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マリアの独り言  作者: 藤高 那須
第一章 始まりは産声から 幼少期編
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魔法と洗礼と神様

 お爺様の大泣きが終わってから数十分、私はお父さんにあるお願いをしました。


「私に魔法を教えて下さい」


 私がそう言うとお父さんやお母さん、そしてお爺様執事メイド達の顔が真剣なものへと変わりました。


「……マリア、お主の言っていることがわかっているのか?」

「ほぇ?」


 お爺様がさっきのユルユルな顔ではなくかなり真剣に質問をしてきます。

 え? 貴族は普通魔法や剣術を覚えるのではないのでしょうか? ひょっとして女性は黙って花嫁修業なのでしょうか?


「だめ、なの?」

「ち、違うんだマリア、マリアはまだ五歳なのに魔法を覚えたいって言うから正直僕達も驚いちゃって」

「そ、そうなの、でもやっぱり私達の子ね、まだこんなに幼いのに魔法が使いたいって言うなんて。いいえ、やっぱりこの歳だからこそなのかしら……」


 お父さんとお母さんが戸惑いながら私を慰めようとします。私はお母さんが戸惑うところをほとんど見ませんが、それほど驚くほどのことだったのでしょうか?


「まあ、そうじゃな、かわいい孫がそう言うなら儂達がなんとかしてやろう」


 お爺様が茶色い目を片方だけ瞑ってウインクをし、口元を少し上げて少し嬉しそうに言います。しかしその目の奥は少し哀しそうに私を見ます。気のせいでしょうか?





「それじゃあマリア、早速魔法の勉強を始めましょうか」

「……」

「ホラホラそんな嫌な顔しないの、実際にやってみた方が早いとか思われがちだけど、ちゃんと正しいやり方を覚えないと危ないのよ」


 とある貴族では、『習うより慣れろ』といった魔術師を雇って貴族の子供に魔法をさせてみたところ子供が魔法に失敗し大怪我をしてしまった。という話があったそうです。

 その魔術師はかなり腕が良かったらしいのですが貴族の子供を傷つけたことにより処刑されたらしいです。ちなみにその事実は揉み消され、ごく一部の人間しか知らないようです。



「そのことがきっかけで、魔法を教えるときは魔法を使う前に魔法について勉強をしなければならないという取り決めが作られたの、だから魔法の勉強をしましょ、まず魔法とは……」


「魔法とは『魔術』と『魔道』の二つに分けられていて、『魔術』とは主に相手を殺傷するために使われることが多い魔法で、殺傷をしなくても相手を洗脳、昏倒させるといった害を及ぼすような魔法もこれに入る。『魔道』とは生活の補助をするために使われることが多い魔法。他に『治癒魔法』や『浄化魔法』と、『魔術』と『魔道』両方に分類できる魔法もある。ほかにも『炎』や『水』の魔法などが両方に分類されるが、魔法協会が魔法の等級を定め『魔術』と『魔道』を分類している」


 ドヤァ、と私が魔法について説明するとお母さんは驚いた表情をします。


「そ、そう、凄いわね、いったいいつから魔法について覚えたの?」

「んーん、さいしょっから知ってたの」




††††††††††




「あなた、お義父様、マリアのことなんだけど」

「ああ、最初から知っていた。と言ってたんだね」

「……やはり、変えられぬのか」


 この薄暗い密室の中でジルシュ、クレア、そしてその二人の父親であり、マリアの祖父でもある、――前回の話に登場しマリアがお爺様と言っていた――『バン・ジャクス・ログベール』の三人が丸テーブルを囲んで話し合いをしていた。その内容とは、三人の大切な家族、マリアについてだ。


「しかしこのまま時がたつとこれ以上隠し通すことが難しくなる」

「もう、私達じゃどうにもならないの?」

「クレア、泣くな。まだどうにもならないわけじゃない、というよりマリアの方から魔法を教えてくれって言ってきたのは好都合だ、もしもの時のためにマリアにできるだけ魔法を教えなければならなかったんだ、むこうから魔法を覚えたいと言ってきた、と言えば少しは誤魔化せるはずだ」

「うむ、だが魔法だけでは心許ない、剣術も多少は教えておこう」

「そうだね。あとは、マリアが大きくなったら、念のためにあそこへ行かせよう。魔法学園に」





††††††††††





 次の日、私はお母さんにどこかへつれて行かれました。


「お母さん、いったいどこに行くの?」

「ええ、あなたが魔法を覚える前に絶対に行かなければならないところよ」

「そうなの?」

「ええ、詳しくは歩きながらにしましょ」


 お母さんの話では、私が行くのは教会――といっても信仰する神様はいません――で、そこで私は洗礼をするとか。


「せんれい?」

「ええ、でも、洗礼といっても体を清めるとかじゃなくて自分の神様を顕現させる。といった方が正しいわね」

「神様が出てくるの?」

「そうよ、洗礼の場で神様を顕現させ、自分の中に取り込むの、そうすれば魔法がよりうまく使える上に神様の属性によって特定の魔法が特化するのよ。いわゆる神の加護のようなものね。そして私達を身の危険から守ってくれる、そして私達は神様を守る、人生のパートナーのようなものよ」

「神様なのに、守られるの?」

「ええ、なんせ戦う相手が神様を傷つけられる力を持っている可能性だってある。実際にそういうことは多いのよ。そして仲間になった神様の名前を私達の名前につけることができる。私の場合は『ルドラント』という風の神様ね、それを短くして『ルドラ』という名を私の姓と名前の間につけるの。」

「じゃあお母さんは風の魔法を使えるの?」

「そうよ! すごいわマリア!」

「えへへ」


 お母さんが私の頭を撫でます。とても気持ち良かったのですが、その後すぐに教会についてしまいました。





「お久しぶりですクレア様」

「あら、私のことを覚えていてくれたのね?」

「ええ、それはクレア様はあの風の神『ルドラント』を顕現させたのですから」


 風の神『ルドラント』は大昔におこった山火事を風を使って吹き飛ばした神様だそうです。一部の地域では『嵐の神』とも呼ばれているとか。


「それで今回ここに来たのは……この子のことですかな?」

「ええ、そろそろこの子、マリアにもさせるべきだと思って」

「左様ですか。では、こちらへ」


 私達は痩せ細った、それでいて温かい雰囲気をもつ小皺が目立つ男性に教会の奥へと連れて行かれます。

 教会の奥はほとんど整備されてなく、少し怖い洞窟でした。

明かりは一定の距離をおいて蝋燭が壁に並べられているだけで中は暗いです。


「お母さん、これって誰でもできるの?」

「誰でも、というわけではありませんが、上は王族から下は平民まで、誰でも洗礼を受けることができますよ」


 お母さんに代わって男性、司祭様が説明します。

 確かに誰でも洗礼は受けられるかしいですが、みんなが同じ場所で洗礼をするわけではない気がします。


「……」

「ハハハ、やはり子供は鋭いですね。そうです、教会では洗礼の場が三つに分けられていて、それぞれ王族や位の高い貴族、位の低い貴族、平民といった感じで分けられています。別に私達が差別しているわけではありませんよ、そうしないととある方々が五月蝿いもので、そして私達の寄付もなくなってしまいます。なのでやむなくこうしたのですよ」



 まあ、最終的に着く場所はここなんですけどね。と司祭様は苦笑いをして言います。そんな大事なこと言っていいのでしょうか?


「着きました。ここが洗礼の場です」



 そこは、さっきまで続いていた洞窟が嘘のような場所でした。

 たしかにその場所もまわりは洞窟のような土や岩でできています。

 しかし、そこは何か不思議というか、神聖な感じのする場所でした。

 いいえ、この空間が神聖なのではなく、この空間を照らしていると思われる不思議な水がその神聖さを出しているのでしょう。

 その水がある場所は、まずこの空間のずっとこっち側にある丸い池。その池へ流れる細く短い川を伝っていくとそこにはこの池よりもとっても大きい湖があります。そして湖や池にある水をながしている滝

 その滝は壮大で、見るもの全てを呑み込むような、そんな勢いを持っています。


 いいえ、今この場でもっとも重視するのは池でも湖でも、その壮大な滝でもありません。

 その滝のもっと向こう。この神聖さを出している水を運ぶ滝が通る大きな穴の向こう。


「もしかすると、とは思っていましたが、まさかその先を行くとは」

「マリア、あの滝から流れている水がどこから来ているか、それはまだ誰にもわからないの」

「そうなの?」

「そうよ、あの水の始まりは諸説あるけど、この水は神の世界の水がここに流れていて、だから神は私達の世界に来ることができる。といったのが有力かもしれないわね」

 神様ってカナヅチなんですねー。と私が言うと、二人の顔がひきつっていました。




「さて、じゃあマリアちゃん、今から洗礼の準備だ。まずは……」


 私は司祭様に言われた通りに洗礼の準備をします。

 私は不安になってお母さんの袖を掴むと、お母さんは大丈夫、と言って私を励ましてくれました。



「さて、それでは洗礼を始める……」




††††††††††††††††††





「クレア、マリアの洗礼はどうだった?」

「なんとか無事に終わったわ……」

「そうか、まあ無事ならなによりじゃ」


 ここはどこかの部屋。ここで三人はいつものように話し合いをしている。

 この部屋の存在は今この屋敷にいる人の中ではこの三人しか知らない。いや、もしかするともう一人知っている人物がいるかもしれない。

「それで、マリアになんていう名前がついたんだい?」

「……『ルー』、『マリア・ルー・ログベール』よ」

「『ルー』、聞かん名じゃな」

「一度書庫や教会図書館へ行って似たようなものを調べてみるよ」

「ああ、頼む。儂も少し調べたいことがある、儂はそちらをやる」


 これからの方針が決まりすぐにその準備にとりかかろうとする。だが、一人だけ気持ちの上がらない人物がいた。


「クレア」

「わかってる。でも、心配なの。あの子がこれから逃れられない事件に巻き込まれ、辛い思いをしてしまうことが」

「うん、それは僕達も一緒だ。だからこそ僕達がいるんじゃないか」

「でも! もし私達がいなくなってしまったら!」

「そのときはっ!!!」


 クレアが大声をあげて言う。いつもはおっとりと落ち着きを持っているのに今はとても焦っている。

 ジルシュも焦る気持ちは同じだ。しかし自分達が今すべきことを一番よくわかっている。だからこそクレアの気持ちがわかっている上で彼は叫んだ。


「だからこそ、僕達は今すべきことをしなければならない。もし僕達がいなくなってしまう時のために僕達はマリアに教えられる全てのことを教えなければならない。クレアの気持ちはわかる。僕も今ここで泣き叫びたいよ」

「だったら!」

「でもっ!駄目なんだ! 今泣いてる暇はないんだ! 僕も泣きたい、叫びたい。『どうしてこの子なんだ!』って言いたい。でも」


 ジルシュの言葉がそこで途切れる。その顔からは涙が流れていた。


「僕は、これしかできないんだ。マリアを直接守る力が、僕には無い。だからこそ、僕は今出来ることを全力でやらないといけないんだ」

「あなた……」

「ジルシュ……」

「僕がっ、僕が一番悔しい。マリアが選ばれたことだけじゃない、僕が、僕がマリアを守れるだけの力を持っていないことが悔しいんだ!」


 彼はこの三人の中で一番力がないとわかっていた。昔から二人の能力の高さは嫌と言うほど見てきた。彼にとってはそれは些細なことである。一番嫌なのは、愛する娘を、傷一つ付けずに守れないこと。二人の補佐や情報収集は出来ても、守ることができないのは、とても悔しいことだった。



††††††††††††††††††††††




 今日はとうとう魔法の実践が始まります。

 そして今私は屋敷の庭でらんらんと目を輝かながら魔法の先生が来るのを待っています。


「~♪~♪」


 早く来ないかな~。もう待ちきれなくて自分だけでやりたくなってしまいます。

 しかし私はそのはやる気持ちをぐっと堪えて待ち続けます。

「よし、それでは魔法の授業を始めるかの」

「……」

「マリア、確かに気持ちはわかるけど顔に出さないで、お義父様が泣いてるから」


 私に魔法を教えてくれるのはなんとお爺様でした。

 お爺様はどちらかというと武闘派な感じで、その拳と剣で敵を薙ぎ倒して行くと思っていたのですが、まさか魔法主体だったなんて。


「お爺様の筋肉はいったい何なのっ!」

「ぐふぅっ」


 まったく、お爺様がその筋肉で相手を蹴散らすところを想像してお爺様かっこいいと思っていたのに、残念です。


「コホン。ま、まず魔法を使う前に魔法を発動する方法を教えるぞ」

「コクコク」

「よろしい。まず魔法を発動するためには自分の体内にある魔力を使う。しかし実際に魔力を使うのは至難の技でのう。例えば膨大な魔力をもつ大人がいたとしよう。だがその大人はいままで魔力をつかったことがない。だからその大人は魔力の使い方がわからず生活し続けてましたとさ」

「魔力あるのに、使えないの?」

「そうじゃ、そして使えない理由は、今までの生活の中で魔力をつかう必要がなかったからじゃ。儂の行った国にはのぅ、飛べないのに足の速い鳥がおったんじゃ、その鳥は足が速いから天敵からも楽々と逃げられた。つまりその鳥は飛ぶ必要がなかったんじゃ」

「必要のないものは、使わない?」

「そうじゃ。じゃがマリアは若い、まだまだ魔法を使える可能性はあるぞ」




「次は神の加護じゃが、マリアも洗礼は受けたじゃろ?」

「はい!」

「あの神の加護、良いことばかりじゃと思うが、一部の制限を受けたりするんじゃ」

「制限?」

「そう。例えば儂の神、名前は『ジャクスリッパー』。この神は風の魔法の強化、そして刃物を使えば全てのものを切断できる能力があるのじゃ」

「おぉ~」

「しかしこの神には魔術師として決定的な欠点があった。それは『魔法を使った場合に消費するのは、魔力ではなく体力になる』。まあそのままの意味で、魔力じゃなく自身の体力をつかって魔法を発動させるのじゃ」


 ああ、だからそんな体なんですね。


「ごめんなさい」

「いいんじゃいいんじゃ。とりあえず、神の加護にはそういうこともあるから気をつけるんじゃ」

「はーい」


 そしてお爺様に魔法についてのさらに詳しい説明を聞いた後、早速魔法を発動させる練習を始めました。




††††††††††††††††††††††




「うーん……」


「……お……ろ……」


「うん……」

「おーい……起きて~」


「だ……め……」


「なんだ?うなされてんのか?」


「おやつは一人三百……」

「おやつの話かぁぁぁい!」


「ん……だれ?」


 私が目を開けると。そこには暗いのになぜかはっきりわかる黒髪赤眼をしていて、年齢は二十代前半ぐらいの男の人が


「まったく、起きて早々俺をツッコませやがって」


 浮いていた。


「あ、へんじん」

「だれが変人だっ!」

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