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14話

本作は、聖女と“人外の護衛”が世界の理を巡る旅へ出る、

シリアス寄りのダークファンタジーです。


暴力描写があります。苦手な方はご注意ください。

世界観は重めですが、物語は「聖女×護衛」のバディ関係を中心に進みます。


楽しんでいただければ幸いです。

「…えーと、ゼオバン、さん?フェルベルトさんから、呼ばれてるから同席、して…もらえる……?」


「…お嬢。儀式のやりすぎで、頭が燃えたか?」


「っ!あんたがっ!物騒な事言うからでしょ!」


武器や装具が完成したという知らせを受けた日の午後、商館の廊下。


グロッグに向かおうとした俺の足は、妙にしおらしく言葉を探しながら話す彼女に止められた。

普段とは全く違う様子だったので、心配したら、真っ赤な顔で怒って足を踵で踏み抜かれる結果となった。


「ってぇ!なにっ!すんだっ!」


「うるさいっ!いくよっ!」


頭に疑問符を浮かべつつ、片足を引きづりながら、彼女の後ろをついていった。



「…悪いが、三人だけで。しばらく誰も繋ぐなよ」


既に慣れた浮遊感を味わった後、天空の部屋とも言うべきフェルベルト商会長の部屋に辿り着き、中に入ると入れ違いに出ていく職員に商会長はそう命じた。


職員が出ていた後、俺達に背を向け、ガラス窓から街を眺めていた商会長は振り向き、彼女に椅子を薦めた。

だが、俺も彼女も彼の正に”作られた笑顔”を見て、身体と心が固まった音がした。


「さて。まずはおめでとう。全ての準備は整った。グロッグから職人達を呼んでいるので、後で確認してほしい」


ーーやばい。逃げろ!


戦場で培われた生存本能が全力で、危険を知らせている。

ちらりと目線を下にやれば、椅子に座るお嬢のうなじも、じんわり汗が吹き出している。


ーードンッ!


唐突な衝撃音に、勝手に身がすくむ。

音の正体は、商会長が一枚の紙を立派な机に叩きつけた音だった。


「……なんぼなんでも、やりすぎじゃねぇか?」


失礼しますっ!と叫んだ彼女が、椅子から飛び上がり、ひったくるように叩きつけられた紙を奪い、目を通す。

瞬間、ふらふらと膝から崩れ落ちて椅子に腰を落とした。


「…あんた…何の準備したの…?」


極寒の地に裸で置き去りにされたかの様に細かく震えながらも顔は紙に固定したまま、とても低い声で、彼女はそう呟いた。

それが、自分への問いだと気がつくのに、暫くかかってしまったので、慌てて答える。


「た、旅の装具一式、あと武器だが」


どうやら、俺の言葉は彼女の沸点をあげる効果が強いらしい。


「旅ですてぇっ!?こんな金額っ!戦争でもしようっての!?やるなら一人でやりなっ!」


反応できない速度で立ち上がり、下から片手で胸倉を掴まれ、もう片方は顔に紙を叩きつけてきた彼女。


とりあえず、紙を受取り内容を見てみるとどうやら装具一式の費用が記載されているらしい。


はぁはぁと肩で息しながら、椅子にへたり込む彼女の丸くなった背中と、その向こうで”春の太陽”を思わす和かな笑顔を浮かべる商館長の顔を交互に見比べ、言ってしまった。


ーーこの一言は、悪手だよなぁ


そう思いながらも、つい言ってしまった。


「…この金額は、どれくらいの…その規模?なんだ?」


俺はこの日、この時の恐怖を忘れる事はない。

暴れ狂う化獣達の波状攻撃、大砲陣地への単身突撃、至近距離の銃弾雨、どんな言葉でも表せない、恐怖と教訓。

銃も、大砲も剣や斧も敵わない”最強の武器”が存在する真理。


ーー”請求書”とは最強の武器である。




「ミレイアさん、流石にこの金額は、先行投資としても”桁”が違う」


「は、はい。おっしゃる通りです…」


私は、椅子から立ち上がり、俯く事しか出来なかった。

下がった視界の中で、壁際の本棚にへたり込んで、茫然自失な彼を見つけると、沸々と下がった怒りが再燃する。


「…本音で言えば、旅に出る前に貴女を娼館にぶち込みたいですが、そんな事はしません」


「その代わり、完全巡礼にまつわる”七つの秘蹟”について、まずは教えてもらいましょうか」


フェルベルト商会長の笑顔と柔らかい口調で話される中身を普段なら、冗談と思えるのに、今日だけは微塵も思えなかった。


私の護衛が作った請求書の金額を見れば、誰でもそうなる。

人生を数十回は豪遊出来る金額なのだから。

だから、一応秘匿だけど、噂として広まっているのだから、と自分に言い訳をして口を開く。


ーー灯は糧と形を与え、

ーーやがて言をもって巡り、息せば環すーー


即ち、去し神々が遺した七の秘蹟なり。

ウム巡りて、秘蹟より七の恩恵を見出し、人々に伝えん。



聖火教に口伝として残る、完全巡礼の唄を商会長は、目を瞑り静かに聞き、やがて目を開く。


「…つまり、完全巡礼とは”秘蹟”から”恩恵”を見出した聖人ウムを倣う、と言うことですね」


流石に、あれ程金の話で竜かと思える程の恐怖を撒いたこの人でも、教えは真摯に受け止めてくれるーーそう思った。素直に。続く言葉を聞くまでは。



「なら、貴女が”見出し”たものを”私達”が広める、それでいきましょう」


「……えっ?」


「だから、貴女は秘蹟から何か見出しなさい。あとは私の方で、広めますから」


「できない、なんて言わないですよね……神々が去っても、毛ぇの一つ二つや、クソの欠片でも何でもえぇから、見つけてこい。……分かりましたね?”聖人ミレイア”?」


乾いた笑い声が、自然に喉から出ていた。

私は、遂に聖人に札束を握らす化獣を誕生させてしまったのだ。




陽に近い天空の座とも言うべき部屋で、生きし屍が二つ出来た頃。

正反対の暗闇の地下では、また一つの灯に集う影達があった。



「…悪いが今回は降りる」


「ふざけるな。今更何を言っている!?」


「あんたこそ、奴の素性は調べてから襲うべきだったな」


「…何が言いたい?」


「…奴隷に名はなく、数字で呼ばれる。その数字が小さいほど、長く生きている奴隷だ」


「要点を言え」


「今の奴隷は”8”で始まる八桁の世代だ。奴は……”0”で始まる三桁の世代だ」


「はっ!長く生きてるからなんだっ!ただの奴隷だろうがッ!」


「…あんたも戦場にいればわかるだろうよ。とにかく降りる、集めた奴らは好きに使え」


捨て台詞を残し、足音は一つ遠ざかっていった。


去る影が残した言葉を、残る影達がどの様に受け取ったのか。

その答えは、もう間近に迫っている。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

感想や応援があると、続きの執筆がとても励みになります。

次話もよろしくお願いします。

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