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13話

本作は、聖女と“人外の護衛”が世界の理を巡る旅へ出る、

シリアス寄りのダークファンタジーです。


暴力描写があります。苦手な方はご注意ください。

世界観は重めですが、物語は「聖女×護衛」のバディ関係を中心に進みます。


楽しんでいただければ幸いです。

「…ねぇ。なんかあった…?」


最初の襲撃から一週間近く経った昼時。

其々別々のことをしているのに、昼食だけは一緒に食べる事が当たり前になっていた頃。


今日は、席が埋まっている為隣に座った彼女がおもむろに、そう聞いてきた。

何気なく吐いた溜息を、察したのだろうか。


「…いや。中々狩人の仕事も悪くないと思って」


「…そう。貴方は護衛なの、忘れないでよ」


俺は、誤魔化す事にしたが、多分彼女は気がついていると思う。

味のしない食事を口に運びつつ、思ってる以上に精神的な負荷が掛かってる様だった。


ーーあれから、ほぼ毎日か。


街中では尾行、依頼を受ければ襲撃。

問題はそれじゃない。

“対抗”出来ない事が、俺に精神的な負荷を与えていた。


殺す事が出来ないから、逃げる事しか出来ない。

武器はあるが、俺には”殺さない”程度の手加減が出来る技術は無い。


「なぁ、ミレイア」


「…ミレイアって…呼び捨て?」


「…殺していいか?」


自分が何と口にしているのか分からないが、何か言葉が漏れていた。

隣で彼女が、青い顔をしながら「私を?」とか、「何かした?」と意味不明な事を言っていた。

その反応にすら疲労感を覚え、重いため息が溢れた。


「グロッグから使いが来てます」


そんな時、フェルベルトの職員が声を掛けてきてくれた。

約束の日より早いと思ったが、俺はさっと食事を平らげ、青い顔のままぶつぶつ言っている彼女を置いて、武器屋グロッグへと向かった。



「”ポガヂ”の革?」


グロッグに入り、小部屋に通された瞬間、俺は無手でありながら無意識に構えをとっていた。

濃厚な殺気、いや執念の様な空気が満ちていたからだ。


五人の職人は、入ってきた俺に背中を向け、奥の壁に掛けられた鞣された革を見ていた。

思わず、声を掛けると全員が瞬時に俺に向かって言った。


「脱げ!全部脱げっ!」


目を血走らせてにじり寄ってくる職人達。

このままでは、大惨事を招くと考え、大声で理由を聞けば、声を揃えての回答が”ポガヂの革”と言う謎の言葉だった。



「すまねぇ。つい興奮しちまってよ…ちゃんと説明する」


どうにか落ち着かせて、経緯を聞く事にすると、ギヌーサが頭を掻きつつ話し始めた。


「ポガヂってのは外獣の名前なんだが、別名では”カワハギ”とも呼ばれる大型の猿でな」


「こいつらは獲物を狩ると、自分の皮を剥いで、相手の皮を”着る”習性があるんだ」


「皮を、着る…?」


「あぁ。すると、その獲物の力や姿を模倣するんだ。中には化獣を群れで襲って、皮を着た、なんて個体もいるって噂だ」


「もちろん本物と同じってわけじゃ無いがな…で、奥にあるのは”ポガヂの生革”なのさ」


そう言って、改めて革を見てみる。

薄い赤みかがった白い革。

特段、何か変わったものには見えていない俺に、ギヌーサは触ってみろと言ってきた。


「うぉっ!」


触ってすぐに手を離してしまった。

触った瞬間に感じたのは、仄かな温もり。

それは、僅かな命の感触。

だが、すぐに色や表面が変化し、俺の”肌”そっくりの色や質感に変わったからだ。


「こいつの革はな、獲物が強い程薄くなっていく習性があってな。この厚さで市場に出てるのは稀よ」


「これを防具の下地に使う。こいつは、装着者の身体と”繋がって”凡ゆる動きを助け、膂力や体力の後押しもしてくれる…あんたの目的にぴったりだろう?」


子供が宝物を見つけた様な、虫の手足を捥ぐ事を楽しむ様な純粋な輝きを放ちながら話すギヌーサに、うなづく職人達。

そして、この革は特性上市場に出る事はなく今回は糸目のつけない金額で、調達してきたとの事。


「わかった。だが、それと脱ぐのに何の関係があるんだ?」


「”覚えさせる”のに必要なんだ。じゃあ脱いでくれ、さぁ、すぐに、さぁ!」


狂気にも近い熱量に負け、俺はシャツを捲った。



「…あんた、すげぇ身体してんなぁ」


生まれたままの姿になった俺を見た職人の一人が、そう呟く。

他の四人は、自分達が革に触れないように慎重に下ろして持ってきているところだった。


「まぁ十年近く戦場にいたからな」


「にしたって…傷の見本市よ。見習いの革職人だってこんなに傷だらけにしないわよ」


「…俺が死んでも、革は剥ぐなよ…?」


「約束できないわねぇ…それに、この左肩のは…焼印?数字ぽいけど」


「…あぁ。昔大怪我をして、殆ど剥がれちまったんだ。今は頭の”0”しか残ってない。…奴隷の名札みたいなものさ」


俺の返答に、職人は黙ってしまった。

そうこうしている間に革が到着し、頭の上から被せられた。


「少し苦しいかもしれないが、我慢してくれ」


「”繋がった”ら革は薄く柔らかくなるからな」


光も通さない温かい暗闇に、身体が拘束された。

窮屈を感じる中で、ヌーサの篭った声が聞こえた。


ーーククッ。


声の無い驚愕が聞こえた気がして、まるで革が何かに触れたのか、一瞬で硬くなる。


だが、それも一瞬で、ふわりと薄布の様に柔らかくなると、足元に落ちて束を作った。

まるで、子が親に叱責され許された様な反応にも思えた。


わっと職人達が歓声を上げて、俺の足元に群がり、透き通る薄さに変わった革を恭しく持ち、口々に騒ぐ。

だが、ギヌーサだけは不可解さを深い眉間の皺に刻んでいた。


「…人と繋がって、こんなに透き通るか…?」


ギヌーサの呟きは俺の耳にしか入っておらず、他の職人達は、神々に何かを託された敬虔な信徒かと思っでしまう勢いで、俺の足元に集まっていた。


「あー。すまんが、服を着てもいいかな…?」


流石に”丸出し”の下で、はしゃがれるのは何とも言えない気持ちになった。


ギヌーサ以外は不眠不休で防具を仕上げに入ると言い、嬉々として部屋を出ていった。


残ったギヌーサは、武器を持ってくると言って、俺は一人ゆっくり服を着る事が出来た。


「待たせたな。これがあんたの”相棒”になる武器だ」


暫くして戻ってきた職人長は両手で武器を持って、そう言った。


“殴殺”

それが、最初の印象。

長さは、俺の胸まである長柄の武器。

装飾はなく、柄は鈍色、刃は焼き締められた黒鉄。

柄の先端には、大型の分厚い刃と短い刃が対に付けられている。

一目で分かる、斬る事を捨てた武骨な塊を、俺は片手で受け取り、持ち上げる。


「…すげぇな」


「これを片手で持ち上げれるあんたの方こそすげぇよ…鈍器って注文とは離れちまったが、”刃”が見えてた方が、便利な事もあるからな」


「武器としては、間違いなく鈍器だから安心しろ」


耳にはギヌーサの説明が入ってきているが、脳までは届いておらず、俺は何歩か離れ武器を振り、唸る風切り音の向こうで、奴らが血煙になっていく様をみていた。



「なぁ…戯れに聞くが…あんた、”赤錆の0(ぜろばん)”って知ってるか?」


ぴたりと、振っていた手を止めた。

そのまま、顔は見ずに口を開いた。


「知らんな…有名人か?」


「街道の谷向こう、”永続戦場”と呼ばれていた戦場に居たと言われる戦士の名前だ」


「十年近い戦場で、最前線で暴れ続けていた戦場奴隷だ。戦争は終わったって聞いたが、そいつの行方は分かってないらしい」


そうか、と生返事しつつ武器を横薙ぎし、ギヌーサの顎先にぴたりと刃先を這わせた。


「…一介の武器屋が、なぜそんな事を気になる?」


ーーこいつは敵かもしれない。


思いは切先に載せた。

あとは、決定打があれば迷わない。


「…一介の武器屋だから、だ」


「武器は唯一使い道が”決まってる”道具だ。だから、”何に使うか”は興味がねぇ」


「…おれらは、”誰に使われるか”が重要なんだよ」


狂気の笑み。

純然たる、純真無垢の狂気が生み出した笑みで、祈る様に言葉を紡ぐ姿は敬虔な信徒。

この職人が観ている景色には、きっと俺は映っていない。

あるのは、自分の”作品”が積み上げる”功績”だけだろう。


すっと力を抜き、武器をギヌーサに渡す。

両腕で受け取ったのを確認してから、背を向けた。


「俺も永く戦ってきた戦場奴隷だから、…まぁきっとそいつなら、この武器に満足すると思う」


そう残して、部屋を出た。




「…イヒッ!」


ゼオバンが去った部屋で、奇妙な声が響いた。

それは、一人の職人が漏らした声だった。


「見せてくれよぉ〜!”赤錆ぃ”!あんたがこれから作る”山”をよぉっ!」


恍惚の表情で、寄りかかる様に持つ長柄の武器に頬擦りしながら、呟いた声は誰の耳にも入らずに、霧散していった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

感想や応援があると、続きの執筆がとても励みになります。

次話もよろしくお願いします。

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