8月だけの、片思い ④
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
浩一は、笹本敦子が焼肉店を訪れた翌日、さっそく吉田に報告した。
「吉田さん、昨日、敦っちゃんがお店に来てくれましたよ」
「『敦っちゃん』って……もうそんな呼び合う仲になったんか。望っちいは来んかった?」
「望っちいって……吉田さんもニックネームで呼んでるじゃないですか」
「川野くんとライバルにならんで良かったよ」
「どういうことですか?」
「ええのええの。それより明日はお互いバイト休みやし、ドライブがてら海に泳ぎに行こうか」
「えっ、あの車に乗せてくれるんですか?」
「川野くん、時々僕のミニクーパーを熱心に見つめてただろ?」
「気づいてたんですか? 小さくて可愛い車だなと思って……」
翌日のドライブは、雲ひとつない快晴だった。
車内を抜ける風を感じながら、浩一はふとダッシュボードのあたりを指差した。
「吉田さん、この車って……冷たい風は出ないんですか?」
「クーラーがないんだよ。窓全開で走るから風が気持ちいいだろ? ……あ、そういえば敦っちゃんの車に乗せてもらったんだっけ。涼しかった?」
「はい、快適でした」
「どこまで行ったの?」
「神戸までドライブに行きました」
「へぇ、快適な神戸ドライブねぇ。でもさ、便利さが『無い』ことを楽しむのも大事だと思わない?」
「無いことを楽しむ……」
「そう。いろいろ工夫して考えるようになるからね」
吉田の言葉に納得しながら、浩一は前方の景色に目を向けた。
「大学生活って、どんな感じなんですか?」
「そうだなぁ……なかなか忙しいよ。サボろうと思えばいくらでもサボれるけど、数年後にその差は確実に出ると思う。結局は自分がどう過ごすかだよ」
「僕も……どんな大学生活を送るのかなぁ」
「どんな大学生活を送りたいかを、自分で考えることだな。……さっ、もうすぐ海に着くよ!」
クーラーのないミニクーパーで駆け抜けた、楽しかったドライブのひととき。
しかし、その爽やかな余韻は、直後に起きた「ある出来事」によって一瞬で吹き飛ぶことになる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
クーラーのないミニクーパーで駆け抜けた快晴のドライブ。
「無いことを楽しむ」「大学生活で差が出る」という吉田先輩の言葉は、浩一の胸に深く刻まれたはずでした。
しかし、楽しかった海の余韻を一瞬で吹き飛ばした「ある出来事」とは一体——!?




