小悪魔の声 【月夜譚No.390】
掲載日:2026/02/22
週末は、猫カフェに通っている。路地裏にひっそりと看板を構えた、小さな店舗だ。そのお陰で客数は少なく、いつものんびりと過ごさせてもらっている。
ソファの上で寛いでいる一匹のサバトラに近づいた彼女がそっとその背を撫でると、可愛らしい声を一声発してゴロゴロと喉を鳴らした。それだけで、一週間の仕事の疲れが緩やかに溶けていくのを感じる。
猫は良い。柔らかくて、フワフワで、何処を切り取っても愛らしい。自由気儘で何事にも縛られないイメージにも憧れる。
猫になりたいと思ったこともあったが、きっと猫には猫なりの悩みや葛藤もあるのだろう。猫の側からは、人間は一体どのように見えているのだろうか。
ぼんやりと思考に耽っていると、不意にサバトラが立ち上がって甘えた声を彼女に向けた。
「もう、おねだり上手め」
彼女は立ち上がり、受付に猫用のおやつを買いに向かう。
『人間なんて、チョロい、チョロい』
「――え?」
声が聞こえた気がして振り返るが、視界に入るのは顔を洗ったり寝転がったりしている猫達の姿しかない。
「……気のせい、かな」
再び背を向けた彼女の死角で、猫達はしめしめと視線を交わした。




