第35話 魔法使い令嬢の休日 ―― 友情の輝きと闇に潜む罠
ローゼルはどきどきしていた。
今日、初めて、お友達とお買い物に行く。
昨晩からずっと落ち着かなかったし、ローゼルにとって、建国記念祭にも勝る大イベントだ。
ローゼルは、諸事情があって貴族の子女が通うアカデミーに通っていない。
社交界への顔出しも最低限しかしていない。
なので、お友達は今まで、ゼロ。
というよりも、“今世紀最大の悪女”という悪評が先立って、話しかけても誰も口を利いてくれなかった。
嫌な顔をされ、
素っ気ない返事、
そして無視される。
どれだけその噂を払拭しようとも、なかなかできずにいた。
そんな中で、初めてできたお友達。
それが、女官仲間のエレナ・ヴァービナス嬢。
最初こそ、ローブに身を包み、挙動不審で少し怪しげな雰囲気だったけれど、話してみたら、ふつうにいい子だった。
それどころか、たぶん、エレナもローゼルの悪評を知っているんだろうけど、そんな噂でローゼルという人間を推し測らず、ちゃんと面と向かってお話をしてくれる。
いまではすっかり仲良しだ。
(そのエレナと初めてのお出かけ、楽しみ)
待ち合わせ場所である王都の噴水広場に、ローゼルは早めに到着した。
王都の中心にある広場は、大きな噴水があって、友人たちの待ち合わせ場所として賑わっていた。
空はどこまでも高く、澄み渡っている。
噴水の水しぶきが陽光に弾けて虹を作り、広場を囲む花壇からは、春を凝縮したような甘い香りが風に乗って届く。
誰もがどこか浮足立った様子で周囲をうかがっていた。
「エレナ、迷ってないかな……」
普段フードを目深に被っているエレナのことだ。
きっと今日も目立たないようにおとなしい平服で、人混みにまぎれるようにしてやってくるに違いない。
ローゼルは、“いつものエレナ”を見逃さないよう、目を凝らして周囲を見渡した。
そのとき、広場のざわめきが、ふっと凪いだ。
待ち合わせをしていた男性たちが、申し合わせたように一点を見つめて固まっている。
ふと視線につられて振り返ったローゼルの瞳に、まばゆい光景が飛び込んできた。
そこには、陽光を浴び、柔らかな絹のような光沢が亜麻色の髪の女性がいた。
透き通るような肌に、小柄だけど凛とした姿勢。
仕立てのいい淡いラベンダー色の平服、小ぶりのケープを羽織っていた。
眼鏡をかけたアメジストの瞳へと自然に視線が集まる。
(うわぁ、色気がすごい、あの子)
ローゼルは思わず見惚れた。
口元の小さなホクロが、彼女の笑みをひときわ艶やかに見せている。
それなのに、清楚感があって、美しい。
年齢はローゼルより少し年上。
いや、ひょっとすると同じ年かもしれない、平服でも滲み出る気品は隠しきれない。
歩くだけで周囲が振り返るような色香を放ち、そのせいで彼女が何歳か分からない。
(たぶん、貴族だよね……)
軟派な感じの若者たちが、慌てて背筋を伸ばし、服のシワを伸ばし始める。
(ふふ、そうだよね、あんな宝石みたいな女の子、そう滅多にお目にかかれるものじゃないよね)
一方、エレナもドキドキしていた。
お友達と初めてのお買い物。
カシアに押し切られるまま、いつもより念入りなメイクをされ、セレクトされた服を着せられた。
いつもよりお化粧が濃い気もする。
(変じゃないかな)
途中、露店に並ぶ珍しい薬草や、見たこともない道具に目を奪われつつ、目的地に向かう。
絶好のお買い物日和。
噴水から上がる水しぶきが、時折吹く風に乗って涼やかに肌を撫でる。
広場には、エレナと同じように誰かを待っているらしき人たちがちらほらいる。
その中にローゼルを見つけた。
淡いクリーム色のワンピースに細いベルトを締め、動きやすい裾が軽やかに揺れていた。
栗色の髪に小さなリボンを結び、蜂蜜色の瞳を輝かせる姿は、可憐な花そのものだ。
(やっぱり、ローゼルはどこにいても可愛い)
エレナがローゼルの目の前まで歩み進めるが、ローゼルはきょとんとしている。
それどころか、エレナに全然気づいていない様子で、なぜ自分の前に歩いて来るのか不思議そうにしている。
「ローゼル、あの、お待たせしちゃった?」
エレナはローゼルの目の前に立つと、声をかけた。
「……はへ?」
ぽかんとローゼルは口を開けた。
「ひょ、ひょっとして、エレナ?」
裏返った声を上げ、ローゼルが勢いよく後退する。
危うく噴水の縁に足を引っかけそうになり、エレナは慌ててその手を掴んだ。
「もう危ないよ。お待たせ」
エレナはにっこり微笑む。
十秒ほどの沈黙。
そして――。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――――⁉」
驚愕しすぎるローゼルに、エレナは苦笑した。
「やっぱ、お化粧濃かったかな?」
不安そうにするエレナに、ローゼルは無言でぶんぶん首を振る。
それから、じーっとやや興奮気味でエレナを見、それが少し落ち着くと、ローゼルはエレナに飛びつく勢いで言う。
「ううん、すごく綺麗! とっても素敵よ!!
フード被って正解だよ、だってこんな美女だったら殿方たちの暴動が巻き起こっちゃうわ」
「暴動って、何の?」
「エレナ争奪戦だよ」
「もう、相変わらずローゼルは面白いことを言うねえ」
くすくすエレナが笑うと、ローゼルはちっちっと指を振る。
「面白いじゃない、これでも真剣よ」
ローゼルは目をキラキラ輝かせる。
「あの朴念仁、仏頂面のレイノルドがエレナを美女と表現したのも頷けるよ、本当に美女なんだもの」
「大袈裟だよ」
「ううん、全然大袈裟じゃない」
周囲の男性たちの殺気立つような視線に気づいたローゼルは、所有権を主張するようにエレナの腕にぎゅっと抱き着いた。
「んじゃあ、女同士のお買い物、さっそく行こう!」
女同士をやけに強調するのを不思議に思いつつも、エレナは華やぐように笑うローゼルに嬉しく思いながら、大きく頷いた。
「うん、行こう!」
楽しい一日の始まりだ。
*
最初に向かったのはローゼルのお気に入りの雑貨屋だった。
扉を開けた瞬間、エレナは別世界に迷い込んだような感覚に包まれた。
店内は木の梁と石壁に囲まれた温もりある空間。
天井からは浮遊するランタンがゆっくりと回りながら柔らかな光を放ち、棚の影を幻想的に揺らしていた。
棚には色とりどりの魔法瓶、羽根ペン、香りの違うインク、魔法石、動くぬいぐるみ、しゃべるキャンドルなどなど、見たこともない雑貨が所狭しと並んでいる。
エレナは瞳を輝かせながら、最初に気になった繊細な細工が施された香水瓶に指先を伸ばす。
瓶の中には星屑のような液体が揺れていて、蓋を開けると甘い花の香りがふわりと広がった。
ローゼルは棚の隅で、耳がぴくぴく動く小さなウサギ型の魔法人形を見つけて歓声を上げた。
「これ、可愛い」
栗色の髪が揺れ、蜂蜜色の瞳が好奇心に満ちていた。
「んー、これ、しゃべるのかな?」
「ねえねえ、ローゼル。あっちの棚、魔法の羽根ペンがあるよ!」
ふたりは店内をくるくると巡りながら、まるで宝探しのように目を輝かせていた。
店主は長い帽子を被った老魔法使いで、ふたりの様子を見てにこにこと笑っていた。
「お嬢さん方、そのペンは感情に反応して色が変わりますよ。恋文にはピンク、怒りには赤、秘密には……」
「秘密には?」
ローゼルが目を丸くすると、店主は目を細めて答えた。
「それは、書いた本人にしか見えない色です」
ふたりは顔を見合わせて、くすくすと笑った。
ローゼルは値札を見ては、そっと商品を棚に戻す。
その手つきは慎重で、どこか悲しげだった。
「面白そうだけど、うん、今の羽ペンで充分かな」
独り言のように呟いた。
他にもリボンやブローチなどの装飾品もローゼルは「可愛い」とはしゃいだ声とは裏腹に、その視線は常に現実的な値札へと向けられていた。
ローゼルはかなりの節約家のようだ。
「可愛い」と言いつつ、ちゃんと実用的なものを吟味している。
(あ、また棚に戻した)
そうだった、ローゼルは家のために働いているんだっけ。
父親の事業失敗の借金返済で、女官としてのお給金の大半は家に入れている。
だから、自分が使うものはかなり我慢し、そして買うときは厳選しているようだ。
「ねえ、エレナは何か気に入ったものあった?」
「う~ん」
お洒落で可愛い雑貨よりも、棚の隅にある収納箱や色褪せ防止の花柄のしおりが気になる。
「でも、あれって、少し術式が古いなぁ」
付与魔術がかかっているみたいだけど、これはそのうち風化してしまう。
しおりを摘んで裏表をじっと見つめた。
不意に、この前王城で感じた魔力をエレナの脳裏を掠めた。
どろり、とした不快感が、蘇ってぞくっと背筋が凍った。
あれは、たぶん魔法省の先輩女官の持ち物からだった。
(気持ち悪かったな、あれ)
かなり古い術式で、そう、官吏登用試験のときに遭遇した魅了の古代魔道具に酷似していた。
漂う雰囲気は少々異なるが、描かれた魔術式の年代とか匂い。その辺が重なる。
「けどなぁ……」
何かが引っかかる。
「もう、エレナったら。
お休みの日まで魔法の研究? 本当、魔法好きなんだね」
ローゼルが呆れるように呟いた。
「え、うん。魔法、好きだよ」
「あはは、らしいね。
で、どうする? もし買うものがなければ、カフェにでも行く?」
蜂蜜色の双眸が、考え込むエレナの顔をぐっと覗き込んだ。
「そうだね。うん、行こうか」
エレナは気を取り直して、にっこり微笑んだ。
(あの気持ち悪い気配のことは後回しにしよう。
いまはとにかく楽しもう!)
ふたりは店を出、王都の喧騒の奥にあるというウワサの小さなカフェを目指した。
*
大通りの喧騒をくぐり抜け、石畳の小道を抜けた先、蔦の絡まるアーチをくぐると、そこにはまるで絵本から抜け出したようなカフェが佇んでいた。
外壁は白い漆喰に木の梁が走り、窓辺には色とりどりの花が咲いている。
看板には「珈琲と魔法の香り」と書かれ、風に揺れる金属の鈴がチリンと鳴った。
扉を開けると、エレナは初めて嗅ぐ匂いに圧倒される。
それはエレナの知るどんな茶葉とも違う、深く、ほろ苦い香り。
鼻先をくすぐるその匂いに、胸の奥がざわめいた。
「ここが最近できた“こーひー”専門店のカフェ?」
「うん。そうみたい」
店内は焙煎された豆の香ばしい香りがいっぱいに広がっている。
木造の温もりに満ち、天井からは浮遊するランタンがゆっくり回って柔らかな光を落としていた。
壁際の棚には、各地から集められた魔法豆が瓶詰めで並ぶ。
ラベルには「眠りを誘う月影豆」「記憶を呼び覚ます霧の豆」「恋を後押しする紅焔豆」など、詩的な名前が踊っている。
カウンターの奥では、店主の老精霊が銀の羽根を揺らしながら豆を挽いていた。
たぶん、魔力の少ない人には、至ってどこにでもいる老人に見えるのだろう。
魔力量の多いエレナだから、美しく揺れる羽をこの目にすることができる。
彼の動きはゆったりとしていた。
まるで時間そのものがこの店だけゆっくり流れているようだった。
席は窓辺の丸テーブル、暖炉のそばのソファ席、天井近くの浮遊席など、どれも個性的だ。
ローゼルは窓辺の席に目を輝かせ、エレナは浮遊席に興味津々で見上げていた。
一体どういう魔術式でああいうふうに浮遊席を作れるのか、非常に興味深い。
悩んだ挙句、浮遊席も捨てがたかったが、運動神経が伴っていないと転げ落ちる可能性があると知り、結局ローゼルが最初気になった窓辺の席に座った。
「これが……コーヒー?」
出されたカップの中の黒い水にエレナは目を丸くした。
けれど。
「……この香り、初めてなのに、すごく心地いい」
口にすると、舌に広がる苦みと、後から追いかけてくる甘い余韻に、エレナの瞳が驚きに見開かれた。
瞳がきらめき、口元のホクロが艶やかに揺れる。
「不思議……でも、すごく好きかも」
対面に座るローゼルも恐る恐る口をつけたが、すぐに顔をしかめた。
「に、苦い! こんなの飲み物じゃないよぉ……」
蜂蜜色の瞳が涙目になり、栗色の髪が揺れる。
エレナはくすっと笑い、棚に並ぶ道具へ視線を移した。
魔法仕掛けの豆挽き器、香りを閉じ込める密閉壺、銀のポット、薄い陶器のカップ。
どれも美しく、未知の文化の輝きを放っている。
一緒に頼んだガトーショコラが運ばれてきた。
口に頬ばった瞬間、ガトーショコラのカカオの香りが口いっぱいに広がり、そこへコーヒーの芳ばしい香りが重なった。
二つの香りが絡み合い、鼻腔から胸の奥へと抜けていく心地よさに、思わず目を閉じた。
「ローゼル、ガトーショコラと一緒に食べると、コーヒーがたちまち大変身するよ」
「え? どれ」
ローゼルは、ガトーショコラをぱくっと口に運んだ。
「ん~! 本当だ。すごいコラボレーション。美味しい」
嬉しそうに目を輝かせて頬を綻ばす。
「あ、あの、これって」
エレナは勇気を出して店主に尋ねる。
「自分でコーヒーって淹れること、できますか?」
「ええ、道具さえあればできますよ」
「買います。ください」
店主は目を丸くしたが、すぐににこりと笑った。
「お嬢さん、いい趣味をお持ちだ。これで毎日、香りの魔法を楽しめますよ」
ローゼルは呆れ顔でエレナを見た。
「ほんとに買うの?」
そして、声を潜める。
「結構、道具のお値段、高いよ」
「うん。買う。
だって、この苦さの奥に、すごく深い魔法を感じるの」
店主はコーヒー一式セットの包みを渡した。
エレナの胸は弾み、まるで新しい魔法の扉を開いたような高揚感に満ちていた。
まだこの国では馴染みのない飲み物。
「あの、コーヒーの淹れ方も教えていただけませんか?」
「もちろん」
店主は微笑むと丁寧にエレナに豆の挽き方を教え始めた。
*
注文を終え、落ち着いた店内で二人は窓際の席に座る。
エレナとローゼルの二人は、間違いなく店内で一番目を引く存在だった。
陽光を透かす銀髪のエレナと、愛らしい栗色の髪を揺らすローゼル。
二人が顔を寄せ合って微笑むたび、近くのテーブルに座る若い男性客たちは、あからさまにそわそわし始めていた。
「おい、見ろよ。信じられないくらい綺麗な子たちだぞ」
「どこの令嬢だ? あんな子、今まで王都で見たことないぞ」
「話しかけようかな……いや、あんな高貴なオーラ、俺たちじゃ相手にされないって」
男性たちが熱い視線を送っているとも知らず、当の本人たちの会話は、その可憐な外見からは想像もつかないほど「実務的」だった。
「それでね、エレナ。改正された通商法の第十二条なんだけど、あれの解釈がどうしても覚えられなくて。昨晩も徹夜で全書を読んでたんだけど、頭がパンクしそうだよ」
ローゼルが、ガトーショコラをフォークでつつきながら、眉間にしわを寄せた。
「法務省は大変だね……。
でもその条文、魔法素材の関税に関わるところじゃない?
それなら、さっき買ったこのコーヒー豆の保存方法にも応用できる魔法理論があるよ」
エレナは、テーブルに置かれた「コーヒーミル一式」の包みを愛おしそうになでながら、目を輝かせる。
「ええとね、コーヒーを淹れるときはね、まずお湯の魔力伝導率を安定させなきゃいけないって。で、九十度前後で一定の魔力を流し込みながら」
エレナがミルをそっと回す。
周囲の温度が僅かに変化し、コーヒー豆から黄金色の粒子が舞い上がる。
「うわぁ、キレイ」
ローゼルが感嘆のため息をついた。
「さっき、店主のおじさんが見本見せてくれたときはこういうふうにならなかったのに」
「たぶんね、魔力を込めてなかったからだよ」
「じゃあ、いま、込めてるの?」
「うん。ほんの少しね。でね、こう、『の』の字を書くように抽出することで、豆の深層に眠る成分が――」
「ちょっと待ってエレナ、その淹れ方、もはや抽出っていうか『精錬』の域に入ってない?」
「そう? でも美味しいコーヒーを淹れるのは、高純度のポーションを作る理論と同じだなぁとは思ったんだ」
エレナが真剣な表情で熱弁を振るう。
けれど、端から見れば恋する乙女のようなうっとりとした顔そのもの。
ローゼルはそれを見て「やっぱりエレナは魔法オタクだなぁ」とケラケラ笑った。
周囲の男性客たちはその眩しい笑顔に振り返り、だが、ふたりの難解な会話についていけず、また一人、また一人と撃沈していく。
ふたりの頭の中に「自分たちがナンパの標的になっている」という自覚は一ミリもなかった。
ふたりの関心事は、あくまで「法律の攻略」と「究極の一杯」に向けられていたのであった。
***
夜の闇が音もなく王宮を浸食する。
風が強くなってきたらしく、西塔の窓が一斉に鳴るように震える。
だが、大部屋の研究室は魔法結界で密封空間となり、静寂と暗闇に包まれていた。
その中で、一つの灯。
彼女は誰も来ない部屋の片隅で、ランタンを手元に置いて、熱心に羽ペンを走らせる。
それこそ無我夢中で。
羽ペンの音が響く。
「どう? 順調?」
そこに気怠い声の若い女性が声をかけた。
女官の制服の上にしどけなく黒の高級ガウンを着て来た女。
大きく巻いた豊かな髪と、くっきりとした山形の眉。特に高い頬骨と尖った顎が彼女に妖艶さを与えている。
「いいえ。地下収納倉庫、あそこがまだだわ」
声を掛けられた女は華奢な喉を震わせ、ゆったりと首を振った。
こちらの女は赤いガウンを羽織り、そして黒のガウンの女とは対照的に、どこか儚げな雰囲気を漂わせていた。
「そう、あそこの警備は厳重だから」
「ええ」
けれど、厳重と言えば……。
赤いガウンの女が天井を仰ぎ見、二階のある部屋を見据えた。
その視線に黒いガウンの女も視線を投げた。
「あそこにあるのよね」
――わたしたちの目標物。
それは、守りの堅い要塞のように強靭な結界が張られている。
「明日決行しましょう」
「そうね。時間は迫っているわ」
ほんの一瞬、二人の間に殺気にも似た電流が走った。
――それは平穏な日々の裏で研ぎ澄まされた、抜き身の刃のような冷たさだった。




