閑話
やっとここまで来た。
あの日から、お母さんは私とよく遊んでくれるようになりました。
一緒に絵本を読んだり、ボールの投げ合いっこをしたり、ボードゲームというものもしました。
それにしてもお母さんはとても強いです。
私がどれだけ頭を回しても、お母さんは難なく私を倒してしまいました。
私はとってもイライラして盤をひっくり返してしまいましたが、お母さんは笑顔で盤と駒を直していきます。
駒の配置を全部覚えているなんて、卑怯です。
ともかく、今のお母さんは前お母さんよりとても優しく、笑顔も明るくなりました。
「チェック」
「うぅ」
今日も天気は雨、もう一番暑い日を通り過ぎ、葉っぱが落ちる季節がやって来ました。
女心となんとやら、と言うように、この季節は女性の気持ちと同じように空が変わっていきます。
気持ちの良い天気なのに、突然雨がふったり、その後に晴れてじめじめした空気になったり、どうもこの季節は好きになれません。私は今お母さんとボードゲームをしています。さっきから何度も王様を取られそうになっていてピンチです。
でも、こんな危ない状況でも、良い知らせはあるようです。
今日、ログベール領から私のお爺様がやってくるのです。
「マアァァァリアアァァァ!」
「んーやぁ!」
屋敷に入ってくるなり、お爺様は私に抱きつき顎髭を私の頬に擦りつけはじめました。
ものすごく痛くて、頬が赤く腫れそうでしたが、こんなに喜んでくれるお爺様を見て、今回は許そうかなと思いました。
「マリアぁ、会いたかったぞぉぉ」ジョリジョリ
「んー、やっぱやぁ!」
前言撤回! 顎髭は敵です! あのジョリジョリ感は絶対に好きになれません!
空がオレンジ色に染まり、太陽が西の山に隠れそうになる頃、私達はお爺様が来た記念に、ちょっぴり盛大な食事会を開きました。
「親父、それで用事というのは終わらせて来たのかい?」
「ん? ああ、そのことは後でな、今は楽しもう」
「ふふ、お義父様の言う通りよ。マリアは何食べたい?」
お爺様の用事は何か知りたいですが、お爺様の言う通り、今はこの食事会を楽しみたいと思います。
あ、お母さん、これがいいです。
「それにしても、ジルシュ、おまえ前よりも逞しくなったな」
「え、そ、そうかい?」
「ああ、なんというか、吹っ切れた感じがする。やっとお前も、男になったんだな」
「……うん、ようやく僕も、前に進めるようになったよ」
「ええ、あなたなら絶対できるわ」
「うむ、これで儂も、決心できる」
「今日をもってジルシュ・サマン・ログベールを、ログベール家当主する)」