16話
本作は、聖女と“人外の護衛”が世界の理を巡る旅へ出る、
シリアス寄りのダークファンタジーです。
暴力描写があります。苦手な方はご注意ください。
世界観は重めですが、物語は「聖女×護衛」のバディ関係を中心に進みます。
楽しんでいただければ幸いです。
「お嬢。次の目的地は?」
「”灯の秘蹟”アタベスタ。その前に三箇所、パラレ、アケンデレ、アレイの順だからまずは、パラレまでは二日の予定よ」
上り始めた陽が、一日の始まりを世界に知らしめる空気の中。
俺達も見送られてフェルベルト商館を出立し、既に稼働が本格化しつつあるランヴォルの雑踏を縫って、街門へと向かっていた。
「そう言えば、フェルベルトさんに耳打ちされてなかった?」
隣を歩くマントフードをすっぽり被った彼女が横目で俺を見て聞いた。
土色のマントから醒める様な濃い青の縁取りがされた白地の法衣が揺れる。
手にした杖に施された装飾が、彼女を聖職者だと主張していた。
「…”怖くて商館から一歩も出れないから、ここで”、だってさ」
「…まぁ敵は多そうだもんね」
俺の適当な返しを真に受けたのか、眉根を寄せて苦笑しながら反応する様を視界に入れつつ、頭では商館長の囁く様な耳打ちが、浮かんでいた。
ーー敵は街を出たら仕掛けてきます。
「なぁお嬢。今更なんだけどさ」
「なに?」
「護衛の取り決めはどうする?要は、”敵”の扱いはどの程度に?」
「…容赦無く、徹底的に、必要なら”人の世界”に遺し、尽くを”神々の世界”へ送ってあげなさい…意味分かるわね?」
「委細承知」
彼女に見られなくてよかった。
俺は今、口角が来る楽しみによって吊り上がっているのを実感していた。
その後も言葉を交わしながら進めば、街の境界を示す豪奢な街門が見え、門の間には往来を作り出す太い街道が、陽の光を浴びて白輝して見えた。
「…お嬢」
横を歩いていた彼が、一歩前に出て小さく声を発した。
理由は、私も確認出来ていたので小さく頷く。
門の手前に立つ法衣を纏った一組の幼い男女。
それが、彼の理由。
着ている法衣は黄色の縁取りで、修道士を示すが明らかに”空気が違う”事が、私でもわかった。
何かを、いや誰かを必死に探している様に青い顔で往来を凝視している。
「…血の臭いだ」
門が近づき、彼の呟きが耳に入る。
そして、彼の背に隠れる形で遂に二人の前に到達した。
長閑な往来の中、私達の周囲だけは濃厚な緊張感か張り詰め、人々も自然と遠巻きにしていた。
「ミ、ミレ、ミレイア様ッ!」
恐らく十歳前後の修道少女が、足をもつれさせながら前のめり駆け寄って来るのを、彼が静止させようとするが、手をやって下げさせた。
その時、彼は既に少女を見ておらず、門壁に沿った奥の陰地に紛れる人影に、焦点を合わせていた。
「落ち着きなさい。どうしました?」
「こ、これを、わた、渡せと」
少女に遅れて駆け寄ってきた少年修道士が、小さく震えながら、口が縛られた小ぶりの革袋を手渡そうとしてきたが、瞬時に彼が止めた。
「…やめておけ。お嬢」
「…いいから」
何となく、察しはある。
小袋は何故か血が滲んでいる。
嫌がらせに小動物の死体でも、入れてあるのだろう。
彼は尚も止めようとしてが、私は聞かずに小袋を受取る。
小動物の死体を見る覚悟を決め、息を整えてから縛ってある口を開いた。
「…ひっ!」
中を見て、すぐは分からなかった。
だが、想像していた物ではない“形”を脳が理解した途端、
喉が勝手に震えた。
ーー指。対の小指。
それもよく見れば、まるで人が“齧り切った”ような
荒々しい断面から溢れた血が、革袋の底をじわりと濡らしていた。
「こ、これも…」
少年が差し出したのは一枚の紙だった。
彼が無言で奪い取るように受け取り、
一瞥した瞬間に眉間へ深い皺が刻まれる。
すぐに私へ渡される。
ーー親友の指。本体はここ。
二語と住所。ただそれだけ。
なのに、脳裏には明るく笑うサミィの顔が浮かび、
理解より先に腕が動いた。
気づけば、少年の胸倉を掴み上げていた。
「止せ。知らないはずだ。敵はそっちじゃない」
私が怒鳴るより先に、彼が手を重ねて言った。
その声には、静かな確信があった。
「……なにっ!」
叫ぶように吐き出した視線の先を、
彼はすでに見ていた。
自然とその方向へ目を移す。
門壁の影地。
陽の光を背に、二つの人影がこちらを見ている。
ーー笑っていた。
修道服を粗雑に着崩したまま、
にやにやと、
“獲物が罠に掛かる瞬間”を楽しむように。
そして、私達と目が合った事がわかったからなのか、影の中へと消えていった。
「…手を離してやれ」
努めて優しく、落ち着いて彼はそう言い、
握りしめ過ぎて白く固まった私の指を、ひとつずつ外していく。
力が抜けた瞬間、膝がわずかに震えた。
呼吸の仕方さえ忘れるほど、胸の奥が冷えていた。
修道士達は一礼し、急ぎ足で走り去る。
その背を目で追いながら、私はただ――
呆然と、立ち尽くすしかなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
感想や応援があると、続きの執筆がとても励みになります。
次話もよろしくお願いします。




