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8話

本作は、聖女と“人外の護衛”が世界の理を巡る旅へ出る、

シリアス寄りのダークファンタジーです。


暴力描写があります。苦手な方はご注意ください。

世界観は重めですが、物語は「聖女×護衛」のバディ関係を中心に進みます。


楽しんでいただければ幸いです。

「なっ!き、貴様っ!どうしてっ!」


目の前で、驚愕と恐怖が混ざった顔のまま、ずり落ちた黒縁眼鏡も気づかず、震える指で彼を指すのは、さっきまで絶対的な勝者であったカナン司祭。


豪奢な室内で、自分の狂った宗教画に見下ろされた司祭が真っ赤な顔で立ち上がり、入って来たゼオバンに怒鳴るが、彼は聞こえて無い様に無視し、座っている私の背後に無言で立った。


「…し、失礼します、あの…お客様がお越しです」


彼の行動に、激怒しようとしていた司祭に閉められた扉の向こうから、割って入ったのは修道女の躊躇いがちな声。


「後にしろっ!それよりも騎士達を呼べっ!」


殺気と怒気がたっぷり込められた視線で、私を睨みながら声を荒げる様に、口角が自然と上がってしまい、噴き出さない様にするのを我慢する。


「…あいつらなら暫く動けないだろう」


他人事にそう発した彼の低い声に、私は一言だけ返す。


「…殺したの?」


それの何が面白かったのか、ふっと噴き出して笑いながら否定するゼオバン。

なんだか、温かい目で見られている様な気恥ずかしさから、振り向いて睨む。


「何よっ!」


「いや、流石”友”だなと思ってな」


その一言が、サミィの事を示していると理解し、きっと彼女も同じ事を聞いたのだろうと、恥ずかしくも嬉しい気持ちを、きつく睨む事で誤魔化した。


「ふざけるなっ!」


私達のやり取りが、お気に召さなかったらしい司祭が怒鳴るが、声が裏返って悲鳴にすら聞こえる。


「ふざけてなどないさ。あいつらは今頃手当を受けている頃だろう」


「き、騎士六人だぞ!?武器もあっただろうがっ!」


「武器の問題じゃ無いな、使い手の問題だ」


風を手で押しているかの様に、全く相手にされていない司祭と、淡々と答える彼のやり取りは、私の心と耳を楽しませた。


そして、神々は更なる楽しみも与えてくれた。


「あのぉ…それで、お客様ですが…」


「後にしろっ!さがれっ!」


「いえ、ミレイア巡礼助祭のお客様でして…」


意外な回答に、室内は一瞬止まる。

この街に知り合いなど、教会関係者以外居ないし、心当たりもないが聞いてみる。


「どなたですか?」


「…フェルベルト商会の使いを名乗った方が、入口でお待ちです」


フェルベルト商会。

ランヴォル最大の商会、ゼオバンがやらかした相手、そして、目の前のカナン司祭が袖にされ続けているお相手。


私は向かう事を告げて、席を立つ。

女の中では上背がある私は、カナン司祭と目線を揃わせ、一枚の銀貨を親指で、上へと弾いて握る。


「では、ご機嫌様、司祭様」


「私には”相応の振舞い”が待ってますので」


そう言って、フェルベルト商会の商会紋が刻まれた銀貨を指で挟み、これみよがしに司祭の顔に近づけてから、部屋を出た。


後ろから、調度品を壊す大きな物音と、遮られた男の怒鳴り声が聞こえ、思わず声を出して、笑ってしまい、呼びに来た修道女が驚いていた。



「ミレイア巡礼司祭様、ゼオバン様、我が商会長がお会いしたいとの事で、勝手ながら御迎えに参りました」


入口に着けられたのは、荘厳な教会にも見劣りしない豪華な黒塗の箱馬車。

中が外から見えるガラスが嵌められた扉の横には、金で縁取られた三本矢と天秤の商会紋。


教会に集まっていた人々は、興味と羨望の眼差しを向けていた。


清掃をした行者の少年は、淀みなく挨拶をしてから、頭を下げて扉を開けた。


「こちらから伺うべきところ、ありがとうございます」


そう返し、私達は堂々と乗り込む。

車内は四人掛けになっており、高級感のある布張りの座席に腰を下ろすと、ふんわりと受け止めてくれる。


出発する事を告げられるが、本当に滑る様に動き出し、 振動もほとんどない事にも驚いた。



街の要。

経済の要塞。

それが、ランヴェル最大商会の商館を見上げた感想。


この街は主要通りに三階建の建物が並んでいるのも圧巻だが、その中においてなおも圧倒的な存在感がある五階建ての商館。


外壁は柔らかい黄色混じりの白でムラなく塗られ、一階の様子が全て外から見える入口は外壁と同じ色の枠に嵌るガラス製で、四つの回転扉がゆっくりと回っている。


褒め言葉として、正しく経済の化獣だ。

理の外、神代から生きているという獣達を指すその言葉はこと経済においては商会に使っても過言ではないと、私は思った。

そうなると、この入口はさながら化獣の口にも見えてくる。


促され、私達は入口を潜る。

ここからは、本当に気が抜けない。

味方のいない死地だ。

気合を入れて、回転扉を通った後だった。


「うぉ」


聞いた事もない彼の焦った声に、素早く振り向けば、扉に挟まっていた。


その様を見て、肩の力が程よく抜けた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

感想や応援があると、続きの執筆がとても励みになります。

次話もよろしくお願いします。

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