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突き刺すような夏の日差しが、彼女の風邪を更に悪化させていた。



枯れたような痛ましい咳が出るたびに、肺炎のなりかけだと診断された彼女の体を苦しめた。



退院したというのに彼女の体は完全に健康だとは言い難く、頻繁に風邪を引いては小学校を休む羽目になっていた。




「いい加減にしなさい!!」



布団に入り休んでいる彼女の横に立ち、その子の母親は金切り声をあげていた。



「そんな咳、どうせ嘘なんでしょ?! 2週間も経っているのに風邪が治らないはすが無いじゃない! 起きなさい、いつまでも寝ているから風邪になっていると勘違いするのよ!!」




その言葉に従い、彼女は重い体を起こした。

何度も目眩と咳に苦しみながら、彼女は布団を畳んだ。きちんとしないと、また母親に怒られてしまうのだ。



買い物に出掛けた母親を見送り、彼女は頼まれた掃除と洗濯を済ませた。



途中、なんども目眩で倒れたが、助けてくれる人などいなかった。




彼女は夜、1人泣いた

目を瞑り暗闇の世界に閉じ籠ると、どうしてか涙が出てきてしまう様だった。


その原因は一目瞭然に思えるが、彼女には自分が何に悲しんでいるのか理解出来なかった。



『母親に怒られること』は、彼女にとって日常の一部でしかないのだった




彼女が中学生になった頃に、彼女の両親は離婚した。



それでも彼女は夜になると泣いた。


「苦しい」

「助けて」


胸の奥で何度も叫んでいた


顔を両手で覆い、何度も目を擦る内に目のまわりは赤く腫れ上がっていく。



枯れることの無い涙を流しながら、過去の記憶を遡る内に、彼女はついに母親から愛されていなかった事実を理解してしまった。




母親から愛情を与えられなかった、そんな彼女にも


高校生になり

親しい友達が出来た。


友達は無理なお願いをしては彼女を困らせたが、その願いを叶える事が彼女の生き甲斐になっていた。



友達の


「ありがとう」


と言って明るく笑う姿が、彼女は大好きだった。



それに、友達は困らせすだけでは無かった。彼女が困った時は手助けもしてくれた。





しかし、彼女が幸せを感じると過去の記憶がそれを阻止する。


突然、母親の怒鳴り声が間近で聞こえだし、彼女を苦しめた。



息が荒くなり、身体中の脈動が異常をきたす。身動きが取れなくなり、助けも呼べない。



そんな事態は必ず1人でいる時に起こる。

だからパニックになった自分を安定させる役目は、彼女自信だった。



彼女は崩壊しそうになっているのを無理矢理立ち上がらせ、必死に生きている。

ときには



「大丈夫」



と笑顔を作り、周囲に無理を悟られないよう努めていた。




母親にされたことを、彼女は依然、父親に話した事があった。



「そうか、すまないね。

気が付かなかったよ」



返ってきた言葉はそんなものだった。

冗談まじりに笑いながら父親は言った。





彼女が

リストカットしてしまった時も

近所に陰口を叩かれた時も

イジメがあった時も




父親は気が付かなかったと言って謝っていた。




それは彼女にも非はあった。彼女は辛い気持ちを人に話さない。それどころか隠そうとさえしてしまうのだ。




お陰で精神科へ行ったも返ってくる言葉は


「異常なし」




人に相談することは、人に迷惑をかけることだと彼女は思い込んでいる。





突き刺すような夏の日

母親にそう言われたから


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