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むらまお~村人の僕がなぜか魔王に指名されたけど、できるだけ頑張ってみる~  作者: くろいボール


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7.突然始まった激闘

 四人が動いた瞬間、魔王の間は戦場と化した。

 ヴァルガンの巨体が地を蹴り、サメ人へ肉薄する。

 赤い鱗が陽炎のように揺らめき、拳が空気を裂く。


 灰色の拳が赤竜人の一撃を真正面から受け止める。

 激突した瞬間、衝撃波が円環状に広がり、床石が弾け飛んだ。

 魔法陣の文様が亀裂とともに崩壊し、破片が宙を舞う。


「貴様ァッ! なぜあんな人間をかばう!?」


 サメ人の咆哮が間近で炸裂する。

 だがヴァルガンは笑みを深めるばかりだった。


「何度も言わせんな。俺の理屈だ。テメェには関係ねぇ」


「ふざけるなァッ!!」


 サメ人の膂力が爆発的に膨れ上がり、ヴァルガンの体勢がわずかに押される。

 ヴァルガンは即座に体をひねり、相手の力を受け流しながら肘打ちを叩き込んだ。

 鈍い音とともにサメ人の巨体が後方へ弾かれる。


 サメ人は体勢を立て直すや否や再び跳躍し、上空から爪を振り下ろす。

 鋭利な爪が空間を裂き、ヴァルガンの肩をかすめた。

 赤い鱗が削れ、血がわずかににじむ。


 それでもヴァルガンは笑った。

 まるで痛みなど感じていないかのように。


 一方、ゼイルと狼人の戦いは対照的だった。

 黒豹人は一切の無駄を排し、計算された動きで狼人を追い詰めていく。

 魔力をまとった爪が連続して繰り出され、そのすべてが急所を狙っていた。


 狼人はそれを紙一重で回避し、反撃の牙を突き出す。

 だがゼイルは既にその軌道を読んでおり、体をわずかにそらすだけで攻撃を無効化した。


「……お前の動きは読みやすい」


 ゼイルが冷静に分析を口にする。

 狼人は舌打ちした。


「だったらどうした」


「隙が多い。それに、ヴァルガンとの連携も皆無だ。烏合の衆と言った通りだな」


 ゼイルの指摘は正確だった。

 狼人とヴァルガンは互いの動きを全く把握していない。

 というより、把握する気もなかった。


 推進派と反対派。

 根幹となる思想が大きく異なる両者に信頼など存在せず、ただ目の前の敵を各々が倒そうとしている。

 魔力が渦を巻き、空間が歪む。


 ヴァルガンの拳がサメ人のあごを捉え、サメ人の爪がヴァルガンの脇腹をえぐる。

 互いに傷を負いながらも、どちらも引かない。

 血が飛び散り、床を赤黒く染めていく。

 だが、両者とも表情一つ変えず、むしろ笑みすら浮かべていた。


「おらァッ! どうしたヴァルガン!? その程度か!?」


「笑わせんな。まだちっとも本気なんて出してねぇよ」


 二人の巨体が激突し、また弾かれる。

 床が陥没し、柱に亀裂が走った。


 ゼイルと狼人の戦いも激しさを増していた。

 ゼイルは狼人の攻撃パターンを完全に把握し、カウンターのタイミングを計っている。

 だが狼人もそれを察知しており、あえて攻撃の軌道を不規則に変えることで読みを外そうとしていた。


「ガルド!」


 ゼイルがサメ人ガルドに対して声を上げる。


「位置を入れ替えろ! お前はヴァルガンと相性が悪い!」


「黙れ! 俺はこいつを殺す!!」


 ガルドは聞く耳を持たなかった。

 怒りが思考を支配しており、冷静な判断など不可能だった。


 ゼイルは内心で舌打ちする。

 だが口には出さなかった。

 今は目の前の敵を倒すことだけに集中すべきだ。


 一方で狼人もまた、ヴァルガンとの連携はできていなかった。


「おい、ヴァルガン! そっちに押し込むぞ!」


 狼人が声をかけても、ヴァルガンは鼻で笑うだけだ。


「てめえの指図は受けねえ。勝手に動け」


「クソが……!」


 狼人ルーファスはいらだちを隠さなかった。

 ロウクを守るために協力する気がないなら、なぜロウクをかばったのか。

 理解できない。


 だがそんなことを考えている余裕はなく、ゼイルの爪が再び迫ってくる。

 ルーファスはとっさに体をひねり、反撃の蹴りを放った。

 ゼイルはそれを腕で受け止め、衝撃を殺しながら後退する。


 魔王の間は荒れ果てていた。

 床は無数の亀裂で覆われ、魔法陣の文様はほぼ消失している。

 柱の一部は崩れ、天井からは絶え間なく石の粉が降り注いでいた。

 戦闘の余波で生じた衝撃波が空間を揺らし、空気そのものが熱を帯びて歪んでいる。


 他の幹部たちははるか後方へ退避している。

 占い師狐獣人のルイズだけが元の位置から動いていなかったが、その白銀の尾もわずかに緊張の色を帯びているように見えた。


 そして、そんな激戦の最中にあっても、ロウクは玉座に座ったままだった。

 彼は目の前で繰り広げられる戦いを、特に感慨もなく眺めている。


 村の男たちも喧嘩をしていた。

 殴り合い、怒鳴り合い、時には血を流していた。


 目の前の光景はそれよりもはるかに規模が大きく、魔力だの何だのと派手ではある。

 ただ、結局は同じようなものなんだろうなとロウクは思った。

 強い者同士が力をぶつけ合っている。

 ロウクにとっては、それ以上の意味を持たなかった。


 それに、何より気になることがあった。

 ロウクは視線を上へ向ける。


 天井が結構な勢いで揺れている。

 細かな石の粉がぱらぱらと落ちてきており、このままだと崩れてしまうのではないか。

 そんな心配が脳裏をよぎった。


 あれ、壊れたらどうするんだろう。

 修理するのかな。

 すごく大変そうだけど。


 それと、床もだいぶ壊れてえぐれたり、割れているようにも見える。

 話に聞いたことがある魔法陣らしい模様も、ほとんど砕けて消えていた。

 これ、元に戻せるのだろうか。

 同じように描き直すのかな……。

 だとしたら、誰が描くんだろう。


 ロウクの思考は、戦いの行方などとは全く関係のない方向へそれていた。


 掃除も大変そうだなぁ、とロウクは思った。

 こんなに石の破片が散乱していたら、片付けるだけでも相当な労力がかかる。


 村での掃除当番を思い出し、ロウクは少しだけ憂鬱になった。

 あれ、結構面倒だったんだよね。

 でもまあ、今回は僕がやるわけじゃないだろうし、関係ないか。

 そう思い直し、ロウクは再び視線を戦いへ戻した。



 ヴァルガンとガルドが再び激突している。

 衝撃で床がえぐれ、破片が飛散した。

 狼人とゼイルも激しく動き回り、爪と牙が空間を切り裂いている。


 四人とも本気だった。

 殺意を込めて、全力で戦っている。

 それは傍目にも明らかだった。


 ロウクは小さく欠伸をした。

 別に退屈というわけではないが、かといって特別面白いわけでもなかった。


 強い者同士が戦っている。

 村の喧嘩と同じだ。

 自分にはどうにもできない。

 そう思いながら、ロウクは玉座の肘掛けに腕を置き、頬杖をついた。



 戦闘はさらに激化していった。

 四人の衝突が重なり合う。

 拳と爪が交錯し、床がえぐれ、柱がきしむ。

 その連鎖の果てに、ヴァルガンとガルドの拳が再び激突した。


 衝撃波が円環状に広がり、周囲の床を一気に破壊する。

 亀裂が放射状に走り、その一本が柱の根元へ到達した。

 柱が大きく傾ぎ、天井との接続部分が完全に崩れる。

 巨大な石材が宙を舞い、床へ落下しようとしていた。


 このままでは天井全体が連鎖的に崩壊する。

 魔王の間そのものが、崩れ去ろうとしていた。


 それでもロウクは玉座から決して動かない。

 ただ、頬杖をついたまま眺めていた。

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