17話
それでも、陽は上り続け一日は続いていく。
往来が徐々に激しくなっていく門前から、彼は半ば抱き抱える形で、茫然自失の私を脇へと運び、膝が役目を忘れてしまったのかへたりと腰を地面に落とした。
「…私のせいだ…」
どれくらいそうしているのか分からないが、視界の中を往来する人々を眺めながら、漏れる言葉。
頭の中は、サミィの笑顔と手元で冷たくなっている指が混ざって回っている。
「ーー…?」
隣から、彼の声が聞こえる気がするが、何を言っているのか、分からない。
私のせいで、サミィが酷い目に遭ってる。
私が、教会に逆らったから。
また、彼の声が聞こえたが、耳が、音がわからない。
どうしよう。
どうしたらいいの?
私は、どうするべき?
ーー私は、
視界は頭の中と同じく、ぐにゃりと混ざり色を失っていく。
徐々に、彼女の口元と指だけが絶えず湧きあがり、身体が細かく震え、歯がカチカチと鳴る音以外は遠退き、耳鳴りがする。
心の中から氷嵐が吹き荒れ、傷から出た血を瞬時に凍らせては、冷たさが身体中に広がっていく。
「ミレイアッ!おいっ!」
ぐんっと強い力が、私の身体を揺らし、衝撃で意識も現実へ引き戻される。
視界にあるのは、狼の被り物を取った古傷だらけのゼオバンの顔。
普段は、見せない心配と怒りも混じった表情の彼と、目が合う。
「…気を壊すのは後だ。まだ敵が生きてる間は、”気を張り続けろ”」
「考えろ。敵への報復を。思え。敵の崩壊を」
それは、戦士の鼓舞だった。
気遣いも優しさもないそれは、彼の人格そのもので、思わず小さく笑ってしまう。
「…そうだ。笑え。戦士は敵が滅ぶまで、笑い続けるものだ」
彼の哲学と優しさは、いつだって泥まみれで砂まみれの味がして、それは火とは違う大地の温もりを感じさせる。
そう思うと、冷たくなっていた心は溶けて、嵐は幻だった事に気がついた。
そして、幻の嵐が消えた心に吹き荒れるのは、報復の炎だ。
心を焼き、爛れを産み出すそれは私の身体と頭に熱を齎した。
「…ゼオバン。貴方は、私の何?」
「俺は、いや私は御身の護り手にして盾」
そう答えた彼の顔を、輪郭に沿って生える髭を両手で掴み引き寄せて、金と翠の目を見ながら、小さな声で続けた。
ーー盾は置け。
ーー私の剣よ。
ーー刃の時だ。
ーー私の敵を余す事なく神世へ送れ。
これは、呪詛だ。
往来の傍で行われる呪いの儀式。
聖職者ではなく、一人の人間の、私の尊厳を穢す敵への呪詛。
私には敵を屠る力も武器も無い。
だから私は、私の報復を彼に”委ねる”。
彼の金の左目が怪しく強く光を放ち、右の翠は悲しくも僅かな光を放った、そんな風に見えた彼は、手を重ねて静かに重く、応えた。
「委細承知」
心の炎が歓喜を伴って大きく暴れ、その熱は足腰に役目を思い出させ、私は立ち上がった。
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