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7話


【毎日22時ごろ更新】

本作は、聖女と“人外の護衛”が世界を巡る旅へ出る

シリアス寄りのダークファンタジーです。


暴力描写があります。苦手な方はご注意ください。

楽しんでいただければ幸いです。

「護衛の方はこちらでお待ちください」


荘厳な教会へ到着し、俺は護衛としての役割に徹していた。


さっきまで彼女と明るくも、男としては耳の痛い話をしていたとは思えない、冷たい声で俺だけを別室へ案内するのは、顔を隠したままのサマンサだ。


抵抗する気もなく、サマンサの後ろについて行く。

何度か、地下に下がる階段を通って着いたのはそれなりの広さがある石造りの部屋。


サマンサが木の扉を開けると、中には数人の武装した男達が居た。

金属製の鎧と、腰に剣を下げている。


「…気をつけて」


サマンサの横を通り、室内に入る瞬間小さな声で、そう言われた。


後ろで扉が閉まる音に合わせて小さく溜息を吐く。


ーー面倒ごと、だな。



無言の静音。

先客の男達は、値踏みする様に俺を見ているが言葉は発さない。

人数は六人。

壁に寄りかかる者や、にやにやと笑う者、強く睨む者など、様々だが全員に共通しているのは、強い敵意が視線に載っている。


「…何故、頭を下げない?」


睨み合いに飽きたのか、静かな怒気を含んだ声で、一人がそう言った。


意味が分からず、言葉を発した者に目を向ける。


「…我々は聖火騎士だぞ?」


「…だから?」


何が言いたいのか、分からず思わず本音を返してしまったが、それがよくなかったらしい。

騎士なんて見たこともない。

戦場にはいなかったからだ。


男は近づき、抜いた剣先を俺の喉に突きつけて、怒鳴る。


「護衛風情がっ!聖火騎士には頭を下げるのが、当たり前だろうっ!」


唾を飛ばし、恫喝してくる男を目だけで見下ろした。

命を奪う気の入ってない剣先なんて、小枝と同じであり、動じる必要がない。


俺は、口を開こうと思った瞬間に別の声が割り込む。


「あんなねぇちゃんに頼られて、勘違いしちまったか?木偶の坊よぉ」


「きひひっ!毎晩”奉仕”させてんだろ!払うから、教えろよ!」


心の中で、激しい炎が火柱を上げた。

色で言えば、白い豪炎。

彼女の事を言われたからではなく、騎士達の有様について、炎は上がっていた。


「貴様らっ!それでも騎士かっ!」


自分でも驚く程の、大喝。

びりびりと部屋中の石が、震えた。

向けていた切先も揺れて、外れた。


「聖火騎士とは!聖火を守る信徒を!人々を守護する正しき騎士だろうがッ!」


俺は、正面に立つ騎士の顔面に拳を叩き込みながら、怒鳴った。


「バーグッ!戯れで抜くなと、何度も言っただろうがっ!」


騎士は、頭を下に、足を上にする回転をしながら壁に叩きつけられた。


足が勝手に動き、驚きで固まっている騎士達に躊躇無く、拳と喝を次々叩き込んだ。


「ベンズッ!貴様は弛みすぎだっ!」

顎が砕かれ、歯が散る。


「ゲンペー!背筋が悪いっ!」

鼻が潰れ、内側に凹む。


「ヘスッ!髪が長いっ!」

下から殴られ、錐揉み状に上に飛んだ。


「コルバッ!反応が遅いっ!」

腹を殴られ、下がった顔に膝。


「ガナッ!髭を剃れっ!」

裏拳で吹っ飛び顔から壁に張り付いた。


全員が動かなくなると、部屋の中央で腕を組み怒鳴る。

何故、自分がこんなにも怒りが込み上げてくるのは分からない。


「訓練不足だっ!馬鹿どもがっ!」


誰も、何も反応が無い室内で遠慮がちに、小さく叩かれた扉と、恐る恐る入って来たのは修道女だった。



「恐れ入ります…上で護衛殿をよん…で……殺したの?」


修道女は、騎士達に遠慮しつつと言う声の掛け方で話し始めていたが、惨状を見るや否や、俺に問うた。

どうやら、サマンサが本来なら痛めつけられていた俺を、助ける為に一芝居打ったらしい。


「…いや、誰も死んでないはずだ」


「あんた、強いのね…でも、大声が聞こえたからフレッツ隊長が帰ってきたのかと思ったわ」


後ろ手で扉を閉め、ベールを上げたサマンサは、素早く騎士達に駆け寄り、呼吸を確認しながらそう言った。


「フレッツ隊長?」


「えぇ。何年か前までいた聖騎士長でさ、熱苦しいけど、騎士に対して厳しい人だったんだけど、”竜を倒す”とか言って、旅に出てね…それっきりよ」


全員が生きてるのを確認できたのか、ほっとしながら笑うサマンサ。


「よくさっきみたく、部屋の外まで聞こえる大声で怒鳴ってたから、つい、ね」


「こんなに強いならレミィは安全ね」


言いながら、最後に彼女をよろしく、と言って俺の横を通り、ベールを下げてから扉を開けて、振り返って一礼した。


「護衛殿。巡礼司祭がお待ちです。三階の廊下の一番奥にある応接室へお願いします」


友である修道女は、そう言って下がっていった。

きっと、ベールの下では悪戯っぽく笑っているのだろう。


そんな事を思いながら、俺も部屋を出て階段を上がった。


何故か部屋を出る時に、後ろを振り返りたい気持ちが強かったが無視をした。




「レミリア巡礼助祭は、紅茶でいいかな?」


教会に入ってすぐ、ゼオバンとは別になった。

案内していたのはサミィだったからまぁなんとかなるでしょう。

それよりも、私は自分の心配をすべきだ。


数回階段を上がり、通されたのは豪奢な一室で、カナン司祭と二人きり。


油で磨かれた暗い色の木床。

壁には、銀縁の絵画が飾られていた。

一目で本物ではないと気がつく。


確か、聖人ウムの功績を讃えるもので、神々から火の理を賜る場面を荘厳に描いた作品の筈だが、ウムがカナン司祭になっており、本物にはない周囲を囲み、寄り添っているのは半裸…いや、ほぼ全裸の女性達が天から舞い降りている。


ーー結構な冒涜では…?


自己顕示欲の強さが全面に出ている絵に、呆れて眺めていたのが、カナン司祭からは別物に見えていたらしい。


「素晴らしい出来だろう?渾身の名作さ」


背後から声をかけられ、振り向くと、こちらへ、と促された先は最早寝具なのではと疑いたくなる沈み込みをする革製の二人掛けの椅子。

腰が沈み、自然と上に上がる膝に巻き込まれて裾から足が出る。


天板の低い机を挟んだ対面に座った司祭の視線が、足から這う様に上へ向いたのは、気がつかないふりをしておいた。


「それで…レミリア巡礼助祭は」


「カナン総司祭、恐らくそちらの書類には”汚れ”があるようで、改めて、巡礼助祭のミレイアになります」


手元に数枚の書類を持ち、話しかけて来た司祭を止めて、訂正させる。


ーー女に関心はあるが、”私”には興味がない。


司祭が私をどう見てるか、この時点で把握し、すぐにでも席を立ちたい衝動を抑え、和かに無垢な助祭を演じる。


「む…あぁ。そうだね」


人好きしそうな柔和な笑顔を作る司祭。

だが、次の言葉にはこいつの本性が現れていた。


「それで、”レミリア”巡礼助祭は、何故完全巡礼に?幼年教育では首席だったそうじゃないか」


ーーっ!こいつ!


わざと、やりやがった。

熱くなる血と気持ちを、膝の上に置いた拳を握り込んで逃す。

ここで感情的になったら、負けだ。

そして、こいつは私の敵だ。


「ふむ…まぁなんだ、多少優秀でも、所詮は女なのだから、教会内では”相応の振舞い”と言うのがあり、”応じた願い”は聞き届けられると思うが…どう思うかね?」


言葉の外で、私に”何を”求めてるのかを察し、俯いた。

教会内が腐りきってる事や、どこまでも女を求めてるクソ野郎の事も相まって、もう表情を作ることができなかったからだ。


「…なぁに、何事も”最初だけ”さ…それに、護衛の手綱を握ってる事も、忘れないほうがいいぞ」


得意気に、反撃が来ない事を理解している増長が織り込まれた声が耳を乱暴に汚染してくる。

塞ぎたい気持ちで溢れていたが一つだけ、気になった。


「…護衛に何を…?」


俯きながら聞けば、大いなる勘違いをした奴は、高らかに、得意気に語る。


「ん?気になるかね?ちょっと騎士達が”教え”を説いているのだよ…しかし、そんなに気になるなら、”最初”は彼を縛って、目の前でというの良いと思わないか?」


教えとは、恐らく複数人からの暴行の事を示しているのだろう。

だから、にやりと笑いながら顔を上げてやった。


「…私の護衛は、嘗めないほうがいい」


何となく彼の落ち着いているが力強い足跡が近づているのを耳が感じ、面白い考えが浮かぶ。

賭けだが、ここは演出重視だ。


「…ゼオバン」


私は呼んだ。

彼の名を呼び、パンッと柏手を一つ。

カナン司祭の顔を睨み、笑いながらそうした。


「お呼びとあらば、御身の傍に」


“そうあれかし”というやつか。

扉を開け、無傷の彼が入って来てくれた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

感想や応援があると、続きの執筆がとても励みになります。

次話もよろしくお願いします。

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