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婚約破棄された引きこもり魔女ですが、実は天才魔女でした。王宮で無自覚覚醒します!  作者: 兎丸 蓮


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第8話 捨てられた令嬢の予感ーー官吏登用試験の勉強は、甘い誘惑と共に


「おい、ニコライ」

 茫然と立ち尽くすニコライにロシェが慌てて声を掛けた。


「なんだよ」

「なんだ、じゃないぞ。彼女だろ? お前の元婚約者って」

「あ、ああ、彼女だ。たぶん」

 ニコライは呆然としながら曖昧に頷いた。


 ふと思う。


(魔力量が減った?)


 首を捻っているニコライに、ロシェがはしゃぐような声を上げた。


「たぶんってなんだよ、すごい美人じゃないか。

 ニコライが糞真面目でつまらない眼鏡女なんて言っていたけど、

 全然違う。

 むしろ、あの眼鏡と口元のホクロの組み合わせ、すげえエロい。

 高貴で品格ある侯爵家の極上令嬢だ」


「いや、ヴァービナス侯爵領地で会ったときは、

 もっと地味できのこが生えてるんじゃないかっていうくらい

 陰湿で暗かった。

 あんなに可愛くなかった」


「はあ? 

 それはお前が単に見る目がなかっただけじゃないのか? 

 あれは間違いなく光る原石だよ。

 俺だったら最高の女に育て上げるのにな。

 ニコライ、お前、ペトロフ男爵の娘と出来婚、

 早まったんじゃないのか?」


 ロシェがせせら笑った。


 ニコライは拳を握り締めた。


「ふん、相変わらず魅力も魔力もない女だよ」


 鼻を大きく膨らませてニコライは言い捨てた。





「カシア、あの、えっと、ありがとう。声をかけてくれて」


 エレナは個室に入ってから、

ふうと胸をなでおろしてカシアにお礼を言った。


「なんのことでしょうか?」

 カシアは無機質に首を傾げる。


「わたくしはマインラート様から

 勉強しやすい環境を整えるように仰せつかっているだけです。

 あの方々はエレナ様の邪魔になると判断したから、

 お声をかけさせていただきました」


 にこりともせず淡々と答えた。


 けど、そんな素っ気ない態度がなんとなく好感を抱いく。

 エレナは微笑んだ。


「ううん、ナイス判断!」


「ないす? そうですか、よく分かりませんが」


 カシアはさらに首を深々と無表情なまま傾げた。


「エレナ様がそうおっしゃるのであれば、

 よかったです。


 そうそう、そういえば、エレナ様」


 カシアは、ぽんと手を叩いた。


「三時のおやつの時間に、

 クロフォード様が

 王都で有名なチョコレートケーキなる菓子を持って現れるそうです。

 しばらくエレナ様は

『試験勉強に忙しいから店に行く時間がないだろう』とのこと」


「まあ、勉強しないといけないからね」


 エレナは苦笑した。


「ええ、そうでしょう。

 ですから、クロフォード様がいらした際、

 クロフォード様のことです、

 恐らくエレナ様とちょっとしたお茶会を所望されるかと思います。

 お天気もいいので、

 バルコニーにお席を用意しようと考えてますが、

 よろしいでしょうか?」


「うん、ありがとう。お願いするわ」

 

 カシアの言葉の端々が棒読み、

どこか奇妙で無機質な口調だったが、

エレナは笑顔で返事をした。


 これも使い魔の特徴なのかもしれない。


 エレナには使い魔なんていない。


 使い魔は、かなりの上級者かつ高位精霊と契約して

初めて所有できるという。


 カシアのように人の形をしている者もいれば、

動物や爬虫類、虫などの姿を取る者もいるという。

 

 テーブルの上には過去問が山積みになっている。

 エレナは眉間にしわを寄せながらも、

椅子に座って問題集を手に取った。


 クロフォードは、エレナが食べたいと言っていた

チョコレートケーキを持ってきてくれる。


(ふだん素っ気ないくせに、そういうところ変に気が利くんだから)


 なんとなく笑みが零れた。


 わたしが出来ることは、

官吏登用試験を受けるにあたり、

ある程度の点数を採るために勉強を頑張ることだ。


(よし、ニコライに再会した不快な出来事はもう忘れよう!)

 

 エレナは心機一転、さっそく勉強に取り掛かることにした。

 

 だけど、思いのほか分からない単語ばかりだ。



 何故だろう。

 

 魔法に関することならすらすら覚えられるのに。

 世にいう一般教養は全然頭に入らない。

 

 憶えられないまま時間だけが過ぎていく。


 焦り、物覚えの悪い自分に苛立つ。


「どうよ、エレナ嬢。勉強は捗っているか?」

 

 勢いよく扉が開いて、

予告通りクロフォードが入って来た。


 今日は王城出仕のついでなのか、

金糸の刺繍が施された純白な王宮魔術師の制服姿だった。


 制服を着るときクロフォードは、

髪をぴしっと撫でつけ、

襟付きシャツも首元までちゃんと閉めている。


 凛々しくてカッコいい。

 

 エレナは密かにその姿をとても気に入っている。


 クロフォードは手に持っていた紙袋をカシアに渡すと、

机の開いているページを覗き込んだ。


「ああ、これね。なかなか頭にはいらないヤツ」


 クロフォードは苦笑いをした。


「そうなんです、入らないんです……」


 エレナは苦悶の表情を浮かべた。


「どれ、見せてみろ」


 クロフォードは椅子を引き寄せ、机を挟んでエレナの正面に座った。


 試験対策本を手に取って真剣に見るクロフォードと距離が近くて、

エレナはなんとなくじっと見つめた。


 彼は美しい人だ。


 そこだけ空気が違う。


 長い睫毛、柔らかそうな髪。すべすべのお肌。


 兄のノックスは毎朝手入れが欠かせないと言っていたけど、

クロフォードにそんな気配はない。

 

 髭とか生えているのかしら。

 

 ニコライも地元では美形だともてはやされたが、

クロフォードと比べるとどこか田舎貴族特有の野暮ったさがある。

 

 不意にクロフォードが視線を上げて、エレナを見た。


「なに? なんか俺の顔についてる?」


「う、ううん、仕事忙しいのに、来てくれてありがとうございます、と思って」


 エレナの控えめな言葉に、クロフォードは一瞬ぽかんとする。


「はあ? 今更なにを」


「だ、だって、ク、クロフォード様はすごい魔法使いでしょ? 

 魔力抑えてるけど、

 あんな魔法銃を何発も連射できるだけのパワーがあるし、

 マインラート様やリックランス大臣の信頼も厚い。

 そんな方がわたしの勉強を見てくれるなんて、

 すごい贅沢というか……」


 クロフォードは一瞬何かを言いかけ、

ぐっと身を乗り出してエレナの顔を見た。


「大丈夫、

 すごい魔法使いなら、エレナ嬢もなれるよ。

 初めて会ったときからその素質があると思ってた」


「初めて?」


「うん。

 たぶん俺よりもずっとすごくなる。

 その、俺はその才能に惚れたんだ。

 だから、俺はエレナ嬢に頑張ってもらいたい」


 クロフォードは、

そう言い切ってから

しばらくするとカッと顔を赤らめて視線を逸らした。


 まるで自分の台詞を恥ずかしがっているようだった。


 それを誤魔化すように参考書を不自然な速さでペラペラめくった。


(わたしの才能に……?)


 時間差で、エレナもぼわっと身体が火照って、視線を床に落とした。


「あ、ありがとうございます……。

 魔法の才能、

 そう言ってもらえると、

 なんだかすごい頑張れます」


「お、おう。頑張ってくれ」


 クロフォードはさらに頬を真っ赤に染めた。


 2人が照れ合い、互いに言葉を探しあぐねている間、

カシアはバルコニーのガーデンテーブルにテキパキとお茶の用意を始めた。


 クロフォードが差し入れで持って来たチョコレートケーキを皿に盛り、

ティーカップに温かい紅茶を注ぐ。


「お2人とも、お茶のご用意ができました」

 

 淡々としたカシアの声に2人はハッとした。


「ああ、カシア、ありがとう」


 クロフォードが気恥ずかしそうに席を立った。


 「ほら、エレナ嬢、ご所望のチョコレートケーキだ。食べようぜ」

 

 目が合って、なんとなくふっと笑い合った。





第8話をお読みいただきありがとうございました。

今週は毎日21:00に投稿中です!

勉強中のエレナと、なんだかんだ甘いクロフォード様のやり取りを書くのがとても楽しかったです。


明日の第9話では、ついに試験当日を迎えます。

チョコケーキで鋭気を養ったエレナは、実力を発揮できるのか……?


面白いと思ってくださったら、ブックマークや評価での応援もよろしくお願いいたします!

また明日もこの場所でお会いできるのを楽しみにしています!


※本作は「カクヨム」にも『カァーム・ビュラクラト ―元引きこもり魔女王宮奮闘録―』というタイトルで掲載しております。

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