表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

至高の盗人

作者: 安藤博文

至高の盗人



泥棒の分際でこう言っちゃあ何なんですが、あっしは自分のポリシーに反したことは絶対しない盗人なんですわ。あっしの場合、まず一般の家には入らない、だいたいはでかい会社や儲かっている店ですな。

それに、あっしは非常にプライドが高い。まぁー、盗るぞって決めたものは全て盗ってきたし、そこからくる自負心ってものがある。

 何より自分の欲しと思ったものしか盗らない。こりゃーあんた、まー皆さんじゃ理解できないと思いますが、泥棒の世界じゃかなり贅沢でしてね、盗人なんてもんはたいがいは、目に入った金目の物はほとんど持って帰ろうとするもんよ、だから、欲しいものしか持ち帰らないあっしのようなスタイルは、そりゃーもう気高いことなんですわ。それを貫いている自分自身に惚れ惚れするくらいですよ。


それとね、義理人情ってことも大事にしてるよ。歩道橋の階段を登ろうとしているお年よりなんて見かけた日にゃ、30メートルくらい離れてても駆け寄っておんぶしてあげる。このご時世そこまでやるやつぁなかなかいないぜ。義理人情ってもんはね、心掛けていれば自分にも帰ってくるもんでな、この前突然の雨でまいってたところに、親切な爺さんが傘をさしてくれたわけよ。ちっこい爺さんがちっこい傘をあっしの頭にさしてくれてな、一緒に入れって。泣けてくるじゃねーかい。


まっ、前置きが長くなっちまったが、そんなあっしは今回どうしても手に入れてーものがあって泥棒に入った訳よ。いやいや、泥棒が欲するものだから金目のもんだと決めつけんのは大間違いよ。

 今回盗みに行ったのは『パチンコ玉』。

 いやー、あっしはパチンコ自体、年に数回する程度なんだが、博才がないのかねぇ、一度として大当たりしたことがねえんだ。3箱も4箱も出玉を積み上げているやつを見るとうらやましくってね~。まっ、どうせ盗むならスポーツバックにいっぱい持ち帰って、好きなだけ、じゃらじゃらといじって、堪能してみたいって思ったわけだ。

ん、変わってるって?まぁー、人間どこかしら変わっているもんよ。

 でな、あっしは狙いをつけたパチンコホールに侵入したわけだ。厳重なセキュリティーもあっしのテクニックの前じゃ知恵の輪を外す程度のもんでな。あっという間に侵入成功。さぁ、好きなだけ玉を持って帰るぞと見渡すが、何せ真っ暗だろ、パチンコ台はあれども玉が捜せないわけよ。でな、店内の照明を付けてみることにしたんだ。すると遊技台にも電気が入って営業中と変わらない賑やかな音や光の演出が始まったのよ。


さぁ、台の鍵を開けて玉を取りだそうと思ったが、だがね、何だか簡単すぎるじゃねーかい。プライドってもんがある。

しばらくじっと考えてな、で、あっしは、自分の運で大当たりさせて玉を出し、それを持って帰るっていう最高形の盗みを思いついちゃったわけよ。

もちろんプレイは身銭をきってやるからこそ面白いわけで、あっしはちゃんと自分の財布から金を出して、真剣勝負をしたよ。

随分使っちまったが、驚いたことに生涯一度も大当たりしたことのないあっしが、なんとなんと、ラッキー7を3つ揃えて大当たりできたのよ。しかも10連チャンときた。

もう満足。我ながらこの芸術的な盗みに酔いしれながら、自分で出した玉をバックに入れて、さぁ退散って時だ、なんと早出の業務担当らしき人間が来やがった。


通路で玉を持ったあっしとばったり出くわしてしまってな、相手は驚いてたねー。そりゃそうだよ、見るからに泥棒ってやつがバック持って突っ立ってるんだから。腰が砕けるようにワナワナとしゃがみこんでよ、ところが、あまりに驚いたせいか、そいつの持病っぽい発作が起きてな、苦しんでるわけよ。

しかも・・・、しかもだ、何の因果か、よく見るとそいつは先日傘をさしてくれた爺さんな訳よ。


どうしたのかって?そんなもん決まってるさ。救急車を呼んだよ。

ところがよ、119番にかけたつもりがどうやら110番にかけてたようでな、電話口で向こうが「どうしました?」って言うから、老人がびっくりして倒れ発作を起こしているから来てくれって言ったのよ。

「あなたは?」って聞かれたから、ほら、さっき言ったようにあっしは生業にプライドもっているから堂々と「泥棒です」って答えたさ。


盗みの記録にバツは付けられないだろー、だからパチンコ玉のバックを片手に爺さんおぶって、外で待ってたわけよ、いやぁ重たかったね。




警察署の取調室からは、大きな声で話すこの泥棒の長い長い供述が続けられました。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ