18話
街から歩いて程近い森の中。
中天を越えた陽光が、深い緑に斑らに遮られて俺達に陰影を映していた。
鬱蒼とした樹々達をまるで落ちた天井や、崩れた壁を隠す様に纏い、ひっそりと佇む時廃協会があった。
覆う緑の濃さと、風雨で削られた外壁が永い時の経過を無言で伝えてくる。
教会の全容を視界に入れる位置で、止まり屈む。
地面に視線を落とすと見えてくる歪な線が浮かび、廃協会と俺を結ぶ。
それは、人の足で踏み固めれた獣道。
ーー痕跡を見るな、読め。
耳元で狩人の呟きが聞こえた気がして、目に集中。
狩人から学んだ業を活かす。
数からは規模、深さは重さを導き、視線を上げて手折られ、斬られた枝葉は手癖と高さ、武器を読む。
ーー規模は十五。剣と手斧。二人は巨体。
読み取ったそれらを組み合わせれば、敵共の姿が眼前に浮かび上がり、蹂躙できる手合いだと分かり、自然と上がろうとする口角を抑えながら、背後で復讐の熱を放ち、荒い呼吸をする彼女に振り向いた。
「…行くから」
「無茶言うな。終わったら呼ぶから隠れててくれ」
フードの下で赤い目で下から睨みながら無茶を言う彼女の顔を、裾を摘んで隠した。
一つ息を吐いて、腰を屈めて廃協会へと気配消して近づく。
近づく程に、中から森へと響き渡るのは粗暴な歓喜の声と、甲高い悲鳴。
それはいたぶられる獲物の悲鳴と、正気を失った猿の群れの様で、聞こえる度に震える草木が、まるで耳を塞ごうとしている様にも思える、不愉快な音。
崩れた壁に背をつけて、隙間から覗く。
何人かの敵の後ろ姿の向こうに、それは見えた。
ーー置いてきて正解だったな。
彼女は死んでないだけだった。
一糸纏わぬ身体は、土埃で黒ずみ、手足は逆を向いている状態の彼女に、男が覆い被さっていた。
惨状と敵の配置を把握してから、壁から背を離し、三歩前に歩み、止まる。
目を瞑り、雑音を消して意識を自分の中に潜らせる。
暗闇の中で様々な炎が揺らいでいる。
一際揺らぐ白い炎や、翠の炎もあった。
さらに奥まで潜れば、眩い輝きが目を焼く。
底に沈む一際大きい金色の炎の輝き。
その炎が、ゆらりと揺れた。
ーー征け。
目を開き、短く吐いた息に合わせて身体を捩った。
「シッ!」
その力を、両腕で握る武器の先に集め、壁にぶち当てた。
ーー轟音。破砕。
瓦礫の雪崩、崩落の滝が生む土埃の中を、素早く駆け抜ける。
立ち昇る埃雲の中で、狙い通り吹き飛ばした破片に背中を痛打され、俯せに倒れてもがく二人の首を、一人は踏み抜き、残りは石突で貫く。
ーー二つ。
絶命を看取る事なく、床を蹴る。
抜き身の剣を手に、”丸出し”で呆然と立っていた三つの頭を横薙ぎ一回で潰す。
ーー五つ。
「っなんだぁ!」
間抜けの”裸巨漢”が、汗で滑り光る贅肉を揺らして騒ぐ醜い声が、残響した。
石床を踏み抜き、跳躍。
中空で身体を弓形に反らせ、裸巨漢の頭頂部に向かって反動を使って振り下す。
潰れる水々しい肉袋の潰れる音と共に、短い首が胴体にめり込んで消え、倒れると同時に俺も着地した。
「…六。残りは九か」
言葉が自然と溢れていた。
見渡せば、さっきまで”獲物共”が味わっていた弱者への”嬲りの愉悦”は、俺の懐にいる。
「てめぇっ!」
さっきまで腰を振っていた肉塊が、怒鳴り片手で跨っていた弱者の曲がった腕を掴み、投げてきた。
ーー酷い。
なるべく優しく、身体で受け止めた。
全身が滑り、潰れかけた顔で弱々しい呼吸をする”それ”を床へ静かに寝かした。
その向こうで、大斧を振りかぶり重い足音を伴って迫ってきている巨体が見えていた。
「レ…ミィ……に…げて…ぇ……」
その弱々しい友への奉仕に、思わず息が止まる。
ーー戦場でも敵への必要以上の暴力はある。
だが敵でも、兵士でもない弱者への”これ”に全身の毛が逆立つ程の惨さと、身体の中心から湧き上がる戦士としての怒りが、視界を紅く染め、咆哮として溢れた。
「キサマラァァァッッッ!!」
「しねぇゃぁぁあ!」
咆哮と怒号の交差。
俺の鈍い刃が、大斧ごと醜悪な肉塊を潰し斬った。
豪速で飛ぶ千切れた肉塊が、四人を巻き込み錐揉みしながら柱へ叩き込まれる。
折れた柱が悲鳴を上げ、壁が揺れた。
耐えていた天井が鳴動と共に崩れ落ち、差し込む陽光が土埃に線を描いた。
あとは、ただの処理だった。
崩落に巻き込まれた雑魚、逃げ惑う雑種、今更助けや慈悲を乞う愚者。
すべからず、殴殺する。
少しでも、彼女達の手向けになる事を願って。
そして、まだ息のある人をマントで包み、両腕で抱き上げ彼女の元へ向かった。
間に合う事を切に願って。
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