第11話 踏み出した令嬢の同志――古代魔道具と内緒の魔法使い
ピンクの靄。
甘い凶暴な香りが鼻につく。
この香りを嗅ぐと、
エレナは胸をかきむしられるように不安になった。
ねっとりとした不快感が込み上げて来る。
色情を感じさせる令嬢に魅せられたように、
数人の男たちが、
ふらりと彼女の後を追うようについていく。
ロシェとニコライも誘われるようにふらりと揺らぎ、
彼女の後を追いかけようとした。
「ねえ、2人とも、大丈夫?」
ローゼルが思わずロシェとニコライに声を掛けた。
2人ははっとして、ローゼルとエレナを見た。
それから、まるでキツネにつままれたように
互いの顔を見てぽかんとする。
なぜ彼女の後を追いかけようとしたのか、
自分でも分かっていないようだった。
(奇妙な違和感……)
エレナは彼女の後ろ姿を見つめた。
その時。
ローゼルの蜂蜜色の瞳が一瞬鋭く光り、
周囲を警戒するように揺れた。
「ねえ、あなた、魔法使いよね?」
ローゼルは、
声をひそめてエレナに届くように囁いた。
「なななななな……!」
エレナはぎょっとして、声を上げた。
「その、ごめんなさい。唐突で」
ローゼルは早口で捲し立てる。
「あなた、あえて魔力を消しているから、
きっと事情があるんだろうなあって思ったの。
けど、大丈夫、誰にも言わないから」
エレナは気圧されて、コクコクと頷く。
「私もこうやって傍でお話してたから、ようやく気づいたっていうか……。
すごいね、このローブ。
これがあなたの魔力を覆い隠しているんだね。
ってことは、実はすごい魔法使いなんじゃないのかな。
しかも、顔を認識させなくする付与魔術もかかっている」
あけすけにローゼルが次々と言い当てるので、
エレナは今度は口をぱくぱくさせた。
(この子、何者⁉)
マインラート・ソシュールの付与魔法を見破るなんて。
私よりもよっぽどこの子の方が
王宮魔術師としての才能があるのではないだろうか?
「でも、これもきっと意味あってその付与魔法が施してるんだよね。
あっ、ううん。
そんなことよりも、あの令嬢、変な感じしなかった?」
ローゼルは通り過ぎた男を侍らす令嬢にさっと視線を投げ、
それから改めてエレナを見た。
「う、うん。わたしも感じたよ」
エレナは内緒話をするように
ローゼルに身を寄せて小声で言う。
「今まで感じたことない魔力だった」
「やっぱり。あんな不思議な魔力、初めて感じたの。
あれは、なに?」
ローゼルが訝しげに小さく声を上げた。
エレナは考えながら呟く。
「あれは人の魔力というよりも、
魔道具から発するものと同じだと思った。
ううん、それよりももっと古い術式のもので……」
エレナも初めてだった。
こんな硬質的で怜悧な魔力。
魔道具の動力は魔石だ。
最近は錬金術で作られた魔石が主体だ。
だが、
それとは違う複雑怪奇な魔力が、
魔術式が見えた気がした。
「いいのかな?
あんな魔力ダダ漏れの道具を身に着けたまま試験に挑んで……。
あれのせいで試験が中止とかならないかな」
ローゼルが切羽詰まった顔で不安を訴えた。
「た、たぶん、それは大丈夫だよ」
試験会場はカニング防止の結界が張り巡らされている。
少しでも怪しいものを持っていれば、
会場に入ることは出来ない。
それよりも気になることがある。
「ねえ、ロ、ロ、ローゼル様も魔法使えるの?」
エレナは思い切って尋ねた。
ローゼルは一瞬きょとんとした顔をして、それからもじもじし出した。
「うん、ちょこっとだけ。
私ね、魔力感知能力がうちの一門の中でも一番優れているんだって。
だからああいうの、近くにあるとすぐ分かわかっちゃうの」
恥ずかしそうにローゼルは続ける。
「でもね、
お義母様から『女が魔法を使うのははしたない』って叱られるから、
周囲には内緒にしてるんだ」
「え、それ一緒!
私のおばあ様も同じ感じだよ。
『女が巨大な魔力を持っているのをいい顔する人は多くないから、
内緒にしておきなさい』って」
「ああ、そうなんだね。
うわぁ、なんか親近感。
初めて同志にあった気がする」
ローゼルは感極まった顔で少し涙目になりながら、
エレナの両手を握った。
「ねえ、あなたの名前、聞いてもいい?」
「え?」
エレナは一瞬躊躇う。
ちらっとニコライを見た。
その瞬間、
ニコライとまともに目が合って、慌てて目を逸らした。
「私のこと、ローゼルって呼んで。ね?」
ローゼルはエレナにやけに親近感を感じたらしく、
目をうるうるさせて頼み込んでくる。
か、可愛すぎる。
悪意のない無垢な可愛さ。
ニコライがすぐ傍にいるのに、
思わず名乗りそうになる。
「ロ、ローゼル、
じゃあ、試験終わったら、改めて自己紹介させてください」
「そうね、そうしよう。うん、ありがとう!」
とびきり可愛く、
何より親しみに満ちた愛らしいローゼルの笑顔。
エレナの頬が赤く染まる。
マインラート・ソシュールが怪しいと参考情報でくれた3名のうち、
1人が彼女だった。
たぶん、婚約者の父親が胡乱なだけで、この子は何も悪くない。
そんな気がする。
その時、試験会場から試験官がバラバラと複数人出て来た。
その従者たちが出入口に机を準備し出した。
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※本作は「カクヨム」にも
『カァーム・ビュラクラト ―元引きこもり魔女王宮奮闘録―』というタイトルで掲載しております。




