【裏】1.オヤシロ様
私の名前は武城マイ。高校一年生。血液型B型の水瓶座。好きな食べ物、リンゴ。嫌いな食べ物、ウナギ。
友達と呼べるのは一人だけ。玄河エリがそうだ。
彼女はいつも怖い話を持って来る。小学校に入る前からそうだ。
最初に彼女が話したのは神社の話。
お稲荷様が子供を連れ去ってしまうという、どこで聞いてきたのか分からない話。
どちらかというとお稲荷様が神隠しをした狐を叱りつける役割のはずだと思うが、彼女の話には関係ない。
こういった話を聞かされては、夜中に眠れなくなり、トイレにも行けなくなる。散々だ。
なんならこの歳になっても話を聞いた夜は怖くてトイレに行くのが億劫になる。
大音量でデスメタルをかけながらトイレに行くものだから、両親によく怒られる。
正直、彼女の怖い話は聞きたくない。可能ならばずっと黙っていて欲しい。そう思っている。
けれど――
「その人、塩が買えなかった日に人殺して自殺したんだって」
エリが話を終えると、彼女は決まって笑顔を私に向ける。
綺麗な弧を描き、絵に描いたような綺麗な口元と瞼。
私はこれが酷く怖かった。
細めた瞳からうっすら覗く黒い瞳に光は無く、笑顔の奥に違う感情が隠れているように見えてしまう。
私が怖がるのを楽しんでいるのだろう。最初にこの顔を見たときは、ただ揶揄っているだけなのだろうと思った。
だけど違う。それは違うのだ。幼いながら、その真意に私は気づいてしまった。
彼女の後ろに薄っすらと見える白い靄。私はこれを覚えている。
エリとは幼馴染であり、同じ病院で同じ日に生まれた。
私たちは双子だ、とよく言い合ったものだ。腹違いだし種違い。おかしな双子が居たものだ。
家も近所でいつも一緒に遊び、泥だらけになっては二人して親に叱られる。
私たちが遊ぶ場所はいつも神社だった。
寂れた神社。
管理人はいるようだが、最低限の管理だけ。
色の禿げた鳥居。でこぼこの短い参道。ゴミの溜まった賽銭箱にボロボロのお社。
鬱蒼と茂った草木が結界のように視界を遮っている。
いまになって思えば、不審者に会わずに済んだのは幸運だった。ここで襲われても誰にも気づかれなかっただろう。
いや、後になって思えば、それも偶然ではなかったのかもしれない。
私たちは、ここで遊ぶとき、必ずお参りをしていた。
家族に教わった参拝の方法をなぞって、毎日『お参りごっこ』をしていた。
賽銭箱に入れるお金がなかったから、ドングリや木の実など、近くで拾った『宝物』を入れて鈴を鳴らす。
二礼二拍手一礼。参道は神様の道だから端っこを歩く。
誰でも知っているようなことをやっているだけだが、子供にとってそれは新鮮で難しいものだ。
だから、それを出来る自分たちが誇らしく、そして自慢だった。
ある日のこと、小学校に入るもっと前。私たちが神社に来ると、知らない子供がいた。
あれは男の子だった。あれは女の子だった。思い出そうとしてもそれが何者かハッキリとしない。
分かっているのは、白い服を着たおかっぱ頭の子供ということ。
知らない子供だけど、自分たちの秘密の遊び場に訪れた新しい仲間。私たちはすぐに仲良くなった。
ずいぶん遊んですぐに夕暮れ。
日が傾く前に帰らなければいけなかったのに、夕焼けが真っ赤になるまで遊んでしまっていた。
これでは帰るころに星が出てしまう。
急いで帰ろうとしたとき、彼か彼女かその子が尋ねた。
【一緒に行っていい?】
暗くなる前に帰らなければならないのはその子も同じだろうと思い、私とエリは同時に言った。
「「一緒に帰ろう」」
そう言って駆け出し、鳥居をくぐる私たち。
振り返ると子供は消えていた。
どこに行ったのか、いまから隠れん坊は出来ないと、焦って周りを見渡すと――
「エリちゃん――!」
白い靄が彼女の身体に纏わりついていた。
驚いて、そして怖くて、私は何も出来なかった。
白い靄は彼女の中に吸い込まれて消え、ほんの数呼吸もしない内に、エリは元に戻っていた。
元に戻っていた?
本当に?
本当に彼女は玄河エリなのだろうか。
「あっ」
その日からだった。
「ねえねえ、マイタケって『お稲荷様の神隠し』って知ってる?」
私が怖かったのは、彼女の話だろうか。それともその日から変わってしまったエリのことだろうか。
彼女の話は聞かなければならない。それが私の責任なのだろう。
彼女が話を終え、私が怖がると、彼女は満足そうに微笑む。
きっとそうしなければいけない。
ずっと満足させなければいけない。
『ソレ』が飽きてしまったとき、彼女に何をされるか分からないのだから、私はどれだけ怖くても話を最後まで聞かなければならない。




