10話
本作は、聖女と“人外の護衛”が世界の理を巡る旅へ出る、
シリアス寄りのダークファンタジーです。
暴力描写があります。苦手な方はご注意ください。
世界観は重めですが、物語は「聖女×護衛」のバディ関係を中心に進みます。
楽しんでいただければ幸いです。
「私が、完全巡礼に出るのは夢があるからです」
最上階の部屋。
ガラスの向こうはすっかり夜になっているが、この部屋は聖紋のお陰で、昼間の様に明るい。
だが、対面する方の顔は非常に冷たく、そして何より発せられる迫力は、竜を連想させる圧迫感すら覚える中で、私はまず一言発する事に成功した。
ーー怖い。
それは、対面しているフェルベルト商会長の雰囲気ではなく自分の本音を、人に話すのが、どんな風に思われるのかという恐怖。
だが、商会長の言葉を聞いて、私も本音で話してみようと決めた。
ゆっくり息を吸い、商会長の栗色の目を見ながら、語る様に始めた。
「…私の母は、娼婦でした。最も記憶もないですし、会った事もないですが、孤児院に預けられた時に、修道女がそう聞いたそうです」
「商会長は、思いませんでしたか?私は、女の中では大柄な方だと」
「えぇ。女性にこう言うのもあれですが、太っているとかではなく、背丈が高いなと」
「言葉を選んで頂き、ありがとうございます。まぁあけすけに言うなら、色々成長が早かったのですよ、私は」
「…だから、誰よりも男達の”女”を求める目線も、態度も味わってきました。悔しくて、勉強して、幼年学校を首席で卒業しても、教会が求めたのは、私ではなく”女”でした」
私の語りを静かに、目を瞑りながら聞いていた商会長が目を開けて、口を動かす。
「同情はします。が、問いの答えにはなっていない」
「はい。だから、全員を見返そうと思ってます」
「私の事を無視出来ないほどの偉業を立て、女ではなく”ミレイア”として、男どもの粗末なお頭に刻んでやる。それが完全巡礼に出る理由です!」
最後の方は少し自棄になって、吠える様な形になってしまったが、本音を言えた。
言い終えたからなのか、今更手が震えてきた。
「…聖火の教えよりも、自己の証明を優先すると?」
静かに、冷静に返してきた商会長。
だが、今の私は怖いものなどなかった。
「教えは心の中に有れば良いと思っています。それに、ウムは故人、私はまだ生きています」
「生きるのに、使えるものを使うのは、当たり前では?」
ーーはっはー!言ってやったぞ!
なんだか楽しくなってきてしまった。
余計な事を言いそうな自分に酔い始めている。
「…仮に貴女が、完全巡礼を成功させると、どうなるのですか?」
「完全巡礼は唯一、真なる聖人に選ばれる業なので、ウム以来空席の聖人の座が、つまり聖火教が、私のものになりますねっ!」
「我が商会にはどのような利がありますか?」
「そうですね…聖紋封入の方法を適正価格で販売する許可とかどうですか?かなり儲かりますよ」
「あと…」
「他にもあると?」
「えぇ。”聖人ミレイア”に札束を握らせた大悪党として、永劫名前を遺しましょう」
そう言って、ニヤリと笑ってやった。
もうどうとでもなれ、という気持ちと自己反省の気持ちがせめぎ合って、天井の明かりを思わず眺めてしまっていると、まさかの所から反応があり、びっくりした。
「…くくっ!ははっはっ!」
ゼオバンだ。
背後で空気になってる筈の彼が、腹を押さえ身体を曲げて大笑いしていた。
その姿に、私も商会長も呆けて彼を見てしまった。
「あぁすまない。本当にミレイア嬢は面白いと思ってなぁ、我慢できなかった」
「商会長殿。彼女の道中は御子息を救ったように、俺が守る。安心してくれ」
彼はそう言って、自分の胸を叩く。
先日まで奴隷だったくせに、ちょっとだけかっこいいと思ってしまった。
「…全く、ふざけていますよ。貴女達は」
心底呆れ果てたと言わんばかりに、頭を落として横に振る商会長。
しかし、次の言葉は予想出来なかった。
「商人として、未来永劫遺せるものを扱ったのは、唯一無二だろうな…」
「…いいねぇ!面白いじゃないかっ!一枚噛むぞっ!」
今までの冷静な態度が嘘だったのか、どんっと乱暴に机を叩き、粗暴に笑うフェルベルト商会長。
どうやら、互いに素顔を見せる事が出来たらしい。
こうして、私個人に対してフェルベルト商会は支援を約束してくれた。
ーー後の世で、これは演劇となった。
喜劇とも、悲劇とも言える不可思議な演劇。
演目名は”大悪党の唄”。
しかし、それは当の本人達は知り得ぬ遥か未来の話である。
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