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2話

本作は、聖女と“人外の護衛”が世界の理を巡る旅へ出る、

シリアス寄りのダークファンタジーです。


暴力描写があります。苦手な方はご注意ください。

世界観は重めですが、物語は「聖女×護衛」のバディ関係を中心に進みます。


楽しんでいただければ幸いです。


名はあるが、知られる程ではない街。


それなりの賑わいは街の育ちだけで、外からの旅人は多くない、閉鎖的な土着の匂いがある街中。


人々の信仰を集めるには役立ち、それ以上でも以下でもない、元は白かった外壁は燻んだ灰色となり、蔦が寄り添う歴史を感じる教会。


「…ほんとうに行くのかい?ミレイア助祭」


質素な礼拝堂。

入口から、奥に鎮座する頂点で火が踊る磨かれた石柱へと導く様に敷かれた、草臥れた濃い赤の絨毯を左右から挟む様に置かれた、木製の長椅子。


最前列の椅子にだけ並ぶ、人影は二つ。

中年の男と、若い女。


声を発したのは禿頭が目立つ男。

長年の奉仕による黄ばみ、裾口は黒ずみが目立つ赤い縁取りの白い司祭服に身を包むぎょろぎょろと両生類を連想させる目が特徴的な中年の男。


その目は、隠しきれない濁った欲望を混ぜて、隣に座る女ー助祭ミレイアーに注がれていた。


「はい。司祭様」


考える事もなく、即答したミレイア。


青い縁取りの司祭服が丸みのある線をはっきり描き、司祭の濁った目線が舐めるような往復に晒されていた。


顔の作りは聡明さを伝える、冷たさすら感じる綺麗なもので、意志の強さが静かな蒼い両目に宿っていた。


肩で揃えられた、金の毛先は礼拝堂に降り注ぐ陽光が通り抜けて煌いていた。


「…君は優秀なのだから、”それなり”の地位までは保証できるのだよ…?」


未練がましい言葉を紡ぎながら、司祭はぬらぬらと脂ぎった指を、彼女の太ももへ伸ばしていた。


彼女は、目線だけで殺せる程の殺気と冷気を込められた目線で迫る指を静止させてから、形の良い口を開いた。


「いえ。結構です」


「私は、千年不達の”完全巡礼”へ旅立ちます」


失礼しますと告げ、彼女は指が触れる前に席を立った。

女性の中では背も高く、すらりと長い手足を使って立ち去る姿は美しく、背筋には強い芯が揺らめいていた。


「…惜しいなぁ…勿体無い…」


その背中を睨みながら、じとりと欲望で濡れた言葉だけを吐いた司祭を、揺らめく火だけが見ていた。





ーーあぁぁぁっ!やっと!出れたっ!


生を受けて十八年。

最速で準備を終えて、私は叫び踊りたい気持ちで谷淵に沿って延びる街道を進む。


まだ陽は高い。

暗くなる前に、一歩でも遠くあの街から、いや、あの禿野郎から離れたい気持ちが、確かな足取りを支えている。


今日は、日が沈む前に街道脇の野営地まで行くと決めている。


上背はあるが、女の一人旅だ。

ゆったりしたマントを被り、腰に下がっているのは、鉄製の聖杖。

儀式様だか、安くはなかったしまぁ武器になるだろう。


高く登る陽から降り注ぐ、まだ足元は冷えている春の陽気は、更に足取りを軽くさせ、横をゆっくりと走り抜ける二頭立ての乗合馬車が立てる土埃すら、楽しく舞っている様に思えてしまっていた。




ーー始まりは、楽しかったのに。


途中で休憩を挟みつつ、歩いていた。

陽はすっかり赤みを帯びて下がり、夕闇が徐々に夜の存在感を示し始めていた。


影が増えたからか、びょうと強い風が谷底から噴き上げて、裾をはためかせ、冷えが更に気持ちを重くする。


気のせいだと、思いたかった。

だけど、そうじゃなかった。


しばらく前から、男達が私を尾けていた。


気がついた時は、付かず離れずの距離だったが今は、遠目に男達がニタニタと笑う表情がわかる程度には近づかれていた。


止まれば、足を止め、早く歩けば速度を合わせてくるのは、気がついてから何度か試したから、私狙いなのは確実だ。


野営地には、他の旅人達もいるはず。

そこまで、走れるだろうかと悩みながら、ちらりと首だけで後ろを確認する。


ーーっ!一人いないっ!


四人組だった男達が、三人になっていた。

ぞわりと心臓が逆毛立ち、悪寒の舌が、背筋の舐める。


周囲に目線を配る。

左側は断崖絶壁の谷淵と僅かな下草。

深い黒闇が、ぽっかりと開けた口に思え、風に揺れる下草とあいまって不安を煽り、嘲ている錯覚を覚えた。


反対の広い街道の脇は、鬱蒼とした深い茂み。

隠れるならこっち側だと、思った。


ーー瞬間。


「きゃぁっ!」


風切音と同時に、足元が震えて矢が地面に突き立っていた。

思わず悲鳴が出てしまい、身体が自然に茂みから逃げる。


だが、後ろからは男達が、革鎧を着込んだ二人が、剣と斧を持って迫ってきていた。

更にその後ろには目深にマントを被った者が一人。


頭の中が白く明滅しながらも、足は動き、勝手に谷の方へと身体を逃がそうと動く。

しかし、歩き方、走り方を忘れた頭では、無様に転ぶ。


俯せに倒れ、顔が谷の淵にかかり噴き上げる風が顔を叩く。


男達が迫り、口々に卑猥な雄叫びを上げているが、私には害獣の雄叫びにしか聞こえない。


悔しさと怖さから、起き上がろうとするが頭を抑えつけられ、マントと服を捲られる。


ーー嫌だっ!


カチカチと細かく硬い音。

震える歯の音色。

涙でぼやける視界。

口の中に感じる、土と血の匂い。


ーー助けて


そう強く、強く願り、縋った。



ーー轟音。

ーー強風。


突然の強烈な噴き上げに、逆巻く土嵐。

私も男達も、目を閉じて行動が全て止まる。

抑えつけられていた頭も解放された。



「…すげぇ…跳べた」


そして、隣に感じた誰かの衝撃と男の声。


恐る恐る目を開くと、ほぼ半裸の赤錆色の長い毛をした男が、立っていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

感想や応援があると、続きの執筆がとても励みになります。

次話もよろしくお願いします。

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