11話
本作は、聖女と“人外の護衛”が世界の理を巡る旅へ出る、
シリアス寄りのダークファンタジーです。
暴力描写があります。苦手な方はご注意ください。
世界観は重めですが、物語は「聖女×護衛」のバディ関係を中心に進みます。
楽しんでいただければ幸いです。
「っつ…頭いたぁい…」
私は、人生最凶の痛みと、最大の後悔に苛まれていた。
酷い頭痛と倦怠感に襲われ、常に喉から口へと逆流する存在を感じ続ける症状は、まるで竜が頭の中で神々を殺戮しながら暴れている様だ。
世にこれを、二日酔いと呼ぶ。
知識だけでなく、体感している翌朝。
いつもなら爽やかに感じる朝陽が、どうにも黄色く、目に痛いことで更に後悔が激しくなる。
昨夜、私はフェルベルト商会長と巡礼支援の契約を取り交わした。
そして、そのまま景気付けの酒盛りになった所までは、覚えている。
その先は、全然覚えていない。
普段飲む葡萄酒とは違う、とんでもなく酒精の強いものが美味しくて、水みたいに飲んでた様な気もするが、今は二度と見たくも匂いも嗅ぎたくない。
私達は、そのまま商館にある部屋に泊めてもらった。
勿論、別々の部屋なので、私が寝具の上でぐちゃぐちゃになってる不様は、誰の目にも触れていない。
「ミレイア嬢、起きてるか?」
扉の向こうから、いつも通りのゼオバンの声。
普通な事に、憎悪すら感じる私がいる。
返事をしたら、”別も”出そうになったので、近くに置いて木のコップを投げて、返事代わりに扉に当てる。
「…武器を選びに行ってくるから、休んでてくれ。まぁ、あれだな。お嬢は”ほどほど”にしておいた方がいいぞ。じゃあ行ってくる」
遠ざかってゆく足音を耳に入れながら、色々確認したいことがあったが、それどころではない私は、言葉通りに休む事にした。
昨夜、フェルベルトから渡された紹介状を懐に、俺は街へと繰り出した。
まだ朝の早い時間ではあるが、街は既に全力で稼働しており、忙しく動く人々をすり抜けながら、目的地へ向かった。
「すまない。フェルベルト商会から指示されたゼオバンと呼ばれる者だ」
商館を出た俺は、そのまま紹介状に示されていた武器屋へ向かい、受付に紹介状を渡すと確認の為に待っていてほしいと言われた。
待たされている間に、店内を眺める。
剣や銃など多様な武器は、壁に陳列され、防具や盾などは部屋中央に並べられていた。
品揃は普通で、街の規模に比較すると少し小さいとも思える。
店内には、ある程度小慣れている者も、初めて武器を手にしようとしている者までまばらに、思い思いに武器を見ていた。
「お客様、お待たせしました。こちらへ」
そんな事を考えていれば、後ろから声が掛かり受付の後ろをついていくと、店の奥に続く扉を通された。
ーーこっちが本業か!
大人が五人程度入ればいっぱいに感じる広さの部屋。
壁の一部には、大型の全身鏡。
そして五人の職人達が室内で待機していた。
「当店で一番腕がある、ギヌーサ組がお客様の装具のご用意と調整をします」
そう言って、受付は一礼して室内から出ていったのを確認してから、職人の中で一番年嵩に見える職人に挨拶をして、手を差し出した。
「ゼオバンと呼ばれている、今回はよろしく頼む」
「ギヌーサだ。俺は主に武器担当、順番に紹介していくが、無理に名前を覚える必要はない」
無愛想にも思えるギヌーサは、頭頂部は抜け落ち、横から後ろにかえて残る髪を三つ編みにして流している、まるで酒樽が手足に生えた様なずんぐりした初老の男だった。
握手を交わした掌は、正しく”職人の手”だったからか、俺はこの人を信用しようと思えた。
「無駄話は好かん。何を求める?」
ギヌーサ組の職人は五人。
それぞれ、武器や防具など専門が分かれ、客の要望に合わせて、調達や時には作製もする。
これが、この武器屋”グロッグ”の特徴だと教えてくれた。
「いやいや!ギヌーサさん!流石に気になりますって!フェルベルトさんからは、”全出し”って書いてあったけど、お客さんは何者…?」
一人の職人が、ギヌーサを制し前に出て俺に聞いてきた。
確か、防具担当の職人で組だと一番の若手。
「馬鹿野郎っ!そこじゃねぇだろうがっ!」
怒鳴るギヌーサの拳骨が、防具担当の頭を揺らした。
「彼奴が全出しって言ってんだから、何としても要望を叶えるんだよ」
「…ちょいと手に入りづらい素材を使ったりして、奴の商館がすこーし欠ける位の金を使ってもいいって事の方が重要だろうがっ!」
職人ぽいとも、悪ガキっぽいとも言える顔をしながらそう職人達に話すギヌーサの表情が、組全員に伝播していた。
「恐らく長い旅になるので、ある程度は俺でも整備できるか、整備しなくてもいいのどちらかは欲しい。その上で、武器としては鈍器を用意して欲しい」
流石に良い職人達だ。
俺が要望を話し始めると、全員が真剣な顔で聞き、手元の紙に色々と書き始めた。
「整備性の部分は何とかなるが、武器の鈍器ってのは具体的には?棍棒みたいなものでいいのか?」
「いや、柄はしなりと剛性を両立させた上で重心は先に…例えば球体にして重さと破壊力が出るものにしたい」
「…なるほど。あり物で言えば儀式用の杖みたいな形か。先端を尖らせば突きは出来るが、斬るは出来そうにないが大丈夫か?」
ギヌーサが簡単に絵を描きながら説明をしてくれ、形や方向性が決まっていった。
打合せすること数時間。
最終的な装具は無事に折り合いがついた。
原材料の調達から成形含めて二週間、最終修正に三日かかる事が分かり、俺はギヌーサ達と硬い握手を交わして、グロッグを後にして商館へと戻った。
ーーお嬢の二日酔いは治ったかな…?
さて、彼らは順調に旅の準備を進めているが、ここからは少し別の場所を見てみよう。
ランヴォルは活気溢れる街であるが、それは良きも悪きもである。
場面は街のとある地下室。
時刻は、ミレイアが二日酔いに苦しんでる頃。
丸机に置かれるのは、一つの聖火紋の灯り。
持ち運び式になっている小型の灯りが、ぼんやりと、机を囲む者達の顔を照らす。
しかし、全員が深くフードを被っている為に精々口元位しか見えない影が四人。
「…奴らはいつまで居る予定だ?」
「短くても数週間、長ければ数ヶ月はいるだろう」
「…どれくらい必要だ?」
「問題は女の護衛だ。噂では戦場奴隷らしい」
「…そっちは”持主”を探してみる。特徴は?」
「…確か”ゼオバン”と呼ばれていた」
「名前?奴隷は番号で呼ばれるものだぞ」
「知らんっ!」
「黙れ。護衛の実力は?」
「単身、ほぼ無手で手負の外獣討伐をやった」
「…そらすげぇな。討伐依頼を当てて実力を測るか」
「女の方は?」
「忌々しい商館の中だ。手は出せん」
「街を出たところを襲え。殺すなよ」
「…殺さない理由は?」
「あのクソアマは、私がたっぷり”仕置き”してやる!それに折を見て商館からも支援として巻き上げられる」
「護衛は?」
「好きにしろ。ただ、首は持って帰ってこい。首の前で浅はかさを説いてやる」
その言葉を最後に、灯りは消された。
足音は徐々に遠ざかり、やがて暗闇だけが残されていた。
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