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The Poilot    作者: 銀川プリムラ
第1部
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第1話 発進

<我々は現地に向かいます>

 世界救出部隊のレッドがカメラに向かってウィンクするので、サロンのテレビ前の女子どもは騒いで、クリンクは足を止めた。

<みんな、僕らを応援するのは、無理しないでね>

 戦闘兵士ファイブのリーダーだ。女性泣かせの異名をとる男前。職業は浮ついていないが、常に色物の話題が付いて回る。本人はいたって真面目らしいが。

 ハンガー入り口デッキの映像画面にもアップで映っていたので、いい加減クリンクもテレビ画面に見入ることになった。

 パーカーやカガミとは違った部類の美男子だ。

女性はどこでもきゃあきゃあ騒ぎ立てる。世界救出部隊は、災害や事故があると、必ず現れる。

「なに見とれてるの?」

「なんも見とれてないって」

 親友の大木君が、いつの間にか背後に立っていたので、クリンクはびくっとなって否定した。白い肌に、淵が黒い丸い目をして、短い髪は刈上げられている。呪怨の俊雄と似てると言われるが、どちらかというと、パンダだ。

 宇宙船で知り合った親友だ。

 学校を卒業して入社した会社MK重工は、なんともまあ風変わりな会社だった。

 会社経営トップであるコマンダー・パーカーは変人そのもの。

 社員も一癖あるものが多い。

事業は宇宙航空からインフラ整備、植物栽培から、繊維、病院など様々手がけ、黒字経営している。常にその業界のトップに入っている。

 各星に支局や工場があり、社員数も膨大。

 クリンクは高校を卒業してからずっと、操縦士の仕事についている。

 わずかの期間にも、色々な星や宇宙を旅した。

 このまま同じ仕事が出来たら良いと思っている。

 危険な仕事であるのは間違いない。

 でも、明日の運命は誰にも分からない。

 見えない行く手に向かって飛ぶのが好きだ。


 船はすでにスタンバイできていた。

「よし、皆そろったな」

 操縦室最後部の席に船長モヤシが来た。黒髪を束ねて天頂部に乗せたちょんまげヘアー、黒地に金の縁取りの付いた豪華な船長服を着ている。

「本機は今からDrモロンのMA―Xの追跡を行う。銀河系外へ出るまでに追いついて捕らえるのだ」

 機体が浮かぶわずかな浮遊感すらなく、宇宙船ナミアダ号は浮かび上がり、操縦室の各コントロール画面が忙しく動き始めた。

「本機はただ今微速で直進中、2ラインへ移動しています」

「姿勢制御管制塔から切り離されます」

「メインエンジン秒速で点火中」

「衛星間コムリンクのレーダー網に反応あり。三分前に水星型惑星のASEアクティブソフトエッジをMA=Xらしき船が通過。識別番号読み取り不能」

「現地警察車両の追跡あり。DrモロンのMA=X確認」

「目標、捕獲して追跡しなさい」

「了解。DrモロンのMA=Xを追跡中。目標に向かって発進します」

 船のエンジンが動く低いうなりが聞こえた。

 クリンクはまだ半人前なので、見張りの交代要員として補助的な勤務をしている。

 宇宙船ナミアダ号の操縦部から見る外の景色は漆黒の宇宙だった。

 本日は本来なら地球へ寄航する日だった。

 船も飛ばず、乗組員達も地上での後続処理業務ばかりで、普段とは違い事務室と化したかという寡黙な雰囲気が漂っているはずだった。

 ヴェガ宇宙局へ帰れば、船は定期点検に入り、長の間、クリンクたちも地上での他パイロット支援業務に入り、次の指令が出るまでは宇宙飛行はお預けだった。

「おや、何だか楽しそうだねえ」

 計器類のチェックをするポジションで中年のでっぷり太ったヨーロッパ人がいる。典型的な陽気な船乗りで、経験も長く、若い者を可愛がってくれて、冗談が好きだ。

「え?別にそんなことはないですよ」

 嬉しそうにしているつもりはないのに、顔に何か出ているのかと思って恥ずかしくなった。

「おい、クリンク」

 主任がマヤ文明の石像みたいな仏頂面している。怒っている?いや、怒ってない。そんな顔だ。

「お前は交代だから、ブリッジにはミヤモトに出てもらう。次に呼ばれるまで待機しておけ」

「了解」

 仕方ない。Drモロンに追いつくまで、多少かかる。

「ク、リ、ン、ク~」

 とたんに、同僚のライラックに肩と腕をつかまれた。

「ねえねえ、パーティでの出会いはどうだった?」

 ブリッジから連れ出されて、連れて行かれたのはライラックの個人の部屋だ。

「地球の外務大臣、しぶいわあ」

 船室に入ると、女の子達の口さがないおしゃべりが始まっていた。

「私、迎賓の大使館勤めの役人に声かけられちゃった。あ、彼、黒髪ですらりとして、かっわいいの。今度はぜひ個人で新都市に遊びに来てって。あちこち案内してあげるって。ねえ、今度行く?」

「きゃああああ」

 女の子の悲鳴。嬉しい時の返事である

「ねえ、あの人どうだったの?」

 クリンクも無理やりベッドの席に座らされると、すぐに、くいくいと、ライラックが袖を引く。

「え?あの人?」

さらに妄想のネタを与えろというように、興奮しまくっていないか?いつものとおりで珍しくはないが、たらりと、クリンクは怖いものを感じた。

「ね、ね、クリンクは?」

 女子のいたいけな瞳がいくつも向けられる。悪気がないのは分かっている。分かってはいるが・・・

「いや、私は別に」

 とたん、悲鳴が耳をつんざく。常に最初からハイテンションだが、話がなんだかんだと加速して、制御しようもなくなって、叫ぶかわめくのが返事なのだ。

 クリンクはその手の話題にはうといので、矛先が向けられるのには慣れていない。

「えー。でもお、格好いい人と話していたよね」

 思いっきり核心を突くのだから、女の子の目というのは怖い。

「あ、あの、カガミっていう男の人でしょ?Drモロンの手先の」

「違うわよ。Drモロンの親戚の人で、役に立つってことで、パーカー様が追跡隊に加えたのよ」

「年は二十一だって。機械工学に精通していて、船では機関士するんだって」

 クリンクより他人のほうがカガミを知っている。しかし、近くで見聞きしたクリンク以上に、あの場にいなかったはずのものが、事情を知っているとは、どういうことだ?

「ねえ、クリンクはあの人のことが好きなの?」

「すっ?」

 女子のきらきらした瞳が何を考えているのか、クリンクにはよく分かった。

「そんん、な。好きかどうかなんて、分からないわよ。まだ会ったばかりなのに」

 という、常識的な反論は、彼女達をげんなりさせるだけのもの。

「何言ってるのよ、クリンク。あれだけかっこいいのに、好きになるの決まっているのよ」

「エ?」

「ねえ」

「うん」

 と一同うなづく。

「好きなら告白しなさい」 

 好きと決まったところで、話は飛躍した。

 相手が確定したからには、告白させたいらしい。

 欲求だらけの女の子の頭の中は、展開が早いのである。

「完全に面白がってない?」

「だって、あの人でしょ。この船にいるのに」

 そうなのだ。

 ナミアダ号の乗員になったのだ。クリンクの同僚に。

 急に彼が身近に感じられる存在になった。

「ク、リ、ン、ク~」

 ハッと気づくと、ニヤニヤして女子一同がこちらを見ている。

「こーくはく」

「こーくはく」

「うわーん!もう!告白するの、秒読み段階やめーいい!」

 にやにやしている女子達に、クリンクは顔が赤くなるのが分かった。彼女達はわあわあ騒ぐ。

「怒ったらいけないんだあ。騒いだらいけないんだあ、クリンク」

「そっちこそでしょう」

「クリンクのほうが騒いでる」

結局、クリンクも彼女達と同じように騒いでいた。

うむむむ。と口を閉じると、ぶるぶると震えが来た。

「告白なんてするわけないでしょうが。会ったばかりの人に」

 少し声のトーンを落として、我慢して言う。

「えーでも、好きなんでしょ?」

「違うったら」

「好きでないの?」

「好きでないことはないけど」

「いいじゃない」

「何が?」

「こーくはく」

「するんなら早くしてよね!」

「するかーっ!」

 もう、何がなにやら分からなくなったところで、携帯に呼び出しがかかった。

「目標接近、準備しにいくわ」

「告白しに行くんでしょ?」

「すぐにはしないって、いや、あ、ちが」

「するんだー!」

 ドアが閉まるまで彼女達は騒いでいた。付いて来ないところを見ると、本当にするとは思っていないようだ。

 腹立たしいやら、恥ずかしいやら。

 部屋を出たとたん、何だかどきどきし始めた。


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