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婚約破棄された引きこもり魔女ですが、実は天才魔女でした。王宮で無自覚覚醒します!  作者: 兎丸 蓮


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第12話 踏み出した令嬢の困惑――迫る過去と狂乱の回廊


試験官とその従者たちが出入口に机を準備し出す。

目敏い受験者は、そそくさと並び始めていた。


「あ、行きましょう」


ローゼルが上機嫌で立ちあがった。

エレナもローゼルの後について並ぼうとする。


突如、がっと肩をつかまれて飛び上がるほど驚いた。

「!」

振り向くと、

そこには切羽詰まった表情のニコライがいた。


エレナはますます心臓が口から出そうなほど慄く。


「君、名前を教えてくれ」


思わず喉の奥に悲鳴を呑み込む。

じんわりと冷や汗が首筋に滲むのを感じた。


「すすすすすす、すみません、急いでいるので」


全身を強張らせたままエレナは、

ニコライからそそくさと離れ、

ローゼルの元に駆け込んだ。


ローゼルと列に並ぶと、

その後ろに次々と受験生たちが列をなす。


(び、びっくりしたぁ……)


ニコライは顔を一瞬歪めて、渋々ロシェと最後尾に並んだ。


「うわぁ、いよいよだぁ、緊張してきたぁ」


ローゼルが大きく深呼吸して、

受験受付表の紙を大事そうに持ち直す。


エレナも受験受付表を持ち出すと同時に、周囲を観察した。 


受験者は、

出入口に構えている受付担当者に受験票を出し、

問題なければ試験会場に入る。


「え、なんで駄目なんですか?」


受付で一人の受験生が、小さく声を上げた。


あれは、さっきエレナとローゼルを見て舌打ちした男。


「君、誰? 

 受験生と違う人物だよね? 

 ひょっとして替え玉受験しようとしてる?」


ぎろりと鋭く試験受付係に問われ、男は顔を蒼ざめる。


「君、こっち来て」


強面の試験官に、ぽんと肩を叩かれる。


そして、体格のいい試験官たちに取り囲まれ、

彼を別室に連行するように案内する。


(クロフォードの言うとおりだ……)


部屋に吸い込まれるように入室する者もいれば、

部屋に入りたくとも、

透明な壁に阻まれて入れない受験者が何人もいる。


これはカンニング防止や替え玉受験防止の結界の影響だ。


きっと別室で色々取り調べられ、

場合によってはキツイお灸を据えられるのだろう。


官吏登用試験は、一度不正が発覚すると二度と受けられない。


それなのに、不正が後を絶たないのは、

それだけこの試験に合格した後のメリットが

非常に高いということだ。


そういえば、

あの中にクロフォードが言っていた“協力者”がいるのだろう。


(誰だろう)


――あのさ、エレナ。

明日の試験官の一人が俺の協力者だから、

もし怪しい奴がいたらすぐ合図して。


昨日、試験勉強に追い込まれるエレナに、クロフォードは言った。


彼は時々、領地では食べることができなかったお菓子を

しょっちゅう持ってきて、

エレナを鼓舞してくれる。


この日は、ルミナベリーの光るタルト。


ルミナベリーは、

夜になると淡く光る小さな果実で、

集中力を高める香りを持つ。


イチゴより酸味のある爽やかさがある。


クロフォードとは年齢も近いからか、

次第に顔を合わせているうちに、タメ口で話したり、

呼び捨てにしたりする関係性になった。


「合図って? どういうの?」


エレナはタルトにフォークを入れながら、首を捻る。


「とにかく協力者に目で訴える」


タルトを口に運びながら、

クロフォードは真剣な顔で抽象的なことを言い出す。


エレナはつい爆笑してしまった。


「無理だよ、目で訴えるなんて。

 それこそ不審な動きになっちゃうよ」


だいたい、

人様と目を合わせることに恐怖心を抱いている私には難しい。


「おいおい、笑うなんて失礼だなあ、

 これ、マジだって」


クロフォードは不服そうに頬を膨らませた。


「そいつさぁ、元魔法騎士団だったから、

 人の視線に過敏なんだよ」


「へえ。元……」


「うん、怪我で負傷して若くして引退したんだ。

 けど、その分、超絶目敏い。

 ちょっとした視線で気付くから。


 掌に回答を書いたり、

 隣の人の回答をカンニングしようとしたりする奴とか

 即効見つけるんだぜ」


まるで自分のことのように得意気に話していた。


毒舌のクロフォードがべた褒めするということは、

きっと頼りになる人なのだろう。


そんなことをエレナが朧気に考えていると、

女性の激昂した声が響いた。


「ちょっと、どうして入れないのよ!」


はっとしてエレナは我に返って、そっちを見た。


不服を申し立てているのは、例の巨乳令嬢だ。


どうやら、彼女は部屋に入ることができないようだ。


たぶん、あのネックレスが原因だろう。

だが、彼女はそれを認めずぎゃんぎゃん騒ぎ立てている。


エレナとローゼルは目が合い、同時に肩をすくめた。

どうやらローゼルも同感のようだ。


「君、別室で持ち物検査をしようか」


ガタイの良い大男の試験官が、

彼女の肩をぽんっと叩いた。


その瞬間、エレナは我が目を疑った。


赤い(もや)が、試験官の腕に覆うように纏わりついた。


「まあ、破廉恥な!」


彼女は男の手を乱暴に手で払う。


「持ち物検査なんてそれらしく言っているけど、

 さては、あたくしを丸裸にするつもりね」


彼女の怒気を含んだ声に、

エレナとローゼルは思わず顔を見合わせた。


「呆れたぁ。

 公正な立場の試験官がそんな猥褻なことをするわけないじゃん」


ローゼルもすっかり呆れ返っているようだ。


「だね、少々自信過剰な令嬢みたい」


エレナも何度も頷いて同意する。



だが、彼女の周りにいた男たちの反応は違った。


「彼女を丸裸にするなんて試験官の風上にもおけん!」


「職権濫用だ!」


「いいなあ、

 試験官になれば気軽に彼女の裸を見ることが許されるのかあ」


「おいおい悠長なことを言っている場合か。

 我らのお嬢様が試験官たちに犯されてしまうかもしれないんだぞ!」 


「なんと! それはけしからん!」



(はあ?)



ますますローゼルと同タイミングで首を傾げる。


男たちが言っていることが意味不明で支離滅裂すぎる。


けれど、そこで違和感を覚えた。


彼女を中心に、まるで波紋のように男たちの抗議の声が大きくなっている。


「君は何を勘違いしているんだ。無礼な行為はしないと約束しよう」


試験官は毅然とした口調で令嬢に言う。



パンっ!



同時に彼に絡みついた赤い靄が音を立てて霧散(むさん)して、

エレナは目を剥いた。


(すごい、霧を消した)


「ねえ、持ち物検査なんて試験が終わってからでいいでしょ?」


令嬢は突然猫なで声を出して、

再び試験官の手を自分の胸元に当てる。


赤い靄がまるで笑うかのように、

試験官の体を撫でて絡みつく。


「あら、殿方はベッドの上ではいろいろ許してくれるのよ」


(今度は色仕掛けですか?)


「なに、あの子」


ローゼルは鼻を膨らませて、

不快そうに顔を歪めた。 


その時、彼女の胸元のネックレスが脈打つように赤光を放った。


靄は生き物のように這い広がり、

回廊全体を呑み込む。


まるで意識的にテリトリーを広げているようだった。


(あの靄、間違いなく魔力だ)


しかも、魔力は彼女じゃなくて、あのネックレスが放っている。


次第に試験会場前の回廊は、

凶暴で濃厚なピンク色の靄に染まる。


靄が肌を撫で、甘ったるい匂いが喉を焼く。

吐き気が込み上げ、視界が揺らぐ。


エレナは手を口に当てる。


この赤い靄は魔力が強い者なら見えるものだ。

おそらく試験官たちや、

ローゼルにもあの赤い靄が見えているはずだ。


ローゼルをちらっと見た。


ローゼルはびっくりした様子で、

周囲をきょろきょろ見回している。


やはり、見えている。


「ねえ、お願い。いいでしょう? 試験官様ぁ」


彼女はさらに媚びた声で、試験官に擦り寄る。


エレナは凶暴なこの香りに吐き気を堪えながら、顔を歪めた。


ふと、視界の端で玉虫色に爛々(らんらん)と光る瞳を見た。


「そうだ、彼女を入れてあげろよ!」


男の一人が叫び出した。


「そうだ、入れろ!!」


「不当だ!」


「彼女を守れ!」


また次々と試験官を抗議する声が、怒涛(どとう)のように上がり始めた。


男たちが声を荒らげ、

威圧的に迫り来る。


断片的な叫びが次々と重なり、

波のように押し寄せる。


やがて試験官と彼女を、

受験者用の列に並んでいた男性たちが囲み巡らす。


その怒声は理性を失った合唱となり、回廊を震わせた。


彼らの瞳は同じ色に染まり、

同じ調子で叫び続ける。


まるで一つの意志に操られた合唱団のように。


恐怖を感じた。


これは集団ヒステリーだ。


さっきまで冷静だったはずのロシェとニコライも、

男たちに交じって声を荒げていた。


この異様な風景に、

試験官たちもエレナを始めとする女性受験生、

何人かの男性受験生は動揺し困惑した。


(これ、おかしい)


中心にいる巨乳令嬢が、

艶然(えんぜん)と勝ち誇ったように細く微笑んでいた。



そして、ネックレスの赤光を誇示するかのように胸元を揺らした。





読んでいただき、ありがとうございます。


ついに異様な騒動が起きてしまいました……。


ニコライに迫られ、さらには謎のピンクの靄まで発生し、試験会場は大混乱です。

果たしてエレナはこの窮地をどう切り抜けるのか?


そして、クロフォードが言っていた「協力者」とは一体誰なのか……。


少しでも「続きが気になる!」

「エレナ、魔法でギャフンと言わせて!」と思ってくださったら、

ぜひ下の**【ポイントを入れて応援する】**から、

評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に!)やブックマークをいただけると、

執筆の凄まじい活力になります!


よろしくお願いいたします。

(明日も更新予定です!)


※本作は「カクヨム」にも

『カァーム・ビュラクラト ―元引きこもり魔女王宮奮闘録―』

というタイトルで掲載しております。


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