかな?」

 「羽桐はきりといいます。しかしもう、あなたと会う事はないと思います」

 「どうして?」

 「警護対象者に接触してはならないと依頼主からきつく言われておりまして」

 「そ・・うなんだ」

 

 はっきりとは暗い夜道で確認できないが、男性は顔立ちがはっきりしており、鼻筋は通って、無駄な肉は付いておらず、鍛えているからだろうか、少しこけた頬が印象的で、正直好みである。

 もう会えないのかと、ののかは寂しく思いながら、右手を前に握手を求める。

 

 「さっきも言ったけどありがとう。少し判った事があるから、もうこんな事はしない」

 「そうして頂けると助かります」

 「けど、護衛者はあなたがいいな。こうやって少しでも話ができた相手に守ってもらいたい」

 「あなたは変わった人だ。私は鬼なのですよ?」

 「そうかもしれないけど・・・」

 

 言葉の続きが出てこず、下を向くののかの手に、別の手で包まれた暖かさを感じた。

 

 「そういって頂けるとうれしいです。またお会いしましょう」

 

 ののかが顔を上げると、そこにはもう誰もいなかった。

 手にはしっかりとぬくもりだけが残っていた。

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