22話
星々が瞬き、暗闇が手を広げる夜空の下。
ランヴォルから近い野営地で、揺らぐ火を見ていた。
周囲の人々も同じ様に、思い思いに火を囲み、休憩している穏やかな空気が、ゆったりと満ちていた。
突然、空気を裂いて轟く爆音と振動が野営地を襲った。
「なんだっ!?」
「おいっ!街の方じゃないかっ!?」
「…昼間みたいに燃えている…」
立ち上がり、全員がランヴォルの方を向いて慌てふためているのを横目に、ゆっくりと立ち上がって同じ方を向く。
闇夜の奥で、そこだけが昼の様に赤々と夜空を侵食している。
灰色の煙が立ち登り、断続的に轟く低い破壊音と遅れてくる振動に人々は慄いていた。
私は一人、被っているフードのつばを掴み深く顔を隠し、震える身体を自分で抱きしめる。
きっと周囲からは、恐怖に震えている様に見えるだろうが、それは違う。
ーー歓喜に吊り上がる口角を隠すように。
ーー愉悦に震える身体を抑えつけるように。
これは敵が滅ぶ断末魔だから。
これが私から世界への狼煙だから。
功を奏したそれに騙された人々が、口々に言ってくる慰めと励ましは、耳を素通りしていた。
外れそうな聖職者の仮面を抑える様に、両手で顔を覆い、震えていた。
ーー少し前。
ランヴォルの誰一人気付かない夜空の上。
街の全体がよく見える高さに、影が一つ佇む。
姿見ではゼオバンと呼ばれた影。
“力を世界に見せてみない?”
我は中空に浮かびつつ、先程まで面していた小娘の言葉を思い出し、肩を揺らした。
我の力を知らぬ世界に、見せてやろうと仮初の身体の口を開いたところで、復讐の愉悦に歪んだ、小娘の笑みが脳裏をかすめる。
途端に愉快な企みが形を成し、我はほくそ笑んだ。
ーー良い”意趣返し”になるな。
ならばと一度口を閉じ、備えをする。
外していた獣の顔を模した仮面をしっかりと被り、それを媒介として、神代の理を紡ぐ。
「仮初よ。真実なれ。この身の名はーー”天翔る狼人”なり」
ーー仮初の業。
我等に変化はない。
今夜この姿は”人の狼”として映る。
見た者達の恐怖を煽るだろう。
備えを終えた我は、持っていた武器を空に固定し、空いた両手を眼下に広がる街へと向けた。
街は夜を忘れた様に、仄かに輝きを放っている。
その中で、標的とすべきただ一つを見下す。
一際巨大な灰色の建物。
人々が教会と呼ぶ、小娘のかつての拠所。
そして、奪った事で敵となった者達の巣窟。
それに左の掌を向け、力を練る。
身体の中心から指先にじわりと広がる熱量が、破壊の規模を予想させた。
ーーこの程度か。
「…世界よ。我らの帰還に震えろ」
一条の白輝が熱を伴い、空を駆け降り地を穿つ。
瞬間の静寂。
豪雷が地から天へと昇り、雷鳴が空を裂き、地を震わせた。
赤熱し、垂れ滴る瓦礫が周囲を灼熱の黄色に染める様は、喩えるならば灼炎の夜明け。
逃げ惑うものは、黒く縮み、炭へと至る。
炎は無数の腕を天と地に広げ、戯れに全てを呑み込む。
その懐かしい景色を見下ろしながら、我は息を吸い、連鎖する破壊音を覆う大声で放つ。
「我は古の獣。神に名乗りしは”狼人”。
神々震えて称える名は”天翔狼人”。
嘆きと慟哭を弄ぶ”害遊のレミィ”その輩なり。
忘れるな。人よ。我等はいるぞ」
終わると同時に、夜空に千条の雷を生み出し、見上げる者達の目に焼き付け、瞬時に戻る暗闇に溶け込み、場を去った。
我の出番はここまで。
後は、輩共の話。
燃ゆる風景を背に、目を閉じた。
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