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マリアの独り言  作者: 藤高 那須
第一章 始まりは産声から 幼少期編
3/40

五歳

 わたしがうまれてもう五年です。これくらいになれば、言葉もたくさん知っています。おかあさんに本を読んでもらったりして、ちょっとずつ話せるようになってきて、もう大人と変わらないくらいに話すことができるのです。

 ですが、大事なのは今はそこではありません。今日でわたしがうまれて五年たったのです。そうです。わたしは五歳になったのです。この年になればあの柵付きのベッドに入れられることはありません。自分の足で自由な場所に行って、いろんなことができるのです。


「私は今、自由!」


 お部屋の中を自由にとび跳ね、わたしの心の内の喜びを表現します。

 もう何もわたしを止めることはできません。

 柵がないから、こうやってベッドでジャンプしても手や足を打つことはないですし、ゴロゴロしてもぶつからないし、ベッドにダイブもできます。


「マリア、さっきから騒がしいけど……逆立ちの練習でもしてたの?」

「なんでもない」


 はしゃぎすぎてベッドから滑り落ちてしまいました。






 おかあさんに連れられて長い廊下をひたひたと進みます。


「おかあさん、どこに行くの?」

「ふふ、内緒よ」


 何度聞いても同じ返事しか返ってきません。わたしの機嫌はとっても悪くなっています。このまま何も話さないでいると、わたしのほっぺが破裂しますよ。

 そしてとうとうほっぺが大爆発を起こしそうなったところで、わたしは気がつきました。

 わたしは今日で五歳です。そう、今日で五歳。わたしがうまれた日。つまり、おかあさんはきっとこれからわたしがうまれたことを祝おうとしているのです。わたしに何も言わないのは、おとうさんたちが待ってる部屋でわたしをびっくりさせるためですね。


「ふっふっふっ」


 ですがそれももう失敗です。ずっと抱っこされているだけのわたしではないんですよ。わたしは今おかあさんを越えました。お返しとして、今度はわたしがおかあさんを驚かせます。


「いや~楽しみだなぁ。この先に何があるのかなぁ~?」

「……」

「むぅ」


 まったく反応しません。さすがおかあさん。このていどでぼろ・・は出しませんか。


「そういえば今日は何の日だったっけ? おかあさんわかる~?」

「さあ? なんだったかな~?」


 うまくかわされてしまいました。手強いです。

 しかしわたしには切り札があります。もう少し焦らして向こうから秘密を打ち明けさせるつもりでしたが、わたしはせっかちなので、ここで切らせてもらいます!


「おかあさん」

「だから行き先は内緒だって……」

「どうしてわたしを抱っこしていかないの?」

「っ!」


 おかあさんは会うたびにいつもわたしを抱っこします。歩く時もいつもわたしを抱いたまま離さないんです。そのせいで二歳になっても一人で立つことができませんでした。

 おかあさんは何か楽しいことや特別な日は嫌でも抱っこします。

 それなのにわたしがうまれた日の今日はわたしを抱っこしない。わたしを驚かせるつもりだったみたいですが、緊張してかんじんなところで失敗しましたね。


「ねえ、なんで?」

「……ふ、ふふふ」


 おかあさんは薄く微笑み、ゆっくりとわたしの方に手を伸ばしてきました。


「おかあ……さん?」

「なぁに、マリア?」


 すっと伸ばされた手をわたしはとっさに叩きました。今わたしが見ているおかあさんの顔は、おかあさんの顔なのに、おかあさんじゃない気がして、怖くなったわたしは逃げ出しました。

 でもほんの少し走っただけで疲れてしまいました。やっぱりおかあさんがわたしを抱っこし続けるからです。そのせいで体力がつかなくて、こんな時に逃げられなくなってるんです。

 やっぱり大人には勝てないわけで、おかあさんみたいな人は歩きだけですぐにわたしに追いつきました。わたしは腕を体に回され、脇に抱えるように持ち上げられました。


「やだ、やだぁ……おかあさんじゃないぃ」


 怖いのと頭が混乱しているせいで大声で助けを呼ぶことも出来ず、ただ泣きじゃくるしかありません。


「私の娘をなに泣かせてるのよ。私にそっくりの貴方」


 後ろから、またもやおかあさんそっくりの声が聞こえました。おかあさんみたいな人は後ろを見る間もなく、その人に顔を殴られ遠くへ飛ばされました。寸前で別のおかあさんに抱き上げられ、わたしは飛ばされることはありませんでした。


「おかあさんが二人もいる」

「何言ってるのマリア。あれを見なさい」


 指差した方を見ると、男の人が倒れていました。さっきの人はおかあさんではなくて、おかあさんに変装していた男の人だったのです。


「へんじんだ」


 変な倒れ方と格好をしていたせいで、私は指差して、そう言いました。




 その後、へんじんさんはどこかへ消えてしまいました。

 おかあさんは、とっても遠いお家に帰っていったと言っていました。

 怖かったけど、元気でね、へんじんさん。





 今日はわたしが生まれた日。その記念としてパーティーをやります。パーティーと言えば、絵本で見た、豪華な食べ物とか、きれいな服を着てダンスする風景が浮かびます。


「マリア、誕生日おめでとう」

「「「おめでとうございますお嬢様」」」

「うん」


 でもわたしのお家は全然そんなんじゃなくて、家族と使用人が数人――お家の使用人はこれで全員――という、思い描いていたのとかけ離れた質素なものでした。でもみんなが集まって、こうやって料理とかを精一杯頑張って、おめでとうと言ってくれたから、何も文句は言わないで、わたしはありがとうとみんなに返しました。


「おかあさん。おとうさんはどこに行ったの?」

「んー。おとうさんはね、さっきの変な人がマリアに会う前に眠らせてたの。でももうそろそろ起きてこっちに来るから待っててね」

「うん。待ってる」


 とは言ったものの、目の前においしそうな料理がある状態でずっと待つのは難しいことで、口の中にためていたつば(・・)がヨダレになってあふれ出そうとしていました。


「む~~!」

「マリア、我慢よ! もう少しでおいしいご飯がたくさん食べられるわ!」


 そしてとうとう口から大量のヨダレが……というところで扉の向こうから足音が聞こえました。どうやら走ってこっちに来ているみたいで、音が近づくにつれて食器や椅子がどんどん大きく揺れていきます。


「セーフじゃ!」


 颯爽と部屋に入ってきたのは、髪の毛やひげが真っ白なおじいさんでした。


「お久しぶりです。お義父様(とうさま)

「久しぶりじゃのクレアよ。儂がいない間何か問題でもあったかの?」

「いいえ、なにも」


 おかあさんのおとうさまということは、わたしのお爺様ということですね。あの短くてパツパツと逆立つ髪の毛はおとうさんに似ています。お爺様はおとうさんのおとうさんなんですね。


「ああっ、マリアっ、マリアよ、儂がマリアのおじいちゃんじゃぞおおお!!」


 そんなお爺様はわたしを見るなり目にも止まらぬ速さで近づいてわたしを抱き、その口のまわりのお髭でわたしのほっぺをジョリジョリしてきました。


「やあぁぁぁぁぁぁ!」


 痛い。とても痛いです。わたしは何度もお爺様のおでこをぺちぺちと叩きます。しかし、わたしと会えてとても嬉しいお爺様は、わたしが嫌がっていることに気づかずジョリジョリし続けます。

 わたしを助けてくれたのはおかあさんでした。お爺様からわたしを取り戻し、ほっぺたを優しく撫でてくれました。


「お義父様、マリアが嫌がってますよ」

「そ、そんなぁ……」


 おかあさんからわたしを取り上げられたお爺様はとても悲しい顔をしました。まるでわたしに捨てられてしまったような、悲しい目をしていました。


「やっ!」

「ぬ、ぬおぉぉぉ……!」


 それでも嫌なものは嫌なのです。わたしは膝を付いて天を仰ぐお爺様を無視しておかあさんに抱きつくことにしました。

次におとうさんが部屋に入ってきました。そして今までで一番の驚きの表情をするおとうさん。無理はありません。扉を開けた目の前には、人目を気にせず大泣きする大男がいるんですから。


「この人にジョリジョリされた!」

「ジョリジョリって、親父まさかマリアにまでその髭を擦りつけたんだな! あんたにはわからないと思うけどな、あれ結構痛いんだぞ!」

「うるさいバカ息子! お前にはこのマリアへの溢れんばかりの愛情が少ないからそんなことが言えるんじゃ!」

「なんだとこのバカ親父!」

「やるのか!?」

「やめなさい」


 おかあさんのグーによって、二人の喧嘩は終わりました。そして改めて、わたしの誕生日が祝われました。


「マリア、これは僕からの贈り物だよ。これは一人の貴族の息子と武術の天才と呼ばれた少女の恋愛模様を描いたお話で――」


 要するに恋愛系の本ということです。かなりの厚さの本で、おとうさんが言うには、二人の出生や国の騒乱など細かく書かれている、とても濃い内容となっているらしいです。

 おとうさんの解説は続き、主人公の貴族の息子が、貴族の名前を捨てた場面まできたところで、それが元々家の書庫にあった本だとバレてしまい、おかあさんとお爺様にグーされました。


「今度は儂の番じゃ。これは儂が遠い遠い異国で手に入れたそれはそれは素晴らしい宝石で――」

「やっ!」


 とりあえずお爺様の宝石は叩き落としました。さっきのジョリジョリの恨みです。


「ま、マリアぁぁあ!」

「自業自得なんですから泣かないでくださいお義父様。それじゃあ最後はお母さんの番よ」

「やった!」


 そうしておかあさんに貰ったのは、銀色の縦長の円盤に剣の装飾がされたネックレスでした。


「古い時代では、マリアくらいの歳になると子供は親から剣が与えられていたの。でも子供だと剣は持てないし、使うこともできないわ。いつか大きくなったその時に、その剣を取って戦えるくらいに、強くたくましく育ってほしいって意味があるの。でもそれは男の子に渡す物で、それに本当に本物の剣を渡すわけにはいかないから、ネックレスにして、お守りとしてプレゼントするわ」

「……ありがとうおかあさん!」


 私はまたおかあさんに抱きつきました。今回の勝負はおかあさんの圧勝です。

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