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The Poilot    作者: 銀川プリムラ
第2部
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第2話 父と息子

 船長の操縦席の周りには、部長、課長、各主任など主だった者が集められていた。

 他にも惑星EEの惨状に対策を立てるべく、船長の操縦席の周囲には大勢の人間が集まって来ていた。

「コロニーナンバー二〇の都市、コロンビアの現地様子です」

 情報収集係の乗員が、スクリーンに現地映像を投影させた。

「おお」

 と皆が息を呑んだ。

「ほんとに、大きい」

「化学プラント工場の怪物化でありますな」

 課長の伴野が感想を述べた。「鋼鉄のパイプ、梁が生物のように動いている」

「Drモロンによると、心理分析が出来る人工知能により、コンピュータが町の全システムを支配し、電力系統がのっとられ、町を突き動かしているそうです。Drモロンに協力を求めるも、自ら考え、プログラムを書き換えるので、Drモロンでさえも止める手立てはないと」

「電源を断つのは?」

「武装し、ロボット兵を出して自警しています」

「電源を断つのも難しい、プラント怪物を止めるのも難しいとなれば、どうすればよいのだ?」

「時間をかければ、全住民の非難は可能かと。そのあと、一思いに殲滅させればいいのでは?」

「町の被害が大きすぎるだろう」

「警察やコロンビア政府は、攻撃の手はずを整えているようです」

「まだしばらくかかるか。しかし、敵陣の上まで来て、眺めてばかりもいられまい。Drモロンの尋問をしよう。」

 船長がまとめると、一同意義無い様子だった。

「カガミ」

 その場に呼ばれたカガミは、船長に声をかけられる。

「お前がやってくれるな」

「何とか協力するよう言ってみます」

 カガミがそういう後ろで、一同不安な様子を見せていた。

 皆な皆、怖れていた。何をやらかすかわかりゃしない奴だ。目の前で無残に沈んでいった政府御用達の船の残像が浮かぶ。

「Drモロンの様子はどうだ?」

「今は客室で、休ませてあります」

「よし、では行動を起こそう。カガミ・チームはDrモロンを取り調べる。現地調査チームは、引き続き調査を続け、なんとか解決策を探る」

 船長の決定に、皆がめいめい動き出した。

「おい、どこへ行く?」

 つられて、カガミチームについていこうとするクリンクをツェンが呼び止めた。

「Drモロンの部屋へ行くのよ。尋問の手伝いをしようと思って」

「なあにい」

「だって、Drモロンよ?あんな危険人物、人手が何人あったって、止められるかどうかわからないじゃない」

「お前、Drモロンとか言ってっけど、実はカガミといっしょにいたいから行くんだろ?」

「なっ何よ、違うわよ。人聞きの悪いことを言わないでよ。父親があんなのじゃ、カガミ君も可哀想じゃない」

「ほら、結局そうじゃないか。俺も行く」

「え?いらないわよ」

「人手不足なのに、何でだ?俺が行けば嬉しいだろ?」

 ぐっと詰まったクリンクをみて、ちょっと嬉しそうなビンツェンだった。

「なら、もうカガミ君をいじめるのはよしてよね」

「心配するな。もう十分あいつは嫌な気分を味わってるだろ。Drモロンが父親だってことで、もうあいつは終わったもんと同じだよ」

 そういうツェンの目には意地の悪そうな色が浮かんでいるので、なにやらつとに芽生えた悪意にクリンクは危険を感じた。どうやらツェンにはいじめっ子の素質があったようだ。怒ったクリンクは何か言ってやろうと思って言いかけたが、気を取り直した。とにかく今は、カガミを早く追いかけるべきだ。

クリンクはDrモロンの客室へ向かった。

 Drモロンの事情聴取は、彼が拘留された客人部屋で行われることになり、カガミチーム、日本警察の大人数が押しかけることになった。

 たまに来る地球のVIPに合わせて、整えた豪華な用度品、贅の限りを尽くした室内はさながらホテルの高級スイートルームばりのしつらえだった。

「おお、よく来たな。みなの衆」

 セイロン紅茶に栗鹿の子を噛り付く姿は、かなりくつろいだ様子。花柄のソファに腰掛けて、機嫌の良い笑みをにぱっと見せた。

「父さん」

「おお、息子よ」

 感動の対面・・・

 Drモロンがどんな奴であれ、奴も人の子かと思われた。カガミ・ケイが父親の肩に手を置き、軽くハグし、Drモロンが自分の3倍はある大きくなった息子の背中へ手を回す。

 と、カガミ・ケイが父親から体を離したとき、胸元をみて見ると、それは小型銃の切っ先だった。

「悪いな、息子だとて、上からモノを言われるのは好かんのじゃ」

 日本警察が頭から湯気を出す勢いで意義を申し立てた。

「先程も取り上げたのですが、どこからでも出してきてきりがありません」

「父さん、上から言う気はないんだ。父さんに納得してもらう気で来た。頼むよ」

 しかし、カガミ・ケイだけは決してひるまなかった。銃を向けられてもびくともせず、冷静に父親に向き合う。

「なんじゃ」

 いったん、Drモロンは銃を下ろした。

「ここの総取締りとの因縁かい?」

「ワシをだまして、偽の金塊を買わしおった奴か。奴は好かん」

「それは別会社でしょう」

「似たような名前だった」

「それでMK重工が関係するコロンビアの町を狙ったの?」

「いや、それはない。恨みがある奴なら、パーカーより他にもっといる」

「そう。同じく名前が似ている会社の細胞分子工学の基礎データ持ち出し拘束事件かと思ったけれど」

「さてな。そんなこともあったかいの」

 カガミはため息をつくと

「俺はずっと父さんの行方を捜していて、一度は会っている。あの時、父さんは気づかなかったけど・・・もうこんなことは止めて、警察に協力するんだ。悪いことからは一切足を洗ってもらう」

「警察がワシにどんな罪科を科したかは、ワシはしらん。ワシは悪いことをするつもりはなかった。それを警察が勝手に罪と決め付けて、勝手に捕まえようとしているだけじゃ」

「町一つぶっ飛ばしておいて、どこか悪くないって言うんだ?」

「また建て直すしゃあ良いだろうが。宇宙には無限の財産がある。最新の町に生まれ変わる、いー機会じゃ」

「町の人はえらい迷惑だよ」

「お前はそんなんだから出世せんのだ。町の人の迷惑だの、訴えただの、罪人だのと、他人の言うことばかり気にしおって。結果を怖れてばかりじゃ、なんも出来ん。この腰抜けめ」

「永遠に放置するわけじゃないよね?父さんが作ったAプログラム、消すために協力してくれるよね」

「再三言うようだが、あいつは自分で書き換えが出来てしまう。人間の心理を読んで、疑いを抱き、自ら考え、より強く自分を作り変えるのじゃ。もう他人も同然さ。直せ、止めろというなら、出来ぬことはないが、勝てる見込みがあるか分からん。若い奴を呼べ」

「厄介なものを」

 カガミ・ケイは同じ報告を聞いている。

「じゃあ、大人しく船の中にいるんだ。それは出来るね。事件が終わるまで、重要参考人として、どこかに拘留される。ここが良いというなら、ここでも良いと警察の人は言ってくれている。それぐらいなら、出来るね?」

「なーんで、ワシがずーっとここにいなきゃならない?」

「いや、いてもらうのは当然のことだよ」

「ワシは拘束されるのが嫌いじゃ」

「逃げたって、警察にまた捕まるよ。罪を償って一から、またやり直せばいい」

「警察なんぞ、狭い牢屋にいたら、研究や調査がひとつも出来んではないか。ヤダヤダ。おーヤダ。こいつはいったいどんな育ち方をしたのやら。まあ、この茶菓子がなくなるまではいても良い。この上手い茶菓子はどこの茶菓子じゃ?」

「鎌倉のおかしら堂です」

 VIP室には最上品を置けという命令があった。

「父さん、なら、俺と一緒にいよう。俺が警察でも、どこでもついていって、父さんを改心させる」

「はーはっは。何を言い出すかと思ったら、ん?おまい、ワシがこっちへ移ってきたのは、お前を頼って来たと思ってないな?」

「俺がいるからじゃあない?」

「お前のことなど、ワシは知らんぞ。息子を愛する気持ちなどワシにはない」

 場が凍りついた。

 それまで精一杯心ある態度で接していたカガミ・ケイが可哀相だった。

 カガミ・ケイもショックな様子だった。あまりに酷すぎて、次の言葉が見つからないで、凍ったように止まっている。

「ま、憐れみはあるが。人間だから」

 言い切ったDrモロンは、しかし多少後ろめたいと思ったのか、わざとらしく補足を加える。

「ワシを止めるな。ワシはお前のことを止めん。お前はお前で好きなことをするがよい。ワシはワシで勝手にする」

「父さん、誰でも人は人として、子は子としての責任がある」

「責任感など持ちおって。宇宙ゴミのンコの中にでも捨ててしまえ。お前はどこで育った?」

「ルナ・ベースだよ。父さんのいないところで育った」

「だから駄目なのじゃな。顔ばかりに育ちおって。わしを見習え」

「情けない」

「あー!ぞっとするわいっ。何が息子じゃ」

 話し合いは、Drモロンにはイラつくものでしかなかったようだった。

「ワシがここへ来たのは、お前のテレビ脳化したあほ面を見るためではない。ナミアダ号のMKでは最新型だとか言う船内を見に来たのじゃ」

「何、だと」

 カガミ・ケイに加えて、ナミアダ号の全員が反応した。

「そういうことじゃ。ワシは船の鑑賞をさせてもらおう。最初見た時から、この船は気に入ってたのじゃ。では、茶菓子も食った。諸君。ごきげんよう」

「まーてい」

 カガミ・ケイ手を伸ばし、がつっとDrモロンの肩を掴んだ。

「鑑賞だけじゃないだろう?技術を盗む気だな」

「参考にするだけじゃ」

「ナミアダ号を科学博物館と同じように見学して、お土産コーナーみたいに物を買っていくって言わないでくれる?」

「ふん。ワシはワシの好きなようにやるって言ってるだろ」

 Drモロンはカガミの手を引っぺがして捨てるように離すと、再び出入り口のほうへ向いた。

(ヒィーーーー)

 出入り口付近に並ぶ乗組員や警察はびくっとなった。

 すたすた歩いてくる老人を止める度胸はほとんどの人間にはなかった。政府専用機を難なく破壊した男である。

(こっち来るーーーっ)

 一人の男が立ち上がった。

「待て。父さん」

「そ、そうだ」

 慌てて頼みの綱の警察も、加わった。

「カガミ・モロー。お前には逮捕状が出ている。みすみす逃すわけにはいかんぞ」

「どこへも行かん。この船を見て回るだけじゃ」

「逃げられては困る」

 意気込みばかりで、うろたえ始える警察が浮き足立っているうちに、Drモロンはすたすたと皆の前を歩いて、出入り口から外の通路へ出て行ってしまった。

「待て、Drモロン」

 勝手に振舞われては何をされるか分からない要注意人物を野放しにするのはあまりに危険と気づいて、ナミアダ号の乗組員も後を追う。

「父さん」

 カガミ・ケイが呼び止めた。

 父親の愛情がない一言が響いたのか、一歩で遅れて、である。

 出入り口付近で残っていたクリンクの前を通っていく。

 そばに来て、クリンクに気づき、目を留めた。

「カガミ君、お父さんのこと大変ね」

 出入り口から外へ出る。いっしょについて出た。

 カガミは集中した顔つきだった。

「君も来たの?仕事は?」

「今は休憩中。お父さんのこと手伝うわ。こっちの船がどうなるか分からないし、いつ逃げられてもおかしくないもの。捕まえとかなくちゃね」

「気持ちは嬉しいけど・・・憐れみとか、同情とか欲しくない」

 あちゃあと思った。

 さっきのDrモロンの一言が胸に突き刺さっているようである。

「ナミアダ号の同じ乗組員として言ってるの。この船を壊されたらたまらないから」

「同じ乗組員として?」

「そうよ、どうしたの?」

「べつに」

「別にという顔つきじゃないけど、大丈夫?」

「クリンクは誰にでも優しいもんな」

 横からチュンが間に入って来た。

 カガミはチュンの顔を見ると、ぷいっと早足で行ってしまった。

 これは・・・完全に嫌われてないか?

 チュンという整備士にくっついていながら、あっちでよい顔をしてこっちで良い顔、この女は。

 なんてこと?

 否定したいのだが、クリンクも仕事の手順は分かるが、どう行動をおこしていいのやら。

 なんか、つらい。

なんか、泣けてきた。

「おんやあ?」

 変な声が聞こえる。

 ハッと振り向いて、周りを見るも、誰もいない。

「おんやあ」

 でもまだ聞こえる。

「おーーーんーーーやーーー」  

 しつこい声に後ろを振り向くと、バササっと音がして、老人の逆さの顔が目の前に現れた。髪は逆さになり、体は蜘蛛のように器用にワイヤーに絡めている。

「アャアアアアっ!」

「んー?若い女だのう。ケイはこんな女が好みか」

 千住観音のようにさらに機械の手が伸びる。幾本も背中からわらわらと現れ、本当の蜘蛛のようになった。

 二本の手がクリンクの上着のジッパーを下ろし、ベルトを外しズボンを引っ張る。

「え?いーやー!」

「よく見ると、なんの魅力もないの」

 ハッと我に帰り、

「どどどどどういうことですか!」

「父さん!」

 気づいたカガミが駆けつけてくる。

「な、何を?」

 クリンクの上着ははだかれ、ズボンはずり落ち、振り返ったクリンクの顔は涙目である。理由はカガミ・ケイにあるのだが、彼にはまた誤解が生じたらしい。

「クリンク隊員に何をしたんだ?」

「ワシャなんもしとらーん」

 Drモロンは虫のごとく跳ね飛び、通路の壁にぴたりとくっついた。

「ひいいい」

 駆けつけた女性局員から悲鳴が上がる。


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