表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

砂漠の中心で愛をささやく

作者: 小峰瑞季

「喉かわいちゃった。マック行こうよ」

「水谷先輩ここ砂漠ですよ」

「あは、そういえば、そうだったね」

 私と後輩のユキちゃんは砂漠を歩いていた。

 本当に笑っちゃうんだけど、辺り一面、砂、砂、砂で、建物どころか木一本見えやしない。

 私は順応性がはやいから、これが夢であることに気づいていた。だって、おかしい。さっきまで手芸部の部室にいたのに、こんなところにいるなんて。うん、やっぱりどう考えても夢だ。

 それにしても変な夢だなと、さっきから私はにやにやしていた。

「ここ何砂漠なんだろうね」

「ゴビ砂漠ですよ」

 ユキちゃんは笑って答える。ユキちゃんも突然の砂漠に全然気にしていなさそうだ。

 ゴビ砂漠かあ。中国の方だっけ。私は地理があまり得意じゃないからよくわからなかった。

「じゃあゴミがいっぱいだ」

「ふふふ。水谷先輩。ゴミじゃなくてゴビです」

 ユキちゃんはやさしい。

 私がつまらないことを言っても必ず笑ってくれる。

 華奢でちっこくて、本当の妹みたいで、笑うとえくぼができてかわいい。

 太陽が容赦なく私たちを照らしていた。なんでだろう。ものすごく暑い。汗がおでこを、頬を、体を流れていく。雨に降られたようにびしょ濡れだった。

 夢にしては少しリアルすぎた。

 学校の皮靴だから歩きにくいし、さっきから足の裏も痛くなっていた。そっか、脱げばいいんだ。

 これは夢なんだから靴がなくなったって構わない。

「水谷先輩、靴置いていくんですか?」

「うん。ユキちゃんもどう? 歩きやすいよー」

「そんな、駄目です。じゃあわたしが持ちます」

 ユキちゃんは丁寧にもわざわざ捨てられた靴のところまで戻って拾ってきた。

「捨てていいよー。邪魔でしょ?」

「全然そんなことありません」

「いいのに。ならユキちゃんにあげるよ」

「え、あの、いいんですか……?」

 ユキちゃんがなぜだか嬉しそうな声をだした。靴もらったくらいでそんなに喜ばなくてもいいのに。というか私のお下がりの汚いやつなのに。

 ユキちゃんは本当に変わってるなあ。そういえば手芸部に入部したとき変な冗談を言っていた。なんだっけ「わたし魔法が使えるんです」だっけ。そのときは変な子が入ったな、と思ったけど、実際接してみるとユキちゃんは真面目でいい子だった。

「家宝にします」

「やめてよー。笑っちゃう」

 私の靴がユキちゃんの家宝。なんだそれ。ま、いい。

「本気ですよ」

「ま、夢だからなんでもありだね」

 あはは。あは……。

 喉がものすごく乾いた。足が痛い。暑い。目の前がぼやけてきた。夢だからオッケーだ。でも、いいかげん覚めてくれないかな……。

「水谷先輩?」

 私は仰向けに倒れこんでいた。背中に広がる砂が熱いけど柔らかくて気もちがいい。

 ユキちゃんが私をのぞきこむ。そこだけちょうど影になって涼しい。ユキちゃんの顔から落ちた汗がほっぺに当たった。

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫ですか?」

「うん……ちょっと、休憩……はは」

「水谷先輩」

 ユキちゃんが本当に楽しそうに笑う。

「これ夢じゃないですよ」

「あは……なにそれ」

 これが夢じゃないわけないのに。

 やっぱりユキちゃんはたまに変なことを言うなあ。

「水谷先輩言ったじゃないですか。砂漠に行きたいって」

「そんなこと、言ったっけ……」

「忘れん坊です、水谷先輩は。そういうところもかわいいんですけど。ほら今日ですよ。田中先輩が『南極行きたい』って言って」

「……あーそう、いえば……」

 私は思いだしていた。くぅちゃんが「暑いから南極行きたいよー」って言って私が「目には目を理論で、私は砂漠がいいな」って冗談を言った。くぅちゃんは呆れていたけれど、ユキちゃんは「それいいですね! わたし水谷先輩と砂漠行きたいです」って目を輝かせていたのを覚えている。

 でも、本当に、砂漠に来るなんて……。

「水谷先輩は行きたかった砂漠に来れて、わたしは先輩と二人っきりで一緒にいられる。まさに一石二鳥です」

 ユキちゃんは私の横に座っていた。いつの間にか、ユキちゃんの手と私の左手が重なりあっている。

 さっきから顔が近く感じられる。

「……で、でも、どうやって」

「わたし魔法が使えるって言ったじゃないですか」

「そんなの、あるわけ……」

「信じられないなら夢でいいです」

 ユキちゃんが笑った。

「夢……」

「水谷先輩、暑くないですか?」

 ユキちゃんの手が制服のボタンにかかる。私は慌ててユキちゃんの手を掴んでとめた。

「……大丈夫、だから」

「水谷先輩、好きです」

 ユキちゃんは真剣な表情をしていた。

 さっきから頭がくらくらして上手く考えられない。

「……私も、ユキちゃんのこと好き……だよ」

「違います。わたし本気で、水谷先輩のこと愛してるんです」

 それってどういうことだろう。考える前にユキちゃんは顔を近づけてきた。

 口と口が触れあいそうになった瞬間、私は顔をそむけた。

「水谷先輩、ここは夢です。だからわたしに任せてください」

「……ユキちゃん、帰して」

「何を言ってるんですか? ……やっと二人っきりになれたんです。水谷先輩がちゃんとわたしのことを好きになるまで離しません。安心してください。ここは砂漠です。誰もわたしたちの邪魔はしません。ふふ、怯える先輩もかわいいです」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ