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マリアの独り言  作者: 藤高 那須
第一章 始まりは産声から 幼少期編
12/40

パーティーと出発と予想外

 お爺様の発言から数日間、屋敷は大忙しになりました。

 ログベール家当主の交代の知らせを国王さらには貴族などに伝えなければならなかったり、さらに交代の許可を申請しました。他にも頭が痛くなりそうなことがいろいろとありました。

 でもこういうことは普通なのだそうです。だって一貴族とはいえ、指導者が代わってしまうのですから。


 そんなこんなで、ログベール家は十数年ぶりの、他の貴族を招いてのパーティーが開かれました。





 お父さんが当主になったお祝いのパーティーは、貴族館という場所で行われます。本当はログベールの屋敷で行うのですが、そういった機能を持ち合わせていないので使わせてもらうことになりました。

 パーティーには主に伯爵から公爵までの貴族が来ますが、それ以外に有名な商人に、なんと王族も来るらしいです。


 そして今回のパーティーの主賓であるお父さん、ジルシュ・サマン・ログベールは、当主である威厳をもってパーティーが始まるのをまって……


「……」

「……お父さん、口から何か出てるよ?」


 やっぱりお父さんはお父さんのままでした。緊張しているのか、口から蒼くて丸い物がでています。


「ほら、しゃきっとしなさいよ、あなた。もうあなたはログベール家の当主なんですから。まったく」

「で、でもこういうのは親父が当主になった時以来で、しかも今回は僕がこのパーティーの主賓じゃないか。緊張していて、しゃきっとなんてできないよ」


 ログベール家は昔から他貴族との交流を極力しません。

 というのも、ログベール家は戦争のために日々切磋琢磨するといった精神をもち、色などはあまり好まない一族でした。

 といっても、そんな精神をもっていても、パーティーといったものをほとんど開かないのは、ログベール家だけですが。

 それで公爵というのはどうかなーとは私の家族のことながら思うのですが、戦争の貢献度や領地の管理は一流なようで、他の貴族も表だった文句も言えず、結局ログベール家は公爵になってしまったとか。


「ほら、背筋伸ばせ。今日の主役はお前なんだ、ビビってちゃご先祖に立つ瀬がないわい」


 お爺様がお父さんの背中を叩き、無理矢理お父さんの背筋を伸ばします。

 それに驚いたのか、お父さんは小さく跳ねた後、背中を丸めてむせ始めました。

 あ、丸いの口に戻った。


「いってぇ。何すんだ親父!」

「なぁに、ちょっと背中を叩いただけじゃねぇか!」

「親父のちょっと叩いたはこっちからしたら強打……て、あれ? 緊張しなくなった」

「ナッハッハッ! お前の背中に魔力を通してな、お前の神経とかに刺激を与えたんだよ。まぁそのせいで、かなり痛く感じたんだろうな」


 なんと、そんなすごい技があったなんて。それを使ったら私も緊張しないかなぁ。






 お父さんのパーティーには、商人、男爵から公爵、さらに王族までもがやって来ました。やはり公爵というのはそれほどすごい貴族なのでしょうね。


「おい、そこの女」


 と、私がベランダでそう物思いにふけっていると、私より少し一つ二つ年上のような男の子が私に話しかけてきました。まあ私も子供なのですが。


「ん? なぁに?」

「お前はログベール家当主のジルシュ殿とその妻のクレア殿の子供だろう」

「そうです、私はお父さんとお母さんの子供ですっ」

「そうか」


 そう言うと、彼は後ろを向き、会場にいる人達の方を見ながら言いました。


「なぁ、お前は、今の人生に疑問を持ったことはないか?」

「疑問?」

「そうだ、俺達は生まれた時から人生を約束されている人種だ」

「うーん、そうかな?」

「そうさ。今でこそ子供として自由に行動が許されているが、それもごく限られた範囲だ。あとすこしすれば親が家庭教師を雇い俺に貴族としての教養を身に付けさせるだろう」


 そうですか。つまり彼が言いたいのは。


「あなたは、その生活に疑問をもってるの?」

「ああ。ある日ふとな、思ったんだ。なぜ俺はこんなことをしている? 俺は他にやりたいことがあったはずだ、とな。親が金に物を言わせて整備した道を通るのが嫌になったのだ。お前はどうなのだ? まあ、俺より年下の少女に聞くことではないがな」

「うーん……」




「私は嫌じゃないよ」

「……」


 私の答えに、彼は少し反応しました。


「ほう、それは何故?」

「あなたが通るかもしれない道は、あなたのお父さんやお母さんが通ってきた道なの。つまり、お父さんやお母さんは、たぶんあなたに別の、もしくはお父さんやお母さんが見ることができなかった、両親の通った道のさらにその先の世界を見てほしいと思っているかもしれないよ。それにね、お金を使っているのも、それは今までに自分達の力で積み重ねてきたお金だもん、自分のために使ってくれていることに喜びこそすれ、嫌だなんて思わないよ」


 でも、それでも自分の道を作ろうとするのは、親不孝だとは思わない。私は素敵だと思うよ。

 彼の質問に、私は答えました。すると彼は私の方に向き直り、驚いたような顔で私を見つめました。


「お前、それは誰かからの受け売りか?」

「? 何を売るの?」

「……まあ、いい。やはり年の近しい者の意見を聞くのは良いことだな、感謝しよう。そしてお前に礼をやろうではないか」


 そう言って彼は私に近づき、続けて言いました。


「お前、俺の女になれ」

「いやー」


 とりあえず私も笑顔で返答しました。その返事を聞いた彼はうっすら青筋を浮かべました。


「お前、俺が誰かわかってて言っているのか?」

「わからないから、いやって言ったんだよ?」


 もう一度笑顔でそういうと、彼はもうどうでもいいような顔をして、会場に行こうとしました。


「そうだ、私はマリア。あなたは?」

「……バールだ」

「ねえバール」

「なんだ」

「バールが今やりたいことは何?」

「……」

「別に大きいことじゃなくてもいいんだよ。十年後の未来のためとかじゃなくて、今の自分の欲のために何をしたいのか考えてみたら? そうしてる内に、本当に自分がしたいことが見えるかもしれないよ?」

「……」

「ちなみに私が今したいことは、早くお家に帰りたい。だよ」

「……」


 バールは何も言わずに会場に戻っていきました。




 その後、体が少し冷えてきたので、私も会場へ戻ることにしました。

 すると、会場の中で暇そうにしているお爺様がいたので、私はお爺様のところへ向かいました。


「お爺様が暇そうだったので来てみました」

「マリア、いいか、暇そうに見えたからってそんなこと言うんじゃないぞ」

「はぁい」


 お爺様はいつもは革製の鎧のようなものと茶色いマントを羽織っているのに、今日はちゃんと正装しています。格好が変わったからか、少し雰囲気も変化しています。


 すると、私の後ろから『ハハハ』と笑い声が聞こえてきました。


「やあバンさん。君と出会ってからもうかれこれ数十年くらいになるのかな?」

「ああ、もうそれぐらいになるかの。あと、この子が儂の愛孫まなまごマリアじゃ」

「はじめまして、マリアといいます」

「ああこちらこそ。私の名前は『カリング・ウル・マルグラーフ』といいます」


 彼の名前を聞いて、私はビクッと反応しました。それほど彼の名前は有名だったからです。歴史の本に載るほどに。





 『カリング・ウル・マルグラーフ』、彼の地位は辺境伯であり、この国と敵国の境に領土を構える人です。

 最近は辺境伯という地位は侯爵にも並ぶものとなっていますが、最初はそうではありませんでした。

 最初のころは国境を防衛する長官、よりもかなり高い力をもっていて、自分の兵士をもつことを許されていました。この頃も高い権力を持っていましたが、上流貴族という位置にはいませんでした。

 今から二十年以上前、辺境伯の地位と重要度が劇的に上がる事件が起こりました。

 その日は王国ができた記念日であり、王都では五日間のパレードが行われていました。

 そして熱気がピークに達した時、その事件が起こりました。敵国が攻めて来たのです。奇襲でした。

 普通戦争をする場合は相手国に戦争をしますよという連絡をしなければなりません。しかし向こうはそんな連絡をせず、こっちに攻撃を始めました。


 しかしそこで迅速に動いたのが辺境伯である『カリング・ウル・マルグラーフ』さん。彼はもしかすると敵国がこの日に攻めて来るのではと予想をしていました。そして情報が来ると国境にいる兵士と自分だけで敵国の兵士達を退けました。

 その迅速な判断と対応を認められ、本人だけでなく、その辺境伯という地位も侯爵と並ぶほどになりました。


 そして今、それをやってのけた人が目の前にいるのです。今、私はとっても緊張しています。


「ナッハッハッ、そんなに畏まらなくても良いのじゃぞ」

「ハハハ、この子はこの歳で私のことを知ってるなんてね、流石君のお孫さんだね」

「……」


 彼の正体を知ってから、私はもうビクビクです。時の人が目の前にいるのですから、緊張しないわけがありません。


「あと、ジルシュ君はとうとう当主になったんだね、前よりも大きくなってて嬉しかったよ。彼が当主になったということは、王都から出るんだよね」

「ああ、数日後ここから発つ、よかったらこっちに来ればいいぞ」

「ええ、予定がなければ、そうします」


 そう言ってカリングさんはここから去っていきました。






 その後、これといった面白い話もなく、パーティーが無事終わりました。







「終わった。終わったよぉ」


 パーティーが終わり、私達が屋敷に戻ると、お父さんは真っ先に椅子に座りそう呟きました。


「なったばかりとはいえ、あなたはもう当主なんですよ、そんな弱音を吐いてはいけませんよ。まったく」

「そんなこと言ってもさぁ、あんなことをいつも続けていたらストレスが溜まってしまうよ」

「大丈夫、その時は……私が、癒してあげるから……」

「く、クレアぁ~」


 余裕をもって話しているお母さんですが、お母さん自身も婦人達の会話でかなり疲れている感じがします。最近の流行りの服や高価な装飾品を身に付け、お母さんに遠回しの皮肉を言う。そんな言葉直接聞いて疲れないわけありません。でも、二人のやりとりを聞くと、案外大丈夫そうです。








 それから数日後、私達はログベール領へ行く準備が整いました。

 屋敷の家具類などはほとんどログベール領の屋敷に運んで、最後は私達が屋敷へ向かうだけです。

 ログベール領の道中は馬車を使います。が、馬車はお父さんとお爺様が交代で操りますが、そういった職業をもつ人や傭兵は雇わないそうです。

 お爺様曰く、雇うのメンドイ、だそうです。本当にあれが元当主でいいのでしょうか? まあ傭兵の方はかえって足手纏いになるかもしれませんが。


「よぉしっ、みんな準備はいいかい?」

「ああ、あといらない物は捨ててきたぞ」

「あなたの春画とかね」

「捨てたの!?」


 愉快な旅になりそうです。







 王都を出てから丸二十日経ち、やっとログベール領に入ることができました。屋敷に着くのは一日後ぐらいになるらしいです。

 このように、ログベール領はかなり土地が広く、また王国もかなり広いらしいです。まあこれでも普通くらいの広さですが。

 ログベール領は広いですが、一部の土地はほとんど押し付けられたといってもいい訳ありの場所があり、今私達はここのそばを通ろうとしています。

 そんな訳ありの場所の近くを通って大丈夫なのか、と思いますが、お母さんによると、訳ありなだけにこの近辺に危険な動物などはまず通らないとか。


「やっとログベール領まで着いたね」

「おう、ずっと座ってばかりだったから体が凝ってしまったわい」

「ふふふ、そんなことり。マリア、ようこそ、ログベール領へ」

「あぃ」


 今日の天気は快晴、といっても雲は少しありますが、日射しを遮るほど大きな雲はありません。

 しかし、馬車を中心とした数メートルに影ができました。


「っ! みんな、上に何かいる!」

「まさかっ! ここらへんに獣の類がでてくるわけない!」


 そう言って、お父さんとお爺様は馬車を降りて臨戦態勢に入ります。

 お母さんは外が見えないように私の顔を覆いましたが、お母さんがそうする一瞬、その間に、窓の外を見てしまいました。

 そして私の視界に入ってきたのは、キラキラ光る、金色の竜でした。


「え、エンシェントドラゴン!?」

「くそっ、何故よりにもよって伝説級の、しかも竜種が現れるのじゃっ。ジルシュ! 急いで馬車を走らすぞ!」


 お爺様が言うと、お父さんは急いで馬車に乗り、全速力で馬を走らせました。

 しかし追いかけてくるのは竜、どう考えても追い付かれてしまいます。けれどそうとわかっていてもお父さんはあの竜から逃げようとします。


『ギァァァァァァァァァァァァァァ』


 後ろから竜の咆哮が聞こえてきます。そして竜の翼の音が少しずつ、少しずつ近づいてきます。

 そして





 グガァァァン……


 竜は馬車を勢いにまかせて吹き飛ばしました。

 馬車は衝撃により大破し、中から人が、というか私達が飛び出しました。


 竜はその後、追いかけるような素振りを見せず、どこかへ飛んで行きました。






 一方その頃


「クレアァァァァ!!」


 私達は崖から吹き飛ばされ、宙に浮いています。

 お父さんはお母さんの名前を叫んでいますが、今の私では何が起こっているのかわかりません。


「私は平気よ! それよりっ、マリアをっ」


 お母さんはお父さんに返事をします。でも、その声は若干震えている気がします。

 すると、お母さんが返事をしたすぐ後、ゴンッ、という鈍い音が聞こえ、お母さんの私を抱く力が弱くなりました。


 そして私は少しずつお母さんか遠ざかっていきます。そのとき私はお母さんの今の状態を見てしまいました。

 背中には数本の木の破片が刺さっていて、腕には切り傷のようなものがありました。

 そしてお母さんの頭には、何か、しゃ、車輪のようなものが、当たって……


「お母さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」


 叫びました。泣きながら、鳴きながら、啼きながら、私は喉からお腹から叫びました。

 生まれた時を除くと、多分初めて泣きました。大粒の涙を流しながら。


「っ! くそっ、サラマンダー!」


 お父さんはサラマンダーを呼び、サラマンダーは私に向かって飛んできました。

 そしてサラマンダーは私の側に近づくと、私の足を掴みました。


 そして私達ログベール家の人達は、誰もが忌み嫌う森の中へ落ちていきました。





 そこは暗い森の中、上から射す日はごくわずか。

 そこの霧は侵入者に幻覚を見せ、相手を肉欲、淫欲へと誘い、生き物達は幻覚にかかった者の肉を喰らう。

 そこに踏み入った探検家は言う、『ここは我々にとっては正に辺境、しかしここの生き物達は自分の庭のように自由に活動し、幻覚にかかった我々の仲間を見つけては喰らった』と。そしてその探検家も、幻覚にはかかっていないものの、そこの生き物達により右足を失い、原因不明の病で死んだ。

 そんな危険な森には誰も、動物どころかドラゴンすらも近づかない、だからこそ安全という意味もあった。

 そしてその森はログベール家が管理しており、領地の二割はこの森に占められる。公爵家であるログベール家が厳重に管理するほど危険な場所なのだ。

 その森を名は『淫欲の森』。

 またの名を


 『ラストガーデン』

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