……いない
ハッシュと仲直りした後、私はハッシュとその母親であるおばさんの家について行きました。
「ほら、これなんかどうだい?」
おばさんは私に綺麗なドレスを見せました。これはおばさんの手作りらしのですが、これは下手したら男爵くらいの貴族の服よりもよく出来ています。
でも、私は絶対このドレスを着ません。何故ならヒラヒラしているから。
やっぱりね、見た目ではなく機能美を重視すべきだと思うんです。私にとっては綺麗な服より動きやすい服がいいんです。
それに対し何ですかこのドレスは、さっきからおばさんが動かすたびにヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラ……。
「うがぁー!」
「ぶっ」
あ、ヒラヒラしすぎで我を忘れてしまいました。あと腕を振り上げて拳が当たってしまったハッシュ、ごめんなさい。
「ど、どうしたんだいマリアちゃん!?」
「いやだ、ヒラヒラいやだ」
何はともあれ、私は動きやすい服がいいです。そういった服は必要最低限の時だけでいいんです。
おばさんに何度もドレスを着ることを拒否し、私は何とかこの動きやすい服のままでいられました。
「お前のドレス着てるとこ、見たかったんだけどな」
「着たくなった時に見せてあげる」
昼が過ぎたころ、ハッシュは私を秘密基地に案内してくれました。もう友達なんだから、見せてやる。ハッシュはそう言って私の手を取りました。
秘密基地、と聞こえはいいですが、要はそこらへんの大きな木にできた穴の中や、どこかの洞窟の中のことです。中にあるのは、せいぜい木の枝や食べ物くらい、ただみんなで集まるための、目印のようなものです。
そしてその目印に集まった子供は私とハッシュを含め七人。女の子が二人、男の子が五人でした。八歳くらいの男の子二人を除いて、他の五人――ハッシュも含む――は私と同い年くらいでした。
初めての一人での人との交流は、やはり初めてなことでいっぱいでした。
まず、村の近くの川でみんなで遊ぶことになりました。
川にいる魚を捕まえたり、水をかけ合ったりしました。結局、みんなの服が水浸しになってしまいました。
森に入りました。私が言うのもどうかと思ったんですが、森の中は危険だと言っておきました。でも、この辺りの森は危険な動物はいないらしく、子供が遊びに行くと言っても、大人達は何も言わないそうです。
森にある木の実を年上の人に採ってもらい、それをみんなで食べました。少し苦かったです。
「よし、じゃあみんなで騎士ごっこしようぜ!」
男の子の一人がそう言いました。同じ女の子ということで、ずっと私の後ろに張りついている女の子は『危ないよぉ』とかすれた声で言いました。
「大丈夫だ、二人はお姫様役だから、戦うのは騎士であり男であるこの俺達であーる!」
「「「「あ~る!」」」」
五人は右拳を左胸に置き騎士の敬礼のポーズをしました。まあお姫様役ならと、私も女の子もその役になることにました。
「てい、やあ!」
「ハッハ! 甘い甘い!」
私と女の子の間で、ハッシュと年上の男の子が枝を使って戦っていました。枝は尖った部分を折って平らにしたものを使っていて、あまり怪我をしないようにしていました。他の三人は審判となって二人を囲んでいました。
「たぁ!」
「いた!」
そしてとうとうハッシュが男の子の頭を叩きました。男の子は棒を手放し参ったのポーズをしました。
「さぁ姫よ、こちらに来てもらおうか」
ハッシュは棒を私に向けて宣言しました。周りの男の子達がカッコイイとハッシュに言っています。
フフフ、何言ってるんですか、貴方はちょっとお馬鹿さんのようですね。自分の武器を相手に向ける意味を、私が教えてあげましょう。
私は男の子が放した棒を取り、ハッシュに向けて構えました。
「「「「お~」」」」
「ヘヘ、どうやらやる気のようだな、じゃあ!」
ハッシュは棒を上に掲げ、私に向かって振り下ろしました。しかしその動作が遅いので、私は難なく避けることができました。
「えい」
私はハッシュの後ろに回りこんで、間の抜けた声でハッシュの頭を軽く叩きました。
「私の勝ち~」
「「「「お~」」」」
「マリアちゃん、すごーい」
「ぐぬぬ」
悔しそうに顔を歪めるハッシュを尻目に、私は胸を張って勝ち誇った笑みを浮かべました。
「ハッシュは大振りになってるからスキが多くて簡単に反撃できちゃう。直した方がいいよ」
「……ああ、今回は俺の負けだ。あー悔しい!」
ハッシュは地面に寝転がり、片手で顔を隠しました。
その後、一人ずつ騎士役を交代しながら遊んだ後、私達は洞窟という名の秘密基地へ戻りました。
「いやぁ、友達が増えていろいろできたから楽しかったなぁ」
「そうだな」
「そうなの?」
彼ら以外にも、この村に子供はたくさんいるらしいのですが、それぞれにグループというものが出来上がっていて、ここ一年間は子供が他のグループに行ってしまい人数が増えませんでした。だから私が来てくれて騎士ごっこでのお姫様役とかが増えて、前より楽しめたようです。
「あれ、ハッシュくん、血が出てるよ?」
女の子がハッシュの膝を指差して言いました。本当に血が出ていますね、騎士ごっこをしている時に擦りむいたんでしょうか。
「ハッシュ、ちょっと膝見せて」
「だ、大丈夫だってこれくらい」
ハッシュが怪我をした膝を隠しましたが、私はそれを払いのけ、両手をかざしました。
『ルシファー、できる?』
『やろうとしてから聞くなよな』
やれやれといった感じで、ルシファーは私に力を貸してくれました。
体中に力が溢れてきます。なんだか暖かいです。
私はルシファーからもらった力を両手に集中させます。すると、膝の怪我がみるみる塞がり、さっきまで怪我をしていたのが嘘だと思うくらいきれいに治りました。
「え」
「これって……」
ハッシュを含めた周りの子供達は怪我を治している光景を見て驚いています。この光景は周りからみれば魔法を使っているように見えますね。魔法を使っているのを見るのは初めてなのでしょうか?
「はい、できた」
そうこう考えているうちに、怪我したところから入った土も取り除けました。顔を上げると、目の前には面食らった顔をしたハッシュがいました。
「すっげぇ」
「え?」
「すげぇ! それって魔法だよな!? なんで使えるんだ!?」
ハッシュは私の肩を掴んで揺さぶりました。あー頭が揺れる~。
そして他の子供達にも、なんで魔法が使えるのかと聞かれました。
「えっと、ひ、秘密」
『えぇ~、なんで?』
理由を言えないと言うと、周りが落胆してしまいました。でも、それを説明すると長くなるし、何より私自身、どう説明したらいいかわかりません。
みんなの質問に耳を塞ぎながら、私達は村に戻ってきました。
「あの、おばさん」
「なんだい?」
「あの、できれば、ここに泊めてほしい」
「いいよ」
意外、それは即答。私は目を見開きました。まさか二つ返事で了承してくれるとは思いませんでした。
今日はとても良い体験ができました。友達もできて、私はこのことを一生忘れません。
夜になると、ハッシュに、おばさんに、女の子に、男の子達とその親達が集まりましたどうやらみんなは親戚の人だったようです。私は彼らと一緒に、楽しくお食事やお喋りをしました。
でも、そこに、
私の家族は……いない。