6話
【毎日22時投稿】
本作は、聖女と“人外の護衛”が世界の理を巡る旅へ出る、
シリアス寄りのダークファンタジーです。
暴力描写があります。苦手な方はご注意ください。
世界観は重めですが、物語は「聖女×護衛」のバディ関係を中心に進みます。
楽しんでいただければ幸いです。
ーー交差街・ランヴォル。
それは、大陸を縦横断する4本の街道が交差する街。
蒸気機関車も停車する世界有数の規模を誇る街の一つ。
"旅人は、必ずこの街で人生という道を交える"と昔から語られる街。
街の中心には、乗合馬車の乗車場や蒸気機関車の駅といった交通の玄関が集められており、そこからは東西南北に伸びる街道の交差点になっている。
滑り込む様に、一台の幌馬車が入り、暫くして降りてくる人影の中に二つ、混じっていた。
一つはフードを被っているが、マントの裾からは青い縁取りの聖衣が揺れる影と、その後ろにいる片足を引き摺る大きな影があった。
「…なぜ足を踏むんだ。ミレイア嬢」
私の後ろで、踏まれた足を引き摺りながら文句を訴えてくる彼に振り向き、下から睨む。
「私達がこの街でやらなきゃいけない事は?」
「…そう言えば聞いてなかった」
「巡礼の支援者を見つけるのよっ!主に商会相手に!それをあんたが…」
言いながら、沸々と怒りが湧き上がり、追撃をしようするが、向き合ってる彼の顔が変わったことで、止める。
視線は私の後ろにあり、一瞬で”護衛”の顔に変わったからだ。
「恐れ入りますが、ミレイア巡礼助祭様でしょうか?」
背後からかかる女性の声。
顔を作ってからゆっくり振り向く。
そこにいたのは黄色で縁取られた修道服ー修道女の証ーを纏い、顔を黄色のベールで覆った女性が左手を胸に当て、立っていた。
女性は、頭を下げて迎えに来たと要件を伝え、ついてくるように言って、背中を向けて歩き始めた。
雑踏、と言う言葉はまさにこの街の見えている景色の事を示す言葉だろう。
老若男女、旅人、商人、街人、視界の殆どは人の頭や顔。
足元に目を落とせば、敷き固められた石畳で、通りの内側を馬車が余裕を持ってすれ違える広さがあり、外側に人の通路となり、接する縁には店が並ぶ。
上を見れば、空が狭い。
理由は、通りを見下ろす様に両脇に建てられた赤茶の煉瓦で作られた、三階建の建物達の隙間に、傾き始めた薄紅の空が見えていた。
これこそが、街。
私がいた教会の所は、精々"村"がいいところだ。
修道女は、ひらりひらりと人混みを縫いながら暫く歩いていたが、ふっとその姿が消えた。
慌てて足を早めると、彼女は通りから一本入った路地で待っていた。
「人が多いので、こちらから行きましょう」
路地は、高い建物を挟んでいるからなのか、静かな落ち着きがあった。
ごみも、浮浪者もいない清潔な路地など見た事がない私からすれば衝撃的な路地。
こういう所に、街の凄さが出ると思ってる。
「…そのお歳で完全巡礼とは、すごいですね」
前を向いたまま、修道女の言葉だけが後ろに下がってくる。
「ありがとう。貴女も修行を疎かにしない事ね」
褒めてくれたので、助言をしてあげた。
すると、修道女の後姿がふるふると震えて始める。
「ふふっ…『疎かにしないことね』って、どの口が言ってんのよ」
声色まで寄せて茶化す急な変化に、一瞬自分を見失うが、言葉の内容に沸点が上がり、肩を掴んで振り向かせる。
「ばぁっ!」
「ちょっとあな…うそっ!えっ!?サミィじゃないっ!」
「久しぶりね!”噛みつきレミィ”!」
先程までの静かな路地を急に、黄色い声が溢れた。
失礼な修道女の正体が、まさかの親友だったからだ。
頭に上がっていた怒りは、喜びで瞬時にぬりかえられた。
数年ぶりの再会に手を取り合って飛び跳ねて喜びを分かち合う。
サミィことサマンサは、昔と違って、暗めの茶色の髪を腰辺りまで伸ばしていた。
顔は特徴でもあるうっすらとしたそばかすと、いつも笑っている様な優しげに下がってる目尻も、白い肌も昔と変わらないが、可愛い女性になっていた。
「あー、ミレイア嬢。紹介してもらっても…?」
遠慮がちな声が後ろから聞こえ、自分が一人じゃなかった現実に戻された。
「ぉほん…こちらの修道女は、私の幼年神学校の同級生であるサマンサ修道女よ」
「…サミィ。彼は護衛のゼオバンよ」
取り合っていた手を素早く剥がし、互いに紹介すれば、二人は笑顔で握手をした。
「サマンサ嬢、ゼオバンと呼んでくれ」
「私の方こそ、サミィと呼んでください」
二人はそれ以上何も言わずに、微笑んだまますっと手を離した。
彼は、そのまま後ろの位置に戻り、路地の空気になることを選んだ。
ーーサミィはそうではなかった。
「ちょっとっ!あんたいつの間にあんな男捕まえたのよっ!」
男達の様に、さっと私の肩を組み顔を近づけて小声で詰めてくるサミィに、言葉を濁しながら答える。
「まぁ…その色々あってね」
「はぁ〜…これだから”女の武器”がある身体は狡いわぁ」
わしっと聖衣の上から胸を掴まれ、さらに悪態も突かれた。
「ちょっと!そういうのじゃないからっ!」
手を振り解いて、胸を守る様に背を向けて答えると、サミィはピタッと止まった。
そして、感情が乗っていない目で私を見据え、無機質な声を出す。
「…ヤッてないの?」
「私はそう言う事しないのっ!」
そう怒鳴ると、サミィは経験が無い事を揶揄する言葉をぶつくさと呟いて呆れていた。
「いいなぁ。私なんかあんなおっさんに”ご奉仕”してるのにぃ」
「…おっさんって誰」
「カナン総司教」
「えっ!?嘘でしょ?ランヴォルの長じゃない!不潔っ!」
思わず声量が上がってしまった。
注意なのか、後ろでゼオバンがした小さな咳払いをしていた。
彼女は、はぁと重めの溜息と、眉根の寄せながら話を続けた。
「まぁ週に何回かの”ご奉仕”で安全に暮らせるし、結構貰えるからねぇ」
あけすけと言うか、奔放に話すサミィは昔から変わってはなかったが、内容には悲しい気持ちにもなるが、彼女には彼女の生きた方がある。
外野が何か言う権利は、求められてからだ。
「でも、レミィ…まずい時に来たかもよ」
話をしつつ、路地を歩いて来たがサミィの顔が少し曇った。
詳しく聞くと、カナン司教は商会に多額の寄付を要請しているが、最大手が挨拶に来ない事で、機嫌がかなり悪いらしい。
…この話も、サミィは夜に聞いてその慰め方も細かく教えてくれたが、私には到底無理な内容だったので、割愛する。
「…さてと、レミィはそろそ"おしまい”にして、”ミレイア巡礼助祭”になって」
そんな事を話しながら、路地を歩く事暫く。
サミィはそう言って、上げていたベールを下ろし、歩き方も静かな修道女に戻していたのに合わせて、私も笑いすぎて上がっていた口角を下げ、助祭の顔に戻した。
教会は街の一部と言っても所詮建物の筈だが、辿り着いたランヴォル教会は、全くの別物だった。
最初から濃いめの灰色に塗られた石造りの外壁と荘厳で巨大な時計楼。
惜しみなく使われている万色のステンドグラスと、巨人でも通れそうな扉。
この教会は一部なんてものではなく、街の臓器に近い、なくてはならないものだろう。
高さや荘厳さに目を奪われ、立ち止まって見上げていると、背中を軽く突かれる。
慌てて前を向くと、一人の男性が近づいて来ていた。
「あぁ。レミリア巡礼助祭。ようこそ、ランヴォル教会へ」
「……お迎え、痛み入ります。ランヴォル教会・カナン総司教様」
黒縁の眼鏡をかけ、細身で、柔和に微笑む白髪の男性こそ、ランヴォル教会の長。
しかし、その目の奥は笑っていない。
私の名前はミレイアだが、わざとだろうが、そんなことより気になった事が顔に出ないように、努める。
ーーこの人があんな事を…ねぇ…
中に通され、前を歩く細い背中を見ながら、耳元で小さなサミィ達が夜の総司祭を茶化していた。
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