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マリアの独り言  作者: 藤高 那須
第一章 始まりは産声から 幼少期編
15/40

仕返し

お待たせいたしました。




 そして、様々なハプニングや葛藤を切り抜け、私達は『淫霧の森』から抜け出しました。

 一旦森から出来るだけ離れてしばらく休憩して、私達は目的地であるログベール本邸へ歩を進めました。

 しかし、あの時ドラゴンに襲われたせいで馬車が破壊され、馬がいなくなってしまったので、徒歩での移動しかできず、お父さんやお母さんはもうへとへとになっていました。お爺様は私を抱えていても元気でした。

 途中、またあのドラゴンに会った時は容赦しないとお母さんとお爺様が言って、怒りを発散させようと辺りの岩や木を薙ぎ倒していきました。お父さんがこれ以上は危ないと判断して、それはまた今度と二人をなだめました。

 お父さんの顔が大変なことになったことは、私達だけの秘密にしておきます。


 王都から出発して十数日が経ち、私達はやっとログベール本邸にたどり着きました。






†††††††††††††††††††††††††






 目的地である屋敷が見え、とうとう長い旅が終わると思っていると、屋敷の方向から誰かが走って来ました。


「皆様ぁぁ! お帰りなさいませえぇぇぇぇ!」


 盛大に土煙を撒き散らしながらこちらにやってきたのは、執事服を着て、白い髪の毛と口髭を生やした老人でした。老人といっても身長は高く体ががっしりしていて、背中がまっすぐ伸びている、どこか紳士的な雰囲気のある人でした。


「旦那様ぁ。奥方様にマリア様も。皆様の帰りが遅くて、ワタクシとてもとても心配しておりましたぁ」

「儂が抜けておるぞシュトール。まったくお前はいつも儂だけ空気のように扱いおって」

「はて、どこからか声が……」

「貴様あああぁぁぁぁぁぁ!」


 お爺様が剣を抜き老人――シュトールさんに斬りかかります。しかしシュトールさんはお爺様の剣撃を素手で難なく受け止めてしまいました。


「冗談ですよバン様。お帰りなさいませ」

「ぐぬぬ」


 シュトールさんは私のお爺様の剣を放すと、私の前までやって来て、深く頭を下げました。


「初めましてマリア様。ワタクシはここログベール本邸の執事長をしております、

『シュトール・ロ・ノワール』と申します。」

「私はマリア。よろしくね、シュトールさん」


 シュトールさんの自己紹介に、私も笑顔で応えました。するとシュトールさんは突然ブワッと大粒の涙を流しました。


「マリア様にお名前を言っていただけるとは、このワタクシ、感激ですっ!」


 胸に手を当て、さらに号泣するシュトールさん。れをおお爺様は呆れた顔で眺めています。


「マリア。こいつはこういうやつなんだ。スルーしてやってくれ」

「わかった」


 少し驚きましたが、お爺様の言う通りにここはスルーしておきます。


 いまだに号泣しているシュトールさんに、私達は屋敷に連れられました。


「うわー」


 屋敷の中はとても綺麗でした。壁や柱は真っ白で、汚れが一つもありません。さらに床はピカピカ光ってて、まるで鏡のようです。周りに置かれている装飾品も傷一つついていません。入り口からだと屋敷内は左右対称に見えて、内装に違和感なく装飾品が飾られています。

 しかし装飾品の数が少なく、ちょっとだけ小さいものなので、屋敷内は綺麗とはいってもゴージャスとは程遠いものでした。


「……うわぁ」

「ええ、言いたいことはわかってるわ」

「ハハハ、まあちょっと寂しいかなぁ、とは思うよ」


 再びの私の感嘆の声に、お母さんとお父さんは私の頭を撫でながら同意しました。

 私がいた屋敷より、この本邸の中は寂しかったです。お父さん達の性格からなのか、目立ったり、何かキラキラした物はあまり飾られていないようです。


 私は家族と一緒に夕食を摂りお風呂に入った後、お母さんにベッドまで連れていかれました。


「マリア、私はまだやらないといけないことがあるから一緒に寝られないの。ごめんなさいね」

「大丈夫。一人でも寝られるよ?」


 お母さんは私の頬っぺたにキスをして、部屋から出ていきました。

 気づけばもう日は暮れていて、外からは月の光が射し込み、虫の声が聞こえてきます。


「おい、おーい」


 すぐ近くに誰かの声がします。私は体を起こし辺りを見渡してみます。でもどこにも声の主らしき影は見つかりません。


「上だよ、上」


 私は上を向きました。そこにはこの前私のパートナーとなった神……じゃなくて天使があぐらをかいて浮いていました。


「久しぶり、へんじんルシファー

「うん、何かスルーしてはいけない言葉を聞いた気がするけど気のせいということにしておこう」


 ルシファーへんじんは私の言葉に何かを感じとったようです。……勘の良い天使ですね。


「勘の良い天使ですね」

「待てやコラ」


 ルシファーが右手で私の顔を掴みました。頬の部分を掴んでいるため、私の口が変な形になってしまいました。


「ほれほりはんほほうはほ?」

「何言ってるかわかんねぇよ! て、俺が掴んでたら喋れねぇな」

「何の用で出てきたの?」


 ルシファーは一回咳払いして、言いました。


「まあお前……マリアの状態の確認だ。見た目大丈夫そうに見えても、肉眼じゃ見えないところで何かがハッスルやってるかもしれないからな」

「でも、お母さん達は大丈夫だって言ってたよ?」

「いいや、少しだけだがあの森の花粉がお前の体についている。風呂では洗い流しきれなかった。もしくは俺がこれを見てどうするか試してんだろうな。まあ体内にも花粉が入ってるし、それをあいつらが見逃すわけもねぇし。多分後者だろうな」


 ルシファーは宙に浮いたまま顎に手を当てて説明しました。それじゃあもしルシファーが何とかしなかったら私はどうなるんでしょう。


「まあ花粉の効果から考えるに、ちょっとアレな幻覚を見るとかだろうな。……チッ、しゃあねぇ。マリアそこ動くなよ。今からお前の皮膚や体内にある花粉をすべて、一粒残らず取り除いてやる」


 ルシファーは私に向かって手をかざしました。そして手の平から淡い光が現れ、私の体を覆いました。

 暖かい光に包まれながら、私はゆっくりと目を閉じました。












「……と言っても、このまま良いように扱われるのは癪だな。……ククッ」





††††††††††





 目を開けると、朝になっていました。

 体を起こすと、何か違和感を感じました。

 私はベッドの上で軽く飛んでみました。そして首を傾け、再び飛びました。

 私の体が軽くなった気がします。ルシファーが言っていた花粉が全て出ていったからでしょうか?


「マリア、起きたのか?」


 扉からお爺様の声がしました。お爺様はノックをした後、ゆっくりと扉を開けました。


「起きました」

「そうかそうか。それじゃあ儂と一緒に朝食を摂りに行こうか」


 私はメイド達に洋服を着替えさせられ、お爺様と一緒に食堂へ行きました。

 食堂に行くと、お父さんとお母さんが椅子に座って私達を待っていました。


「おはようマリア」

「昨夜はよく眠れた?」

「はい」


 私はお母さんの隣の席に座って食事が来るのを待ちます。その間に私は部屋の周りを見渡しました。すると私はあることに気づきました。お父さんがいつもとは別の場所、縦長なテーブルの横列の場所に座っていたのです。そこは王都の屋敷にいた時にお爺様が座っていた場所でした。


「なんというか、憧れていた場所だったけど、実際に座るとなるとむず痒くなるね」

「何言ってる。これからはお前がログベールの当主なんだ。この程度で緊張するな」

「フフ、大丈夫よ、その内慣れるわ」


 下を向いてモジモジしているお父さんを見ていると、私はまたあることに気づきました。


「みんな目の下が黒いよ?」


 よく見ると、お父さん、お母さん、お爺様の目の下が黒くなっていました。

 私がそのことを指摘すると、お父さん達は肩をビクッとさせました。


「な、なんでもないのよマリア」

「そ、そそそそうだよマリア!?」

「なに、ちょっと用事がとりこんで寝られなかっただけじゃよ」


 お母さんとお父さんは慌てた様子で言いました。お爺様は冷静を装っていますが、汗が少し流れています。

 そこで食事がやって来たので、私はこれ以上の詮索をやめました。


 別に食事が美味しそうだったから忘れたわけではないです。





†††††††††






 食事を終えた後、三人はマリアを席から外させた。

 マリアが部屋からいなくなると、三人は深く息を吐き顔を附せた。


「……昨日のあなた、すごかった」

「ブーッ」

「儂、儂、なんであんな夢を……」


 クレアは顔を赤らめ、ジルシュは気分を落ち着けるために飲んでいたお茶を盛大に吹き出した。

 バンは両手で顔を覆ってブツブツと何かを呟いている。手に覆われた顔の奥には、何か光るものが見えた。


「クククッ」


 その光景を、黒い悪魔が天井から見下ろしていた。

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